第七章71
『水』
総督の執務室に忍び込む。帝都からの使者が、何を持ってきたのかを知るために。
✅ 正解を引いた
あの反応が、図星だったことを示している
図星を突かれたからこそ、トッドはあの一瞬でスバルを殺すと決断した。
死にかけの子どもではなく、今すぐ殺すべき危険だと判断したから。
(・_・)
「ただ、なんで呪則なんだ?」
「――俺が挑発したとき、グスタフさんは呪則を使いたくても使えなかった」
「だけど、島のみんなが殺されるときは、使える条件を満たしてた?」
「……グスタフさんは敵、か」
敵はトッドとアラキア、そこにグスタフを加えた三人。
セシルスが敵ではないと確信できたのは収穫だったが、喜んでもいられない。
――あの呪則は、セシルスさえも命を奪う脅威だったのだから。
⏱️ 十数秒
――跳ね橋が動き出すまでの猶予が、前回より短かった
(;゚Д゚)
「シュバルツ……っ」
「この揺れは……」
――跳ね橋が動き出すまでの猶予が、前回の『死』のやり直しより短かった。
らしくないリスタート地点に加え、今回はわずかな時間のズレが発生した。
今回は十数秒だったが、これがもっと短くならない保証はない。
死ぬまでの時間が一秒以下になったり、そもそも『死に戻り』ができなくなれば。
――それでも、目をつむり、耳を塞いではいけないのだ。
🤫 擬態
初めて、擬態が見抜かれずに済む
(´・ω・`)
「お、おい、シュバルツ……本気で、ここに居座んのかよ?」
(>﹏<)
「ビビっちゃいねえよ! ビビっちゃ、いねえが……っ」
起こる出来事を素直に話せば、協力してくれる道がなくなるのは間違いない。
――だからスバルは、嘘の理由でヒアインを協力させた。
(╬゚д゚)
「クソ、帝都の使いが興行の話を持ってくるだと……? ふざけやがって……!」
ヴァイツに竜車の足止めを頼み、その間にグスタフの執務室へ侵入。
――ヒアインの擬態は、心身の状態よりも「動かずにいられる度胸」に左右される。
じっとその場にとどまる根性があれば、景色に同化した彼はほとんど透明人間だ。
『見つからなければ、俺たちが何かされる心配はない。それに――』
『そ、それに……?』
『――俺がついてる』
――だから、今回のヒアインの擬態は『初めて』見抜かれなかった。
🚪 入室
視線が書棚から外れて、息をつく
「――入ってくれ。話を聞かせていただこう」
「アラキア一将、それと……」
「トッド」
(・∀・)
「総督なんて立場のわりに、ずいぶんと質素な部屋だ」
――周りを見渡さないでほしかった。部屋の片隅にある書棚、その方向なんて特に。
「アラキア一将の傍付きですよ。『将』は人の選り好みが激しくて」
(・・・・・・)
「少数、精鋭」
「精鋭なんて、畏れ多い評価ですよ」
視線が書棚から外れ、スバルは内心で大きな、大きなため息をついた。
✉️ 帝都の宰相
運ばれてきた書状の、差出人
宰相――アベルを帝都から追い出した主犯格の一人。
その手紙を運んだのは、悪魔人間のトッド。悪い予感しかしない。
「グスタフ・モレロ上級伯、あなたがこの島に総督として赴任したのは……」
「その認識に相違ない」
「剣奴孤島の管理者なんて嫌われ仕事、英雄『八つ腕』のクルガンの血縁者には相応しくないとは?」
――グスタフが怒るのは、自分のことを言われるよりも。
(╬゚Д゚)
「――その言いよう、我らが皇帝閣下の御判断を疑うのか?」
スッとトッドの横にアラキアが並び立つ。それだけで、忠義を力で押し潰す光景。
(´ー`)
「今のは俺の言葉が過ぎたんだ。総督の怒りは正当だよ」
(・_・)
「……でも、あなたは死なせない。友達の、敵討ちがある。でしょ?」
「――。ああ、もちろんそうだ。俺は今、そのために生きてる」
🗑️ 内患
数百人の処分が、淡泊に切り出される
手紙に目を走らせたグスタフが、その岩みたいな顔面に小さな皺を刻んだ。
――まるでゴミの日のゴミ捨てについて話し合うみたいな淡泊さで、数百人の処分を。
寝耳に水を喰らったヒアインが悲鳴を上げなかったのは奇跡だった。
正しくは、唖然としすぎて理解ができなかったというべきだけれど。
「内患の恐れ、とは」
「宰相はそれをグスタフ総督が囲っているとは考えてない。総督の忠誠心は本物だ」
「無用な死の危険を減らし、戦い方の基礎を覚えさせ……剣奴の質は向上する」
剣奴をただの見せ物にするのではなく、鍛え、育て上げ、眼鏡に適うようにと。
そこに柔らかい情は含まれない。ただ、総督という立場の人間としての決断がある。
(・・・・・・)
「話、終わる?」
「処分に都合のいい呪則の話は聞いてる」
「『九神将』のグルービー・ガムレット一将から渡された呪具があるらしいじゃないか」
