第七章96
『深愛で描く』
水晶宮が輝く。その一撃を止めるために、飛び出した二人がいた。
🗿 最大の障害
――モグロこそが、帝都攻略における最大の障害であると
本来の鋼人は、その肉体を鉱物や金属といった無機物で構成した存在。
その異質な生態には不明な部分が多く、意思疎通の困難さは竜人すら圧倒する。
だが、実態はそうではない。
――モグロは自らの外見と鋼人の特性に便乗し、鋼人を自称しているだけの存在だ。
――モグロこそが、帝都攻略における最大の障害であると。
🌗 燃える空と白い龍
四散するはずだった体が、地べたにある
空に打ち上げられ、四散するはずだった体が地べたの上にある。
――その事実を認識し、困惑が頭の中を占めた。
( ゚д゚ )
「剣が……」
剣をなくした心配をした自分が嫌になった。
――その一瞬の心の動きが、そのまま中途半端な自分を象徴しているみたいに思えて。
右の空は、赤々とした炎で作られた分厚い雲が灼熱の世界を包み込む。
左の空は、白雲を纏った巨大な威容が翼を広げ、凍てつく大地を睥睨する。
🪨 規模感を間違えた
家と見紛う大岩が、次々と頭上を通り抜ける
家と見紛うような巨大な大岩が、次から次へと頭上を通り抜けていく。
数十メートル、あるいはそれ以上の巨体が、第三頂点として文字通り立ちはだかる。
引き剥がされた農地を、舗装された街路を自らの腕や胴体として用いて。
投げ続けているのは、ヨルナの支配していた魔都カオスフレームの住民たち。
――その全員が片目に赤い炎を灯し、高い士気を保っているという共通点がある。
壊れた部分を補修するように、激突した大岩自体が次なる巨体の材料とされる。
――それでも投擲をやめない理由は単純明快。他の叛徒が攻め込む時間を作るためだ。
😖 無理だった
撤退した者まで合流し、戦力が膨らみ続ける
(・・・・・・)
「……馬鹿げてる」
他の戦場で撤退を選んだ叛徒たちも合流し、なおも戦力は膨らみ続ける。
右を見ても左を見ても、上を見ても下を見ても地獄しかない場所で。
――やっぱり、無理だった。無理で無理で無理で、無理しかなかった。
軽快な蹄の音が響いて、疾風馬がハインケルの横を抜ける。
――通り過ぎる瞬間、ここで膝を屈するハインケルを軽蔑する眼差しを残して。
(´;ω;`)
「……やっぱり、俺には無理だよ、ルアンナ」
🐎 レイディ
その座にいるのは、先代の威光あってのこと
剣を手にし、愛馬であるレイディの背に揺られながら、ズィクルは自嘲する。
――『将』の座に収まっているのは、先代たちの威光に相乗りした経緯が大きい。
「私自身、その在り方に従えているとは言い切れない」
レイディはズィクルの意を汲んで、生涯最高の走りを見せた。
――その走りは慣れない戦口上など無視して、多くの叛徒たちの心に火を付けた。
( •̀_•́ )
「右翼は光人! 左翼は刃金人! あとのものは、この私に続け!」
(╬゚д゚)
「『鋼人』モグロ・ハガネを、我らが討つ!」
「おお――っ!!」
✨ 迷信にすら
出来過ぎと思うほどの援護を受けて、進む
「射レ――!!」
麗しく、気高い彼女らの援護を受けて突き進む。出来過ぎだと思われるほどで。
(´ー`)
「なに、出来過ぎという話をするならば、あの祝福こそ」
自らが果たさなければならない役割を思い、ズィクルは祝福を欲した。
――わずかばかりでも可能性が上がるならばと、迷信にすら頼りたい気持ちになって。
「ズィクル二将! お下がりください! ここは我らが十分に!!」
(・∀・)
「はっ! 『女好き』のズィクル二将が、前線へ出張っていらすとは!」
「ジャマル上等兵、手応えは?」
(≧▽≦)
「上々! 右見ても左見ても、正面見ても敵だらけ! 楽しくなってきやがりました!」
「私はこれから、モグロ一将を『捌』の座からどいてもらうつもりだが、ついてくるかね!」
( •̀_•́ )
「命令とあらば! 何なら、道を作っておこうじゃねえですか!」
(´ー`)
「――閣下、どうぞご随意に」
💠 織り込み済み
――そのために、この魔晶砲をどうしても撃たせる必要があった
