リゼロを読む WEB版・初見向け解説
明るさ
字の大きさ
行間
地の文の書体

206話

第六章24

『へそ曲がりの試験官』

二層への階段が見つからない。番人には、教えられていない決まり事がある。

😢 泣いていた

――ひとりの、泣き続ける女がいた

――女、一人の女がいた。

女は感情的だった。女は常に泣いていた。

痛みに敏感で、常に泣き続けていた。

嘆き悲しむ理由は一つ、自分の無力が許せなかった。

女の周りには常に争いが、戦いが、奪い合いが満ち溢れていた。

何度声を上げても、どれだけ縋ったとしても、その悲しみは終わろうとしない。

運命を呪って、呪って、呪った挙句に女は気付く。

――いくら泣いても無駄なのだと。

💪 力

泣かずに済む力が、欲しかった

それに気付いた女が次に欲したのは、ただひたすら純粋な力だった。

必要なのは、傷付ける力ではない。奪う力、そんなものでもない。

誰も追いつけないほど、圧倒的な強さを求めた。それが戦いを止めると信じた。

涙を流し続ける女は、泣かずに済む力が欲しかった。

力と力がぶつかり合う戦いを、無力なままでは止められない。

声は届かない。願いは叶わない。嘆きは遠ざけられ、悲しみが空を覆っていく。

👊 女

「子どもが泣いてる。お年寄りが泣いてる。男が泣いてる。女が泣いてる。みんなが泣いてる。なのに、どうして――!!」

🌀 螺旋

抗うほど、戦いは増えていく

やがて女は到達する。無双の力に、他を寄せ付けない圧倒的な境地に。

戦場に立った女は、戦いをやめろと声高に叫ぶ。

剣を握るものを殴り、魔法に頼るものを蹴りつけ、牙を剥くものを砕き切る。

だが、女が抗えば抗うほど、強ければ強いほど、剣も魔法も牙も数を増す。

それはまるで螺旋、戦いの螺旋だ。

力に力で対抗する以外に、誰も自分を生かす答えを持っていない。

だから誰も、戦って勝ち取る以外の道があると知らないのだ。

👊 女

「どうして――!!」

そう思う自分も、結局は暴力を振るっている。

🔥 憤怒

その感情には、名前がある

止まらず、走り続けてきた女の胸に、ついに絶望が去来した。

止まらず流れ続けていた熱い涙ではない、冷たい無力と失望の涙が。

しかし、同時に、湧き上がる別の感慨があった。

胸の内をどす黒く染め、視界が真っ赤に、頭が白くなるほどの激情。

自分はずっと、悲しくて泣いていたのではない。

ただただ、自分はずっと、怒り狂っていたのだ。

その感情の名前を、人は怒りと――否、これを人は『憤怒』と呼ぶのだ。

涙を強要する世界に、戦いをやめない人々に、いつか必ず終わる命の理不尽に。

――鉄拳を、喰らわせてやろう。

🏃 走り続ける

殴られた者たちの、傷が塞がる

いつしか女は立ち上がり、汚れた膝の土を払い、再び走り出していた。

まだ戦いを続ける人々のど真ん中に飛び込み、その顔面を殴り飛ばし、叫ぶ。

戦いをやめろ。空を見ろ。風に聞け。花を嗅げ。家族と、恋人と生きろ。

大地が割れるほどの拳、空が唸るほどの蹴り。

その全てが人を生かした。

傷が塞がり、悲鳴が止まり、温もりに膝が折れ、戦いに意味はなくなる。

人々の涙は止まった。人々は女に感謝した。声を上げ、手を振り、笑って。

だがそのとき、すでに女の姿はどこにもない。

女にはまだやるべきことがある。振り返る暇も、足を止める理由もない。

――『憤怒の魔女』は悲しみへの怒りを燃やし、ずっとずっと走り続けた。

🪨 重い

人の足跡は、重い

スバル

「……重い」

人間の一生、どんな人間であれ、一秒は一秒、一分は一分、一年は一年だ。

その人生の濃度を測る物差しなどなく、故にこそ時間は常に平等に流れる。

それほどまでに、人の足跡というものは大きく、重いものなのだ。

エミリア

「スバル、大丈夫?」

スバル

「……ああ、大丈夫。平気だ。少し、頭がふらっとしただけ」

エミリア

