第六章89
『シャウラ』
四百年、待ち続けた少女のために、最後の延長戦が戦われる。
🌫️ ボロボロ
――こぼれ落ちて、剥がれ落ちて
ボロボロ、ボロボロ、こぼれ落ちていく。
ボロボロ、ボロボロ、剥がれ落ちていく。
ボロボロ、ボロボロ、色褪せていく。
ボロボロ、ボロボロ、ボロボロして、全てが遠く、煌めいていく。
🏁 全員で
🟠全員で勝てなきゃ、嘘だ
――塔外、押し寄せる無数の魔獣のスタンピード、『魔獣使い』の奮戦で突破。
――二層、ロイ・アルファルドの肉体を奪ったレイド・アストレアの撃破。
――四層、因縁の冒涜者、憎っくき大罪司教ライ・バテンカイトスの撃破。
――一層、まだ見ぬ未知の『試験』、エミリアの敢闘により突破。
「――全員で勝てなきゃ、嘘ってもんだろうが!」
なくしにいくのではなく、失われたものを取り戻しにいくのだと。
きたときよりも、帰りの人数が増えたとしても、それはそれだ。
🌈 虹の騎士
――攻防一体の、超次元
「――往く!」
「――短期決戦」
虹と化したユリウスの斬撃は、極光を纏った魔法剣『アル・クラリスタ』を恒常的に発動しており、受けるという防護すらもまともに取り合わせない。
スバルが十度以上も殺され、エミリアやユリウスの死因にもなったことがある『死』の一刺し――ヘルズ・スナイプ。
それを、ユリウスは剣で弾くのではなく、極光の防御力で受け流す。
つまり、攻防一体、『虹の精霊騎士』とでも呼ぶべき超次元の剣士が生まれていた。
🔥 焦熱の大鋏
――ここにきて、新技を出す
紅蠍はその赤々とした甲殻の輝きをさらに鮮やかなものにして、生じる熱を大鋏から放出、ユリウスへと豪快に叩き付け、虹の騎士を大きく弾き飛ばした。
焦熱の大鋏――スバルが名付けるなら、『ジーザス・シザース・ヘルファイアフォーム』。
殻を破って成長する敵キャラなんてものは、現状は望まれていないのだ。
😵 振り落とされる
――綱引きではなく、振り落とし
「――スバル!!」
「根性――ッ!」
「――ムラク!」
振り回されるのではなく、振り落とされる。
(゚д゚;)
「――ぺっ、ぺっ! クソ、何とかしねぇと!」
(゚д゚;)
「――ぺっ、ぺっ! 勝ち筋を見つけないとダメなのよ!」
🃏 最後の一枚
――手札を、見落とすな
縋りたい可能性は三つ。
ユリウスがさらなる覚醒を遂げ、紅蠍を一蹴して癪だけど勝利。
スバルとベアトリスが新技を完成、それが紅蠍を完封してチームの勝利。
急に空からエミリアが降ってきて、可愛さで世界が平和になってラブ&ピース。
「三個目寄りの一個目に期待したいところだが……」
ならばせめて、持てる手札を見落とさず、ナツキ・スバルを完遂しろ。
そうして、自分の持ち得る手札を探したとき、スバルは気付いた。最後の一枚、まだ使っていない手札を残していたことを。
「――この旅の、全部の力をここで使うぜ!」
🎯 待ち続けた
――スナイパーってのは、孤独なもん
「スナイパーってのは、常に孤独なもんッスからね」
だから、待った。自分も、スナイパーとしての誇りを胸に、待ち続けた。
くる日もくる日も彼方を見据え、塔へやってくる相手を見据え、待ち続けた。
それを煩わしく思ったこともあったが、それがなくては忘れっぽい自分は、すぐに色んなことを忘れてしまったとも思う。
一緒に歩いたこと、喋ったこと、過ごした日々や交わした思いも、何もかも。
(´-`)
「あぁ……それは、嫌ッスねえ」
💗 愛されたい
🌟あーしも、愛されたいッス
待てと言われれば、いつまでだって待つけれど、待たせるからには戻ってきてほしい。
戻ってきてくれさえすれば、いつまでだって待てるから。
「お師様が戻ってきてくれて、嬉しかったッス」
「あーし、幸せ者ッスよ、お師様」
「もう、置き去りは嫌ッスよ、お師様。……あーしも、愛されたいッス」
「あーしを、愛してほしいッス。――お師様」
❤️ 愛の色
――赤は、抑えられない『愛』の色
