第六章22
『白い星空のアステリズム』
白い部屋に浮かぶ黒い板。数も配置も、真上から見下ろせば意味を持つ。
🔁 再試
触ると、最初に戻る
「これが『試験』……ってことでいいのか、シャウラ」
「いいんじゃないッスか? お師様の、いいとこ見てみたいッス!」
「飲み会のお囃子みたいなこと言ってんじゃねぇよ……」
「スバル、手近なところにある石板……いや、『モノリス』に触れてみてくれ」
指先が触れると、黒い石板は目を焼くほど光り輝く。
そして、その光が晴れたとき。
「あれ? モノリスどこいった?」
「ふふふ、お師様、後ろッスよ」
残りのモノリスは全て消え、始まりの一枚だけが元の場所に戻っていた。
「最初の状態に戻った。つまり、『試験』には失格という判断だろう」
🎲 総当たり
総当たりでは、届かない
『――シャウラに滅ぼされし英雄、彼の者の最も輝かしきに触れよ』
改めて出題されると同時、最初のモノリスから再び次々と複製される。
言ってみれば、『再試』というわけだ。
「なるほど。答えに辿り着くまでは、何度でも考え直せるってことか」
「ちなみにこのモノリスだが、闇雲に触れて回っても答えには至らない……とだけは明言しておこう」
「あ、下手な鉄砲は試したあとなわけね」
その説明を聞いたエミリアやメィリィが、恥ずかしそうに自分の頭を撫でていた。
「『試験』ってぐらいだ。問題を解いて、答える必要があるってことだな」
「闇雲に答えだけ差し出すのは、出題者の方のお気に召さないらしい」
👉 出番
全員の視線が、こちらを向く
「ナツキくんの出番はむしろここからやないの。ほら、正気に戻って戻って」
「え、あ、おお、悪かった。でも、俺の出番?」
全員が顔を見合わせて言った。内容が同じだったので、意訳して統合する。
『シャウラに滅ぼされた英雄、聞き出すのスバルの役目でしょう』だ。
「スバルが起きるまで、私たちも何回も『試験』には挑戦したの。だけど、肝心のこの子がシャウラかどうかも私たちには話してくれてなかったから」
「ベティーたちの中ではシャウラは『賢者』だったのよ。それは銀貨に彫り込まれてる絵の人で考えてたから、この娘がシャウラなんて繋がらないかしら」
🕳️ 覚えてない
シャウラは、覚えていない
「おい、シャウラ。お前が滅ぼした英雄っていうのに、心当たりがあったら片っ端から教えてくれ」
「任せてくださいッス。殺した奴の名前をいちいち覚えてるなんざ、二流の仕事……あーしみたいな一流は、百から先は覚えちゃいねえッス」
「だろうね!」
およそ想定して恐れていた通りの、頭空っぽな返答だ。
「シャウラ女史、本当に君は何も覚えていないのかい? ささやかなことでも構わないのだが」
「って言われてもッスねえ。あーし、塔に近付く奴を片っ端からヘルズ・スナイプしてただけで、死体はお外の魔獣が掃除しちまうッスもん」
🕰️ 時系列
アナスタシアが、時系列の変さを指摘する
「んー、でもそれやとおかしない? そもそも、塔の知識を開示するかどうかってための『試験』なんやろ? その問題が塔を守るための、シャウラさんの管理が始まったあとのことを示してるやなんて時系列が変やん」
自ずと、『シャウラが英雄を滅ぼした』時間は塔の建設前ということになる。
「つまり、無作為に乱発する前の話になるのよ。ほら、思い出すかしら。そうやってお乳や尻にばっかり栄養がいってるから記憶力が乏しくなるのよ」
「この見た目はかか様が選んだッスよ~。でもでも、思い出せって言われても正直出てこないッス」
🏠 帰りたい
メィリィが、話を進める
「だけどお、いつまでも考え込んでても進歩がないんじゃなあい? 裸のお姉さんがせっかく協力的なんだしい、わかりそうなことは聞いたらいいと思うのお」
「魔獣ちゃんはいないしい、お話は進まないしい、あんまりここって楽しくないんだものお。早く進めて、お屋敷に帰りたいわあ」
