リゼロを読む WEB版・初見向け解説
明るさ
字の大きさ
行間
地の文の書体

206話

第七章72

『馬鹿馬鹿しい噂』

呪具は手に入った。だが、トッドの用意した反撃は、島そのものを敵に変える。

🧻 保険

薄氷の上の砦が、城壁を越えさせてくれた

執務室の窓の外にシーツを垂らしておいたのは、最悪の事態に備えた保険だった。

ヴァイツに時間稼ぎを、タンザに道のりで臭いの強い香草を、イドラには高台に人を。

――薄氷の上に築き上げた砦が、相手の城壁を乗り越させてくれた。

ヒアイン「シュバルツ! このあとどうすんだ!?」

スバル

(>﹏<)

「考えてる!」

まだべったりと血で濡れた黒い球。グスタフの体の中から引きずり出されたもの。

スバル

「とにかく、茂みで擬態だ!」

ヒアイン

(;゚Д゚)

「に、逃げなくていいのか?」

スバル

「闇雲に逃げてもすぐ見つかる! 早く!」

逃げても、逃げっ放しでなくちゃならない。

――でも隠れれば、息を潜めている間は次を考え続けることができる。

👣 とん

必死で下りた高さを、軽々と越えられる

とん、と軽い音を立てて、必死で下りた高さを少女が突破する。

アラキア「いない」

存在を疑わないときは意識の裏側に隠れられても、知られた状況では死角に潜り込めない。

――少し注意深く探されるだけで、見つかる不安が膨れ上がる。

小さく唸るアラキアが眉間に皺を寄せて、隠れている植木の方にやってくる。

気配、臭い、息遣い、心臓の音。どれが切っ掛けになったかもわからない。

「おいおい、なんだこれ? 総督の部屋が吹っ飛んでやがる!」

「この知らねえ美人は客か?」

――のしのしと中庭に現れたのは、音を聞きつけた五人の剣奴だった。

📢 見つけ次第、殺せ

一度でも捕まった時点で、終わりになる

トッド

( •̀_•́ )

「――聞け!!」

トッド

「グスタフ・モレロ総督が殺された!」

トッド

(╬゚Д゚)

「やったのは黒い髪の子どもと、灰色の蜥蜴人の二人だ! 見つけ次第、殺せ!!」

トッド

「総督の役目はアラキア一将が引き継ぐ! 呪則で死にたくなければ、二人を殺せ!!」

荒々しい声ではなく、感情的に殴りつけるのでもない。

――大勢に聞かせて動かすための、必要な感情整理がされた声だった。

冤罪だと訴えたところで、この島でまともな捜査も裁判も望めない。

そもそも、誰かに一度でも捕まった時点で、スバルたちは終わりだ。

トッド「――さあ、『スパルカ』の開始だ!!」

💧 死ぬ人と話すな

首元に指を持っていって、声を出さずに

トッドが指差したのは、遅れて中庭に現れた剣奴たちだった。

指を自分の首元に持っていって、聞こえない声で――『やれ』。

「嬢ちゃん、何か知ってんのか? グスタフが死んだってのは……」

アラキア「ごめん。言われてる」

「あ……? 何が?」

枝を持った右手を大きく横に振る。彼女がしたことはそれだけで、十分だった。

――五人の剣奴、その全員の頭が内側から爆ぜた。

アラキア

「死ぬ人と話すなって」

相手の頭の中に水を出してやれと、たぶんそれをやったのだ。

アラキア

「コップ、一個分……」

――うまくいかなかった、という感じの不満。

人を殺しておいて、そのぐらいの感覚しか持っていないのは、おかしい。

「おい、お前、どっからきた!? 総督が……」

アラキア

「言われてる。――死ぬ人と話すなって」

🔥 大混乱

――『呪則』の発動とは異なる理由の、剣奴孤島の大虐殺が始まった

――『呪則』の発動とは異なる理由の、剣奴孤島の大虐殺が始まった。

「クソ! 看守共が剣闘獣を島に放った! 逃げろ逃げろ逃げろぉ!!」

剣闘獣は看守の命令を聞いて、二人を探している。

――ただし、剣闘獣に剣奴それぞれの区別なんてつかない。

「どこにいる! とっとと出てこい、シュバルツ! 薄気味悪いガキめ!」

看守の様子には焦りと苛立ち、それに恐怖がある。彼らも死なないために従っている。

「だから、シュバルツを差し出せば……」

「バカ言え! 奴ら手当たり次第だ! 区別なんか付けちゃいねえよ!」

「で、でもよ、シュバルツの、あの噂が本物なら……ッ」

全部敵だと割り切れる看守やアラキアより、ずっと手強いかもしれない。

――誰が敵で、味方なのかわからないから、迂闊に頼りにもできなくて。

😔 間に合わなかった

薬を作ってくれた人のところへ、間に合わない

スバル「ヌル爺さん!」

タンザ

(´;ω;`)

