第七章81
『女傑と道化』
帝国北西部。ロズワールとラムは、旧友である上級伯の館を訪ねていた。
🕊️ 平和主義
在位九年、戦争という戦争を取り上げてきた
ヴィンセント・ヴォラキアの統治により、帝国は建国以来例を見ない安寧の時代を迎えていた。
在位して九年間、戦争という戦争を取り上げ続けた。
――薄氷の上で焚火をするような、矛盾した行いを。
「行いの是非はどうあれ、自分の所業が評価されて悪い気はしないんじゃないかい?」
(¬_¬)
「ならば、お前は『亜人趣味』という呼ばれ方を誇らしく思っているとでも?」
(・∀・)
「紛れもなく。そもそも、その呼び名は私自身が広めたものだからねーぇ」
🗡️ 刀傷
――『灼熱公』セリーナ・ドラクロイ上級伯
すらりと背が高く、しなやかに鍛えられた体つき。傍らには鞘に入った曲刀。
左の頬には、額から顎にかかるほど長く、大きな白い刀傷があった。
――一度見れば焼き付いて忘れ難い傷。それさえ装飾品の類に過ぎない。
――『灼熱公』セリーナ・ドラクロイ上級伯。
ヴォラキア帝国でも指折りの大貴族の一人。
――そしてロズワールにとっては、国を隔てて交流のあった友人。
🍵 茶葉が死んでいる
味を感じないはずの舌が、口を開く
何を飲み食いしても味を感じない。それは、今の自分に辿り着くための代償の一部だ。
「はっきり言うものだ。給仕は変えるべきか」
(・_・)
「ええ、茶葉に失礼が過ぎますね」
「実は家中のものが忙しくしていて、このお茶を淹れたのは私なんだ」
「そうでしたか。では、金輪際やめた方がよろしいかと思います」
(≧▽≦)
「忖度を知らぬ娘だ、気に入った。いい奥方を迎えたじゃないか」
(;´Д`)
「ギリギリの諧謔をわかってくれただけなのだから、過ぎた口は慎みたまえよ、ラム」
(・∀・)
「承知しました、アナタ」
(´・ω・`)
「――。セリーナ、訂正しておくけれど、彼女は私の従者で、妻じゃなーぁいからね」
🔥 焼き殺した
その冗句は、帝国の外だと笑えない
「セリーナ、その冗句は帝国以外の人間だとあまり笑えないよ」
(´ー`)
「うん? そうか。社交界では大抵の相手を笑わせられる鉄板なんだがな」
父親を焼き殺してドラクロイ家を掌握した、彼女の実話からきたもの。
頬の刀傷も、殺す前の父親から浴びたものだという。
知り合ったのは、まだ十代の頃。所用で王国を訪れた彼女が刺客に狙われた。
――しかもそれが父親の差し金だったことを暴いたので、縁は案外深い。
🎯 悲願
この人の行動は、すべて一つの願いに繋がる
ロズワールの人生は全て、心の一番奥に沈めてある願いのためにある。
――帝国を訪れたのも、瞬きや呼吸すらも、悲願のための一助なのだ。
四大国のうち、王国と水の合わない帝国の在り方は群を抜いて難易度が高い。
不可侵条約も、余計な茶々を入れるなという警告の色が強い代物だ。
「――帝都を揺るがすこの一大事も、不可侵条約を反故にしたい一派の目論見だとでも?」
(¬_¬)
「疑り深いにも限度があるぞ。王国の人間らしからぬ考えだ」
「――ルグニカ王国との領土戦争、それを見据えてのことではないかと」
「安寧を壊したあと、何を望むのか。それがルグニカ王国ではないか、と」
(・∀・)
「ただ自分より偉いものがいるのが気に食わないから反乱する、という手合いも実在するぞ」
「そういう特殊な事例の話は置いておきましょう」
⚔️ 血の大河
王国との戦争を望まない、その理由を問われる
「王国との戦争を望まない、というのはどういう思惑から出た意見だ?」
