第六章71
『カウント・ワン』
何が起きるのかを、先回りして見にいく。数え始めるための一回目。
🎯 織り込み済み
――予期された、死だった
皮肉と言えば皮肉な話で、今回の『死』は織り込み済みの『死』だった。
無論、自死を選んだことが、本気でシャウラの救いになったなどとは思わない。
だから、あれはあくまでスバルの自己満足でしかない。
「――だからどうした」
この世の行いは結局、最終的にどう受け止めるかは自分の秤しか持てない。
為されない善行に意味はなく、偽善なんて言葉は究極的には存在しない。
🎖️ 全員生存
――全員を、愛すると決める
――全員、生存。
シャウラとの対話を経て、スバルが掲げる最終目標はそれと決まった。
ただ、そこにシャウラを含めるかどうかの審判が確定し、スバルは全員を愛すると決めた。
誰一人、欠けずにこの砂の塔を取り巻く事変を解決へ導く。
「俺が、俺である意味。――そうだろ、『ナツキ・スバル』」
🏃 砂粒
――砂粒には、砂粒の意地がある
「――スバル、さっきの話は確かなのか?」
「ああ、ここまできて疑ってくれんなよ。せっかく、俺がひでぇ目に遭ってまで回収してきた情報だ。これが活かせないと俺が浮かばれねぇ!」
「この状況でなければ安静にすることを勧めるところだが、生憎とてんてこ舞いでね。今は使えるものなら砂粒でも使わなくてはならない」
「言うに事欠いて砂粒扱いかよ……でも、砂粒には砂粒の意地がある」
「それに、その砂粒にはベティーがついてるかしら。つまり、最高に可愛いお供付きの砂粒なのよ」
「なんか、お前の靴の中に入ってる砂っぽいな」
「そういう意味じゃないかしら!」
👑 持ち越す
――権能も、持ち越せた
「ああ、しつこい。安心しろとは口が裂けても言えねぇが……レイドの奴と、『暴食』が接触するのは絶対だ。それを、食い止めにいく」
「……いずれにせよ、この混乱の最中に彼が乱入してくることは避けたい。彼の動向を確かめるだけでも、足を運ぶ価値は十分にある」
「スバル、やっぱり具合が悪そうなのよ。本の影響が出ているかしら」
「読書疲れで知恵熱ってんじゃない。それに、ユリウスにも言った通りだ。今は寝込んでる場合じゃない。――みんな、力を合わせるときだ」
収穫だったのは、『死に戻り』を跨いだあとも、『コル・レオニス』の存在が継続してくれたこと。
「必ず、助けてやる」
🩸 管を巻く
――出くわした場面が、違う
「――スバル、つくぞ!」
その存在価値の全てを、『試験』に割り切った二層『エレクトラ』への到達だ。
「――オイ、オメエ、こンなもンかよ、オメエ。冗談じゃねえぞ、オメエ。オレを楽しませにきたンじゃねえのかよ、オメエ。足りねえよ、オメエ。笑わせンな、オメエ」
その片足を掴まれ、容赦なく床に叩き付けられる少年に、『剣聖』レイド・アストレアが延々と管を巻いている場面に出くわした。
🤔 交渉?
――これが、交渉か
「レイドと『暴食』が交渉してた、って聞いてたんだが……」
「交渉……これが、かしら? ベティーには、交戦でもまだ手ぬるい表現に思えるのよ」
「ああ、同感だ。これを話し合いとは呼びづらい」
それこそ『暴食』の本領を発揮した、あらゆる絶技のデパートとばかりの大盤振る舞いだったに違いない。
――その技のデパートが、レイドという天災に木端微塵に砕かれただけで。
「地震、雷、火事、全部レイドかよ……」
⚔️ 覚悟
――剣士の、覚悟の話
「見りゃわかンだろ。万全でも遊び相手にならねえ奴が、不全どころか穴ぼこだらけじゃねえか。そンなンでオレの前に立つンじゃねえよ。指一本で殺したくなンだろうが」
「レイド・アストレア、あなたにも剣士としての矜持はあるだろう。ならば、そんな少年を必要以上に痛めつける理由は……」
「オイ、オメエ、馬鹿言ってンなよ」
「剣士の矜持だぁ? ご大層にそンなもン広げンなら、それこそ剣士の覚悟ってもンがあンだろうが。死ぬ覚悟もなしにケンカすンのかよ」
⚜️ 綺麗事
⚜️私の信じる、騎士の在り方だ
「大体、オメエよ。こいつはオメエのお友達かよ」
「いいや、断じて否だ。その、『暴食』の大罪司教は私にとっても仇敵であり、最悪、戦いの果てに互いの命を奪い合うことさえあるだろう相手だ」
「へえ? なら、なンでそう怒ってンだ? 獲物が横取りされたからかよ?」
「――あなたが、剣士の誇りを足蹴にするからだ」
「しかし、それはあくまで戦いの果て、その死力を尽くした果ての落命であるべきだ。断じて、勝者が敗者の命を弄ぶなどあってはならない」
「……耳が痒くなること言いやがる。そンな話、どこの誰が聞くンだよ」
「青臭い理想と、綺麗事と言われても構いはしない! だが、その理想と、綺麗事を体現するのが、私の信じる騎士の在り方だ」
🌋 噴火
――静かな声が、合図になる
「――騎士の在り方、ね」
それは、さしたる感情を孕んだように聞こえなかった。
――だが、それは、初代『剣聖』レイド・アストレアの噴火の合図だった。
「オメエ、面白えこと言ってたな。オレを喰らい尽くして、味わい尽くして、舐り尽くすって言ってたか。――それを、させてやるよ」
