第六章9
『砂時間を越えろ』
一日歩いても、塔との距離が縮まっていない。抜け道は、いちばん危ない時間の中にあった。
🧊 氷の壁
夜は、氷で砂を止める
アウグリア砂丘の攻略初日は、日没になってすぐに切り上げられた。
夜半に差し掛かれば、日に三度吹く『砂時間』の中で最も長いそれが訪れる。
瘴気を孕んだ砂の中を無理に進めば、体を蝕まれ、道を見失いかねない。
「じゃあ、エミリアたん。頼んでばっかりだけど、お願い」
「うん、ちょっと離れててね。――そりゃっ!」
――ゴッ。
停車した竜車の東側を覆うように氷の壁が形成される。
砂風に対する防備として機能し、砂を完全にシャットアウトした。
溶ける心配もなければ、ちょっとした魔獣に対する防護にも役立つ。
見た目と体感的に寒いのが問題だが、そこに目をつむれば十分だ。
🦂 寝てる間も
メィリィは、鼻高々だ
「ちなみに今さらだけど、魔獣対策は寝てる間も機能してるもんなのか?」
(* ̄▽ ̄)
「当たり前じゃなあい。自分で連れてきた子たちにお尻を齧られるなんて、とってもお間抜けで笑えないわあ」
砂蚯蚓の一件以来、目に見えてご機嫌である。
スバルの方も、彼女のご機嫌取りは命懸けの価値があると悟った。
🌫️ 空気の重さ
瘴気は、人によって効き方が違う
「エミリア様のお力に甘え続けているのが、どうにも据わりは悪いが」
(*^ω^*)
「いいの。言ったでしょ? スバルとユリウスには移動中に頑張ってもらってるから。それにこれも言ったけど、私、すごーく調子がいいの」
「普通は胸が悪くなるらしいし、それはそれで危うい気がするけどね」
実際、瘴気の漂うとされる砂丘の空気は独特の『重さ』がある。
その重さはスバルの体にもどことなく作用している。
ベアトリスやユリウスの口数が少ないのも、その影響がありそうだ。
アナスタシアやラムが静かなのも、関係しているかもしれない。
逆に調子が良さそうなのは、エミリアと、様子の変わらないメィリィの二人だ。
二人に共通点があるとは思えないが、こうも極端に出ている以上は警戒すべきだろう。
「焦りは禁物だ。道を急ぎたがる君の気持ちも、わからないではないがね」
「別に、そんなつもりはなかったのよ。先手を取られたわけでもないかしら」
そんなに焦燥感が見え見えなのかと、自分の頭を掻いた。
🚪 扉の外
ラムの治療には、同席しない
「その前に、ラムの治療をしなきゃね」
「あ、そうか。そうだね。んじゃ、エミリアたんとベア子、頼んだ」
何故、男性陣を外に置いて治療が始まるのかというと。
「――んっ」
扉越しに、微かに漏れ聞こえる声。
痛みを堪えるような、どこか熱っぽく震えた声だ。
竜車の中では淡い光が浮かび、四つの属性を合わせたマナによる治療が行われる。
無くした角の傷からマナを注ぎ込まれる。
痛々しくある反面、どこか艶めいたものを感じさせるのも事実であった。
(-_-;)
「返す返すも、アレをお前にやらせようとしてたロズワールの考えがわからねぇ」
「ある種、光栄な役回りには違いない。ラム女史は可憐で魅力的だ。ただ、彼女の目が誰を見ているのか明らかなのを考えると、素直に喜べはしないな」
👂 息を吹きかける
アナスタシアが、後ろから出てくる
「なぁんて、ナツキくんの葛藤が見えるようやね」
(゚Д゚;)
「うおぁぁぁ!?」
(¬_¬)
「些か驚きすぎではないかな。まるで邪なことでも考えていたかのように」
「はぁ? 邪なこととか別に考えたりしてませんけど? え、ちょっと何言ってるのかわかんない。全然わかんないです。さっぱりわかんないなぁ。アナスタシアさんそれで何の用ですか? 俺、なんでも聞きますよ!」
「誤魔化すの下手すぎひん? ま、ええけど。ナツキくんは中のやり取りに興味津々かもしらんけど、大事なお話しなきゃやから」
「うわぁ、歩きにくぅ。ユリウスたちはよぅ平気やね」
