リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章74

『イドラ・ミサンガ』

何度死んでも届かない。――そして、正直なだけの男が選択を迫られる。

👣 破滅の足音

――助けられない命がこぼれ落ちるのが、最も恐れていたことだった

――助けられない命がこぼれ落ちるのが、最も恐れていたことだった。

スバルが『死』を迎え、通り過ぎてしまうことで、確定する現実。

その、逃れられない誰かの『死』が、ひたひたと近付いてくることが、最も。

スバル

(╬゚Д゚)

「ああああああ――っ!!」

袖を掴んだのはタンザで、丸い瞳を涙目にした彼女が必死に首を横に振る。

――これも、見た。もう見た。見て、見てしまって、見知ったモノで。

スバル

(´;ω;`)

「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だぁぁぁ――!!」

スバル

「まだ――」

トッド

(・_・)

「思ったより脆いな」

重く硬い音と共に視界が大回転する。高々と上がった視界に、不格好に走る体が見える。

――前のめりに倒れるそれが、頭のない自分の体だとわかる。

😱 引き返せない

――もう絶対に死んではいけない

リスタート地点が、ヒアインと執務室に隠れている最中まで後ろ倒された。

――あの瞬間から、スバルの心には破滅が盛大に嗤っている声が聞こえていた。

アラキア

「びしゅ――」

気の抜ける声と共にグスタフの頭が吹き飛んだとき、スバルは知った。

――もう絶対に死んではいけない。

誰かの『死』が確定したら、それはもう、スバルが殺したのと同じだ。

救えない世界の確定は、ナツキ・スバルがしでかした殺人だった。

このまま永遠に死ななければ、誰も死なせずに済むなんて、幻想が。

――無様に死んだスバルの命が、それが幻想に過ぎなかったと証明してしまった。

🖤 死にたくなかったら

最初からこうすればよかった、と悔やむ

トッド

「実際のところ、どうなんだ? お前さん、本当に皇帝閣下の子どもなのか?」

スバル

(╬¬_¬)

「……人の言葉を先読みするなよ」

スバル「死にたくなかったら、動くな」

スバル

( •̀_•́ )

「これ、だろ、呪則に必要なのは。死にたくないなら……」

トッド

( ゚д゚ )

「――。お前さん、そいつは」

スバル

(╬゚Д゚)

「――俺が! 今! 話してるだろうが!!」

トッド

(´ー`)

「やれやれ、わかったわかった」

あっさりと指示に従うトッドを見て、スバルは愕然とする。

トッド

「おかしな奴だな。お前さんがこうしろって言ったんじゃないか」

スバル

(×Д×)

「そ、れは……こんな、簡単な、ことで……」

皇帝の隠し子がどうという話じゃなく、最初から呪具を盾にすればよかったのだ。

――怯えて焦って、安易な選択肢に飛びついたせいで、全部台無しにした。

❌ 見抜かれた

使い方を知っているか、と逆に聞かれる

トッド

(・∀・)

「時にお前さん、それの使い方知ってるのか?」

スバル

( ゚д゚ )

「え……?」

わかりやすいスイッチも、持つだけで伝わってくる仕組みも、なくて。

トッド

「――だろうな」

トッド「知ってりゃやらんだろ、これで脅しなんて」

両手を上げたまま、振り上げた足でスバルの手を蹴飛ばした。

黒い球が真上に跳ね上がる。それを思わず目で追って、また馬鹿な真似をした。

――上を向くということは、相手に首を差し出すのと同じことなのだから。

――トッド・ファングを止める方法なんて、思いつかないのだと。

🌾 家訓

――正直に商売し、広く信頼と信用を集めるように努力すること

帝国の北西部にある小さな農村。ミサンガ家が代々、粉挽屋を続けていた土地。

村の川沿いの水車、その管理を領主から任され、村の製粉の一切を取り仕切っていた。

だが、家業を鼻にかけて暮らしてはいなかった。

不作の折には税を村人に代わって負担し、本来は村の長がするべき役割を代行した。

――正直に商売し、広く信頼と信用を集めるように努力すること。

水車での製粉には、集まった穀物を懐に入れる者も多い。世間の目は厳しい。

だからこそ、謙虚な姿勢が大事なのだと、父から強く言われてきた。

――決して豊かさを独占しないで、周囲と苦楽を分かち合う。

🍺 憧れ

――自らの力と信義を重んじて、決して卑しい在り方を選ばない戦士の生き方を

「真っ当で、いい暮らしじゃないか。羨ましいよ」

手にした大剣を振るって各地の戦場を旅する傭兵業だと、男は身分を明かした。

碌に外の世界を知らなかったイドラにとって、男の語った世界は驚きに満ちていた。

危険で残酷で、しかし同時に忘れられない熱が満ちているものであると。

――自らの力と信義を重んじて、決して卑しい在り方を選ばない戦士の生き方を。

「イドラ、お前の従姉妹がいるだろ。実は、彼女が気になっててな……」

何の躊躇いもなく従姉妹を紹介し、婚姻の夜には新たな家族の誕生を酒で祝った。

――男が従姉妹と共謀し、家業を奪ったのは、それからひと月後だ。

🕳️ どうして

正直に生きても、報われる日は来なかった

粉挽きを細工し、成果を偽ってきたと嘘をつかれた。村の意見は真っ二つに割れた。

決着がつく前に父は病死し、心労が祟った母もそのあとを追うように亡くなった。

イドラ

( •̀_•́ )