「シュバルツ様……」

彼女の隣には翼の生えた鼠の死体。たぶん、タンザが一人で倒した魔獣だ。

――でも、タンザがくる前に、その魔獣は治癒室を荒らして、人を殺した。

しゃがみ込んだタンザの足下に、骨と皮だけのよぼよぼのお爺さんの死体。

イドラ

( ゚д゚ )

「シュバルツ、戻ったのか!」

ヴァイツ

(・∀・)

「ふん、お前も死ななかったか、トカゲ野郎……」

タンザ

「シュバルツ様、飛び交う話は本当なのですか? グスタフ総督のお命を?」

スバル

(・_・)

「グスタフさんを殺したのは、帝都からきた使者……アラキアだよ」

スバル

「いや、アラキアを使ったトッドだ」

ヴァイツ

「トッド……? 何者だ、それは……」

スバル

(;゚Д゚)

「大罪司教より怖い奴だよ」

🚧 退路がない

呪則は消えたはず、という前提で考える

イドラ

「グスタフ総督が死んだのなら、私たちを縛っている呪則も消えたはず」

イドラ

「跳ね橋を上げて、島の外へ向かうか?」

ヒアイン

(>﹏<)

「ば、バカ言え! その鍵がねえだろ!」

ヒアイン

「それに、跳ね橋なんて動かしたら、すぐに狙い撃ちにされちまう!」

ヴァイツ「敵に『九神将』がいるなら、遅かれ早かれ……オレたちに退路はない……」

呪具は手元にある。呪則のない今、島を出ること自体はできる。

――でも、制御塔と跳ね橋の二ヶ所で待ち伏せされる可能性があった。

ヌル爺さんも、剣奴たちも、このままでは死んだままの世界を生きることになる。

――そんなの、菜月・賢一の息子の選ぶべき道じゃない。

タンザ

「せめて、相手をする方の数が減らせれば……」

🫣 手札

隠している手札があるだろう、と迫られる

ヒアイン

(¬_¬)

「……な、なぁ、だったら、もう隠すのやめていいんじゃねえか?」

スバル

「隠すのやめろって……何を?」

ヒアイン「い、いい加減にしろや! この状況で、伏せてていい手札じゃねえぞ!」

イドラ

「言い方はともかく、ヒアインの気持ちはわかる。そろそろ、話してくれまいか」

イドラ

「――君の、御父上の話だ」

スバル

( ゚д゚ )

「……俺の、父さん?」

スバル

(´・ω・`)

「でも、普通のサラリーマンだぜ……?」

👑 隠し子

言われている中身が、まるで違った

ヒアイン「誤魔化すんじゃねえ! もうわかってんだ! お前、皇帝閣下の隠し子だろ!?」

スバル

(×Д×)

「……俺が、皇帝閣下の、子ども?」

ヒアイン

「黒髪に黒目、あの皇帝閣下の落とし胤が、国のどっかにいるって! それが……」

イドラ

( •̀_•́ )

「――シュバルツ、君なんだろう」

ヴァイツ

「言ったはずだ……お前が何者なのかはわかっている……」

ヴァイツ

「だが、どうだろうと、オレはお前に力を貸す、と……」

――その重みが今になってはっきりわかる。全く見当違いの考えからきていたことも。

スバル

「タンザ、お前はなんで違うって……」

タンザ

(・_・)

