狼の国を読む WEB版・初見向け解説
20話収録

第七章14

『埋め難き価値観』

焚火の向こう。皇帝を名乗った男を前に、スバルの思考が止まる。

焚火を挟み、スバルと仮面を外したアベルが向き合う

🔥 焚火を挟んで

「まず、それ本当なのか?」

スバル

(・・・・・・)

アベル/ヴィンセント

(¬_¬)

前回――

「俺は第七十七代ヴォラキア皇帝だ」

と名乗ったアベル。

……だからといって、いきなり信じるスバルスバルじゃない。

スバル「顔も見せない奴の、何を信用しろってんだ」

アベルアベルは面倒そうに仮面を外す。

黒髪。鋭い目。人を黙らせるような威圧感。

確かに、普通の人間には見えない。

ただし皇帝の顔は、帝都の外ではほとんど知られていない。

つまりスバルスバルにも、本人確認の方法はない。

仮面を手にしたアベルが帝国の価値観を語る

剣狼の国

皇帝すら、奪える

アベル

( •̀_•́ )

ヴォラキアの根本は、とても単純。

強い者が、全てを得る。

弱ければ失う。

地位も。財産も。命も。

皇帝の座すら、例外じゃない。

だから皇帝自身も、常に命と玉座を狙われる。

トッドたちが「勝てば正しい」と考えていた理由も、ここへつながる。

怒るスバルと、落ち着いて応じるアベル

部下のはずなのに

なぜ、自国の軍を襲った?

スバル「皇帝なら、帝国兵はお前の部下だろ?」

なのにアベルアベルは、シュドラクと共に帝国軍を壊滅させた。

普通に姿を見せて、命令すればよかったはず。

アベル「俺に自殺願望などない」

皇帝が、自国の兵に会うだけで自殺になる。

(・・・・・・)

ここでスバルスバルは、前の言葉を思い出す。

アベルアベルは、玉座を追われている。

そして森の討伐隊は、政敵が彼を始末するために動かした兵だった。

スバルスバルとレムレムは、皇帝争いへ巻き込まれた。

アベルの説明と、密林を囲む帝国兵のイメージ

隠された命令

兵士たちも知らなかった

でも、帝国兵たちは本気で「シュドラクへの対応」が任務だと思っていた。

全員がスバルスバルたちを騙していたとは考えにくい。

アベル「一兵卒にまで伝わる話ではない」

皇帝の追放は、指揮官さえ知らない可能性がある。

事実が広まれば、帝国全体が揺れるからだ。

では、なぜシュドラクだったのか。

帝都から逃げたアベルアベルが頼れる可能性を持つのは、古い恩義と『血命の儀』を重んじるシュドラクだけ。

手を組む前に、シュドラクごと潰す。

表向きの任務と、命令を出した者の狙いは違っていた。

炎を見つめ、帝国兵とシュドラクの間で苦悩するスバル

戻せるのは一人だけ

死者を救い直せるとしても

アベルアベルは言う。

「起きた出来事は変えられん。死者は蘇らない」

(・・・・・・)

でも。

スバルスバルだけは、死者を救い直す方法を知っている。

『死に戻り』すれば、陣地が壊滅する前へ戻れるかもしれない。

帝国兵へ警告できるかもしれない。

けれど、帝国兵を救えば今度はシュドラクが危険になる。

レムレムを無事に救える保証も消える。

今はレムレムも、自分も生きている。

この結果を捨てて、もう一度死ぬ覚悟がない。

それが、今のスバルスバルの正直な答えだった。

国を取り戻す決意を示すアベルと驚くスバル

皇帝の目

アベル、核心を突く

アベル

(¬_¬)

彼の目には、スバルスバルがこう映っている。

他人ばかりを見ている男。

誰も傷つかないように。誰にも嫌われないように。

自分の心を「誰かのため」という施しで覆っている。

アベル「欺瞞だ」

スバル

(╬゚Д゚)

当然、ブチ切れる。

アベルアベルは『死に戻り』も、その苦しみも何一つ知らない。

それでも言葉の一部が刺さるからこそ、余計に腹が立つ。

焼けた陣地の記憶を挟み、スバルとアベルの価値観が衝突する

埋まらない溝

「どうして、殺すんだよ」

アベルアベルの戦いは、まだ始まったばかり。

敵は帝国の兵力を動かせる。

こちらにいるのは、百人にも満たないシュドラク。

アベル「生きている限り、俺は俺のモノを取り戻す」

その「モノ」は――国。

一方、焼けた陣地では百人を超える規模の命が失われた。

白鯨でも、大罪司教でもない。

同じ人間同士。話せる相手だったのに。

スバル「他の方法を、最後まで探したのか?」

アベル「それ以外の術がない。それだけだ」

会話はできている。言葉も通じている。

それでも根本だけが、まったく噛み合わない。

これが――『埋め難き価値観』。

アベルを残し、集会場を出ようとするスバル

それぞれの道

「俺は、付き合えない」

スバルスバルは、戦争に参加しない。

帝国の歴史を変えたいわけでもない。

目的は――

レムレムを連れて帰ること。

エミリアエミリア。ベアトリスベアトリス。ラムラム。

みんなのところへ戻る。

そのため、最寄りの町から帰還手段を探すと決めた。

別れ際、スバルスバルはアベルアベルの妙な癖に気づく。

瞬きするとき、必ず片目ずつ閉じる。

ほんの一瞬さえ、完全に視界を失わないため。

(・・・・・・)

この男は、そうしなければ生き残れない世界を生きてきた。

だからスバルスバルとは、簡単に分かり合えない。

ウタカタの頭を撫でるスバルと、見守るミゼルダ

同胞の決断

「死ぬなよ、ウタカタ」

ミゼルダミゼルダは、スバルスバルが戦いから離れることを責めない。

同胞が決めた道として、静かに尊重してくれる。

ウタカタウタカタは少し寂しそう。

スバル「これから何が起きるか、わかってるのか?」

ウタカタ「戦いが始まル。ウーもみんなと戦ウ」

幼いから戦争を知らない――なんて世界ではない。

スバル「死ぬなよ」

ウタカタ「ウー、死ななイ! スーも死なないデ、頑張ル!」

(´ー`)

励ますつもりが、もっと強い声援を返されてしまった。

レムを背負ったスバルたちが、シュドラクに見送られて森を出る

森の外へ

「いってきます!」

意外にも、レムレムは森を出る提案をあっさり受け入れた。

長距離を歩けないレムレムのため、スバルスバルは木と蔦で背負子を作る。

ルイルイも同行。

大罪司教をシュドラクへ置いていく方が怖い。

ただ、今の振る舞いが全部演技だとも思い切れなくなっている。

ミゼルダ「戦うことだけが誇りではなイ」

大切なものを守り、未来へつなぐことも誇り。

レムレムとルイルイを守れ。

それが、同胞であるスバルスバルに託された役目。

護衛はホーリィホーリィとクーナクーナ。目的地は城郭都市グァラル。

見送るシュドラクへ、スバルスバルは笑顔を返す。

スバル「ありがとう。みんな、元気で!」

戦争へ向かう相手に「元気で」なんて、軽すぎる。

それでも――

生きていてほしい。

スバル「いってきます!」

ルイ「うー!」

レムレムを背負い、ルイルイを連れ、一行は森を出る。

第七章14『埋め難き価値観』終了。

第七章14『埋め難き価値観』終了。