宮殿を構築する水晶部分は、特に純度の高い魔水晶。宮殿自体が兵器なのだ。
――その威力は、大都市を丸々消し飛ばすほどの破壊をもたらすとされる。
過去、使用されたのは数百年前――『大災』相手であったと言い伝えられている。
――そのために、この魔晶砲をどうしても撃たせる必要があった。
それも戦況を変えさせるための決定打ではなく、織り込み済みの被害の一環として。
(・・・・・・)
「――離脱はせなんだか、ズィクル・オスマン」
ズィクルには、戦線から離脱するという選択肢があった。
――しかし、それを選ばないだろうという予感も、アベルにはあった。
「――物見より伝令! 水晶宮の魔晶砲に、兆しあり!」
「照準、第三頂点!!」
「――魔晶砲、射線上に異変あり!!」
( ゚д゚ )
「……なに?」
🎣 誤認
自ら最前線を走ったのは、狙わせるためだった
自ら最前線を愛馬でひた走り、勝機は我らにありと声高に訴え、
その魔晶砲の照準を自分たちに合わさせた。
――全ては、この戦況を決定的に変えるのに最善の機だと、誤認させるために。
脳裏を過ったのは母であり、姉であり、妹であり。
――抱えて死ぬには美しすぎる祈り、穏やかに迎えるはずだった終焉。
🕊️ 見過ごさない
祝福を求めに来たとき、直感していた
(;´Д`)
「こんなことだろうと思ったのよ」
祝福を求めて陣幕にやってきたとき、彼が死ぬつもりであることを直感した。
――四百年前、あの戦乱の絶えなかった時代では、同じ目をしたものが大勢いた。
たぶん、もう一度あの時代を繰り返しても、もっといいアプローチはできない。
――きっと、また同じような無力感を味わい、死へ向かうのを見過ごしてしまう。
(>﹏<)
「あー、う!」
如何なる方法でか短距離の『転移』を繰り返して、ルイはこの場所へ連れてきた。
――先に、ルイは自らの立場を証明した。ならば、次はベアトリスが応えるべきだった。
「みんなの怒る顔が目に浮かぶのよ」
( •̀_•́ )
「ベティーは、スバルのパートナーかしら」
🕳️ 呑み込む
射線上に、二人が割り込む
美しい宮殿の全体が眩く光り輝き、世界の形を変えるほどの光が地上へ向かう。
――その射線上にルイと割り込み、ベアトリスは胸の前で手を合わせた。
――その、世界を変える光さえ呑み込む別世界への穴が、開かれ、閉じた。
魔晶砲によってもたらされるはずの被害は、もたらされなかった。
戦況に、大きな影響はない。――ただ、大きく劣勢に傾く可能性は、失われた。
😭 代償
少女の姿かたちが、徐々に希薄になっていく
文字通り、少女の姿かたちが徐々に希薄になっていく。
――大勢の命を救うため、彼女はあの光を彼方へと消し飛ばした。
その大きすぎる力の代償に、散り散りになっていくベアトリスの存在。
剥離するように欠ける光に指を伸ばしても、すり抜けるそれは留まらない。
(´;ω;`)
「あー……っ!!」
叫んで、叫んで、叫んでもどうにもならないのに、必死に叫んだ。
――それ以外にできることが、それ以上にできることが見つからなくて。
「――ぁ?」
この瞬間だけは、その戦場を形作る全部を忘れ、彼方に、目を向けた。
――そして、その彼方に向けて、跳んだ。
🧡 運命様、上等だ
跳んで、跳んで、跳んで、そして――
内臓が絞られるみたいな負担がかかるが、構わなかった。
――ベアトリスにかかるだろう負担の全部も引き受けて、ルイは跳んだ。
跳んで、跳んで、跳んで跳んで跳んで、跳んで跳んでそして――
(´・ω・`)
「うあう……」
伸ばした腕から少女が奪われる。――否、優しく、抱き上げられたのだ。
辿り着いた先にいた、黒髪の少年の腕で、優しく、大切に、ぎゅっと。
大役を成し遂げた少女の瞼が震え、ゆっくりと瞳が開く。
(´;ω;`)
「――心配、かけすぎなのよ」
(´ー`)
「ああ、俺も愛してる」
囁くような親愛に、誇らしげな深愛で応じて、繋がれるべき手が繋がれる。
( •̀_•́ )
「じゃあ、始めるとするか。――運命様、上等だ」
第七章96『深愛で描く』終了。
ハインケル
ズィクル
ジャマル
アベル
ベアトリス
ルイ