リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章76

『自分という名の地獄』

手を差し伸べられずに済む相手が、この世に一人だけいる。

🫱 自画自賛

――案外、大したもんじゃないか

化け物と、そう呼ばれ、罵られたことに傷付いているわけではない。

頭がおかしい。耐えられるわけがないと、そう叫ばれたことにも納得だ。

スバル

「――ああ、俺はすげぇよな、ナツキ・スバル」

ひどく客観的に、ナツキ・スバルという存在を観測した『記憶』と『実感』が、今日まで歩み続けてきた自分の道のりを称賛していた。

スバル

「なんだ。案外、大したもんじゃねぇか、俺」

異世界について無知な状態から、それこそスバルの一年間に匹敵するほどの『死』の体験を積み重ねて、よくぞ心を砕け散らせずに戻ってきてくれた。

🧾 引き継ぎ

――任せて、任された

スバル

「メィリィのことも、シャウラのことも、任せて、任された」

スバル

「ラムもユリウスも、無理してやがる。あの二人がそれなんて、よっぽどじゃねぇか」

スバル

「ベアトリスとエキドナにも、まさかの迷惑かけ通しか。ったく、俺って奴は……」

そして、たとえ『記憶』をなくそうと、何度、何回繰り返しても、やっぱり君に引き寄せられて、この道へと戻ってくる。

そうしたい。そうせざるを得ない。他の道が考えられない。

スバル

「――E・M・T」

🏳️ お前の負けだ

――許さない、と決める

スバル

「おい」

ルイ

「ひっ!」

スバル

「……ビビりすぎだろ」

きっと、相手の警戒をほどき、その内側に潜り込む天性の素養。

スバル

「――ルイ・アルネブ、お前の負けだ」

――ナツキ・スバルは、赤子のように泣きじゃくるルイ・アルネブを許さない。

⚖️ 七元徳

――七つの、約束

スバル

「お前らの……大罪司教が名乗ってる冠は、七つの大罪ってやつと共通してる。で、中二病御用達のロマンワードな『七つの大罪』だが、それと近いもんに『七元徳』ってのがあるんだよ」

