第七章34
『馬車での一悶着』
魔都への街道を馬車がゆく。検問、『星詠み』、そして床下から出てきたもの。
🐎 借り受けた愛馬
向かう先が、どういう土地なのか
栗毛の巨体が、街道を蹴る。
ズィクルから借り受けた疾風馬だ。
名前は『レイディ』。
(´-`)
「さすが、レディならぬレイディ……ズィクルさんの愛馬ってだけある」
『女好き』の運命力、と言うべきか。
ともあれ、旅程は快調。
このまま進めば、四日ほどで魔都カオスフレームに着く。
――だが、着くことが目的ではない。
「会いにいく九神将の前評判もだけど、そもそも魔都って響きもおっかないし」
多種多様な種族のサラダボウル、とは聞いている。
それだけで『混沌』と『魔』を冠するだろうか。
謀反ばかり起こす『九神将』が治めている、という点も含めて。
レムを連れてこなかった理由が、そこにある。
🎩 羽根つきの軍帽
女装した男が、さらに男装をする
(´Д`)
「オレの頭がいまだに混乱してるぜ」
「その格好と、オレの知ってる兄弟がなかなかちゃんと重なんなくてバグっぽくなってる」
「あ? まだそんなこと言ってるのかよ」
意外なことに、レムの次にスバルの女装へ物申してくるのがアルだ。
アベルもシュドラクも、一度受け入れたあとは自然と流してくれたのに。
「味方なら、ひとまずありのままの俺を認めてほしい」
(・_・;)
「その装った状態がありのままに兄弟ってことでいいの? マジで?」
「もちろん、女になりたいわけじゃない。自信とかそういう話だ」
「聞いてねぇけども!」
今回の役どころは、踊り子ではない。
もっと知的なものが求められる。
だから衣装も、その印象に寄せた。
・赤を基調とした襟付きの装い(ヴォラキア将校服がベース)
・下はズボン、足元はごついブーツ
・頭には鳥の羽根のついた軍帽
・マントは必要な場面だけ羽織る
――これが『女軍師』ナツミ・シュバルツの完成図。
「男装だから、ちょっとクルシュさんのテイストにも力を借りた」
(^ω^;)
「女装してる兄弟が男装って、もう字面で見てもオレの混沌が深まる一方だよ」
❄️ 冗談の通じない席
おかしいと思っているのは自分だけか、と確かめる
「これ、おかしいって思ってんのオレだけなのかね。皇帝さんはそこんとこどうよ?」
「道化」
「そのような呼び方を貴様に許した覚えはないぞ」
「その不用意な一言が帝国の存亡を揺るがすと心得よ」
「さもなくば、もう片方の腕もなくすだけに済まぬ」
(;・∀・)
「うへ、勘弁してくれよ。そこそこ慣れたが、不便は不便なんだぜ」
アルは呼び方を変える。「アベルちゃん」と。
眉間に皺。しばしの沈黙。
そして「ふん」と鼻を鳴らして黙殺された。
――「皇帝さん」よりはマシ、という判断だろうか。
「確かに馬鹿げた格好だが、成果を出せば俺はとやかくは言わぬ」
( `皿´)
「俺のフォローと見せかけて背中から撃つんじゃねぇよ」
「必要に迫られてって何度言わせんだ。俺が好きで女装してると思ってんのか?」
「――――」
「黙るなよ!」
🔮 帝国の預言者
お約束の話から、実在の役職へ流れる
話は『お約束』へ流れる。
「皇帝の傍に怪しい魔法使い……ってのもお約束じゃね?」
「妖しげな女魔法使いが皇帝を篭絡して、意のままの人形にしていく……」
「そして、繁栄を誇った国は崩壊へ」
「勝手に崩壊させてくれるな。どうあれ、この手に取り戻す。ただ――」
『星詠み』。聞いたことのない言葉だ。
だが、字面が当てはまると役割もぼんやり浮かぶ。
「もしかして、風水師とかそういう類の……占い師みたいな立場?」
「ってより、預言者の類なんじゃね? 王国でも、石板がその役割だったしよ」
「ああ、『竜歴石』とかいう……」
王国に伝わる予言板。
未来の出来事と、その解決法が記されるという。
だが、王族の病没に対して石板が示した対処法は――
「次代の国王の選定」。つまり、王選だった。
「本気で王国を救う気なら、そもそも病気の治し方を教えろよって話だからな……」
王族は暗愚でも専横的でもなかった。
多くの人が、その死を悲しんだ。
――『竜歴石』がなぜ彼らを見捨てたのかは、今も謎のままだ。
🔥 譲れぬ一線
最後の一線で、この男を疑わずに済む理由
「『星詠み』ってのは石板と違うんだろ? そいつ、宮中でどんな役割だったのよ」
「『星詠み』の力は帝国を維持するため、明日を覗き見るものであったからな」
「……でも、予知できてないじゃん。お前、追い出されてるわけで」
