第七章75
『I know』
ナツキ・スバルの権能だけじゃ、足りない。――だから、名前を呼んだ。
🙃 いい死に方
まともな人間は、もう全員死んでしまった
今、この島で生き残っているのは全員、異常な奴ばかりだ。
――まともな人間は、きっともう全員死んでしまったのだ。
(・_・)
「そこで蜥蜴人さんも死んでますし、この分だと他の『合』のご友人も全滅でしょうか」
「おや、もしかしてまだ彼が死んだの認めてませんでした?」
「死んでますよ、完膚なきまでに。……ただ、悪くない死に顔ですね」
(´;ω;`)
「し、んでる、のに……っ」
「いい生き方があるならいい死に方だってある」
🎭 信義
なぜ楽しそうなのか、と感情任せに問う
(╬゚д゚)
「なんで、楽しそう、なんだよ……」
「ああ、それは因果が逆ですよ」
(・∀・)
「楽しいから笑っているんじゃなくて、笑うから楽しくなっていくんです」
炭になった皮膚が剥がれ落ちるが、想像を絶するだろう痛みの中でも笑みは崩れない。
「この世界の花形役者たれば! 脚本を僕の側に寄り添わせましょう」
「――天上の観覧者に、いつ如何なるときを見られようと恥じることがないように」
「さあ、バッスー、あなたはどんな信義を掲げますか?」
理解できるものではなかったが、感情任せに足蹴にすることが躊躇われた。
――観覧者。誰か、あるいは何か、この世非ざるモノが見ていると言いたげに。
🔥 置いてけぼり
無感情な顔が、複雑な感情に歪む
「おっと、休憩おしまいみたいですね」
手の木の枝は折れ、片目を覆った眼帯はなくなっている。
無感情なことが多い顔を、とても複雑な感情で歪めながら。
「もしかしなくとも、僕とあなたには何かしら関係があったのでは?」
(╬゚Д゚)
「ふざけて……」
「姫様も、閣下も、隠してる……わたしは、いつも……」
「置いてけぼりで辛い思いをしてると?」
「本気でどうぞ。――あなたはいつも、目玉焼きを半分しか焼かない」
(・∀・)
「あれ? 今なんか出ましたね?」
反射的に口をついて出た一声。――それはますます彼女の怒りを買う結果になった。
🏃 言い訳できない
――戦略的撤退でも、勇気ある逃亡でもない。ただ、逃げていた
「では、またの此岸で」
――戦略的撤退でも、勇気ある逃亡でもない。ただ、逃げていた。
『スパルカ』を二回乗り切ったとき、あらゆる困難を乗り越えてやれるつもりだった。
――とんだ勘違いに、思い上がりだ。
死んでも、やり直すチャンスがあったからうまくいっていただけ。
本当にできる人間なら、一度も死なないで全部うまくやれるはずなのだ。
――それこそ、あの恐ろしい存在、トッド・ファングのように。
(´;ω;`)
「ちくしょう……っ」
💧 折れた角
ボロボロの姿で、こちらの無事を喜ぶ
足を引きずる彼女は全身ずぶ濡れで、キモノを脱ぎ捨てた白い襦袢姿。
頭に生えた二本の角の片方は折れ、ボロボロの有様でいる。
――なのに。
辛い、苦しい、助けてと、泣き喚いて大人に縋り付いて当たり前の姿。
なのにタンザはスバルを見つけて、「よかった」と目尻を下げた。
――こんな、何もできない、ナツキ・スバルを見つけて。
足の力が抜けて、スバルはその場にへたり込む。
――ただ、自分に、愛想が尽きてしまった。
痛みでも、恐怖でもなかった。かけられた期待に、願いに、応えられないこと。
それこそが、ナツキ・スバルを最も絶望させる、猛毒となった。
🫥 嘘っぱち
三人とも庇って死んだ、と打ち明ける
「二人とも、死んだ……イドラも、ヒアインも、俺を庇って……」
ヴァイツも、イドラも、ヒアインも、三人ともスバルを庇って死んでしまった。
――この、剣奴孤島の大惨事は全部、ナツキ・スバルのせいだった。
(>﹏<)
「それでは、『合』の皆様は何のために命を落とされたんです!」
「……全部、嘘なんだ、タンザ」
「俺は、立派で、すげぇ格好いい父さんの子どもだけど……皇帝の、子どもじゃない」
「……シュバルツ様」
「早く、ここから動きましょう。私が、背負いますから」
(╬゚д゚)
「聞いて、なかったのか……俺は!」
「皇帝閣下の、御落胤ではないとお聞きしました。それについては、あとで……」
🤝 寄り添う
本当にそう思うのか、と問い返される
「――シュバルツ様、本当にそう思うのですか?」
「皆様がお守りしたのが、全部自分のついた嘘が理由だと、本気で?」
( •̀_•́ )
「臆病で、卑怯で、嘘つきのあの方たちが、忠誠心や愛国心で、命を賭すと?」