「足下が不確かなときは、確かめようとしてゆっくり踏むんじゃなく、わりと勢いよく靴裏の固さに任せて踏み切る。これ、クリンド流ね」
パルクール習得中に、万能家令であるクリンドから習った悪路走法の基礎だ。
🛁 風呂に入りたい
砂は、どこにでも入り込む
「砂のことはわかるけど、息が詰まりそうになるわ。早い内に砂風と無縁の場所にいって、思いっきり深呼吸したいところやね」
「同感。あと、風呂に入りたい。頭が早くも砂塗れなんだよ」
砂漠地帯の人間が、頭にターバンを巻く理由もわかろうというものだ。
砂対策と、暑さ寒さの対策。
過酷な大地に生きる人間の在り方は、当然だが理に適っている。
「お風呂、も同意やね。『賢者』さんのお家に、お風呂があったらええけどなぁ」
「……さすがにそこまではご存知ない、そういうことですか?」
「行き方はエキドナが知ってても、うちも入ったことがあるわけやないしね」
📊 今日の手応え
一日ぶんの成果を、数える
「今日、こうやって一日、監視塔を目指して進んだけど……手応えはどう?」
「手応えっていっても……ぶっちゃけ、これといった成果はねぇな」
塔はやっぱり目印として完璧。
エミリアに頼んだ帰り道の印。
メィリィの効力が思った以上に強い。
収穫といえば、そのくらいか。
「前準備とスバルの機転で『砂時間』への対策は万全でした。ただ、問題はプレアデス監視塔、そこまでの順路が見えないこと……でしょうか」
(・_・?)
「順路が見えない?」
🗼 縮まっていない
一日歩いて、距離が変わっていない
「では簡潔に。――スバル、君は塔の異変に気付かないのかい?」
氷壁の向こう側に透けて見える、夜の中でもぽっかりと存在を主張する偉容。
異変、と指摘されても、監視塔の異常がわからない。
一日ずっと睨み続けていたその塔は、砂丘到着時から今まで何も変わっていないはずだ。
――何も変わっていない、はず。
Σ(゚д゚)
「――!?」
「気付いたようだね。あの塔は明らかに、近付きも離れもしていない。私たちはあの塔を目指してずっと歩き続けているが……その距離は埋まっていないんだ」
遠間に見えるプレアデス監視塔は、変わらず、見落とすわけがないサイズ感のまま。
何ら、見え方に変化のないまま、そこに在り続ける。
📢 ホウレンソウ
気付いてたなら、もっと早く言え
(ノ゚Д゚)ノ
「じゃあ、今日こんだけ苦労して砂塗れになって歩いた道のりが全部無駄だったってことか!? 攻略が面倒臭すぎる――!」
(・o・)
「……うん?」
「おいおいおいおい、マジかよ。それ知ったらドッと疲れが出てきた。苦労が徒労だったって言われるのマジでキツイわ。うわー、最悪だ」
「思ったより、精神的なきつさはなさそうやね」
「どこ見てんだよ! こんなに苦しんでるじゃん! お前も気付いてたならもっと早く言えよ!」
「確信が持てるまでは黙っていようと、そう思ってね。落胆させたくなかった」
「そういう思わせぶりな感じやめてくれます? 別に思いつきで喋っても怒らねぇよ! むしろ、そこから糸口見つかるかもしれねぇだろ。お前らの『このことは自分の胸の中だけに仕舞っておこう』って精神なんなの? それで状況が好転したこととかホントにあんの? 少なくとも俺は黙っててよかったこと一度もねぇよ!」
「あ、ああ、すまない」
些細なことでもすぐに言え。これ、ラムにも言ったばかりだ。
🌀 空間が捩れている
アナスタシアが、カラクリを明かす
「で、お前はこの現象について心当たりがあると思っていいんだよな」
「説明不足やったんを反省した……ってより、うちの方も半信半疑やったんを今日一日で確信できた。そんな風に思ってもらえると助かるわぁ」
「その半信半疑の時点で次からは話せ。以上だ。で、何がどうなってる?」
「この砂丘と監視塔の間の砂原なんやけど、たぶん、空間が捩れてるんよ」
