WEB版・初見向け解説狼の国を読む
2話収録

第七章15

守りたいモノ

森を出た一行は、城郭都市グァラルを目指して平原を進む。

SCROLL
平原で黒鹿を仕留めたホーリィたちと、レムを背負って疲れ切ったスバル

🏹 ズドン!

「お肉、仕留めたノー!」

小さな森のそば。

強烈な音と一緒に、黒鹿の群れが一斉に逃げ出す。

残った一頭の胸には――

太い矢が、一撃。

🟨 ホーリィ

(ノ´▽`)ノ♪

「お肉、仕留めたノー!」

鹿ではなく、最初から「肉」扱い。

🟩 クーナ

(¬_¬)

「せめて黒鹿って言えシ……」

元気な🟨 ホーリィと、ずっとツッコミ役の🟩 クーナ。

一方、その後ろでは。

🟠 スバル

(;´Д`)

滝のような汗。膝はガクガク。

🔵 レムを背負ったまま、意地だけで歩いていた。

🔵「……意地っ張り」

聞こえない声で、レムが小さく呟く。

休憩中、兄弟がいたのかとスバルへ尋ねるレム

木陰の休憩

「私には、兄弟がいたんでしょうか」

背負子を下ろし、ようやく休憩。

🟠「俺が長男じゃなかったら、弱音を吐いてた」

よく分からない長男理論を語る🟠 スバル。

🔵「あなた、一人っ子なんでしょう?」

(;゚Д゚)

自分で話を壊していく。

でも、その雑談から。

🔵「自分の前や後に生まれた家族……私にも?」

🟠 スバルの動きが止まる。

記憶を失った🔵 レムが、自分の過去を尋ねた。

これまでは「ここはどこ」「あなたは誰」という警戒の質問ばかり。

知りたいという気持ちで聞いたのは、これが初めてだった。

🟠 スバルには、大きな一歩に見える。

互いを見定めるように話すスバルとレム

薄氷の上に

薄紙が、一枚

🔵「あなたが、どういう人なのか分からないんです」

🔵 レムが感じる、恐ろしく不吉な気配。

それなのに、実際の🟠 スバルは自分を守り、無茶をして背負っている。

感じるものと、見たものが一致しない。

だから今、🔵 レムは🟠 スバルを真剣に見定めようとしている。

🔵「邪悪の化身とは、薄紙一枚を挟んでもいいと思えるようになりました」

🟠 スバル

(゚∀゚)

評価はものすごく低い。

でも、ゼロではなくなった。

見えない握手を、🟠 スバルは全力で握り返す。

🔵 レムが過去を聞く準備は、まだできていない。

🟠 スバルは急かさず、待つと約束する。

火付け石で焚火を起こすスバルと、見守るホーリィとクーナ

🔥 火花が散る

スバル、火を起こす

解体を終えた🟨 ホーリィたちが戻ってくる。

作業の大半をやったのは🟩 クーナ。

褒められるのは、満面の笑顔の🟨 ホーリィ。

🟩「なんデ、全部アタイが……」

(╬¬_¬)

いつもの構図。

火付け石を借りた🟠 スバルは、四回目で着火に成功。

🟠「ついた!」

🟨「よくできたノー!」

小さな火。でも、異国で生きるための新しい一歩。

狩りでは、🟩 クーナが獲物を見つけ、🟨 ホーリィが射抜く。

目のいい🟩 クーナは、意外にも弓が苦手。

森で🟠 スバルを射殺した『狩人』の正体は、まだ分からない。

シュドラクの誰かだった可能性はあるが、この時点では断定できない。

じゃれ合うホーリィとクーナを、スバルとレムが見守る

姉妹みたいな二人

「羨ましいです」

🟨 ホーリィと🟩 クーナは、同じ日に生まれた隣人同士。

🟨「姉妹みたいなものなノー」

🟩「アンタみたいな姉妹、お断りだシ!」

怒る。揺さぶる。全然動かない。

🟨 ホーリィは笑い、🟩 クーナだけが疲れていく。

(;¬_¬)

でも、離れようとはしない。

その二人を見て、🔵 レムの目尻が少し下がる。

🔵「あけすけに言い合える相手がいて……羨ましいです」

記憶のない🔵 レムには、誰もが暗闇から現れた他人。

心から安心できる関係を、一つも思い出せない。

それを聞いた🟠 スバルは――

一つだけ、黙っていられなくなる。

双子の姉がいることをレムへ伝えるスバルと、見守るルイ

伝えたかったこと

「お前には、お姉さんがいる」

🟠「お前を心底大事に思ってる、双子の姉がいるんだ」

🌸 ラム。

遠くルグニカで、今も妹を案じているはずの姉。

🟠 スバルは、目を閉じれば双子の共感覚で感じられるかもしれないと教える。

🔵 レムは胸に手を当て、見知らぬ半身へ意識を伸ばす。

🔵「……何も、感じられません」

距離のせいか。記憶がなく、相手を思い描けないせいか。

理由は、この時点では分からない。

慰めようとした🟠 スバルより先に、🍽️ ルイが🔵 レムの手へ自分の手を重ねる。

🔵「ありがとうございます。大丈夫ですよ」

🟠 スバル

(╬゚Д゚)