「それ、大丈夫って言わない……」

スバル

「また一冊、魔女の本を見っけた。今度のは、まぁ、魔女の中ではマシな方の子の本だよ」

エミリア

「変な子……セクメト?」

スバル

「あれはだいぶ変な人だろ。って、セクメトのことは知ってんだ?」

エミリア

「ううん、ごめんね。私、エキドナとセクメトの二人としか墓所では会ってないの」

🪜 階段がない

上へ行く階段が、見当たらない

エミリア

「それにしても、上の階に上がる階段ってどこにあるのかしら」

スバル

「今のところ、手掛かりゼロだからなぁ……」

スバルたちの欲する情報を、能動的に選べない記憶から探り当てる。

それには膨大な時間と運が必要で、そのどちらも現状は期待できない。

スバル

「だからたぶん、俺たちの欲しい情報は上にあるはずなんだが」

エミリア

「なのに、上にいけない。本棚の上にも飛び乗ってみたけど、ダメだもんね」

スバル

「エミリアたんって結構、大胆だよね……」

エミリア

「パックに教わったのよ。えーと、女の子らしいお淑やかな護身法……だっけ。それ、いつもちゃんと気を付けてるから」

スバル

「パックを褒めたいような責めたいような複雑な気持ちだ」

🏛️ 人手

ユリウスは、国を頼るべきだと言う

ユリウス

「もしもこの書庫が本当に、過去から今に至るまで全ての死者の名前を記録しているのだとしたら、とてもではありませんが我々だけでは手が回りません。もっと多くの、それこそ国を挙げるべき事案です」

ユリウス

「以前に比べれば、塔までの道行きは開かれたも同然だ。この不可思議な書庫を有効利用する意味でも、国に報告する価値はあると考える」

スバル

「資料的価値は半端じゃないもんな。……お前の大好きな歴史関係の虫食いも、かなり埋まるのは間違いねぇだろうし」

ユリウス

「それはあくまで副次的要素だ」

ユリウス

「……それを全く期待していないと言えば嘘になる。すまない。私心があった」

スバル

「そんな凹むなよ、私心で動くのの何が悪いんだよ。それで盛大に反省されると、下心百パーセントで行動する俺はどうなるんだよ」

アナスタシア

「んーん、違わんよ。うち、王様になりたい理由は欲を満たしたいからやもん。結果的にうちの周りにも利益が回る。それだけの話」

🛡️ 私の騎士様

エミリアが、胸を張る

スバル

「個人的には余所の足並みが揃ってないのは助かるから、そのまま音楽性の違いで解散してくれると助かる……痛っ! エミリアたん、痛い!」

エミリア

「イジワルなこと言わないの。――私は、アナスタシアさんたちのこと、前よりちゃんとわかってないから迂闊なことは言えない。でも、相手がどんな風に立派でも、私は私のやり方で、私の騎士様たちと一緒に頑張るから」

私の騎士様、の部分でスバルの袖を摘まみ、エミリアは胸を張ってくれた。

エミリア

「へなちょこかもしれないけど、負けないわ」

スバル

「へなちょこってきょうび聞かねぇな……痛っ! 痛い!」

ユリウス

「……時々、真剣に君たちのことが怖くなる。どこまで本気で、どこまでがそうではない部分なのか見分けられず」

スバル

「俺はともかく、エミリアたんは大体真面目で真剣だよ。そこが可愛いだろ?」

ユリウス

「胸に留めておくとするよ」

😨 怖く感じる

アナスタシアは、人を呼ぶのを危ぶむ

アナスタシア

「それなんやけど、ウチはちょぉ怖く感じるんよ」

ユリウス

「怖い、ですか?」

アナスタシア

「人手が増える、そのことはうちも歓迎なんよ。この書庫、見回るだけでも大変なんやもん。……せやけど、本当に、塔の中に大勢が入れるんか疑問やわ」

アナスタシア

「商売の基本は相手の立場になって考えること。で、それに則って考えてみよか。この塔を作って、『試験』の準備して、シャウラさんを置いた人……やね。その人の気持ちになって考える。すると、見えてくるやん?」