「――シュバルツ様、私はこの目で見ています」

タンザ

「シュバルツ様が、皇帝閣下とご一緒されていたところを」

カオスフレームでのことだ。仮面を付けたアベルと、小さくなった状態で一緒にいた。

――タンザは、スバルが『ナツミ・シュバルツ』が縮んだ姿だと、知らないのだ。

スバル

「タンザは、俺をなんだと……?」

タンザ

「――。あの、黒髪の女性と、皇帝閣下との間の」

🗣️ 旗頭

その噂を、誰が流したのか

スバル

「……皇帝の隠し子って話は、なんで話題なんだ?」

イドラ

「今、島の外では皇帝閣下への反乱軍が起こっているそうだ」

イドラ

「その反乱軍の、旗頭とされているのが……」

スバル

「皇帝の隠し子?」

真実は、本物の皇帝と偽皇帝の戦い。

でも、知られているのは本物の皇帝と、皇帝の息子をトップにした反乱軍の戦い。

――誰がどうやって、そういう形式にしたのか、想像もついた。

スバル「あの野郎……!」

内紛自体の大義名分にすると同時に、いなくなったスバルを探す意味もあるのだろう。

スバルが死んでいないと、そう考えているからの状況とは思う。

――口が裂けても、『信じている』とは言わないが。

タンザ

「――シュバルツ様」

その呼びかけに、ほんの少しの畏れ多さみたいなものが込められているのを感じて。

――見回して、決めた。今の状況で、求められていることを果たすのだと。

🌬️ 嫌な感じだな

配置転換は叶った。叶い方が違うだけで

トッド「――嫌な感じだな」

城郭都市でアラキアを助けたのは、失点の回復と、配置転換を叶えるのが目的だった。

実際、配置転換自体は叶った。――叶い方が期待と違うだけで。

全てはアラキアを謀るためについた、一個の嘘が原因で。

トッド

(¬_¬)

「ジャマル、死んでも迷惑な奴め」

帝国宰相、ベルステツ・フォンダルフォンの手先として島へ送り込まれる有様である。

『実行を命じるだけの楽な仕事』――それも全部嘘だった。

トッド

「格上を殺す方法なら、いくらでも考えてあるんだがな……」

看守と剣闘獣、剣奴の半分も巻き込めば、島の個人は狙い撃ちにできる。

トッド

「――万全なんて、存在しないからな」

トッド

「真人間ぶるのはやめろよ。制服以外、連中とほとんど変わらない」

剣奴孤島の看守は全員、ともすれば剣奴になっていておかしくない経歴の帝国兵だ。

トッド

「頼むから、俺とカチュアの平穏を乱さないでくれよ……」

🎺 やんごとなき御方

看守たちの顔色が、見過ごされなかった

スバル

(╬゚Д゚)

「――トッド・ファング!!」

トッド

「……何考えてんだ、お前さん」

スバル

( •̀_•́ )

「トッド、投降しろ。それで、あの女の人……アラキアにも、やめさせるんだ」

トッド

「――。とりあえず、理由を聞くが?」

スバル

「簡単な話だ。――この島の呪則を支配する呪具は、俺の手元にある」

トッド

「くだらない駆け引きだ。第一、呪具だと? そんなものがあるなら……」

スバル

「――これだ」

トッド

( ゚д゚ )

「おいおい」

トッドなら、間違いなく島のどこかに隠して、その在処も含めて交渉材料にする。

――そうしないで現物を持ってきたのは、いったい何が目的なのか。

タンザ

「――神妙に、聞き入りなさい、無礼者」

タンザ

「現在、この帝国全土を揺るがしている大乱、そこに流れる噂の数々を」

タンザ

「こちらにおわす御方こそ、帝国を揺るがす事態の中核」

タンザ

「誤った帝国の在り方を正すために立ち上がられた、やんごとなき御方」

タンザ「――ヴィンセント・ヴォラキア皇帝閣下の御子息、ナツキ・シュバルツ様です」

――息を呑み、顔色を変えた看守たちの反応を、トッドは見過ごさなかった。

彼らは事前に、近い話を耳にして、疑惑の芽を胸の中で育てていたのだ。

🪓 やれ

要求が伝わるより早く、腰に手が回る

タンザ

「さあ、看守の皆様、速やかに――」

その要求が伝えられるよりも早く、トッドは腰に手を回し、渾身の力で薙ぎ払った。

弧を描く斧の刃が、隣に立った二人の看守へ襲いかかる。

――どちらも即死。動揺したままの勢いで、あちらに与するのは防いだ。

トッド「――やれ!!」

刎ね飛ばした看守の首に飛びつき、その頭を思いっ切り正面へ蹴飛ばす。

血を撒きながら飛んでいく頭が、目を見開いた少年たちの方へ飛ぶ。

――次の瞬間、通路に真横から突っ込んだ黒い大鷲の巨体が、

その周囲にいた少年たちを、破壊に呑み込んでいった。

第七章72『馬鹿馬鹿しい噂』終了。