「やっぱり、お前は俺の敵ってことか……!」

大人げない。🔵 レムにも即座に怒られる。

その横で、肉を焼く二人は――

🟨「焼けたノー!」 🟩「まだ生焼けダ!!」

それから四日。

一行は、城郭都市グァラルへ到着する。

高い城壁の前で、🟨 ホーリィと🟩 クーナの護衛は終わり。

別れ際、二人は白い包みを🟠 スバルへ渡す。

中身は――『血命の儀』で折った、エルギーナの巨大な角。

帰国の路銀にするための、シュドラクからの贈り物。

彼女たちは重い角を、何も言わず四日間運んでいた。

戦いへ戻る二人を見て、🟠 スバルの心が揺れる。

🟩「馬鹿なこと考えんじゃねーゾ」

「守りてーもんを守るために戦えヨ。アタイたちモ、おんなじダ」

🟩 クーナたちはシュドラクを守る。

🟠 スバルは🔵 レムたちを守り、帰る道を進む。

離れるのは、逃げることではない。

🟠「二人とも、本当にありがとう!」

🍽️ ルイも🟨 ホーリィのお腹へしがみつき、なかなか離れない。

そして再び、🟠 スバル、🔵 レム、🍽️ ルイの三人になる。

今度は、三人が同じ方向を向いている。

三人は並んで、グァラルの門をくぐった。

第七章15『守りたいモノ』終了。

第七章14

埋め難き価値観

焚火の向こう。皇帝を名乗った男を前に、スバルの思考が止まる。

SCROLL
焚火を挟み、スバルと仮面を外したアベルが向き合う

🔥 焚火を挟んで

「まず、それ本当なのか?」

🟠 スバル

(・・・・・・)

👤 アベル/ヴィンセント

(¬_¬)

前回――

「俺は第七十七代ヴォラキア皇帝だ」

と名乗ったアベル。

……だからといって、いきなり信じる🟠 スバルじゃない。

🟠「顔も見せない奴の、何を信用しろってんだ」

👤 アベルは面倒そうに仮面を外す。

黒髪。鋭い目。人を黙らせるような威圧感。

確かに、普通の人間には見えない。

ただし皇帝の顔は、帝都の外ではほとんど知られていない。

つまり🟠 スバルにも、本人確認の方法はない。

仮面を手にしたアベルが帝国の価値観を語る

剣狼の国

皇帝すら、奪える

👤 アベル

( •̀_•́ )

ヴォラキアの根本は、とても単純。

強い者が、全てを得る。

弱ければ失う。

地位も。財産も。命も。

皇帝の座すら、例外じゃない。

だから皇帝自身も、常に命と玉座を狙われる。

トッドたちが「勝てば正しい」と考えていた理由も、ここへつながる。

怒るスバルと、落ち着いて応じるアベル

部下のはずなのに

なぜ、自国の軍を襲った?

🟠「皇帝なら、帝国兵はお前の部下だろ?」

なのに👤 アベルは、シュドラクと共に帝国軍を壊滅させた。

普通に姿を見せて、命令すればよかったはず。

👤「俺に自殺願望などない」

皇帝が、自国の兵に会うだけで自殺になる。

(・・・・・・)

ここで🟠 スバルは、前の言葉を思い出す。

👤 アベルは、玉座を追われている。

そして森の討伐隊は、政敵が彼を始末するために動かした兵だった。

🟠 スバルと🔵 レムは、皇帝争いへ巻き込まれた。

アベルの説明と、密林を囲む帝国兵のイメージ

隠された命令

兵士たちも知らなかった

でも、帝国兵たちは本気で「シュドラクへの対応」が任務だと思っていた。

全員が🟠 スバルたちを騙していたとは考えにくい。

👤「一兵卒にまで伝わる話ではない」

皇帝の追放は、指揮官さえ知らない可能性がある。

事実が広まれば、帝国全体が揺れるからだ。

では、なぜシュドラクだったのか。

帝都から逃げた👤 アベルが頼れる可能性を持つのは、古い恩義と『血命の儀』を重んじるシュドラクだけ。

手を組む前に、シュドラクごと潰す。

表向きの任務と、命令を出した者の狙いは違っていた。

炎を見つめ、帝国兵とシュドラクの間で苦悩するスバル

戻せるのは一人だけ

死者を救い直せるとしても

👤 アベルは言う。

「起きた出来事は変えられん。死者は蘇らない」

(・・・・・・)