その鮮やかな赤い色は、シャウラが泣き叫んでいる結果みたいだ。
四百年、自分の感情を閉じ込めて、言いつけを守ってこの塔にこもっていたシャウラという存在が、溢れんばかりの思いを爆発させて、光り輝いている。
赤は情熱、赤は激情、赤は抑えられない『愛』の色。
「――さそり座の女ってのは、愛情深いってのが通説だからな!!」
「それで他の男にいかれると、もやもやするのが男心――っ!!」
(゚д゚#)
「スバルながら、最低な物言いなのよ!」
💪 綱引き
――弱いという認識を、悪用する
スバルたちは弱い。――その認識を、悪用する。
「エル・ヴィータ――!!」
「ぐおおお!!」
重力の影響を軽減するムラクの反対、重力の影響を増大させるヴィータ。
だが、当然、それでもまだ足りない。
「――ここが見せ場だ! やってくれ!!」
🐴 乱入
――仇敵が、助力する
踏みとどまったスバルの前、ぴんと張り詰める鞭を掴んでいたのは、その異形の巨躯で引っ張り合いに乱入した餓馬王だった。
全身に花を纏った熊が、翼を持つモグラが、怪しげな蛇が、参戦する。
仇敵であるはずの魔獣たちが、スバルの戦いに助力していた。
🦂 魔獣の母
――『魔獣使い』では、そぐわない
( ̄ε ̄)
「……ホント、人使いが荒いんだからあ」
「みんな、いらっしゃあい。見てるだけなんて、もったいないわあ」
『魔操の加護』の力を用いて、アウグリア砂丘を占拠する魔獣の群れを意のままに操るその姿は、一介の『魔獣使い』などという肩書きではそぐわない。
それはかつて、南の帝国を荒らした存在、『魔獣の母』の再臨。
🐲 ジャイアン
――最後の協力者は、六層にいた
当然、メィリィの受けたダメージを、スバルが『コル・レオニス』で引き受け、分配したのだ。――スバルの持つ、最後の手札に。
「――巻き添えにしてすまん、ジャイアン! 手伝ってくれ!!」
ものすごい心が痛い決断だが、もっと心が痛いのは、ジャイアンがスバルの『コル・レオニス』による負担の分配の条件を満たしてくれていたこと。
つまり、ベアトリスや他の仲間と同様、ジャイアンもスバルを支えたいと、そう思ってくれていたということになる。
「――そのまま、お前の敗因だ、シャウラ」
⚔️ 決着
――尾を断ち、鋏を落とす
放たれる虹の斬撃が、力比べに拮抗する紅蠍の尾を、根本から断ち切った。
しかし、力比べに負け、尾を斬られ、動揺と焦りのある攻撃は、初代『剣聖』との戦いを乗り越え、壁を破った騎士には通用しない。
「し――っ!」
「――アル・クランヴェル」
纏った虹の鎧を脱ぐ瞬間、爆発的に広がる極光が閉じかけた大鋏を内から爆ぜさせ、根本から吹き飛ばしていた。
❓ あなたはだあれ
――色が、変わっていく
「――ここまでだよ、シャウラ」
「メィリィ」
「……お兄さんたちって、わたしがいなかったらどうしてたのかしらねえ」
「あなたはだあれ? 赤くて怖いサソリさん? それとも……」
「それとも、誰なのかしらあ?」
揺れるそれが、静かにメィリィを見つめ、それから、視線がスバルへと移る。
「シャウラ」
瞳は緑に、甲殻は黒と、徐々に落ち着いていって、やがて。
「――シャウラ!」
🕰️ 覚えてるッスか
🌟あーしとお師様は、似た者同士
「覚えてるッスか、お師様。あーしに、絶対戻ってくるから待ってろって、そう言っていなくなったッスよ」
「覚えてねぇ。つか、知らねぇって言ってるだろ。何べんも言わせるなよ」
「まぁ、仕方ないッス。お師様が忘れっぽいのはあーしに譲られてるッスもん。あーしとお師様は似た者同士ッス」
(゚д゚)
「ゾッとしねぇ! いや、言語センスが近いのは認めるけども」
「俺は辛抱弱いからな。せっかちだし、すぐ結果が欲しくなる。せめて、相手の傍にずっといられたら、我慢しようって気にもなるけど……」
「あ~、そりゃダメダメッスね、お師様。いいッスか? こんな名言があるッス。愛ってのは我慢ッスよ!」
「それ、オシャレは我慢の間違いだろ!? 尽くす女っていうか、貢ぐ女のスローガンっぽいぞ!?」
