リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章23

『楽士ナツミ・シュバルツ』

旅芸人の一座として、正門をくぐる。ナツキ・スバルではなく、ナツミ・シュバルツとして。

🪞 粗末な鏡の中

イメージするのは、常に最も美しい自分

濃い目のアイシャドウ。

丁寧にカールさせた睫毛。

白粉で整えた肌の質感。

唇に、瑞々しく見せる朱色。

衣装が難題だった。

ひらひらした布を多めに纏い、体格を誤魔化す。

貴族の令嬢ではなく、旅芸人。

だから外見は、もっと『女性』を押し出していかなくては合わない。

エミリアエミリア。

ラムラム。

レムレム。

ベアトリスベアトリス。

プリシラプリシラ。

アナスタシアアナスタシア。

これまでの出会いから、『美』のイマジネーションをかき集める。

――イメージするのは、常に最も美しい自分だ。

👏 破裂音

扉を開けると、沈黙が張り詰めた

扉を押し開く。

沈黙が生まれ、空気が張り詰めた。

それが如何なる感情による沈黙なのか、とっさの不安が理解を拒む。

だが、破裂音がした。

手と手が合わさる音。

祝福と、感服と、尊敬の入り混じった拍手だった。

ミゼルダ

「――見事ダ」

まだ不完全だった。

軽く喉に手をやり、小さく空気をそこで弾ませる。

歯車が噛み合ったところで、微笑む。

ナツミ

「ミゼルダさん」

ミゼルダ

( ゚д゚ )

「――っ、まさカ、声まデ? いったイ、いったイ、どこまデ……!」

スバル「――ナツミ・シュバルツ、再臨ですわ」

クーナ

(・・・・・・)

「なんだこレ」

ホーリィ

「なノー」

🧊 絶対零度

同じ言葉が、二度目に飛んでくる

ナツミ

「そんなわけで、ナツミ・シュバルツ爆誕ですの」

レム

(╬¬_¬)

「ふざけてるんですか?」

ナツミ

「え!?」

レム

「化粧やかつらは、よくできていると思います」

レム

「ただ、いつまでも女性のような話し方をする必要はないはずです」

ナツミ

「気持ちが大事でしょう? 常日頃から気を付けていないと、どこでボロが出るかわかったものではありませんもの」

ナツミ

「それに、自分が男であることに甘えていると、美の女神にそっぽ向かれ……痛い痛い痛い!」

かなり強く、耳を引っ張られた。

ナツミ

(´;ω;`)

「ミゼルダ姉様、レムさんが怖いですわ……」

ミゼルダ

「うム、泣くナ、ナツミ。……不思議ト、スバルとわかっていても可愛く見えル。タリッタも見習エ」

タリッタ

(>﹏<)

「姉上!?」

🕰️ 全員の時が止まる

ビアンカ、完成

ビアンカ

「――揃っているようだな」

瞬間、全員の時が止まった。

――否、現れた人影と、それに化粧を施した本人以外の時が。

鴉の濡れ羽色の黒髪。

切れ長の瞳。

露わになった、白い肌。

極限の美貌を再現した、最高のジョーカーの手札。

レム

( ゚д゚ )

「あ、アベルさん、ですか?」

ビアンカ

「他に誰がいる。たわけた問いを投げかけるな」

ナツミ

「微調整は任せましたけれど……嫌味なぐらい、お上手ですのね」

ビアンカ

「粉飾の手際を称賛されて嬉しいものか。とはいえ、貴様の技能には目を見張った」

ナツミ

(╬゚д゚)

「くっ、勝者の余裕……!」

🐯 論理の暴力

女装に抵抗がないのは、初めてではないから

ナツミ

「化粧に抵抗感がなかったのも、わたくし的には意外でしたけれど……」

ビアンカ

「なんだ、婦女子を装うのを恥辱と思うとでも? 言っておくが、こうしたことは初めてではない」

ビアンカ

「俺の立場を思えば、身を守る術は広く持ち合わせておくものだ」

皇帝の座に収まる前。

次代の座を巡った、暗殺合戦の日々。

自らの姿を偽り、時には性別さえも誤魔化して行動した。

犠牲を厭わぬ姿勢は、幼い日々からの積み重ねで形作られたものらしい。

ナツミ

「それでも、自分が美人だと自覚があるのはなんだか腹が立ちますわ……!」

ビアンカ

「広く自国を見渡さなければならぬ立場で、自分自身さえ客観視できなくてどうして頂が務まる」

アベル「虎が何故強いのかわかるか。虎は強いから強いのだ」

ナツミ

(´;ω;`)