「――。ぎひ、かは、あはははッ! なんだそれッ! 何それ何それ、急になんだよッ! どうして急に、そんな気になったのさ、赤毛のお兄さん!」
「気が変わったンだよ。――あぁ、そうだそうだ。どうせすぐ、オメエらみてえなのが邪魔するだろうがよ」
💢 鈍器
――人を、鈍器にして殴る
「――っ! スバル、マズいかし……」
「おらよ」
人間を軽々と鈍器のように扱い、止めようのない威力がベアトリスを抱くスバルを容赦なく吹き飛ばした。
「躊躇なくてよかったぜ、オメエら。ケンカって意味じゃ、そっちの美人よりよっぽどマシだ。ま、実力が欠片も伴っちゃいねえがな」
「スバル! ベアトリス様! く……っ」
🍽️ 喰らう
――そのまま、喰わせる
「そら、試してみろ。オレを食い荒らせるか、このままオレに遊ばれて死ぬか、どっちにしろ、欲しけりゃ動くしかねえ。それが人生ってもンだろ、オメエよ」
「――あァ、ああ、ああッ! わかった、わかったよ、わかったさ、わかったとも、わかったから、わかってるから! 暴飲ッ! 暴食ッ! アンタの、お望み通りにしてやるさッ! 喰らわずには、いられないッ」
「――レイド・アストレア」
そのまま、見えない何かを咀嚼し、貪るように啜る音が鳴り響いた。
😋 食レポ
――予想以上、だったらしい
それはまるで幻か何かだったかのように、レイドの姿が瞬く間に消失する。
「あァ、すっごいなァ。あんな味が、こんな味が、どんな味がするのか、たくさんたくさんたっくさん想像してたけど……予想以上だったッ!」
「レイドを、喰った……?」
「あァ、見てたろッ!? 喰ったとも! 喰ってやったとも! いいなァ、最高だなァ、これが想像だにしない味わいッ! 『悪食』なんて言われてる僕たちでも――」
考えうる限り、人類史上最悪の食レポ――それが、中途で止まった。
邪魔が入ったわけではない。原因は、『暴食』自身にある。
🔄 選手交代
――口調から、変わっていく
「――んあ? あ、あ、あー、あー、ああああー?」
「い、いったい、今度は何を始めたのよ……」
「ま、ま、まー、待って、ひへ、ぎひ、ぎひひッ。おかし、おかしいって、おかしいじゃないかッ! だって、こんなの……オメエ、変だろ?」
「変なこたねえよ、オメエ。喰うか喰われるか、それが生きるっつーことだろうが」
それは月の満ち欠けのように、いつの間にかという表現が適切な変化だった。
「――ああ、やっぱ生の体は違ぇな。肉に血が通ってる感じがしやがる。一丁前に腹も減ってやがるじゃねえか。腹ごしらえぐらいしてからこいよ、マセガキが」
😖 気持ち悪ぃ
――そんなので、よく平気だな
「厳密には、喰った相手を再現する『暴食』の権能を逆手に取って、相手の自我を塗り潰した……だよな?」
「難しいこと言ってンじゃねえよ。で、オレが知りもしねえことでえばってンじゃねえ、稚魚が。稚魚? あー、うン? オメエ……ああ? オメエ、これオメエ、あれだな、オメエ」
「――オメエ、気持ち悪ぃな」
「そンなンでよく頭おかしくなンねえな。いや、なってやがンのか? なってやがっからそンなンなのかよ。わからねえな。考えたこともねえ」
🩸 掠める
――受け損ねが、起きた
「レイド! あなたの相手は私だ!」
「あン?」
斬撃がレイドの箸の先端を掠め、受け損ねたレイドの右腕から血が噴く。
それを、確かにこの目で見たことこそが、スバルにとっての収穫だ。
「あなたの相手は私だ、っつったか? 後ろにお姫様抱えてて、オレとやり合えるわきゃねえだろうが!」
🕳️ ウル・シャマク
――空気を、斬られる
「オメエ、こンなつまらねえ小細工で……」
「――そのつまらない小細工が、お前を葬る最後の一押しなのよ」
「――ウル・シャマク」
突如として宙に出現したそれは、どこへ続いていて、どこまで深いのかわからないような原始的な恐怖を伴う存在として顕現する。
「なンだ、空気かこりゃ。空気なンて、どこにでもあるもンでオレが止まるかよ」
そんな絶大な魔法を、レイドは箸の一振りでいとも容易く突破する。
「次元斬りって、俺の知る限り、かなり上位能力のイメージだぞ……」
「オイオイ、カッコいい呼び方すンじゃねえよ、盛り上がンだろ」
☝️ カウントワン
――届くぜ、と言う
「が、ぁぁぁ!!」
「スバル!!」
「スバル――っ!」
駆け寄ってこようとする二人には掌を向け、その足を止めさせる。
「それで、オレに届くかよ、オメエ」
「――あ、ぁ。届くぜ」
エミリアを、ベアトリスを、ラムを、レムを、メィリィを、エキドナを、ユリウスを、シャウラを、パトラッシュを、ジャイアンを、救ってみせる。
誰一人、欠かすことなく。
「――これが、カウントワンだ」
📋 一カウント
――ここまでで、わかったこと
・レイドと『暴食』の戦いは止められない。合一の阻止も困難。
・ユリウスなら、勝機はある。
・――ナツキ・スバルは、勝ち目がない。
第六章71『カウント・ワン』終了。
スバル
ユリウス
ベアトリス
レイド
ロイ