七つの大罪が、『傲慢』『嫉妬』『憤怒』『暴食』『怠惰』『色欲』『強欲』。

そして七元徳が『思慮』『勇気』『節制』『正義』『信仰』『希望』『愛』。

それを尊重し合うから、人は人と共に生きられる。

スバル

「だけど、お前らは……お前は、それを侵した」

しかし、踏み外した道を戻る機会を、一度も活用しなかったのは彼女の決断だ。

🔓 解放しろ

――全部、返させたい

スバル

「ルイ・アルネブ、お前の負けだ。だから、それを認めて何もかも解放しろ」

彼女が奪った『記憶』を自在に引き出し、引き剥がし、好き放題に扱うのをスバルはこの目で見たのだ。

――『記憶』と『名前』を奪われた人たちを、レムを、取り戻せる。

スバル

「だったら、お前が今まで喰ってきた人たちを全部解放しろ。そうすれば……」

ルイ

「……そうすれば、なに?」

スバル

「お前が喰った、大勢の人たちを解放しろ。『名前』が戻れば、もう死んじまった人たちの名誉だって回復できる。お前がそれをしてくれれば、俺はお前を……」

ルイ

「――見逃すって? そうすれば、お兄さんは私たちを見逃すの? 見逃すって?」

😱 全部、恐怖

――全ての感情が、恐怖に着く

ルイ

「そんなことないね! あるわけない!」

ルイ

「お兄さんは、自分の敵を撃滅する! 最後の最後まで絶対に打ち砕く! 完膚なきまでに! けちょんけちょんに! それができる! だったらやらないわけない!」

笑おうとして、怒ろうとして、悲しもうとして、ルイの表情はめちゃめちゃだ。

ルイの迸る感情の出口は、全てが『恐怖』に直結していた。

全ての結末が『恐怖』に続いているとわかったら、いったい、何に喜び、怒り、悲しめばいいのだ。

それはナツキ・スバルもまた、体感したことのある自分という地獄だから。

🤝 温もり

――手を、握ってくれた誰か

そんな、どうしようもない地獄からスバルが抜け出せたのは、きっと、手を握ってくれる誰かがいて、その温もりがスバルを逃がさないでくれたからだ。

それが、初めての異世界でスバルの命を、心を救ってくれた銀髪の少女。

それが、何もかもに裏切られたスバルを守ろうとしてくれたドレス姿の少女。

それが、全てを投げ出そうとしたスバルと優しく傷付け合った青い髪の少女。

――それが、ナツキ・スバルが地獄に囚われずにいられた理由だ。

その心の拠り所が、目の前で恐怖に溺れるルイ・アルネブにはない。

🚫 救わない

――俺は、お前を救わない

人は一人では生きられない。だから、『恐怖』に囚われた彼女が救われるには、誰かが手を差し伸べることが必要だ。

スバル

「――俺は、お前を救わない」

――スバルは、ルイ・アルネブに手を差し伸べない。

スバル

「俺は、お前を救わない。可哀想とも思わない」

大罪司教は許し難い罪を犯した。――それが、ナツキ・スバルの結論だ。

スバル

「そもそも、俺が何を言っても、お前の救いになんかならないだろうけどな」

🚪 追い出す

――外へ、押し出される

ルイ

「わかってる……お兄さんの手口はわかってる! 私たちはお兄さんだったんだもの! だけど、そうはさせないッ!」

ルイ

「食べたものを返せ? 絶対に嫌! だって、これがあたしたちの生命線じゃん! これが返されない限り、お兄さんはあたしたちを殺せない!」

ルイ

「もう、一秒だってお兄さんと同じところにいたくない! だからサ、消えてよ! お兄さんを食べるのは、お兄ちゃんと兄様と! どっちでも好きな方がすればいい!」

スバルを『記憶の回廊』から排出し、現実へと送り返す。

そして、その敵対はルイ自身ではなく、彼女の兄弟であるライとロイへと委ねる。

✂️ 綱を斬る

――記憶から、逃げるな

スバル

「俺が、気に入らないなら……お前自身で決着をつけたら……」

ルイ

「その手には乗らないッ! お兄ちゃんと兄様が、お兄さんを喰らい尽くす! それが、私たちの勝利条件だッ!!」

スバル

「お前の兄弟が、お前の最後の頼みの綱なら、わかった。――その綱をぶった斬って、俺はお前に償わせる。覚えておけ、ルイ・アルネブ」

スバル

「嫌なことも辛いことも、お前自身で抱えろ。――『記憶』から、逃げるな」

ナツキ・スバルがすごかったのなら、それは恥と後悔が、そうさせてくれたのだ。

スバル

「それはそれとして、もう、あんな恥掻くのは御免だけどな」

👯 もう一人

――待っていた方が、戻ってくる

ルイ

「――ねえねえ、なんか、話が違ってない?」

ルイ

「そうだよ、私たち。貧乏くじ引いちゃったからサ、ここで待ちぼうけしてた方のあたしたちだよ」

その、もう一人の自分である『ルイ』は、ルイと違ってあの体験を共有していない。

だから、あけすけに嗤える『ルイ』の姿が、ルイには妙に遠く思えた。

ルイ

「見たんでしょ? 聞いたんでしょ? 嗅いだんでしょ? 触ったんでしょ? 味わったんでしょ? ――ナツキ・スバルの権能をサ!」

ルイ

「――アレの名前を言うなァ!!」

🚷 触るな

――半身が、他人になる

ルイ

「いや! いやいやいや! 触らないで! こないで!」

自分の『魂』を分かったはずの存在――それは今や、ルイにとって他人だった。

他人は、何をするかわからない。ルイを守ってはくれない。ルイの死因となりえる。

ルイ

「寄るな! くるなくるなくるなくるなッ! 近付いてくるな! 私たちに触るなァ!」

ルイ

「は? 何それ。何それ何それ、どういうこと。どういうことなの、どういう了見で、どういう腹積もりでどういう考えなの、ねえ!?」

ルイ

「話が違うッ! どうしたの、私たち!? なんなの、その反応! 態度! 答え!」

💢 独り占め

――裏切りだと、決めつけられる

ルイ

「――何度でも、何十回でも何百回でも! 『死に戻り』の権能を奪い取るまでチャレンジする約束だったじゃない! 失敗は、取り返せるんだから!」

ルイ

「――それなのに、あたしたちを拒むなんてどうしたのサ!」

ルイ

「まさか……権能を、独り占めするつもりなの?」

ルイ

「ち、違うッ!」

こんなモノ、捨てられるなら捨て去りたい。しかし、できない。

何故ならこれは、他の誰でもない、『ルイ・アルネブ』の『記憶』だからだ。

『嫌なことも辛いことも、お前自身で抱えろ。――『記憶』から、逃げるな』

🌀 勝者のいない争い

――誰も見ていない、争い

ルイ

「あたしたちが幸せになる方法を、お前なんかに独占させてたまるか!」

ルイ

「違う! 違う違う違う違うぅぅぅ! そんなんじゃない! そんなんじゃないの!」

ルイ

「死にたくない! 私たちは死にたくない! 死にたくない死にたくない死にたくないぃぃぃ!」

ルイ

「――ナツキ・スバルは私たちのモノだ。この、泥棒猫」

ルイ

「――ナツキ・スバルを知ってるのはあたしたちだけだ。この、馬鹿女」

ルイ

「あたしたちにも味わわせろ――ッ!!」

ひどく壮絶で、無意味な争いが、『記憶の回廊』で始まる。

始まって、終わる。――勝者のいない、争いが。

❄️ 一万回

❄️百回で駄目なら、一万回

エミリア

「――アイスブランドアーツ!!」

ライ

「はっははァ! やるぅ! けど、まだまだまだまだ当たんないってばァ!」

エミリア

「どうして、あなたたちはそうやって――!」

エミリア

「――アイシクルライン」

ライ

「悪いね、お姉さん。それって見飽きた……とは言わないけど、見たことあるんだよ。僕たちってほら、天才肌だからさァ」

ライ

「百回やれば勝てるって思ってる? 千回やっても届かないよ?」

エミリア

「なら、一万回やるだけだわ! みんなのところへはいかせないから!」

⭐ 一の騎士

――名前を、呼ばれる

スバル

「――ライ・バテンカイトス!!」

とっさに、「いけない」と内心で考えた。

エミリア

「危ないから待って! えっと、私のこと、その、わからないかもしれないけど、あっちが敵! ここは私に任せて! 私のこと、わからないかもしれないけど!」

少なくとも今、この瞬間は、戦う以外のことを考えたら泣いてしまいそうだから。

スバル

「――大丈夫だよ、エミリアたん」

ただそれだけで、胸の内から何とか出さないようにしようとしていた不安とか、悲しい思いとか、今は構っていられない感情が弾け飛んだ。

スバル

「――俺の名前はナツキ・スバル。エミリアたんの、一の騎士!」

今、こんなにも、『エミリア』の胸は熱く、熱く、鼓動を打ったのだから。

第六章76『自分という名の地獄』終了。