「言ったであろうが。『星詠み』の力は帝国の維持のためにある」
(;°Д°)
「それって……お前が追われた方が帝国のためってことになるぞ」
「少なくとも、『星詠み』はそう判断したということであろうよ」
宰相に、右腕に、予言者に。
見限られている男が、玉座に戻ろうとしている。
「本当に皇帝の座に戻して大丈夫か、お前」
(゚д゚)
「おいおい、そりゃ火の玉ストレートすぎるぜ、兄弟」
「けど、あれだ。アフロ将軍はアベルちゃんのこと認めてたじゃねぇか」
「ああ、そっか。なら大丈夫か……」
「貴様がなんと言おうと、『星詠み』が明日に何を見ようと、俺の答えは決まっている」
「玉座に俺を置いておけぬと判断したとしても従えん」
復讐心でも、反骨心でもない。
もっと大きく、純粋な信念。
だから最後の一線で、スバルはアベルを疑わずに済む。
👀 街道の先
街道の先に、人だかりが見える
(ノ´▽`)ノ
「あー! みんなー! ちょっとちょっと前見て、前~!」
「なんか前の方でわちゃわちゃしてるのが見えるよ! ナツミちゃんも見える?」
「ええと……豆粒よりも豆粒みたいなのが見える、かも」
異世界人の目の良さは次元が違う。
エミリアもたぶん、視力五・〇はある。
「そんなわけで、タリッタさんはどう? 見える?」
「待ってくださイ、あれハ……」
声は、馬車の中からではない。
屋根の上だ。
走る馬車の上で、タリッタは全方位を警戒している。
「人が当たり前に屋根の上にいるのって、なんか落ち着かないのオレだけ?」
「アベルはわからないけど、俺はうちのガーフィールで慣れてるから」
「どうやラ、帝国兵が集まっているようでス。前をゆく牛車などが止められているように見えますガ」
「――検問か」
街の入口ではなく、街道の途中。
つまり、何かを探している。
「まさか俺たち? アラキアにも逃げられたし、それで色々広まった?」
「あれがこれほど早く的確に動けるとは思えん。加えて、魔都は帝都とは反対の方角だ」
「――とはいえ、連れの問題があるな」
「アラキア嬢ちゃんを引っ張ってった奴か。切れ者って線はあるだろうな」
切れ者。
スバルには心当たりがある。
都市庁舎の陥落後、投降した帝国兵の中に、その男はいなかった。
🚪 床板がめくれる
迂回はしない、と即断される
「今なラ、まだ向こうもこちらに気付いていないと思いますガ……」
「――待て、迂回はするな」
(゚Д゚)
「迂回するなって、どうするんだよ。お前が見つかったら大変だろ」
「奴らの目的が知りたい。俺の所在であれば、兵が何と言われて探しているのか探っておきたい」
「だ・か・ら、お前が見つかったらどうするんだよ」
「蜂の巣をつつくような真似して、怒涛のカーチェイスに突入する羽目になるぞ」
戦えるのは三人。だだっ広い街道で敵を撒くのは至難だ。
「条件が悪すぎる。それとも、何かいい手があるのか」
( ゚д゚)
「へ?」
「すでに城塞都市での前例がある。馬車は軍のものとわからぬよう偽装されている」
「けど、それは道中の世間話用の設定だろ!?」
「俺は馬車の底部に隠れる。貴様は兵たちの口を割らせよ」
「兵に馬車の底部を覗かせるな。貴様も命は惜しかろう」
(#^ω^)
「なんで偉そうなのかがわからねぇ……!」
元は二将ズィクルの馬車だ。
位の高い人物が有事に隠れるため、床板が外れる仕掛けがある。
まさか潜むのが皇帝になるとは、職人も想像しなかっただろう。
「兄弟、準備は?」
両手で軽く頬を叩いて、スイッチを切り替える。
強く叩けば化粧が崩れる。頭を掻けば髪が乱れる。
苛立ちを棚上げしなければ、言葉が荒れる。
求められた役割を果たすことが、失った信頼を取り戻す第一歩だ。
(◕‿◕)
「あら、軍の皆様、お疲れ様ですわね。いったい、どのような御用ですの?」
「……切り替ええぐいな」
🛡️ 街道の検問
令嬢と護衛と使用人、という設定で通す
設定はこうだ。
・ナツミ=下級伯の令嬢
・アルとミディアム=雇われた護衛
・タリッタ=令嬢付きの使用人(執事風の男装)
(´∀`)
「兄弟が女装の男装で、タリッタちゃんが男装……もうわかんねぇな」
帝国兵は怪しまなかった。
ただ、目的地がカオスフレームだと聞いたときだけ、言葉に詰まった。
🛡️ 帝国兵
「あまり、魔都にいくのはおススメしないぞ、お嬢さん」
「そう言われましても、わたくしもお父様に怒られてしまいますもの」
「貴族とはいえ下級伯の家系……贅沢なことは言えませんのよ」