(゚д゚)
「空間が捩れてる……?」
「つまり、見え方と違くて地続きになってないっちゅぅことやね。このまままぁっすぐ歩き続けても、たぁぶんいつまで経っても辿り着けんよ」
「それが、ラインハルトもこれまでの挑戦者も辿り着けなかった原因ってわけか」
「目的地自体はそこに見えてるわけやしね。あとは距離を詰めるだけ……道中、魔獣の巣窟を必死で抜けてきたんならなおさら、あと一歩が欲しぃてたまらんやろし」
目的を目前にして、道半ばで倒れる冒険者たちの無念がなんとなく偲ばれる。
🪤 天然の罠
これは、誰かが仕掛けたものではない
「それを、どうしたら破れる?」
「……破る破らないの話は、ちょぉっと的外れかもしらんよ? これ、瘴気が生み出した天然の罠やもん。人為的な力はなぁんにも働いてない」
(゚д゚;)
「天然の罠!? これが!?」
極々稀に、自然はその在り方自体に殺意があるとしか思えない罠を用意する。
砂漠地帯の蜃気楼。豪雪地帯の崖に続く雪道。底無し沼や、潮の満ち引き。
「元々、こうした現象が起こる場所にプレアデス監視塔を建てた。そう考えれば不自然ではない。それに理に適ってもいる」
「理に適う? 何の?」
「忘れてはならない。砂丘は監視塔に続いているが、砂丘の先にあるのは塔だけではないことを。そもそも、監視塔は何のためにある?」
監視塔の目的、それは『魔女の祠』の封印だ。
越えられない砂丘の罠は、魔女教への抑止力としても非常に高い効果を発揮する。
一概に、そのことを責められはしない。
🕳️ 綻ぶ瞬間
抜け道は、『砂時間』の中にある
「わかった。とにかく、あの塔がどういう経緯と目的であそこに建てられたのかは今はいい。問題は別にある。その、歪んだ空間の突破法だよ」
「元を断つんは無理、って話はわかるやろ? ここはそういう土地なんよ」
「それはOKだ。風土と名産は把握した。次は弱点を探ろう。道案内を買って出た以上は、当然あるんだろ? 抜け道が」
「それがないとお話にならんもんね。……抜け道、といえるかは微妙やけど」
「あの『砂時間』の最中に、監視塔に繋がる空間が綻ぶ瞬間があるはずや。そこを通り抜けて、本当の砂海に入る。それが突破の条件やね」
いちばん危険な時間の中に、抜け道がある。
🚶 留まらない
一ヶ所に、留まらない方がいい
――翌日からの砂丘アタックには、非常に困難な状況が連続した。
『砂時間』が訪れるまでの行軍は大部分が余白となる。
その間は持て余すことが予想された。
しかし、そうした不安は。
「肝心の『砂時間』がきても、綻びに辿り着けるかは運次第。そう考えると、一ヶ所に留まらんでいるんも悪ないとうちは思うよ」
「それにずうっと一ヶ所にいると、あたりの動物さんたちに私たちの臭いが覚えられちゃうかもしれないわあ。私は大丈夫だけどお、万が一、私と逸れるようなことがあったらどこまでも追いかけてきちゃうわよお」
後者の意見は、実際に命に関わる内容だ。
💧 口をゆすげ
ベアトリスが、砂を呑ませない
「スバル、口の中に入った砂利は呑まずに吐くのよ。大した量じゃなくても瘴気を含んだ砂かしら。いい加減な処置だと、あとで痛い目を見るのよ」
口内に砂を味わう感触にもすっかり慣れ、警戒が薄れていた。
「ほら、口をゆすぐかしら。水浴びできない分、口の中ぐらい綺麗にするのよ」
「へいへい……そういえば、お前は風呂に入らなくても綺麗なまんまだよな」
( ̄^ ̄)
「ベティーの体の大部分はマナで構成されているかしら。当然、清潔感は常に保っているのよ。いつどこででも可愛らしい、ベティーには当たり前のことかしら」
「はいはい、可愛い可愛い」
👃 魔女の残り香
魔獣が、スバルばかり見ている
「お、また魔獣の群れ発見。……ああやって遠巻きにしてくれてるんなら、あいつらもただの動物にしか見えねぇけど」
(・_・?)