でも。

🟠 スバルだけは、死者を救い直す方法を知っている。

『死に戻り』すれば、陣地が壊滅する前へ戻れるかもしれない。

帝国兵へ警告できるかもしれない。

けれど、帝国兵を救えば今度はシュドラクが危険になる。

🔵 レムを無事に救える保証も消える。

今は🔵 レムも、自分も生きている。

この結果を捨てて、もう一度死ぬ覚悟がない。

それが、今の🟠 スバルの正直な答えだった。

国を取り戻す決意を示すアベルと驚くスバル

皇帝の目

アベル、核心を突く

👤 アベル

(¬_¬)

彼の目には、🟠 スバルがこう映っている。

他人ばかりを見ている男。

誰も傷つかないように。誰にも嫌われないように。

自分の心を「誰かのため」という施しで覆っている。

👤「欺瞞だ」

🟠 スバル

(╬゚Д゚)

当然、ブチ切れる。

👤 アベルは『死に戻り』も、その苦しみも何一つ知らない。

それでも言葉の一部が刺さるからこそ、余計に腹が立つ。

焼けた陣地の記憶を挟み、スバルとアベルの価値観が衝突する

埋まらない溝

「どうして、殺すんだよ」

👤 アベルの戦いは、まだ始まったばかり。

敵は帝国の兵力を動かせる。

こちらにいるのは、百人にも満たないシュドラク。

👤「生きている限り、俺は俺のモノを取り戻す」

その「モノ」は――国。

一方、焼けた陣地では百人を超える規模の命が失われた。

白鯨でも、大罪司教でもない。

同じ人間同士。話せる相手だったのに。

🟠「他の方法を、最後まで探したのか?」

👤「それ以外の術がない。それだけだ」

会話はできている。言葉も通じている。

それでも根本だけが、まったく噛み合わない。

これが――『埋め難き価値観』。

アベルを残し、集会場を出ようとするスバル

それぞれの道

「俺は、付き合えない」

🟠 スバルは、戦争に参加しない。

帝国の歴史を変えたいわけでもない。

目的は――

🔵 レムを連れて帰ること。

❄️ エミリア。🟣 ベアトリス。🌸 ラム。

みんなのところへ戻る。

そのため、最寄りの町から帰還手段を探すと決めた。

別れ際、🟠 スバルは👤 アベルの妙な癖に気づく。

瞬きするとき、必ず片目ずつ閉じる。

ほんの一瞬さえ、完全に視界を失わないため。

(・・・・・・)

この男は、そうしなければ生き残れない世界を生きてきた。

だから🟠 スバルとは、簡単に分かり合えない。

ウタカタの頭を撫でるスバルと、見守るミゼルダ

同胞の決断

「死ぬなよ、ウタカタ」

🔴 ミゼルダは、🟠 スバルが戦いから離れることを責めない。

同胞が決めた道として、静かに尊重してくれる。

🏹 ウタカタは少し寂しそう。

🟠「これから何が起きるか、わかってるのか?」

🏹「戦いが始まル。ウーもみんなと戦ウ」

幼いから戦争を知らない――なんて世界ではない。

🟠「死ぬなよ」

🏹「ウー、死ななイ! スーも死なないデ、頑張ル!」

(´ー`)

励ますつもりが、もっと強い声援を返されてしまった。

レムを背負ったスバルたちが、シュドラクに見送られて森を出る

森の外へ

「いってきます!」

意外にも、🔵 レムは森を出る提案をあっさり受け入れた。

長距離を歩けない🔵 レムのため、🟠 スバルは木と蔦で背負子を作る。

🍽️ ルイも同行。

大罪司教をシュドラクへ置いていく方が怖い。

ただ、今の振る舞いが全部演技だとも思い切れなくなっている。

🔴「戦うことだけが誇りではなイ」

大切なものを守り、未来へつなぐことも誇り。

🔵 レムと🍽️ ルイを守れ。

それが、同胞である🟠 スバルに託された役目。

護衛は🟨 ホーリィと🟩 クーナ。目的地は城郭都市グァラル。

見送るシュドラクへ、🟠 スバルは笑顔を返す。

🟠「ありがとう。みんな、元気で!」

戦争へ向かう相手に「元気で」なんて、軽すぎる。

それでも――

生きていてほしい。

🟠「いってきます!」

🍽️「うー!」

🔵 レムを背負い、🍽️ ルイを連れ、一行は森を出る。

第七章14『埋め難き価値観』終了。