「それにしても、ずいぶんと物々しいですけれど……何かありましたの?」
🛡️ 帝国兵
「最近、北のバドハイム付近で起こった小競り合いで脱走兵が出てるんで、それの捜索だよ」
🛡️ 帝国兵
「……あとは指名手配犯を探してる」
🛡️「五十歳くらいの、青い髪をした男って話なんだが、心当たりは?」
「――。いえ、残念ですが」
アルは、侮られる無礼者ムーブを完璧にこなした。
隻腕を弱味ではなく強味として使う説明も、先回りして潰しておいた。
「あの方の腕、きっと以前はお国のために働いた兵士のお一人だったんですわ」
🛡️ 帝国兵
「……負傷を理由に職を辞したなら、我々が言えることはない」
――検問は、大きな問題なく越えられた。
💭 自信ではなく信頼
どうしてそんなに堂々としていられるのか
(´ω`;)
「ナツミハ、どうしてそんなに堂々としていられるんでス?」
「踊り子として乗り込む計画のときかラ、思っていましタ」
アベルとフロップ――ビアンカとフローラは、天然の美貌で突破した。
ナツミ・シュバルツには、その土台がない。
だから、努力がいる。
「だから、一生懸命に頑張っただけですのよ」
「……自信があるのハ、羨ましいでス。私にはそれがなイ」
「自信だなんて……わたくしにあるのは、ナツミ・シュバルツへの信頼」
「自信とはまた別個のものなんですのよ」
( ゚д゚)
「エ? エ? エ?」
「おいおい、兄弟、やめとけって。その考えのレベル、ちょっとオレもついてけねぇ」
「憧れの方と自分を比べると、それはそれは苦しみますが……」
「理想の自分は、思い描けますもの」
🕳️ 床板の下から
検問中、床下から何度も雑音が響いていた
検問の最中、床下から何度も雑音が響いた。
「下級伯も大変ですの……」と腹の虫のせいにして誤魔化した。
エレガントなナツミ・シュバルツの評判に傷が付く暴挙である。
( `ε´ )
「ちょっと、アベル、どういうことですの? 誤魔化すのにどれだけ苦心したと――」
「うー!」
(ノ゚0゚)ノ
「うひゃああああ――っ!?」
現れたのは、金色の髪をした幼い少女。
いてはならない少女、ルイだ。
「どうやら、床下にずっと潜んでいたらしい」
「よもや、ここまで誰も気付かぬとは。おそらくはウタカタあたりの仕業だろうよ」
「不必要に底部で暴れられ、さしもの俺も肝を冷やしたぞ」
検問中の大騒ぎの原因は、床下でアベルにじゃれつくルイだった。
どうやら彼に、子どもをあやす才能はないらしい。
「子どもが一人いりゃ、また同じような検問があっても目を逸らしやすいかもだ」
「案外、子連れ旅も悪いもんじゃ……痛ぇっ!」
(#`Д´)
「がうーっ!」
撫でようと伸ばした手に、ルイが牙を剥いた。
唸りながら、スバルの後ろに隠れる。
「――落ち着いてくださイ!!」
「大の大人が、子ども相手にみっともないですヨ!」
「もっト、落ち着いた大人として振る舞ってくださいませんカ。小さい子が真似をしまス」
正論に、返す言葉がない。
⚖️ 熱のない黒瞳
正体を告げれば済む、はずだった
ここでルイの正体を告げればいい。
『暴食』の大罪司教だと明かせば、この場の面子には脅威が伝わる。
そして、不穏分子を取り除くために――
取り除くために、どうするのか。
「――言っておくが、俺たちの目的は遊興でも遊楽でもないぞ」
ルイを見るアベルの黒瞳には、一切の熱がなかった。
路傍の石や野花と、区別がついていない。
その冷たさが、正体を明かした場合の結末を教えてくる。
「遊びの旅でない以上、役立つところを見せろ。……そういうことですわね?」
「ああ、構わぬ。――貴様は、そう言うだろうよ」
「……解釈の難しい評価ですこと」
御者台がにわかに賑やかになる。
ミディアムとタリッタに、ルイは歓迎されたようだ。
「アル、あなたにもお願いを」
「――どうか、ルイにできるだけ気を払っておいてくださいませんか」
「……なんでだ? あのちびっ子に何がある?」
一瞬、迷った。
アルなら、素直に信じてくれるだろう。
だが、知ったあと、彼はどう動くだろうか。
「――。あの子が傷付くと、レムが苦しみますの。どうか、お願いします」
「ああ、了解。残った腕まで食われねぇか心配だが、そこはうまく付き合うさ」
アベルが、微かに不愉快げに眉を顰めてこちらを見ていた。
問いかけても、「ふん」と鼻を鳴らすだけで何も言わない。
第七章34『馬車での一悶着』終了。
ナツミ
アル
アベル
ミディアム
タリッタ
ルイ