「手間暇の、手間暇のかけ方が違いますのよ……神の贔屓……!」

📜 古事記に倣って

『クマソタケル作戦』

『女好き』、帝国二将ズィクル・オスマンを狙い撃ちにする作戦名だ。

誰からも異論はなかった。

実働班は五名。

スバルナツミ。

アベルビアンカ。

フロップフローラ。

タリッタタリッタ。

クーナクーナ。

残りの『シュドラクの民』は別動隊。

レムレムとルイルイ、ミディアムミディアムもこちらだ。

いざとなれば壁を攻撃し、陽動を引き受けてもらう。

ただしそれは、計画が失敗した場合の保険にすぎない。

🚪 最初の山場

検問を、正面から抜ける

🛡️ 衛兵

「――次、お前たちは?」

ナツミ

「わたくしたちは、旅芸人の一座でございます。北から流れ、この都市へ参りました」

見覚えのある衛兵だった。

前回、正門を担当していた一人だ。

つまり、最初の関門としてこれ以上ないほどうってつけの相手。

ナツミ

「……もしかして、この都市でも何か不安がおありですの?」

🛡️ 衛兵

「実は、今この街には帝国軍が駐留してるんだが、東の部族と揉めてるらしいんだ」

🛡️ 衛兵

「連中は夜の見回りなんて称して、街の酒場を自分たちで占拠しちまう。やってられねえよ」

衛兵と兵士は、そもそも所属が違う。

衛兵はこの街に帰属し、兵士は帝国に属する。

顎で使われる謂れはないわけだ。

😢 古い、古い話

作り話の被害を語ると、門が開く

ナツミ

「以前、帝国兵の方々に無理やり捕まって檻に入れられたり、奴隷のように扱われたことが」

ナツミ

「わざと足をかけて転ばされたり、ひどいときには刃物で脅されて……」

🛡️ 衛兵

(╬゚Д゚)

「ゆ、許せねえな……!」

――どれも、嘘ではない。

ナツミ

「もし、わたくしを哀れに思ってくださるなら、ぜひとも中へ入れてくださいな」

ナツミ

「この、帝国兵の方々が殺伐とさせた空気、一新してみせますわ」

ナツミ

「一番の見物は、なんといっても一座の華、舞姫の舞でしてよ」

ヴェールの向こうからの眼差しを浴びて、衛兵が硬直する。

全てが露わになっていないにも拘らず、彼の喉は凍りついていた。

🛡️ 衛兵

「入っていいぞ」

🎻 寄ってらっしゃい

フローラの演奏で、人が集まる

ナツミ

「さあさ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

ナツミ

「はるか東の大瀑布、大水の彼方より、時を超え、世界を跨いで受け継がれし、歌と舞!」

軽やかな音が結び付いて、音楽となる。

🛡️ 通行人

「お、何が始まった?」

🛡️ 通行人

「へえ、こりゃ別嬪揃いじゃないか……」

フロップフローラの腕前は、思った以上に達者だった。

タリッタタリッタとクーナクーナは打楽器。

何より、勝算は真ん中に控えている。

💃 薄絹を脱いで

――俺を見ろ

ヴェールを手で持ち上げ、顔貌が露わになる。

聞き惚れていた人々の視線がそちらへ向く。

殴られたような衝撃が、彼らを突き抜けた。

ナツミ

「まったく、悔しいこと」

ナツミ

「さあ、出番ですわよ、ビアンカ――!」

ただ腕を上げただけの一動作。

にも拘わらず、存在の奥底から滲み出る品があった。

それは空気に溶け出し、一瞬で大通りを支配する。

一瞬たりとも目を離してはならない。

本能に訴えかける、美の慟哭。

――俺を見ろ、と。

五分足らずの舞が終わる。

割れるような拍手と歓声が、大通りを包み込んだ。

勝ち誇った笑みに、何一つ反論が浮かばなかった。

🏨 三日が経過

潜入から三日、興行は十回を数える

潜入から三日。

合計十回の興行。

それなり以上の反響。

ナツミ

「聞いておりますの、そこの二人! 気を抜いてはいけませんわよ」

クーナ

(¬_¬)

「たるんでねーとは言わねーけド、逆にアンタはなんなんだヨ……」

タリッタ

「どうしてナツミハ、誰も見てないところでも自分を偽っているのカ、私やクーナにはわかりませン」

ナツミ

「神は細部に宿ると申しまして、一見無駄にも思える細かな拘りこそが、それにリアリティというものをもたらすのです」

フローラ

(・∀・)

「手を抜かない姿勢が大事、そういう話なわけだね。僕も大いに勉強になるよ!」

🌙 寝ているところを見たことがない

この男が眠るところを、誰も見ていない

ビアンカ

「――無駄話とは、ずいぶんと余裕のあることよな」

気丈として見せまいとしているが、横顔には微かな疲れの色。

常に敵陣の中で気を張っているのだ。

ナツミ

「ビアンカ、あなたこそ少しは休んだらどうですの?」

ナツミ

「今さらですけれど、わたくし、あなたが寝ているところを見たことがありませんわ」

フローラ

( ゚д゚ )