「可能だ」
🛑 断る
発動されれば全滅する。動くしかない
「パパっと済ませて、一緒に帝都に引き上げよう」
呪則を発動されれば全滅する。それを阻止するには、ここで動く以外にない。
――でも、どう動けばいいのか。ノープランで姿を現せば、即座に殺される。
(¬_¬)
「……なに?」
ドロッと、部屋の中の空気が粘性を増したようにスバルは感じる。
腹を立てたときとは、根本的に温度感が異なっている変化。色が違う雰囲気だ。
「命令書の内容と、こっちの認識に齟齬は?」
「ない。宰相殿の名前と、押印も過たず」
(╬¬_¬)
「だったら、どういうお気持ちの表明なんだ?」
📜 布石
最初に受けた命令が、盾になる
「本職は、皇帝閣下より命じられた。心身共に鍛えられた剣奴の養成に励むよう」
「宰相殿の押印は、皇帝閣下の御心の反映だ。……話にならないんだが?」
( •̀_•́ )
「皇帝閣下より、直々に命令を賜っている」
「この島の総督として就任した際のことだ」
この状況に置かれることを見越した言葉。予知めいた先読みがなくては成立しない命令。
――ヴォラキア皇帝、ヴィンセント。違う。アベルによる、未来への布石だ。
「過去の皇帝閣下の命令があるから、今の皇帝閣下の命令は聞けない、と?」
「仔細を知る必要はないとも仰られた。本職も同感だ」
「知識の有無に拘らず、本職の果たすべき役割に変わりはない」
その視線は、どう説得しようかと考えている顔ではなかった。
――聞く耳を持たない頑固者を、言葉を尽くして説得する理由など彼にはない。
💧 びしゅ――
説得する理由など、この男にはない
致命的な状況が訪れる前にと、グスタフが机の四方を掴んで持ち上げる。
百キロ近い重さがありそうな机が、軽々と――
「びしゅ――」
気の抜ける掛け声。枝の先から噴出するすごい勢いの水。
――岩みたいな顔面を丸ごと吹き飛ばして、その命を亡き者へと変えていた。
広がる鮮血が、嘘みたいにあっさりとしたグスタフの死を主張して思えた。
「多腕族なんて、腕が何本あっても同じだな。どうせなら頭を増やしてこい」
( ゚д゚ )
「違う。でも、驚いてる。……ただの水で、こんなに威力が」
「大勢を広く狙うなら火の方がいいが、相手が一人なら断然水だよ」
「次はコップ一杯分でいいから、相手の頭の中に水を出してやれ」
⚫ 呪具
魚を捌くみたいな手筋で、背中を開く
机の上の死体の後ろに回り、その分厚い背中を縦に切り開く。
――まるで、魚を捌くみたいな容赦のない手筋だ。
あくまでトッドの暴力は、敵や危険を排除する目的に一直線だとばかり思っていた。
こんな風に死体を壊す趣味があったなら、これまでのスバルの死体も――
「――あった」
「呪具だよ、呪具。この手の奴は、どうせ体に埋め込んでると思ったんだ」
ゴルフボールぐらいの大きさの、黒い球体。
(¬_¬)
「怪物相手に、勝負になると思ってるのがおかしい」
アラキアのことを差しているのだろう。――でも、そうは思えてならなかった。
居合わせたスバルには、その『怪物』とはトッドのことに思えてならなかった。
🏃 部屋ごと吹っ飛ばせ
呪具が机に置かれた、その一瞬
「アラキア、水をくれ。血を洗い流してから、島の奴らを――」
一度、手の中の呪具を執務机に置いて、トッドがアラキアの方を。
――本能的に、ここしかないと判断した。
ヒアインの擬態が極まった仕事をした。周到なトッドも、怪物級のアラキアも気付かないほどに。
(>﹏<)
「ヒアイン!」
ただし、視線は全く別の方向――執務室の入口だ。
「――ッ、アラキア!」
扉側からのとんでもない攻撃に備え、二人が身構える。
「――ハッタリか!」
が、その一秒があってくれれば、スバルの方は目的を果たせる。
(╬゚д゚)
「うおおおああ!」
腰に組み付いたヒアインが抱きかかえ、突っ込むのは入口の反対――窓だ。
「びしゃ――」
凄まじい水の圧力が剣奴孤島の上層を吹き飛ばし、書棚も調度品も薙ぎ払った。
🧐 なんだ、あのガキ
壁伝いに、白い布が結ばれている
「いない」
壊れた執務室の外を覗けば、見下ろせる壁伝いに白い布が結ばれている。
――それを掴んで手を滑らせれば、下に降りられるように。
「アラキア、呪具を取り返してきてくれ。殺していい」
「わかった。トッドは?」
「俺のやろうとしてることは、知らなくても大丈夫だ」
小細工なしに、数十メートルの高さを何の助けもなく落ちていくアラキア。
それを見送って、トッドは嘆息すると――
(¬_¬)
「……嫌な臭いのするガキだったな」
第七章71『水』終了。
「トッドのあの反応……呪則が、答えだ」
ヴァイツ
ヒアイン
グスタフ
アラキア