第七章36
『混沌たる魔都』
魔都カオスフレーム、到着。紅瑠璃城の広間で待っていたのは、あり得ない先客だった。
🕸️ 蜘蛛の巣の街
御者台の指差す先に、目的地が見えた
(ノ≧∀≦)ノ
「あー! うー!」
御者台のルイが、正面の街並みを指差して尻を弾ませる。
「あれが、魔都カオスフレーム……」
都市とは、統一された様式やルールの上に建つもの。
――そのはずだった。
・煌びやかな建物の隣に、古びた廃墟
・背の低い通りに、突如そびえる倍以上の尖塔
・緑の公園に隣接する、荒廃した砂地
・街並みの上を覆う、勝手に継ぎ接ぎされた梁と足場
遠目には、都市全体が蜘蛛の巣で覆われているようだ。
規律も整頓も、総じて『まともさ』と無縁の都市。
⛓️ 湖に浮かぶ闘技場
アルの、ヴォラキア暮らしの話が出る
「――『巨人の一突き』であっさり崩れそうな街並みに見えるよな」
「オレもヴォラキア暮らしは長かったが、東側にくんのは初めてで新鮮だわ」
(・_・)
「じゃあ、ずっとヴォラキアの西側に?」
「オレ、そこでずっと剣奴やってたから」
重たいものだからこそ、気軽に話す。
――こちらの精神的な負担は、まるで軽減されていないのだが。
「……そういや、『巨人の一突き』って?」
(・∀・)
「あれ? 兄弟の地元じゃ言わなかった? 地震とか、そういうもんのことだけど」
(´ー`)
「もしかして、野球の球団とかかってたりする?」
( ̄ー ̄)
「野球が特別好きだった覚えはねぇけども」
👁️ 単眼の門兵
勝負所のはずが、あっさり通される
グァラルの検問を思えば、ここが勝負所――のはずだった。
🛡️ 門兵
「――入れ」
(´▽`)
「りょーかい! ありがとね」
馬車の中をぐるりと見回しただけで、許可が下りた。
拍子抜けである。
「あの単眼には、何か特別なものを見る力が宿っているのでは……?」
「深読みしているようだが、単眼族にそのような力はないぞ」
「多少、二つ目よりも遠くが見られるとは聞くが、概ね、目の働きに違いはない」
(#^ω^)
「でしょうね! だって、こんな怪しい馬車を素通りさせてますもの!」
アベルは魔都に着くなり、赤い鬼の面を被り直していた。
怪しまれると散々訴えたのに、門兵の反応は彼の予見した通り。
――二重の意味で、苦い。
「私モ、ナツミと同意見でス。袖のある服を着ているのニ、何も言われないなんテ」
(・_・;)
「んん……その驚き、わたくしの驚きとちょっと質が違うものですわね……」
🧬 種族の坩堝
誰もが堂々と、己の種を主張している
都市に入って、まず目につくのは人種の多さだ。
・猫人、犬人、兎人、獅子人――大小さまざまな獣人
・爬虫類めいた蜥蜴人の一団が店を開き
・多くの腕を持つ多腕族が行き交い
・石塊そのものが歩いているような種族もいる
この世界の亜人の環境は、決して恵まれていない。
ハーフエルフというだけで排斥されたエミリアがそうだったように。
外見に特徴の出る亜人の多くは、人里を離れて小さくなって暮らす。
――だが、カオスフレームは違う。
獣人が爪や牙を丸めない。
蜥蜴人が鱗を磨かない。
異形異様とされるものたちが、顔や体を布で覆わない。
ピンと背筋を伸ばし、誰もが堂々と己の種を主張している。
⚖️ 同じであること
無法の都市が、崩壊しないでいる根拠
「見ての通り、ここにあるものは無法だ」
「秩序の本質を嘲笑う、悪徳の都市と言えような」
「無秩序そのものが秩序っぽくなってるってのが、この街のコンセプトなんじゃねぇの?」
「――貴様は、そも秩序の本質がどこにあると考える?」
( ̄▽ ̄;)
「禅問答みてぇなこと聞かれた……兄弟、パス!」
(>﹏<)
「秩序の本質は、あれじゃありませんの。その、みんな仲良く! 平和!」
「多くが同じ価値観を共有すること。教義や信念、目的や欲得でもいい」
「個ではなく集団において、それら互いに逸脱せぬ同一性こそが秩序と呼ばれる」
「その秩序という土台の上に築かれるのが、貴様の語った絵空事だ」
(╬¬_¬)
「絵空事……へ、平和がそんなに馬鹿げていると?」
「闘争は避けられぬ人の本能だ」
「だが、秩序は崩壊から縁遠い環境を形作る絶好の仕組みだ。――見よ」
顎がしゃくられる。示されたのは、魔都の象徴たる赤い城。
「多くの種族の坩堝と化しながら、都市が崩壊に陥らぬ根拠があれだ」
🏯 紅瑠璃城
事前に知らされている情報は、ごく少ない