臆病で、自分可愛さに逃げ出そうとしたヒアイン。
卑怯にも、周りを出し抜いて生き残ろうと足掻いたヴァイツ。
嘘をついて、自分を大きく見せることでみんなを操ろうとしたイドラ。
――それなのに、三人は最後には命懸けで、スバルを庇った。守った。逃がした。
「なん、で……?」
「そんなの、当たり前だ。何にも、特別なことなんて、してない」
「私も、ヨルナ様に救っていただきました。寄り添っていただきました」
「ただ、それだけで命を懸ける意味がある。……そう、思わされることも、あるのです」
✊ 俺が嫌なんだ
三人のことを、思っている以上に知っている
あの三人のことを、たぶん、スバルはあの三人が思っている以上に知っている。
ヒアインの自分嫌いも、ヴァイツの冤罪も、イドラの転落も、知っている。
――チャンスが、あの三人にもあるべきだと思った。
「みんな、助けたかった」
「救われていました。シュバルツ様を、命懸けで守ろうとするほどに」
「違う、違うよ。そうじゃなくて……」
心だけ助けて、それでやり切ったなんて、思えない。全部、救いたいのだ。
スバルの味方を、よくしてくれる人を、みんなを、心も体も救いたい。
認めない。認めたくない。誰も救えない、そんな決着に膝を折りたくない。
🏠 うちに帰りたい
勝ち負けなんてどうでもいい、と返される
「勝ち負けなんて、どうでもいいんだが」
バンダナが外れ、橙色の髪を下ろした姿。――バンダナを奪ったのは、イドラだ。
倒せたわけでも、傷を負わせたわけでもない。それでも、彼は警戒している。
「あなたの……あなたの望みは、なんなのですか?」
「――? うちに帰りたいだけだが?」
悪ふざけの断片も見せず、淡々と。――そしてたぶん、それは嘘でも何でもなくて。
「お前は、何でも一人で全部こなそうとしてるんだな」
「――。何でもは無理だ。自分の能力くらい弁えてる」
「アラキアと、仲間と一緒にきたのに、それも全然信用してない」
強弱に拘らず、アラキアをどうでもいいと思っている。身の回りの全部を。
「俺の負けは、俺だけの負けじゃない」
「タンザの、ヒアインの、ヴァイツの、イドラの、『合』のみんなの、負けになる」
🗝️ 見失われている
口にすれば必ず降りかかる、はずの災い
「……なに?」
口にすれば必ず降りかかるはずの災い。時の止まった世界と、耐え難い痛み。
――それが訪れない。何故か。『魔女』が、スバルを見失っている。
紅瑠璃城の天守閣、剣奴孤島の『スパルカ』、大虐殺――あらゆる場面の不具合。
解き放たれた魔獣がスバルに殺到しなかった時点で、確信できたことだった。
(╬゚Д゚)
「俺は、『死に戻り』をしてる! 『死に戻り』だ! わかるか、『死に戻り』だ!」
本命はトッドでも、この島にいる他の誰でもなかった。
――セシルスが意識する観覧者と同じように、スバルを見ているはずのものがいる。
俺は、ここにいる。俺を、見つけてくれ。
虫のいい話なのはわかってる。でも、みんなを助けたいんだ。
(・・・・・・)
「……俺を、見つけてくれ、サテラ」
🖤 愛してる
『――愛してる』
『――愛してる』
世界が、不意に色を失った。耳鳴りが彼方に消える。手足が動かない。
――漆黒の影で編まれたドレスを纏った愛しい『魔女』が、目の前に現れる。
黒い魔手が頬を撫でて、首筋を滑り、鎖骨をなぞって、約束の地に辿り着く。
指が子どもの胸板をすり抜けて、命の機関を柔らかく包む。
囁かれる無数の愛の言霊も、この先に待ち受ける苦しみも、全部が待ち遠しかった。
――おぞましく世界を埋め尽くす言霊さえも、ナツキ・スバルを壊せない。
👊 次は頭を
島中の魔獣が、一斉に吠え出す
剣奴孤島で生き残っている魔獣が、示し合わせたみたいに一斉に吠える。
――それも、尋常じゃない勢いで興奮して、正気を失ったような剣幕で。
「なんだ……!?」
タンザの投げた石を左腕で受け、被害を最小限に食い止めるトッド。
右手の斧がタンザの小さい体を薙ぎ払おうとして――それはスバルがさせなかった。
「シュバルツ様!?」
硬い音と重たい衝撃。トッドの体が宙を舞った。
「ごほっ……今、のは……っ」
( •̀_•́ )
「次は、頭を吹き飛ばしてやる」
じっと見据えたまま、トッドはゆっくり後ずさり、黒煙の中へ消えた。
――形勢不利と見た途端、未練も何もかも投げ捨てて、逃げを選んだのだ。
🤲 次だ
痛みも関係ないところまで、命が遠ざかる
トッドの最後の斧の一撃が、スバルの右肩を砕いて、突き刺さっている。