ある種、台無しな言葉に全員が言葉を失う。
それからすぐ、向き直ったメィリィの頭をスバルは撫でた。
「いいや、お前の言う通りだと思っただけ。とっとと片付けて、問題も全部解決して……レムを起こして、困ってる人たち助ける方法全部回収して、早く出よう」
試す前から不安で足踏みなど、大切な時間の浪費だ。
😱 悲鳴
その名前に、飛び退く
「とりま、覚えのある名前だと……そうだな。あ、レイドは? 初代『剣聖』とかあれだよ、お前が殺したんじゃないの?」
(ノ゚Д゚)ノ
「ひぃぃぃぃぃっ!!」
「きゃあっ!」
「四番でサード!」
落っこちたメィリィをスバルがダイビングキャッチ。
飛んで逃げたシャウラは、部屋のかなり遠くの方までいって小さくなっていた。
「おい! 悪かったよ! なんかよくわからねぇけど戻ってこい!」
「あ、あんまりおっかないこと言わないでくださいッス。お師様ホント人が悪い。最悪ッス。乙女のピンチッス。責任問題ッス」
歩いて戻ってくるシャウラの声はか細く震えている。
強がっているが、強がりきれていない。そうさせるのは紛れもない恐怖、畏怖だ。
🗑️ 人間のクズ
初代『剣聖』の、人物評
「なに、初代『剣聖』ってそんな怖い人なの?」
「馬鹿な。ラインハルトやヴィルヘルム様、アストレア家の祖に当たる御仁だ。剣の腕もさることながら、人格者であったことは疑いようがない」
「いいだろう。ここは生き証人である彼女に語ってもらえばはっきりする話だ。さあ、聞かせてやってくれ」
「初代『剣聖』、レイド・アストレアに対する所感。シャウラ女史、忌憚なく貴女の意見を聞かせてもらいたい」
「人間のクズだったッス」
「忌憚なく貴女の意見を聞かせてもらいたい」
(ノ`Д゚)ノ
「なかったことにすんなよ!!」
😤 やられた側
シャウラは、忘れていない
「まー、とにかく嫌な奴だったッス。悪ガキがそのまま大きくなったみたいな性格で、弱い者イジメとか大好きだったッス。っていうか、あのクズから見たら大抵の相手は弱かったんで、もう誰と戦っても弱い者イジメッス。あーしも超やられたッス」
「でも、シャウラってあんなに強いのに、それでもやられっ放しだったの?」
「あーしは生まれたときからこの調子ッス。だから今も昔もあーしは変わってないッスけど……アレは別格だっただけッス。マジクソッス」
「あのクズは覚えておくべきッス。やった方は忘れても、やられた方は絶対に忘れないという当たり前の事実を……ッス」
「マジで最悪だったッス。でも、十回やれば一回ぐらいは両手使わせるぐらいできたッス。あーしもやられっ放しじゃないッスよ」
「……そうか」
十回やって一回両手を使わせる、という目標は高いのか低いのか。
🧩 役割分担
手分けする
「まぁ、そのレイドのことは後回しでいいや。お前が滅ぼしたわけじゃないなら聞いても無駄っぽいし」
「――。――――。その通りだ。今は優先すべきことが他にある」
「今、優先させるのに時間かからなかったか?」
たぶん、しばらくユリウスは使い物にならないとスバルは判断した。
「英雄を当てずっぽうで挙げてもらうのは詳しい奴に任せるとして」
「わかった。謹んで受けよう」
「まだお前って言ってないけど、いいよ。やれよ。ベア子、フォローして」
「わかったのよ」
📏 大きさ
板の大きさが、揃っていない
点在するモノリスは、改めて確認すると意外と大きさは疎らに存在した。
大きさは最大でも最初のモノリス以上のものはない。
あとは一回りから二回り小さいモノリスが無数に散らばっている形だ。
「パッと見やと……最初のモノリスと同じ大きさなんは七、八個かな?」
「かな? うん、私もそうだと思う。すごーく遠くの方にあるのは、みんな小さいのだと思うわ。あれも触ったらやり直しになっちゃうけど」
「前科ありそうな言い方……あ、ごめん。なんでもないです」
