第七章37
『紅瑠璃城の主』
偽の皇帝と同席したまま、魔都の主が現れる。狐の尾は、九本あった。
💎 青いはずの瑠璃
赤と青が交互に煌めく、混沌の城
『瑠璃』とは、本来は青。そこに紅を冠するのは矛盾だ。
――だが、一目見れば誰もが納得する。
土台と骨子に使われているのは、文字通りの瑠璃色の石。
深い青の光沢の内側で、水に落とした血の雫のように赤が渦巻く。
時折、青いはずの瑠璃が、血のように赤い光を纏う。
一定の色合いであろうとしない、移り気な混沌の城。
🤐 危ういところで
口を塞ぐのが、ぎりぎり間に合った
護衛と思しき三人を引き連れ、悠然と構える黒髪。
宿で待っているはずの顔が、そこにある。
アベルと同じ姿形の者がいることは、前もって聞かされていた。
だから疑うまでもない。――ヴィンセント・ヴォラキア皇帝の影武者だ。
( ゚д゚ )
「あれ、アベルちん? なんでここに……もごっ」
(;^ω^)
「おっと、大丈夫かよ、ミディアムちゃん。アルちんならここにいるぜ」
危ういところで、行動がキャンセルされる。
――が、そのやり取りは十分に不審だった。黄緑色の髪の護衛に睨まれる。
(;´Д`)
「アル、ナイスフォローでしたわ」
(・∀・)
「しかし、こいつはちょっとサプライズが効きすぎてんじゃねぇの?」
――もしこの場にアベルがいたら、真のヴォラキア皇帝決定戦の開幕だった。
🎲 早まった真似
絶好の機会に見えるが、手は出さない
手勢はたったの三人。帝都では数万の兵に守られる偽皇帝が、今は目の前だ。
仮面を剥ぐなら、絶好の機会かもしれない。
皇帝の立場は、安寧の揺り籠ではない。
だからアベルは人前で両目をつむらない。
その立場を装う者が、無防備な姿を晒すはずがない。
――護衛の三人がよほどの強者か、他に対策があるか、だ。
「ちょっと一当たりして確かめてみるか?」
「……簡単にコンティニューできるなら、それもありかもしれませんわね」
(・_・)
「でも、取り返しのつかない展開の方が怖いですわ。早まった真似はしないように」
(´ー`)
「へいへい」
アルの意見は、よく却下される。
だがそれは、彼が先に早まった案を出してくれるからだ。
おかげで思考の寄り道が減る。
「あのアベルちん、あたしたちの知ってるアベルちんとは別人ってこと?」
「お、そうそう、それで間違いねぇ」
(・∀・)
「だったらマズくない? だって、ナツミちゃんがさ」
(゚д゚)
「わたくし? わたくしが何を……ぁ」
🦊 九本の尾
城主が、下座の皇帝を見下ろしながら現れる
「――ヨルナ・ミシグレ様、いらっしゃいます」
鹿人の少女に抱いた印象の正体が、ここで言語化される。
――『禿』だ。遊郭で遊女の身の回りを世話しながら、芸事を学ぶ少女。
「――今日は、ずいぶんとお客人が多いでありんすなぁ」
・細身の長身を包む、花柄の鮮やかなキモノ
・毛先にゆくほど白から橙へ色濃くなる、結い上げた髪
・骨や角、牙や鱗を加工した簪と髪飾り
・ピンと持ち上がった獣耳
・細身に大きすぎる、豊かな毛並みの尾――それが九本
キモノを纏った、狐人の美女。
「遠路はるばる、わっちの城にようこそおいでになりんした」
上座の座椅子に座り、長い足を投げ出し、肘置きに体重を預ける。
禿から受け取った金の煙管に火を落とし、紫煙を肺に入れて微笑む。
――下座のヴォラキア皇帝を、見下ろしながら。
🖼️ 絵画のような対面
二人が向かい合う姿は、絵画の一枚のよう
「――ヨルナ・ミシグレ」
当たり前だが、寸分違わずアベルと同じ声だ。
静かに互いを見据える二人は、絵画の一枚のよう。
この対面が帝国史に如何なる出来事として残るか。
親愛と流血、いずれの道を辿るかは、この先次第だ。
「これはこれは閣下、お久しぶりでござりんす」
「いくらお誘い差し上げても、魔都へきてくださらのうござりんしたのに」
(¬_¬)
「誘いだと?」
「貴様の誘いとは、たびたび余に対して兵を挙げたことか?」
「だとしたら、余の返答は目に見える形で返したであろう」
(*´ω`*)
「ええ、確かに。でありんすが、わっちの首はこうしてまだ胴と繋がっておりんす」
(・∀・)
「それに今日は、あの厄介な小僧を連れてござりんせんようでありんすから」
(・д・;)
「まさかあの姉ちゃん、アベルちゃんの気が引きたくて謀反してんじゃねぇよな?」
「……違っていてほしい、ですわね」
――こちらの口実は『アベルムカつく』だ。
アベルに好意的な相手に届くことなど、想定していない。
なのに、ヨルナはスバルたちを城へ上げた。この場に、同席させて。
🐝 針金のような男
敵のはずの男が、唯一の味方に見えてくる
「ヨルナ一将、その姿勢はいくら何でも不敬ではないか。貴公は何を考えている」
「閣下にお付きの主さんは……」
「カフマ・イルルクスだ。このたび、閣下に随行を命じられた」
(╬゚д゚)
「役割は護衛と弁えているつもりだったが……貴公の態度は目に余るぞ」
「わっちの態度、でありんすか? それはどういう意味でござりんす?」
(#`Д´)
「全てだ!」
「そもそも、何故他のものをこの場に同席させる!」
「そんなはずがありんせん。ちゃんと、わっちは閣下のものでありんす」
(╬゚Д゚)
「そんな話はしていない! そこの、貴公らも貴公らであるぞ!」
(゚Д゚;)
「うえ!? わたくしたち!?」
(;´Д`)
「あの、わたくしたちはお邪魔ですかしら? でしたら、日を改めて……」
「それは困りんす。わっちの一日の時間は限られておりんすから」
「引き止めるな! 彼女たちも気まずい思いを味わっているだろう!」
(・・・・・・)
「ええ、ええ、まさにですわね」
立場的には敵同士のはずのカフマが、この場では唯一の味方に思える。
💨 紫煙の向こう
こちらの用件は、すでに伝わっていた
「ヨルナ・ミシグレ、貴様、何を考えている?」
その一言で、カフマが即座に引き下がる。
偽物とわかっていても、威圧感は本物だ。
「もちろん、わっちは常に閣下を……ヴォラキア皇帝閣下を想っておりんす」
「くふ。冷たい目をしなりんす」
「でも、あちらのお客人方は下げない方が、きっと閣下もお喜びいただけるでありんすよ?」
そこで初めて、ヴィンセントの意識がこちらを向いた。
「わたくしたちは場違いなようですし、聞くべきでないお話もあるご様子」
「ここは一度、下がらせていただいて……」
(¬_¬)
「それはそれは、何とも弱気なことでありんすなぁ」
紫煙の向こうの眼差しが、稚気の光を宿す。
――とんぼ返りするなら、先客の顔を見た時点で決断すべきだった。
「タンザから聞いたでありんすよ」
第七章37『紅瑠璃城の主』終了。
「――皇帝に変装した、偽物」
ミディアム
アル
ヨルナ
ヴィンセント
カフマ