リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章49

『出来損ないのアナタへ』

隠した死体を片付けに、夜の塔を歩く。石の裏側には、何もなかった。

🌿 癒えていく

――爪痕が、消えていく

スバル

「……わりと、本気で大したもんだったんだな、この部屋」

『せっかくのダイイングメッセージだったのに、お兄さんったらひどいわあ』

『でも、ベアトリスちゃんの察しが悪くて助かったわよねえ。おかげで、動かぬ証拠だった手の傷は消えてくれるんだものお』

この少女の幻影が、スバルの一部による暴走なのか、憑りついた亡霊なのか、わからない。

わかっているのは、この少女の言葉に耳を傾けてはならない、それだけであった。

😴 眠り姫

――誘惑が、囁かれる

『――今なら、ベアトリスちゃんが傍にいないでしょお? 邪魔する人がいないんだから、あの寝てる子だけでも始末しちゃったらあ?』

スバル

「……レム」

意識のない少女、その名前を口にしてみても、スバルの内に感慨は生まれない。

ただ、名前を知っているだけの、言葉を交わした記憶すら有さない少女だ。

――それ以上を、知りたい。

『手段はあるじゃない。あとは、やるかやらないかだあけ』

スバル

「……馬鹿か俺は。いや、馬鹿だ俺は」

殺すのは、過程だ。スバルが欲するのは、彼女たちの本心という結果。

その結果を危うくしてまで、過程の遂行に急ぐなどと本末転倒もいいところだ。

🔢 順番

――順番を、数える

スバル

「ユリウス、エミリア、シャウラ、ラム、エキドナ、ベアトリス、レム……」

『死者の書』計画の遂行に邪魔になるのは、この順番でいいはずだ。

この順番で削る算段がつかない限り、焦って行動しても絶対にうまくいかない。

『そうじゃないと、殺し損になっちゃうもんねえ。こわあい』

スバルは、エミリアたちを殺したいわけではないのだ。

それでももし、殺さなければならないとしたら、そんな機会は一度で済ませたい。

👁️ 見張り

パトラッシュの目が、光っている

憔悴したスバルへ向けられる視線は、心なしか憂いと心配を孕んだもののように思える。

ベアトリスが「スバルのことをよく見ててほしいのよ」と言い残していったのが効いている。

その目が光っている限り、眠る少女への狼藉を働くようなことはできない。

ただ、あれほど唯一無二の親愛を感じたはずのパトラッシュにも。

『死者の書』を見たスバルは、素直な信頼を向けることができなくなりつつあった。

スバル

「……これも、お前の狙い通りなのかよ、『ナツキ・スバル』」

✍️ 返礼

――右腕にも、刻む

自分ではない自分の、おぞましい犯行の爪痕は消えても構わない。

だが、自分ではない自分の存在を示唆するメッセージ、これだけは消させない。

スバル

「こっちの、メッセージもそうだ」

左腕の傷を抉り、今度は右腕にも、同じようにスバルは爪を立てる。

それはスバルが自ら、左腕のメッセージへの返礼のように刻んだ傷。

――『お前はなんなんだ』と、ナツキ・スバルの抱く本気の問いかけが、傷として。

そんなスバルの自傷行為を、パトラッシュが痛ましげに見つめていることに気付けない。

完璧に隠せたと考えている殺害が、杜撰な後始末の上に成り立っていることにも。

🍽️ 見つからなかった

――死体は、発見されなかった

幸いにも、メィリィ・ポートルートの死体はどこにも『見つからなかった』。

人海戦術というには心もとない人数だが、割ける人員を全て動員した結果の空振りだ。

ラム

「この塔にきてから、空振りが続くわね」

スバル

「……思ってても言わなかったことをはっきりと」

エミリア

「一応、レイドにも話を聞きにいってみたんだけど、見てないって言ってたわ。昨日から誰もこなくて退屈だって……嘘じゃないと思うの」

ベアトリス

「あの傍若無人な男でも、あの年代の娘を傷付けるとは考えにくい……と、言い切れないのが怖いところかしら」

⏹️ 打ち切り

🧣エキドナが、捜索の打ち切りを提案する

🧣 エキドナ

「――一ついいかな? 冷酷と、そう罵られることを覚悟で提案したい」

🧣 エキドナ

「あの少女、メィリィの捜索だが……今日を区切りに打ち切って、明日からはまた塔の攻略のために行動すべきだとボクは考える。どうだろうか?」

エミリア

(#゚д゚)

