第七章68
『剣狼のお導き』
総督の執務室で、スバルは島の秩序そのものに賭けを仕掛ける。
🏢 質素な一室
豪華な扉の向こうは、拍子抜けするほど質素だった
看守に先導され、連れてこられたのはギヌンハイブの最上層。
豪華な扉の向こうにあったのは、シンプルに質素な一室だった。
仕事用の机、仕事用の書棚、仕事用の用具入れ。
――遊びのない性格がよく出ていて、逆に安心する。
(;´Д`)
「切りのいいところまでと言われても、椅子もねぇ」
😤 見にいってなかった
ひらひらと、余計な同行者が現れる
見つけたというか、ひらひらとふやけた顔で手を振ってくる異物感。
(・∀・)
「どもども、バッスー、お疲れ様でしたね」
ある意味、スバルの『スパルカ』参加は偽セシルスに焚き付けられた結果だ。
(¬_¬)
「セッシーを見返したい気持ちが強めにあったのは間違いねぇんだな、これが」
「だったらごめんなさいでした」
(#゚Д゚)
「お、お前、この野郎……っ」
(´ー`)
「だって見なくても結果はわかってましたし?」
「バッスーが完封してはいおしまいってなものでしょう」
🚪 追い出せない
四本の腕の主が、眉間を揉んで耐えている
机を叩く重々しい音。手紙を読み終えたグスタフだった。
組んだ二本の腕に顎を乗せ、残りの二本を机についている。
「四本全部の手を組んだら、顎乗せるには大きすぎるかな?」
(╬¬_¬)
「君たちには神妙にするという配慮はないのか?」
――「「言われなかったし……」」
「加えて言えば、本職はセグムントに入室を許可した覚えはない」
「僕がいたいときにいたい場所にいるという方針だからですよ」
島の管理者は目をつむり、眉間を揉みながら葛藤に耐えていた。
――誰もセッシーを止められない。それは、別の大きな矛盾を生む。
⚠️ 二度と口にするな
懲罰を悪用した件への、警告が下る
「無論、懲罰を悪用した一件の警告だ」
(・_・)
「……回りくどくなってない?」
「君は本職の前で剣奴孤島の秩序をびん乱する恐れのある発言をした」
「警告を無視し、故に懲罰を与えるに至った。自覚はあるな?」
(・・・・・・)
「……うん、あるよ」
表情も、目つきも、声の調子も変わらない。それでも圧倒的な威圧感があった。
怒りでも苛立ちでもない。――めちゃめちゃ強い、使命感。
「グスタフさんは、その皇帝閣下に恩でもあるの?」
「皇帝閣下と個人的な関わりはない。職務に励むのは本職の立場上、当然のことだろう」
🙅 絶対にノゥ
誓ってもらおう、という要求を蹴る
「改めて誓ってもらおう。皇帝閣下の御意思に背く行いは慎むと」
( •̀_•́ )
「ノゥは、断るって意味だよ。悪いけど、グスタフさんの言うことは聞けない」
「俺はどんな馬鹿な真似をしても、ここから出てくってもう決めてるんだ」
厳つい顔の凄みを、表情も目の色も変えないままぐつぐつと燃やすグスタフ。
――まるで、噴火のときを待つマグマみたいに。
(≧∇≦)
「あっははははははは! 絶対にノゥ! 絶対にノゥだそうです!」
(≧▽≦)
「どれだけ怖いもの知らずですか嫌いじゃないです、むしろ好き」
「そうか。俺はセッシーのこと薄気味悪いガキだと思ってる」
🎲 賭け
処罰するのか、と自分から差し出す
「警告と懲罰の先の、俺を処罰する? グスタフさん」
「最悪の場合、本職は本職に与えられた権限に従い、そうせざるを得ない」
眉間に皺を寄せるのでも、眉間を揉むのでもなく、グスタフは頬を硬くした。
――考え込むんじゃない。嫌なところを突かれた人の反応だ。
「俺を見せしめにしたって全然いいはずだ。やったらいい。でも」
「グスタフさんはやらない。――いや、できないと俺は思ってる」
🔍 二重のセーフティー
抑止力を、この人は使えないと踏んでいる
剣奴の命を握る『呪則』。総督の意のままに、命が奪われる仕組み。
――その抑止力を、グスタフは使えないとスバルは考えていた。
「グスタフさんがくる前の剣奴孤島は無法地帯で、もっと人が死んでたって」
「でも、グスタフさんがきてから死人が減ったんだ」
「管理者として当然の職務だ。他の要因で落命するのは極力避けなければならない」
「『スパルカ』で死人が出るのを許容してるのは、剣奴の質を保つためと……安心」
「安心、とは?」
「筋は通って聞こえる。だが、君の希望的観測というものだ」
「もう一個、根拠はある。……反抗的で調子に乗ってるセッシーだ」
( ゚д゚ )
「え、僕ですか?」
「なのに、セッシーは無事だ」
「慧眼だ。本職はセグムントに好感を抱いていない」
(;´Д`)
「あれあれあれ? もしかしてこれ僕が嫌われ者って話してますか?」
⛓️ 存在しない鎖
根負けした側が、命だけは奪わなかった