「私から離れて近付いたら、お兄さんなんかすうぐにガブリねえ。不思議だけど、このあたりの動物たちってみいんなお兄さんのことじろじろ見てるのよねえ」
どうやら彼女には、スバルを取り巻く『魔女の残り香』とやらがわからないらしい。
瘴気と同質のもの、とスバルは考えていたのだが。
臭いが薄れたわけでも、魔獣が引きつけられる性質が消えたわけでもないようだ。
🐺 懐かしの魔獣
ラムの記憶では、あのときレムはいない
(・∀・)
「お、あれってもしかして懐かしの魔獣じゃないか? ラム、見てみろよ!」
(¬_¬)
「アレを思い出の一部みたいに語られるのはひどく不愉快だわ。ラムとついでにバルスも、ひどい目に遭わされた記憶しかないわよ」
遠目からこちらを窺う魔犬の群れは、旧ロズワール邸を襲った魔獣災害の同族だ。
「そう言うなよ。あれが俺やお前、そしてレムとの関係の言わば仲人役だぞ。あいつらがいなかったら、今の俺はなかったかもしれない。そう考えると、あいつらとの関係も悪いものじゃ……いや、悪いよ! クソだろ!」
「自分で燃え上がって自分で消火するのやめなさい。見ていて哀れ、聞いていて惨め、考えるだけで情けなくなるから」
ラムの中で一年前のあの事変は、レムの存在を欠いた状態で解決した形に塗り替えられている。
実際、レム抜きでどうやったら攻略できるか不明だが。
記憶改変は、それに違和感を持たせないらしい。
🌪️ 突貫
『砂時間』へ、正面から突っ込む
(ノ゚Д゚)ノ
「うおおお! 『砂時間』やべぇ! 『砂時間』ぱねぇ! 砂風ヤバい!」
「な、なるべく透明の氷は作ったけど、ダメなら言ってね?」
「もうすでに結構ダメだこれ! 氷万能説崩れる!」
特に誤算だったのが、ここまで冒険を支えてきてくれた氷壁の完全敗北である。
「せっかくの氷の壁なのに、メチャクチャ砂が張りついて前が全く見えねぇ! っていうか、風が強すぎて面積広い氷で風を受けるとか自殺行為すぎる!」
「え!? なに!? スバル何か言った!? 全然聞こえない!」
「風が強すぎて自殺行為すぎる!!」
(゚д゚;)
「え!? 死にたい!? ダメよ、そんなの! 弱気にならないで!」
「そんな話して……ぐああああ!! 目に砂が暴力的に入ったぁ!!」
「え!? なんて言ったの!? もう一回言って! スバル? スバル――!」
挑んでいる側は真剣そのものなのに、やり取りは喜劇の一幕のようだ。
🦕 ジャイアン
地竜の馬力だけが、頼りだ
薄い氷の板を持つことさえ、真っ向から吹き付ける風の中では自殺行為だ。
完全に体中を布で防護し、地竜諸共に極限まで体を縮ませて受ける風の量を減らす。
それが得策だが、その作戦のネックは。
(ノ`Д゚)ノ
「頑張れ! 頑張れ、ジャイアン! お前の馬力だけが頼りだ!」
砂丘攻略の日数も数日を数え、芽生えた絆は呼び名となって表れている。
早い話、竜車を引くガイラス種の地竜を『ジャイアン』と名付けた。
女性陣を乗せる竜車には、風に対して小さくなるといった工夫のしようがない。
ジャイアンが力の限り引っ張るしか、方策がないのだ。
「あまり地竜にばかり無理をさせるのは性に合わないが……今は君が頼りだ」