痛みも何も関係ないところまで、スバルの命が遠ざかってしまっている。
「これ、を……」
「――っ、呪具?」
「セッシー、が……あっち、で、アラキアと……」
「わ、わかりました……! わかって、わかっています、から……」
順番が、あべこべだ。タンザが、先によくしてくれた。
――最後の最後まで諦めなくていいのだと、思い出させてくれた。
「はい、そうです、シュバルツ様。次こそはきっと、負けません」
噛み合って、いない。でも、その互いを救いたいという想いは噛み合っている。
「――俺が、みんなを」
🌑 わかってる
祈りの届かない最果てで、訪れを待つ
闇しか存在せず、光の差し込まない空間。祈りや願いの届かない最果て。
――でも、このとき、この瞬間は、訪れを待っていたように思う。
『――愛してる』
「――全部じゃない。でも、わかってる」
一人でやり遂げられることなんて、そう多くない。
そこまで大それた人間じゃない。だから、間違いもするし、覚悟も捻じ曲がる。
『――愛してる』
(´ー`)
「ありがとう。――いってくる」
――あらゆる命が潰える絶水の地へ、ナツキ・スバルは再臨する。
🔄 止まれ
島が見えている。それでも、止まれと言う
「島、見えてる。準備いい?」
「誰とも揉める必要のない、楽な仕事だよ」
呪則の発動条件は単純明快――決められた距離、呪具から離れた者は死ぬ。
跳ね橋を渡られても脱走は阻止できる。中に閉じ込めておくための抑止力。
「まぁ、そのときは全滅させるつもりで、呪具を湖に投げ込めばいいだけだが」
「――トッド、なんだか変」
「――止まれ! 今すぐだ! 止まれ! 反転しろ!」
「アラキア、島を警戒していろ! 動きがあったら構わず撃て!」
「――準備万端でお待ちかねとは、相手は相当ヤバいのが率いてるぞ」
「勝てない? わたしがいても」
🏳️ 殿下
勅命が成就するときだ、と告げられる
「……引き返すとは思ったけど、損切りの判断が早すぎるだろ」
「そう、ですか。……『弐』を相手せずに済んで、ホッといたしました」
彼女の頭の角は二本とも健在で、幼子の玉の肌にも目立った傷は皆無。
――全く何の問題もなく、すくすくと元気で健気なパーフェクトタンザだ。
「いえ、その、どうして私の頭を撫でていらっしゃるのかと……」
(´・ω・`)
「あ、ごめんごめん、つい」
(>﹏<)
「――って、いつまでやってやがんだ! ガキ同士でいちゃついてる場合か!?」
「言い方と間の悪さというものだろうな」
「お前よりはマシだ……。少しは配慮しろ、トカゲ野郎……」
「帝都の使いを追っ払ったんだ……。これでオレたちに退路はない。そうだな……?」
「――。ちょっと違うけど、それも正解」
三人は――違う、みんなも、何も知らないが、それで大丈夫だ。
――ちゃんと、スバルが全部覚えている。
「――どうやら、裁定は下ったようだ」
「これで、俺を信じてくれる?」
「否やはない。皇帝閣下が本職に下した勅命、その成就のときだ」
🎩 ボス
脅しなんかなくても一緒にいく、と言われる
「妙な脅しなんぞなくても、俺たちゃシュバルツと一緒にいくぜ」
「なぁ、そうだろ、てめえら! ビビっちゃいねえよなぁ!?」
「――笑わせんな、トカゲ野郎!」
「おお、おお、いこうぜ、我らが帝国皇子殿下!」
「いけ好かない親父をぶっちめて、おれたちの帝国を建国だぁ――!!」
「で、俺たちはいくけど、セッシーはどうする?」
(´・ω・`)
「でもですねあれですよ。――僕、口説かれてないんですが?」
グスタフも、『合』の三人も、オーソンたちもヌル爺さんも口説いたのに、セシルスはスルーした。
「――セッシーの、その顔が見たかったんだよ」
「今ならこき使ってやるけど、一緒にくる?」
(≧▽≦)
「は、ははは、ははははは! あーっはっはっはっは!!」
「もちろんご一緒しましょう!」
「そのバッスーって呼び方、全然ピンとこないんだよな」
「――ボス」
「意味は全くわからんちんですが、嫌いじゃないです、むしろ好き」
「頭目って意味だよ。ちょうどいいだろ?」
( •̀_•́ )
「――いくぜ、みんな! 帝都にいる、クソ親父の横っ面をぶん殴る!!」
「「おお――!!」」
「安心しろ、タンザ」
( •̀_•́ )
「――今度は、俺たちが勝つ」
――異世界召喚されて以来、最強の存在としてヴォラキア帝国を蹂躙する。
第七章75『I know』終了。
セシルス
スバル
アラキア
「シュバルツ様、よく、ご無事で……」
トッド
ヒアイン
イドラ
ヴァイツ
グスタフ