「呪則で、罰を与える? ……グスタフさん、どうする?」
――剣奴の命を握っている、『呪則』なんてものは存在しない。
『スパルカ』を乗り越えれば、剣奴は自分の境遇に甘えて暴れない。
定期的な『スパルカ』で気を引き締めれば、懲罰の先に進む者はいなくなる。
二重のセーフティーで、存在しない鎖が剣奴の足を繋ぎ止めている。
呪則の存在を疑われれば、グスタフの敷いたルールは全部ひっくり返る。
――防ぐためには、絶対にスバルを呪則で罰しなくてはいけないはずだった。
――そう、根負けしたようにグスタフは、スバルの命を奪わなかった。
🎭 気分次第
敵なのか味方なのか、を本人に聞く
「まさしく完勝という流れでしょうが、どんな気分でいるんです、バッスー?」
「なんていうか、セッシーって俺の敵なの? 味方なの?」
「僕がいなければバッスーたちが死んでいたかもなことを思えば……」
「そうだね。で、敵なの? 味方なの?」
「俺がどっちって言っても、セッシーはそのときそのときの気分で決めるでしょ」
「大正解。ちなみに現時点では味方寄りと言っておきますよ」
「とはいえ、僕の気分は僕ですら信用置けないので十分注意してください」
「エミリアーゼとベアトロミン不足がそろそろ致死量に達しそう」
――スバルの体の半分は、大事な人への想いでできている。
そう考えながら、舌で奥歯の裏側を撫でた。
🤐 妙な静けさ
大広間に降りた途端、全員が静まり返る
降りてきた大広間には、これまで見た中で一番大勢の剣奴の姿があった。
――そして、二人が入ってきた途端に静まり返る。
彼らが見ているのは偽セシルスではなく、スバルの方だった。
「グスタフさんになんで呼ばれたか気になったんだよな。心配かけてごめん」
(・・・・・・)
「いえ、それはどうでもよいのですが」
(゚д゚)
「どうでもいい!?」
「シュバルツ様、お聞きしたいことがあります。答えてくださいますか?」
「――シュバルツ様の、お父様のことを」
👨 憧れ
父の話をすると長い、と前置きする
「言っておくけど、俺が父さんの話をすると、長いぜ?」
「手短にお願いします」
(>﹏<)
「聞いといて条件付けんだ!?」
「めちゃめちゃカッコいいし、すげぇたくさんの人から慕われてる」
「いつもみんなの中心にいる。天性のリーダー気質って感じで、すごい」
( ゚д゚ )
「――! いつも、大勢の方の中心に……」
「時間があれば俺に構ってくれて、色んなことを教えてくれるんだ」
頭の中に浮かんでくる父と、そんな父を愛する母の顔。
――痛むほどに大事な両親が、今のスバルの芯を支える柱になっている。
❓ 名乗れない
名前を答えようとして、躊躇う
「お父様の、お名前は」
普通に答えようとして、躊躇う。剣奴孤島では『ナツキ・シュバルツ』だ。
家名と名前の組み合わせがあべこべになってしまう。
その瞬間、タンザの表情が目に見えて硬くなった。
「どうやら、笑い話じゃないらしい……」
「そんなことがあるのか? いやだが、私たちを導いたあの行動は」
「だ、だから言っただろうが! どうだ、これでも俺がおかしいか?」
大広間の剣奴たちが一斉に騒ぎ始める。――意味が、全然わからない。
🐺 剣狼のお導き
何者だろうと構わない、と言ってもらえる
「わ、私も同意見だ。というより、合点がいった」
「より一層、貴様……シュバルツ、君と協力していこうという心持ちだ」
(≧▽≦)
「おお、おお、そうだそうだ! 何が問題だ、てめえら!」
「こいつは俺たちと同じ剣奴で、俺の兄弟分よ!」
「――だな! 大したガキだぜ、シュバルツ!」
「お前は只者じゃねえと思ってた! じゃなきゃ説明がつかねえ!」
「おお、我らが奉じる剣狼のお導きよ! 今日の施しと巡り合わせに感謝を!」
黙り込んでいた剣奴たちの歓声が爆発した。
「今回も功労者はてめえなんだ、きっちり騒いどけ、兄弟!」
(;´Д`)
「ヒアイン、お前超現金だな!?」
「今日は本当にありがとう、シュバルツ。――君がいてくれて、よかった」
「俺の方こそ、助かってくれてありがとよ」
🌀 辛抱が切れかねない
これまでのどの笑みよりも、不気味に見えた
「――お嬢さんは一緒に騒がれないんですか?」
「……複雑な立場なのです」
ヒアインからもたらされた、あの黒髪の少年の驚きの素性。
そして、そんな相手に対するタンザの複雑な気持ち。
「ヨルナ様……」
「――私は、シュバルツ様を頼る以外に手段がない」
本当に信じていいのか、という疑問が撤廃され、それだけは真となった。
「いやはや、バッスーも罪な男ですね! さてはてしかし」
――これまでのどんな笑みよりも、不気味に見えて。
第七章68『剣狼のお導き』終了。

スバル
セッシー
「シュバルツ様、戻られるのをお待ちしていました」
イドラ
ヒアイン