⚖️ アンフェア
この問題は、条件が変だ
「シャウラに滅ぼされし英雄、その最も輝かしきに触れよ……なんか、格好いいこと言おうとしてる感はあるが」
「抽象的な物言いには違いないかなぁ。生憎、シャウラさんの記憶頼りやなんて話やとしたら、問題として手落ちなんてお話やないけど」
『試験』と銘打っておきながら、実質、解答のための方法が他者頼り。
それも本来、塔の管理者として置かれている存在頼りとはいかにもアンフェアだ。
「必要なのは腕っ節と、運と、シャウラさんと仲良くできる魅力? なかなか、課題として不適当なんが並んでるようにうちは思うんやけど」
「……だよなぁ」
ただ、それで納得するのはどうにもスバルは気持ち悪かった。
🪦 似ている
エミリアが、あるものを思い出す
「なんだか、すごーくモヤモヤしてて。胸のこのへん、気持ち悪いの」
「なんか、気になることがある?」
「実は、あるの。だけど、これって関係ないことかもしれないし、言ってもスバルにしかわからないかもって思ってたから……」
「この際、今は何でも言ってほしいと思うから言ってくれていいよ。別に俺の考えが正しいってわけじゃないし、多角的に考えるのは基本的にいいことだ」
「モノリスに触ったときに、頭の中に声が聞こえるでしょ?」
「そやね。不気味な仕組みやけど、なんやろね」
「あの声だけど……墓所の『試練』のときに似てない?」
「言われたら、そうだ。なんで頭から抜けてたんだ……嫌な思い出だからか?」
「スバル、エキドナのことすごーく嫌がってるもんね」
「救世主が実は黒幕だったって経験を経ると、俺みたいになるよ」
3️⃣ 三つ
回数も、階層の数も、重なる
「『試験』の話を聞いた時点で、『試練』と似てるなとは思ってたんだ」
始まり方まで『試練』と近似の部分があるとなると。
これはひょっとすると、システムの大部分が墓所と似通っているのかもしれない。
「そう考えると、『試練』も一応、挑戦は無制限だったんだよな」
「それに、ここも『試験』があるのは三層と二層と一層で、三つなのよね」
『賢者』の名前、そして四百年の時間。
そこを振り返ると、当然、あの『魔女』たちの時代とも重なる。
「うん、でもごめんね。それがわかったところで、この答えにはならないよね」
🧠 前提を疑う
シャウラ抜きで、解けるはずだ
「……違う、ってことなのか?」
「スバル?」
「ここが解かれることを想定してる場所だとしたら、シャウラをどうにかできないと攻略できない。それがそもそも、間違いなのか?」
『魔女』は『試練』で人を試したが、結果を出せない苦難は与えなかった。
『賢者』が『試験』で人を試すなら、結果を出せない苦難は与えないはず。
「シャウラの存在抜きで、塔を攻略できる可能性……」
唇に指を当てて静かに、とジェスチャーを入れ、エミリアが周りを黙らせる。
💡 閃く
その名前が、彼女でないなら
「シャウラをシャウラと知らなくても、シャウラがあるとしたら」
「俺たちはフリューゲルの功績をシャウラのものと間違って信じてた。『賢者』の功績は初代『剣聖』や『神龍』と一緒に魔女を封印したこと。だけど、『嫉妬の魔女』は間違っても英雄なんて呼ばれる器じゃねぇし、滅ぼされたわけでもない」
前提が間違っている、という可能性はここで切れる。
一つの可能性を切り捨てて、もう一つの可能性の方に至った。
「ベア子! ちょっとこい!」
「その顔、ベティーの好きなスバルの顔かしら」
「お前、いつでも俺のこと好きだろ?」
「特に、なのよ」
🦘 跳ぶ
上から、見下ろす
「単純だ。――ムラクで、ちょっと高くジャンプしたい」
「……まさか、諦めて天井を壊して上にいこうって話じゃないかしら」
「露骨に呆れるなよ。もちろん、違うぜ。上からこのモノリス、見下ろしたいんだ」
「ムラク、なのよ」
淡く、薄紫の波動がスバルの肉体を薄く包む。