スバル

「性格がひん曲がってるってか?」

アナスタシア

「バキバキやとうちは思うよ」

💨 ひょい

シャウラを、呼ぶ

スバル

「シャウラ! 聞きたいことがある。ちょっとこい」

シャウラ

「お師様ー? はいはーい、今すぐいくッスー!!」

シャウラ

「おーしーさーまっ!」

スバル

「ひょい」

シャウラ

「んぎゃッス!」

シャウラ

「うー、お師様マジいけずッス」

スバル

「いや、今のはお前だから避けたんじゃなくて、勢いがすごかったから反射的に」

シャウラ

「じゃ、ゆっくり近付いたら抱きしめてくれるんスか!?」

スバル

「え? 嫌だけど?」

🤷 知らないッス

四層より上に、行ったことがない

ユリウス

「確かに君は魅力的な女性だが、食事に誘うのは別の機会にしよう。――この塔を取り巻く事情について、いくつか確認したいことがある」

ユリウス

「まず最初に……君は、ここから二層へ上がる階段がどこにあるのかは知っているかい?」

シャウラ

「二層『エレクトラ』の階段ッスか? さあ? あーし、四層から上にいったことなんてねッスもん。知らないッス」

アナスタシア

「それはそれで衝撃的な発言やね」

四百年、砂丘の監視に集中して、自分の暮らす塔の散策もしていなかった。

さすがにそれは、見上げすぎた忠誠心と言わざるを得ない。

✋ 五つ

アナスタシアが、指を五本立てる

アナスタシア

「シャウラさんはアレやろ? 正確にはこの監視塔……やなくて、大図書館プレイアデスの番人って立場やんな?」

シャウラ

「いーぐざくとりぃッス」

アナスタシア

「なるほど。したら、ウチの予想やと……四つ。ん、五つかな?」

「――シャウラさんが言われてる、塔を守るための内緒の決まり事。五個と違う?」

はんなりと微笑するアナスタシアの言葉に、シャウラは初めて絶句した。

目を見開き、肩を跳ねさせたその反応は、言葉よりも明快だった。

☠️ ぶっ殺す

その決まりは、約束より優先される

シャウラ

「そもそも、あーしは別に隠し事してたわけじゃないッス。ただ、聞かれないから言わなかっただけッス。そこのところ、ちゃんと書面に残してもらいたいッス」

スバル

「いいから、全部話せ」

シャウラ

「例えばの話ッスけど、お師様たちがあーしに内緒で塔を出ていこうとかしたら、あーしはもう容赦なくぶっ殺すッス」

スバル

(゚д゚)

「すげぇいきなりだな!?」

シャウラ

「別にやりたくてやるわけじゃないッス! 例えの話ッス! そもそも、これはあーしにとって逆らえない問題なんスよぉ」

シャウラ

「あーしがお師様をぶっ殺すなんて、そんなのできるわけないじゃないッスか。あーしの方がぶっ殺されて終わりなのに、メチャメチャしんどいッス……」

🧚 精霊?

その縛りは、契約なのか

スバル

「そんなに嫌なら拒否すれば……まさか、契約とか言い出さないだろうな」

四百年前から塔にこもり、『賢者』の代わりに祠を見張る番人。

――寿命も在り方も、人間的なそれではない。

スバル

「お前も、ベア子みたいに精霊なんじゃないか?」

シャウラ

「なわけないじゃないッスか。精霊とか、そんなフワフワした連中と一緒にされたらたまったもんじゃないッス。断固拒否……なんか、急にみんな目が怖いッス!」

スバル

「この場の面子、八割が精霊と関係あるからな!」

スバル

「それならそれで、お前はなんなんだよ。精霊でもないんなら、そんな必死になって契約を守ろうとする必要ないだろ」

エミリア

「何言ってるの、スバル。精霊でも精霊使いじゃなくても、約束したんなら守らなくちゃダメに決まってるじゃない。約束は大事。はい、繰り返して」

スバル

「いや、今のは俺が悪かったけど、言葉の綾で……」

エミリア

「約束は大事。さんはい」

スバル

「約束は大事約束は大事約束は大事」

📜 決まり事

決まりは、四つ

シャウラ

「まず、大図書館プレイアデスの挑戦者は、もう絶対に外に出さないッス」

スバル

「いきなりどうしようもねぇぞ」

シャウラ

「大丈夫! ちゃんと抜け道があるッス! たーだーし、ちゃんと大図書館の『試験』を解き終えて、一層『マイア』までいけば問題ないッス。オールOKッス」

シャウラ

「ちなみに、この条件に違反した場合、あーしは血も涙もないキリングマシーンに早変わりするッスから、お師様との約束は無効ッス。手出しするッス」

スバル

「俺との約束より優先度上ってか。傷付くわー」

「一、『試験』を終えずに去ることを禁ず。二、『試験』の決まりに反することを禁ず。三、書庫への不敬を禁ず。四、塔そのものへの破壊行為を禁ず。五……あー、五は……あー、ないッス」