「もう、我慢の限界だ。私は、何としても自分の家を守る……!」

正しく権利を取り戻すため、裁判を申し込もうと村の人間に立ち合いを頼んだ。

――これまでの正直な商売が培った信頼が、正義を行うと信じた。

イドラ「――どうして、なんだ」

約束の場には誰も現れず、逆に家からは武装蜂起の準備が見つかった。

村人たちは正直なイドラよりも、嘘つきだが利益を寄越す男を選んだ。

――勝ち目は、一欠片もなかった。

「――戦士になりたかったんだろ、イドラ! だったら今だ! 今がそのときなんだよ!」

――正直に生きたって、報われる日なんて、こないはずだろう。

⚖️ 選択の、時

――それで、いったい何が、救われるのだ

目の前でヴァイツを殺され、勇敢なタンザが通路の外に投げ落とされる。

――それを目にしながら、イドラはただ硬直して何もできなかった。

その臆病が理由で、二人よりも自分が長生きできたというなら、皮肉すぎる。

何もできなくて、何かできた二人を見殺しにした。

あの男がシュバルツに注目している今なら、死んだと思って見逃されるのでは。

――このまま、自分だけでも、助かることが。

選択の、時だった。イドラ・ミサンガが、何を犠牲に、何を得るのか。

正直であれば信頼されると馬鹿正直に信じて、全部失った男は――

トッド

「――せーのっ」

――それで、いったい何が、救われるのだ。

🗣️ 叫び

外れた肩が入り、傍に斧が転がっている

イドラ

(>﹏<)

「い、やああああ――っ!!」

トッド

「生きてるのは知ってた」

背中越しに振り上げた斧が落ち、抜かれたナイフの一閃で右手が肘から吹っ飛ぶ。

――重労働なんて知らない、なまっちろい細腕が、飛んだ。

イドラ「――連れていけえええ!!」

舌打ちして振り向く男が、ナイフを投げる。

それは背後、シュバルツを担いで逃げる、蠢く風景を狙って投じられたもの。

――息を潜めて隠れていたヒアインが、シュバルツを担いで逃げ出した。

倒れた衝撃で外れた肩が入り、左腕が動くようになった。

そしてその傍に、男が落とした斧が転がっていた奇跡が連続する。

🌾 粉挽屋の倅

嘘つきにならずに済んで、よかったと思う

トッド

「逃げたと思わなかったのか?」

イドラ

(・・・・・・)

「いいや、逃げたと思っていた。だが、こうも信じていた」

イドラ

「奴が、逃げないでいてくれたらいいと」

そんなヒアインが逃げないでいてくれたらいいと、馬鹿正直に信じただけ。

――やっぱり、人間簡単には変われなかった。

自分が戦士だなどと言い張った嘘も、すぐバレた。

正直に、広く信用と信頼を。たとえ、善人ぶっていると笑われたとしても。

――イドラ・ミサンガは、戦士にも、詐欺師にも、なれない。

イドラ「私はイドラ・ミサンガ! 粉挽屋の倅だ!!」

トッド

(¬_¬)

「知らんよ」

――あの日、シュバルツのおかげで、嘘つきにならずに済んで、よかったと思った。

🐢 届かない

いつ刺されたのか、わからないまま倒れる

周囲の風景を片っ端から擬態して、何が正解なのかもわからなくなった状態。

そんな体が、不意に力を失って前のめりに倒れる。

背中の真ん中に、大振りのナイフが深々と突き刺さっている。

――いつ、刺されたのかわからない。

ヒアイン

(×Д×)

「おか、しいよ、なぁ……」

ヒアイン

「い、のちってのは……花みてえに、綺麗なやつから、摘むって、昔、聞いて……」

スバル

(´;ω;`)

「しゃ、喋るなよ……今、いくから、今すぐ……っ」

ヒアイン

「だったら、俺みてえな、根性の汚ぇ奴が、先に死ぬって、おかし……ぁ」

ヒアイン

「でも……」

ヒアイン「……俺が先で、マシ、かぁ」

亀が這うよりも遅い速さで、ありんこよりも小さい動きで、這う。

――ようやく届いたときには、ヒアインの色が、元の灰色に戻っていた。

もしかしたら、死にながら走っていたのかもしれない。そうに違いない。

全部を救えなかったから、全部を殺したのと同じで。

⚡ 青き雷光

左半身を黒焦げにしたまま、屈託なく笑う

セシルス

(・∀・)

「――おや、そこで唸ってるのってもしかしてバッスーですか?」

セシルス

「いやはや、こんな場面で出くわすとは奇遇ですねえ」

セシルス

(≧▽≦)

「なかなか賑々しい事態になりましたが、盛り上がってます?」

声がした後ろを振り向けない。何とか体を起こして、全身の力を使って――

セシルス

「わざわざ命懸けで振り向かずとも結構ですよ」

セシルス「だって、無理のしどころってここじゃないでしょう?」

自分から前に回り込んできて、セシルスがスバルの顔を覗き込んで言った。

――体の左半身を黒焦げにされながら、屈託なく笑う『青き雷光』が。

第七章74『イドラ・ミサンガ』終了。