「もしも、我々の分が悪いと言い出すなら、私の心中にも風が吹くことになるぞ」
「訂正しよう。――王国と戦争になれば、無用な血が大量に流れる。それも帝国のね」
( ゚д゚ )
「ほう?」
「国境を跨いでやってくる帝国兵はことごとく、血の大河を築くことになる」
(;゚Д゚)
「おいおい、それは禁じ手だ!」
「この奥の手は、最初に切られることを一切躊躇わない」
「お前の目から見ても、『剣聖』というのは規格外の怪物か?」
「先代までの『剣聖』には可愛げもあったけーぇれど、当代の『剣聖』はその表現が適切と言える」
「まるで、これまでの『剣聖』を全て見てきたように言う」
(・∀・)
「お目にかけようか? 手も足も出ない高高度からの、容赦のない魔法攻撃の無慈悲さを」
「底知れん奴だ。とはいえ、突出した力には相応の枷が伴う」
「お前が帝国で自由気ままに振る舞えないのも、それが理由だろう」
(´ー`)
「ご名答」
🔎 命も同然
連れ戻したい相手が、二人の間で違っている
「――察するに、この情勢で帝国入りしたのはお前たちだけではないな?」
(・_・)
「探し物……いや、探し人か。お前たちにとって、よほど大事なものと見える」
「ラム」
「誤魔化しても伏せても、この方には通用しないかと」
「驚いたのは、お前が彼女の大事なモノのために無茶をしたことだ」
(´ー`)
「ええ、ラムの代わりはいませんから」
「否定しない事実だが、いささか言い方が気になるねーぇ」
――連れ戻したい相手が誰か、二人の間では異なっている。
そうとはわからないセリーナには誤解を生んだようだが。
🎲 悪い顔
久々に見る、悪巧みの顔になる
「お前の忠言に耳を傾ける私と違い、他の帝国民の態度は保証できんぞ」
「その点が、『剣聖』の実力を説明する必要がない王国との違いなのだーぁね」
ロズワールの悲願に、スバルの存在は欠かせない。
そして、辿るべき道筋に、ヴォラキア帝国との戦いなど含まれない。
『親竜儀』が訪れ、王国と龍との盟約が更新される日まで、邪魔はあってはならない。
(・∀・)
「ふうん? その悪い顔、久々に見たな。悪巧みか?」
🍶 上策
二人がどう知り合ったのか、が語られる
「――ロズワール様と、本当に親しげでいらっしゃいますね」
「私がこの男とどう知り合ったのか、気になるらしいな」
「ちょうど十年になります」
「なら、私との付き合いの方が少し長い。ラム、酒は飲めるか?」
(・∀・)
「お茶ほどではありませんが、うるさいですよ」
「セリーナ、誘いはありがたいが、私たちは急ぎの用事があるんだ」
「だったらなおさら、私の機嫌は損ねるべきではないはずだ」
「……ラム」
(・_・)
「レムのためを思えばこそ、セリーナ様の申し出を断るのは得策ではないと思いますが」
「ちょうど、別の客人がお前たちと入れ違いに出ていったばかりでな」
「厳密には、私が親しくしていたのはその客人の夫だったが」
⛓️ 制圧
――セリーナ・ドラクロイ上級伯の身柄をラムが制圧した、二日後のことだった
興味津々なラムと、話好きなセリーナ。話題は弾み、昔語りが始まってしまう。
――全ては悲願の成就と、そのために必要な駒を取り返すために。
ロズワールの思惑が外れ、帝国の内乱により深く関わらざるを得なくなったのは、
反乱軍に与する黒髪の乙女、『ナツミ・シュバルツ』の名前が館に届き――
――セリーナ・ドラクロイ上級伯の身柄をラムが制圧した、二日後のことだった。
第七章81『女傑と道化』終了。

セリーナ