ヨルナ・ミシグレについて、事前に知らされた情報は少ない。
・『九神将』の一人、『漆』の位を与えられた女性
・皇帝の剣の一振りに数えられながら、幾度も謀反を起こした危険人物
・ズィクルが人間性について言葉を濁したのは、彼女とセシルスの二人だけ
(´Д`;)
「帝国で一番頭のおかしい男女の、女性の方という認識では……?」
アベルの秩序トークは、マウント取りではなかった。
混沌を煮詰めた鍋が溢れないのは、鍋を抑えているものがいるからだ。
その秩序こそが、ヨルナ・ミシグレなのだと彼は言った。
だからこそ、幾度も反乱されながら除籍も処刑もしなかったのだろう。
✉️ 証のない封蝋
家紋の押印がない封筒を、託される
「これを城主、ヨルナ・ミシグレへと届けよ。奴からの反応があるはずだ」
蜜蝋で閉じられた封筒。だが、家紋の押印はない。
「俺が持ち出した皇帝の証は、すでにどちらも砕け散った」
「片方は貴様が、もう片方はグァラルの都市庁舎でだ」
「出所を示すものがなくて、読んでもらえますかしら」
「余計な懸念は不要だ。手紙を読めば俺からとわかるようにしてある」
「ちなみに、あなたが直接赴くのが確実ではありませんの?」
「言われずとも、ヨルナ・ミシグレとは直接言葉を交わす」
「だが、早々に俺が顔を見せるのは都合が悪い。貴様も察しろ」
――幾度も謀反を起こしている相手だ。
アベルの統治に不満があるからこその反乱だったはず。
両者の関係は、火種の燻った火薬庫のようなもの。
「ただし、それが皇帝からの親書であることは伏せておけ」
(゚д゚)
「え、どうして? それ言わないと、門前払い喰らわない?」
「手紙を渡す前の変心までは俺にも読めん。故に、工夫しろ」
(;´Д`)
「言い方に悪意がありますわよ!」
🚪 無防備な城
見張りもおらず、武器も取り上げられない
城へ上がったのは三人。アベル、タリッタ、ルイは宿で待機。
見張りはおらず、武器も取り上げられなかった。
「この調子で訪問者を城に入れていたら、暗殺のし放題ではありませんの?」
「実際、オレらの武器も取り上げられてねぇしな」
(´▽`)
「そりゃ、あたしたちは暴れるつもりとかないもん。怒られないって」
アベルの名前を出せない。それでも入城は許された。
スバルの思いつきが、うまく働いたのだ。
「あはは、ナツミちゃん、アベルちんに噛みつくよね~。すごいと思う」
「すごい? わたくしが? アベルの性格の悪さが?」
(・∀・)
「どっちも!」
「兄弟以外になんて呼んだらいいんだ? 姉妹って書いて兄弟?」
「それ、漢字が伝わらないと伝わらないのでは?」
(;´Д`)
「そしたら、ナツミちゃんか? うお、サブイボ!」
「堪えてくださいまし!」
🍁 キモノの案内役
角を生やした少女に、先導される
現れたのは、頭に大きな鹿の角を生やした少女。
細身の体をキモノのような衣装に包み、長い裾を床に擦って先導する。
その仕草に、スバルの知識が何かを想起して疼いた。
紅瑠璃城の造りは、見慣れた西洋風の城とは違う。
広く外へ開かれた階層、その内装。
――古風な日本の城郭に、近い。
キモノ姿の関係者を、ちらほら見かけるのも一因だろう。
「こちらにてお待ちを。――ヨルナ様はすぐにいらっしゃいます」
😨 いるはずのない顔
広間には、先客がいた
広間には、先客がいた。
「あちらの方々は……」
「皆様と同じく、ヨルナ様との接見を求められた方々です」
「ヨルナ様は気紛れな方でいらっしゃいますから、一度にお相手すると」
(´д`;)
「ええ……」
顔も知らない同士で、ものすごく気まずい。
相手方も、聞かれたくない話かもしれないのに。
「それ言い出すと、オレらもまさにそれだわな、ナツミちゃん」
「……そう呼ばれると、わたくしの方もサブイボですわね」
先客は四人。武器を持たない一人が、少し前に座っている。
おそらく、あれが代表で、残り三人は護衛だ。
如何なる人物が、如何なる目的でヨルナとの接見を求めたのか――
(゚Д゚ ;)
「――ッ」
喉が詰まり、頬と首が完全に引きつった。
とっさに顔を伏せる。視線が一度こちらを向き、そして外れた。
(・・・・・・)
「……冗談じゃ、ありませんわよ」
――それは、この場にいるはずのないアベルと同じ顔をした男だった。
第七章36『混沌たる魔都』終了。
ルイ
ナツミ
ミディアム
アベル
タリッタ