エミリア

「全部で四個の決まり事……だけど」

🙈 明かされない

エミリアが、意地の悪い側で考える

スバル

「『試験』の決まりに反するのを禁ず、ってのは気になるな」

ユリウス

「何か、我々の知らない決め事が裏に隠されているということになる」

アナスタシア

「決め事、決まり……なんや、いやぁな響きに聞こえるんよね」

エミリア

「あのね、スバルとアナスタシアさんも言ってたけど、この塔を作った人はすごーくイジワル……でしょ?」

エミリア

「相手の立場になって考えるのも大事。つまり、すごーくイジワルな人の気持ちになりながら、今のシャウラの言ったことを考えると、こうじゃないかなって」

「守らなきゃいけない決め事、それなのに決め事の内容がわからない。……それ自体、イジワルなんだって思わない?」

スバル

「……つまり」

エミリア

「決め事の内容を想像しながら、それを破らないように進めってことかもって」

エミリア

「エキドナだったら、そういうことしそうだなって」

スバル

「……エミリアたんも、性格悪い奴でパッと思い浮かぶのはあいつか。気が合うね」

👁️ 誤魔化せない

破れば、彼女にはわかる

スバル

「ちなみに、この決まり事を破った判定ってお前がするのか?」

シャウラ

「なんかわかるようになってるらしいッスよ。今、言った条件のどれが破られても、あーしにはそれがわかるらしいッス。だから、誤魔化せないんス。――あーしのことも、お師様たちのことも、絶対に」

言葉の後半、やけに神妙な態度で言い切られた声には力があった。

それはシャウラの力量、という意味での力ではない。むしろ、逆だ。

――シャウラほどの力を持つ存在に、そう言わせるだけの力があった。

スバル

「元々、厄ネタだったところにさらに厄ネタが重なっただけだ。今さらだ」

ユリウス

「そう言い切れる君がたまに羨ましい」

💋 むちゅー

ベアトリスの様子が、おかしい

シャウラ

「二号がこっちのちびっ子で、一号があっちのちびっ子ッス」

かなり無礼な発言に、ベアトリスは何の反応も示さない。

普段であれば顔を赤くして、シャウラに食って掛かるのが彼女の性格なのだが。

スバル

「ってか、さっきも話に全然混ざってこなかったし、どうかしたのか?」

スバル

「ベア子? おーい、ベアトリス。しゃんとしろ。おでこにキスするぞ」

ベアトリス

「……勝手にすればいいのよ」

スバル

「むちゅー」

ベアトリス

(ノ//Д゚)ノ

「んぎゃーかしら!?」

スバル

「動揺しすぎだろ……」

ベアトリス

「な、な、な、何をいきなりしているのよ!? 脈絡なさすぎるかしら!」

スバル

「脈絡はあったし、お前の許可も取ったよ。お前、ホントに大丈夫か?」

ベアトリス

「この流れでは無理なのよ! ちょっと落ち着く時間を寄越すかしら!」

🪙 金の粒

この面子で、探すしかない

ユリウス

「結局、二層への階段の所在は闇雲に探す以外にないということか」

『試験』を終わらせなければ、塔から外に出ることは認められない。

当然、人を呼ぶために砂丘へ戻ることも許されないということになる。

スバル

「砂丘に落とした金の粒を探す気分、って言ってわかるか?」

ユリウス

「君らしくもなく詩的な表現だが、素直に同意できるね」

💡 思いつく

エミリアが、小さく手を上げる

エミリア

「ねえ、私、少しだけ思ったんだけど」

エミリア

「性格の素直じゃない人が、塔を作ったってところでずーっと考えてたの」

アナスタシア

「言葉の選び方が可愛らしぃなってるけど、そやね。それで?」

エミリア

「階段の場所なんだけど、ひょっとして――」

🪜 四層に

階段は、下の階にあった

スバル

(ノ`Д゚)ノ

「やっぱり、この塔作った奴の性格、クソ最悪だな!!」

エミリア

「四層とか五層の、今まで見てないところに出てくるかもって思って」

彼女の推測はばっちり当たった。

二層への階段は四層の、ラムやレムの待つ緑部屋のすぐ隣室に出現していた。

第六章24『へそ曲がりの試験官』終了。