「――っ! そんなのダメよ! メィリィが、どんな気持ちでいるかわからないのに」

🧣 エキドナ

「すでに、彼女には考える頭も、感じる気持ちも残されていない。それは、ナツキくんの確認した『死者の書』が証明している。ボクは、これ以上の捜索に反対だ」

ベアトリス

「お前の言い分は一見、筋が通って聞こえるのよ。ただ、ずいぶんと急な話にも聞こえるかしら。どうして、メィリィの捜索を切り上げたがるのよ?」

🕯️ 削れている

ユリウスが、事情を明かす

ユリウス

「言い争いはそこまでにするべきだ。……ただ、誤解しないでいただきたい。彼女も、何の意味もなく、合理性だけを理由にそうした提案をしたわけではない」

ユリウス

「現在、アナスタシア様の御体は精霊であるエキドナの依り代とされている。それ以外にも問題が。――エキドナは、アナスタシア様のオドを消費して活動しているのです」

エミリア

「オド、って……じゃあ、ずっとそれを削って? アナスタシアさんが起きてこられなくなってから、ずっとそのまま?」

ベアトリス

「……なるほど。塔の攻略と、『賢者』の知恵の拝借に急ぐわけかしら」

🧣 エキドナ

「できるなら一秒でも早く、アナに体を返してあげたいのさ」

🏺 器

――外身だけ、借りても

🧣 エキドナ

「本来、あるべき器にはあるべき存在が収まっているべきなのさ。外身だけ借りても、中身が伴わなければボロが出る。不自然になる。――それは、ひどくおぞましいことだ」

スバル

「――ッ!」

我が身を呪うように続けられたエキドナの発言。

それはあろうことか、話に耳を傾けていただけのスバルの心を痛撃していった。

外身だけ借りて、中身が伴わなければ。

――それが、恐ろしく重く心を射貫く。

⚖️ 何が大事か

エミリアが、決める

エミリア

「メィリィのことは、すごく心配。だけど、エキドナの考えもわかるの。だから、明日からはまた、ちゃんと塔の上にいくためにできることをしましょう」

ラム

「それで、塔の攻略が疎かになっては本末転倒ですよ、エミリア様」

エミリア

「わかってる。――何が大事か、その時々、自分で考えないと」

エミリア

「スバルも、それでいい?」

スバル

「そ、れは、いいと思う。……でもなくて、なんで俺に確認を?」

エミリア

「だって、スバルはメィリィの本を読んだでしょう? あの、読んですぐの反応を見たら……メィリィのこと、一番心配なのはスバルのはずだから」

スバル

「――心配はしてるよ。でも、メィリィも、俺たちが足踏みするのを望まないと思う」

たぶん、世界で一番、上滑りする言葉を発するためだけに。

🤫 内緒

――深夜、動き出す

『それで、今夜は青い髪のお姉さんの首はお預けなのよねえ?』

スバル

「今はまだ、この子の順番じゃない」

わずかに瞳を開けたパトラッシュと目が合ったが、唇に指を立てて切り抜けた。

夜半にスバルが動き出した理由――それは、仲間の命を奪うため、ではない。

それは最後の手段、手を選べなくなったときまで取っておくべき、人倫に背く行いだ。

『――わたしの死体、どうにかしてくれるのお?』

🏰 土台

――安心が、必要だった

たまたま見つからなかった。それに救われた。

だが、たまたま見つからなかったものが、たまたま見つかっても不思議はない。

少なくとも、エミリアはメィリィの捜索を諦めていないはずだ。

安心がなければ、そこに土台を築くことができない。

土台が築かれていなければ、その上に未来という城の基礎は組めない。

基礎が組めなければ、未来は完成しない。

ナツキ・スバルの安息のために、メィリィ・ポートルートの存在は邪魔なのだ。

🕳️ 何もない

――石の裏側に、何もない

薄暗い部屋の奥、四角い石の塊が鎮座しており、その裏側に亡骸が隠してある。

そこに、約半日ぶりのメィリィの亡骸が――。

スバル

「――は?」

目の前の光景に、頭が理解を放棄した。

石塊の裏側には、何もない。

スバル

「なん、で……ここに、確かに……」

部屋を間違えたはずもない。ここへきて、そんな凡ミスなどしていない。

――メィリィ・ポートルートの亡骸は、どこに消えたのだ。

🌸 出来損ない

――背後に、ラムが立っていた

ラム

「――こんな夜更けにこそこそと、探し物でもしているの、バルス」

スバル

(゚д゚;)

「――っ!?」

長くしていない桃色の髪、鋭く理性的な薄紅の瞳。

凛々しくも可憐な顔立ちが冷然とこちらを見据え、その立ち姿には壮烈な華があった。

「それとも偽物というべきかしら。バルスの――ナツキ・スバルの出来損ない」

第六章49『出来損ないのアナタへ』終了。