その高さは六、七メートルほどに及ぶが、本来は激突するはずの天井に当たらない。
どこまでも白い空間の中、まるで天井が存在しないかのように階層は拡張されている。
「――思った通りだ」
「目的、果たせたかしら?」
「おおよ。この場所、最高に意地悪いぜ」
🏹 オリオン
英雄の名前は、オリオン
「英雄の名前、わかったよ」
(゚д゚)
「ホントに!?」
「今さら君を疑うつもりもない。どういった風に答えを出したか教えてくれ」
「そんな大層なもんでもねぇよ。これが解けないのはお前らが悪いわけじゃない。解ける可能性のある奴が、そもそもずっと少ない」
「シャウラに滅ぼされた英雄、その名前はオリオンだ」
「いやいやいや、あーしの知らない人ッスよ。仮に殺してたとしても、そもそもここまで辿り着けない人が英雄なんてちゃんちゃらって話ッス」
「そもそも、この問題の『シャウラ』ってのはこいつのことじゃないんだ」
「シャウラはあーしだけッスよ! お師様に貰った名前ッス!」
「そのお師様がお前に付けた名前にも、そもそも元ネタがあったって話」
🦂 針
その名前は、サソリの針だ
「シャウラの名前の由来って……もしかして、またスバルだけが知ってること?」
「俺だけってわけじゃないけど、みんなが知ってるわけではないね。――俺の地元の星の名前に、『シャウラ』ってのがある。意味は『針』なんだけど、それが何の針かっていうと『サソリ』の針なんだ」
スコーピオンテール、とシャウラは自分の髪型を強硬に主張していた。
あれはある意味でヒントだったのか、それともシャウラの天然なのか。
「言い伝えによると、英雄オリオンは調子づいたことが理由で、嫌がらせに派遣されたサソリに刺されて死んで星になった。で、オリオンを殺したサソリもその功績で星になって、今でも空じゃオリオンはサソリにビビってるって話なんだが……」
「スバルが噛み砕くと、英雄譚もなんかしょんぼりな感じなのよ」
✨ 星座
白い空に、黒い星が並んでいる
「とにかく、星を人とか動物とかの形に例えた星座って考え方がある。アステリズムって考え方でもいいけどな。――で、上からモノリスを見下ろしたら、だ」
白い世界に、黒く点在するモノリス。
本来の色味としては真逆だが、それは白い世界に浮かび上がる黒い星々の連なり。
最初のモノリスと同じだけの大きさ、そのモノリスが全部で八つ。
オリオン座を形成する、主要な星々のそれと数も配置も一致する。
⭐ 最も輝かしき
候補は、二つある
「最初のモノリスがど真ん中。まぁ、アルニラムあたりと睨んで、そのまま星座の形を……オリオンをなぞってやると」
「そうすると?」
「最も輝かしき、ってのが意外と曲者な言い回しだ。実は星は光り方も色々あって、ずっと明るいのもあれば、たまに強く光るのもある。そういう意味だと、オリオン座には最も輝くってのに該当する星が二つあって……」
左上に位置するオリオンの右肩と、右下に位置するオリオンの左膝。
恒常的に明るいのは左膝の方だが、右肩は時折強く光る変光星だ。
「俺だったら、『リゲル』の方を取るかな」
ベテルギウスって名前には、似た名前で嫌な思い出もあるし。
💡 光
白が、弾ける
そうして自分の中で答えを結んで、スバルはオリオンの左膝のモノリスに触れる。
これが答えとは限らない。だが、おそらく正解のはずだ。
そして同時に理解する。この『試験』を考えた人間の底意地の悪さを。
そして、二層と一層に待ち受ける障害の、その高さと険しさへの覚悟を。
眩く、白い部屋は光に包まれる。
音も景色も置き去りにして、何もかもが吹き荒び、やがて。
📚 書架
石の部屋と、無数の書架
「……おお」
光が晴れたとき、そこは石造りの空間だった。
無数の書架に囲まれた部屋の中心に、スバルたちは立ち尽くしていた。
第六章22『白い星空のアステリズム』終了。
スバル
ユリウス
ベアトリス