「ほおら、頑張ってえ! もう、また終わらない砂原に帰るの嫌よお」
🔱 グングニル
竜車を、槍の形にする
せめてもの砂風対策として、エミリアに竜車を氷で多少弄ってもらった。
前面に板を張ってしまうと、砂は防げても風の猛攻に耐えられない。
ならば、と出した苦肉の策は、風を受け流すウィングと鋭角なフォルム。
風の中に猛然と突き刺さる、一本の槍をイメージした。
「プチ四駆の改造の応用だぜ。軽量化の肉抜きは命取りだからできねぇが、できることはやったつもりだ。さあ、いけよ、グングニル――貫けぇ!」
叫びに呼応するように、猛然とジャイアンの足が前へと踏み込む。
一本の槍となった竜車は、押し寄せる風を真っ向から食い破り、前へ、前へ。
🔇 唐突な静寂
風が、いきなり消えた
砂風を抜けた瞬間、スバルを襲ったのは恐ろしく研ぎ澄まされた静寂だった。
あれほどに耳元で騒いでいた風も。
全身を削るように打ち付けた砂も。
魔獣たちの活発化を促す瘴気も。
何もかもが幻であったかのように消え去っている。
『砂時間』の終わりは、確かに唐突ではあるがもっと余韻がある。
砂を纏う風は徐々に勢いを弱め、やがて波が引くようにいなくなるのだ。
だが、今回に限ってはそれがない。
つまり今回の終わりは、これまでの『砂時間』の終わりとは別物だという証拠だ。
「――ユリウス」
「ああ」
どちらともなく手を挙げ、グッと拳を握って『砂時間』の突破を称え合う。
ジャイアンは間違いなく、今回の旅の殊勲賞だ。
✋ 掌底
ベアトリスの耳が、限界だった
\(^o^)/
「今はとにかく! 突破だ! やったぞ! やっ――」
(#`皿´)
「ええい! ずっとずっと耳元でやっかましいかしら――っ!!」
――ゴッ。
見事な一撃に視界が回り、パトラッシュの上からひっくり返って砂の上へ落ちる。
(ノ゚Д゚)ノ
「いきなり何すんの!? 人が大喜びしようとしたら急になんだよ! びっくりして結構たくさん砂飲んじゃったんだけど!?」
「ベティーを抱いてるのに、一人で盛り上がってうるさいのよ! 何かしらダウンバーストだのオフロードだのジェネシフトだのバーニングソウルだの、訳がわからんかしら! 耳がずーっとキンキンしたのよ!」
確かにテンションが上がって、適当な用語を並べ立てて叫んでいた感は否めない。
なんだグングニルって。
🌸 花畑
塔までの砂地が、花で埋まっている
「――お兄さん」
「あ? どうした? お前ももうちょっと喜んでも……」
(・_・)
「黙って」
そこに込められていたのは、あからさまな危険への警戒だ。
それが意味するところを勘違いするほど、スバルもボケてはいない。
口に指を当てたまま頷き、空いている方の手でゆっくりと正面の方角を指差す。
『砂時間』の砂風を越えて、監視塔までの歪んだ砂海はクリアした。
眼前に浮かび上がる監視塔のシルエットは、明らかに以前より大きく、明瞭だ。
目標までの具体的な距離が、改めて設定された。
ただし――。
「……なんだ、あれ」
その監視塔へ続く砂地を埋め尽くすように、色とりどりの花畑が広がっていた。
第六章9『砂時間を越えろ』終了。
スバル
エミリア
ユリウス