😢 涙
🟠お前のお師様は、クソ野郎だ
「あれ? お師様、涙目ってか、ちょっと泣いちゃってないッスか?」
(゚﹏゚)
「……お前のお師様は、クソ野郎だ。俺が、この手でぶっ飛ばしてやりてぇよ」
「それ、あーしめちゃめちゃ複雑な気持ちで見てなきゃなんないヤツッス! お師様がお師様をKOって、もうどんな状態なんスか! ……もう」
「……お師様の体液、しょっぱくて甘いッス」
「言い方……」
「言い方なんて、何でも変わったりしないッスよ。あーしの想いは、全身全霊、体で表現してる通りッス。――お師様、愛してるッス」
💗 待ってる時間も
🌟四百年なんて、すぐだったッス
シャウラが折に付け、「愛してる」とそう口にするのは、愛が溢れているから。
四百年間、愛したい、愛されたいと、それを願い続けた彼女の想いが。
「……俺は、お前に愛してるなんて言わないぜ」
「わかってるッス。お師様はいけずだし、照れ屋でシャイッスから。でも、そこも好きッス。ぞっこんッス。オンリーユーッス」
「いつかって……気の長ぇ話だな。四百年待つ気かよ」
「そうッスか? 四百年なんて、すぐだったッスよ」
泣かせないと、そう誓った。今も、それを違えるつもりはない。
だから――泣いてほしかった。泣いて、まだ足りないと、訴えてほしかった。
「四百年なんて、明日の明日みたいなもんだったッス」
(*´ω`*)
「――待ってる時間も、愛してたッスもん」
⏳ 役目
――これは、『死』ではない
「――シャウラ」
ボロボロと、剥がれる甲殻の一部が砂の上で塵に変わる。
それは一部に留まらず、剥がれ落ちる全ての部位に伝搬していく。
「……役目を、果たし終えたかしら」
だが、本能は理解していた。――これは『死』ではない。
これは、彼女が星番としてこのプレアデス監視塔を任され、そして、いずれ迎える今日が訪れたとき、避けられない結末だったのだと。
「だったら……俺たちが……」
「――スバル、わかっているはずだ。その仮定は、彼女への侮辱だと」
「そして、君がすべきは後悔ではない」
🕯️ 見送り
――一番傍で、見送られていく
そして、ずっと一人きりだった彼女を、より強く抱きしめた。
ゆっくりと、一人でなくなって、見送られていく彼女の一番傍で。
遠く、監視塔から誰かが走ってくる淡い気配。それが、塔にいる仲間たちで。
ずっと、一人で過ごした彼女のために、みんなが集まってきていて。
「でも、あーしはお師様が一人いてくれたら十分ッス」
そんな、可愛げのないことを言う姿が目に浮かんで、それがそのまま涙に変わった。
鋭い、何もかもを壊してしまいそうな牙で、この場にいる誰よりも壊れやすいだろうスバルを壊さないよう、愛おしむよう、優しく、優しく。
「シャウラ……シャウラ……シャウラ……」
「お呼びッスか? お師様」
目をつむれば、呼びかけに答える彼女の声が耳に蘇る。
それなのに、もう、彼女はどこにもいなくて。
🌟 約束
――煌めいていく全部に、あなたがいた
「ねえ、お師様。だから、また、いつか――」
「いつかまた、あーしと出会ってほしいッス」
「今度は、お師様があーしを待つ番ッスよ? 追う女より、追われる女ッス」
「――お師様、大事な、大事な、約束ッス」
「今度は、忘れないでくださいッス」
「――お師様、愛してるッス」
🦂 小さな蠍
――四百年でも、色褪せない色
黒い塵が降り積もった砂の大地、そこがわずかに揺れて、何かが這い出す。
それは小さな、掌ほどの大きさの存在。
その、ただの触れ合う仕草が、あの愛嬌の面影を残しているように思えて。
(゚﹏゚)
「お前は、馬鹿だ」
忘れられるものかと、震える声で、スバルはそう呟いた。
それをくすぐったく、こそばゆく思うように受け入れ、小さな、小さな蠍が震えた。
――それは、四百年の時でも色褪せさせられない、『愛』の色をしていた。
第六章89『シャウラ』終了。
スバル
ユリウス
ベアトリス
シャウラ
メィリィ