「あれ? あれれ? 言われてみると、僕もビアンカ嬢が寝ているところを見た覚えが?」

瞬きすら、両目同時にすることをしない。

ナツミ

「疲れませんの? その生き方」

ビアンカ

「――。それを貴様が言うのか?」

アベル「両の目を閉じるということは、生殺与奪の権利を相手に委ねるということだ」

ビアンカ

「それを刹那でも許すほど、俺は俺を軽く見ていない」

🚪 遠慮のない足音

待っていた誘いが、向こうからやってくる

ジャマル

「旅の一座がいるのはここか。開けろ。都市庁舎の使いだ」

ナツミ

(>﹏<)

「あ、ちょっ、ちょっと待ってくださいまし!」

ジャマル

「はっ、笑わせるな、待つかよ。こっちは兵隊様だぞ」

首を掴まれる。

へし折る目的ではなく、あくまで言葉を封じるためのソフトタッチ。

それでも、隔絶した力の差を感じさせられる。

ジャマル

「お前、反抗的でいい目してるな。目つきが悪いのもいい。オレ好みだ」

ナツミ

(;゚Д゚)

「お、褒めに与り、光栄、です、わね……っ」

強い風が吹き込み、黒髪が頬をくすぐる。

窓辺に佇む舞姫を見て、ジャマルは驚くべきことに口笛を吹いた。

ジャマル

「ははぁ、こいつが噂の舞姫か。道理で、絶対に引っ張ってこいってわけだ」

そして、皇帝の顎を掴んだまま振り向く。

ジャマル「てめえら揃って、都市庁舎の酒宴に呼んでやる。ズィクル・オスマン二将がそれをご所望だ」

――かかった。

😤 見られながらの支度

着替えも荷造りも、見張られたまま進める

着替えも荷造りも、堂々と見られながら進めなくてはならない。

その屈辱は、そうそう拭えるものではない。

フローラ

「了解した! さあさ、みんな準備をしよう!」

ナツミ

「フローラ……」

フロップ「君らしくもないな、ナツミ嬢! 君には、血も涙も似合わないよ」

沸々とした怒りが、その一言に霧散する。

あえて付け加えられた言葉は、『無血開城』を思い出させるためのものだった。

ナツミ

「ほら、ビアンカと二人もご準備を! 特に、ビアンカは踊り以外は何にもできないポンコツなんですから!」

フローラ

(>﹏<)

「いや! あえてお尻は振らなくていいんじゃないかな、ナツミ嬢!」

🪓 絶対に見たくない顔

手洗いから出たところで、鉢合わせる

都市庁舎の廊下。

手洗いから出ると、見張りが誰かと話していた。

トッド

「――へえ、お前さんが夜の余興に呼ばれた踊り子か」

心臓が、凍り付いた。

トッド

「うん? どうした。そんな驚いた顔して。おいおい、取って喰いやしないぞ」

ほんの少し前に、宿で聞いたのと同じ冗談。

だが、聞き流せない。

本当に取って喰う気がないのかと、問い返したくなるから。

トッド

「お前さん、本気でどうした? どこかで俺と……」

気分が悪くて、と言い訳したい。

だが、嘘は見抜かれる。

『死に戻り』を利用しようとしただけで、この男はナイフを突き立ててきた。

嘘は、避けなくてはならない。

ナツミ

(;゚Д゚)

「少し、その、怖くて……」

トッド

「怖い? 俺が?」

ナツミ

「あなたも、です。少し強引に連れてこられたものですから」

――嘘ではない。この男が怖いのは事実だ。

トッド

「あ、ジャマルか。だったら納得だ。そりゃ、怖がらせて悪かったな、お前さん」

トッド

「ああ見えて、あいつは俺の義理の兄貴になるんだ。全く似てない、天使みたいな妹が俺の婚約者でね」

美を追求した日々は、無駄ではなかった。

🪤 外との連絡

連絡がつかないと思っていたが、済んでいた

外と連絡をつける隙がなかった。

作戦の成否に拘らず、別動隊と連携できなくては話にならない。

――だが、それはすでに済んでいた。

タリッタ

(´・ω・`)

「ナツミが見張りを連れ出したあト、残りの見張りを惹きつけておくから仕事を済ませろト、そうビアンカに言われテ」

ナツミ

( ゚д゚ )

「な、な、な……」

ビアンカ

「貴様に伝えて不自然に動かれるより、天然の囮として使ったまでだ」

ビアンカ

「幸い、適度に仕事を果たしたと見える。褒めて遣わす」

ナツミ

(╬゚Д゚)

「うるさいですわよ! こっちが、こっちがどんな怖い目に……!」

フローラ

「お、落ち着くんだ、ナツミ嬢! ほら、可愛い顔が台無しだよ!」

ナツミ

「あなた、絶対に終わったら殴りますわよ……!」

ビアンカ

「終わったあとのことを考えているとは、ずいぶんと余裕があるようで結構だ」

この傲慢な舞姫に見惚れないものなど、大罪司教でもない限り存在しない。

第七章23『楽士ナツミ・シュバルツ』終了。