第七章30
『自称英雄ナツキ・スバル』
族長の座が継がれる。そしてレムは、スバルに一番聞かせたくない言葉を告げる。
😔 拭い去れない喪失感
無念を宿しているのは、周りのほうだった
退く当人の覇気は、初めて会ったときと寸分変わらない。
どこまでも、強い女であるという印象そのままだ。
色濃く無念を宿しているのは、周囲にいるものたちの方だった。
(>﹏<)
「あ、姉上、無理でス。私に族長なんテ、務まるわけガ……」
(´;ω;`)
「姉上だから務まった役目でス! 私にそんな器はありませン……っ」
その動揺ぶりは、当事者以上にすら思えた。
🩸 血に塗れた衣類
唯一の治癒魔法の使い手として、重宝された
(´・ω・`)
「……私の、力不足です」
この場で唯一、治癒魔法が使える存在として重宝された。
血に塗れた衣類。
乱れた髪。
疲労の窺える表情。
どれだけ過酷を極めたか、察するに余りある。
(´ー`)
「レム、お前が気に病む必要はなイ」
「帝国の『将』と戦イ、片足で済んだのは運が良かっタ。……いヤ、お前の助力あってのことダ」
「私はお前に感謝していル。それ以上の言葉はなイ」
😊 美形の務め
足をなくした直後とは、思えないほど
(・_・)
「ミゼルダ、考えを変える気はないな」
「あア、変える気はなイ。シュドラクとヴォラキア皇帝との盟約は守られル」
「――。わかった。ミゼルダ、大儀であった」
(・∀・)
「どうせなラ、微笑んでみせロ。それが美形の務めというものダ」
「――。ふん」
「それでいイ」
足をなくした直後にも拘らず、あまりにも強かった。
玉座を奪われた皇帝が、森で暮らす女戦士に敬意を示した何よりの証だった。
🗣️ 最後の命令
同胞の前で、最後の言葉を告げる
( •̀_•́ )
「――聞ケ、我が同胞たちヨ!」
「我が妹であるタリッタに族長の役目を譲り渡ス! 皆、タリッタに従エ!」
「これが私ノ、族長としての最後の命令ダ。――父祖の誓イ、祖霊の誇りに感謝ヲ」
🟪 シュドラクの民
「――感謝ヲ!」
門外漢にも、それが継承の儀式だったと感覚でわかった。
ここに族長は、ミゼルダからタリッタへ継承された。
「沈んだ顔をするナ、族長」
「お前の迷いは我らの迷イ。お前の躊躇いは我らの躊躇イ。お前の死ハ、我らの死となル」
その瞳を過った複雑な感情は、頭を下げた妹の見られなかったものだった。
⚖️ 信賞必罰
戦線離脱を、あっさり認めた理由
(・_・)
「意外だったんだよ。お前がミゼルダさんの戦線離脱をあっさりと認めたのが」
「てっきり、片足をなくしたぐらいでなんだ。俺のために死ぬまで働け、って言い出すんじゃないかと」
(¬_¬)
「たわけ。斯様に強いて、いったい何の意味がある」
「そも、俺は部下にできる以上のことを望まぬ」
「己が最善を尽くせと命じても、己の限界以上を吐き出せなどと妄言の類であろう」
「そして、ミゼルダは己が領分を果たした。ならば、俺が与えるのは褒賞だけだ」
権力者とは、発破と褒美で実力以上を引き出すものだと思っていた。
ある種、働きやすい環境であり、同時に寂しい環境でもある。
「貴様が俺の部下であれば、そうだろう。だが、貴様は俺の部下か?」
(´・ω・`)
「軍師って肩書きに惹かれないわけじゃないが、お前の部下なんて願い下げだ」
「であろうよ。貴様は俺の部下ではない。故に、信賞必罰の範疇に当たらん」
「俺はプリシラと話の続きがある。貴様は貴様の領分を果たせ」
🛏️ 部屋の隅で
声をかけると、静かにしろと返される
「――レム、今いいか?」
(¬_¬)
「……あなたですか。いつになったら着替えるんです」
「着替えよりレムの方が優先だ。この話が終わったらすぐにでも着替えるよ」
「そうですか。では、話は終わりです。着替えてきてください」
(>﹏<)
「そんな大雑把な!」
「眠っているルイちゃんが起きてしまいます。気遣ってください」
「それとも、そのぐらいの気遣いもこの子にはかけたくありませんか?」
「嫌な言い方するなよ。俺が悪かった」
✋ 白い指
礼を言われても、受け取ろうとしない
(´ー`)
「レム、よくやってくれた。お前のおかげでみんな助かったよ」
「……力不足も痛感しました。本音を言えば、不甲斐ないです」
「わかるんです。本当なら、この魔法はこんなものじゃなかったって」
「今、私が使っている魔法は感覚的なもので、言い換えれば独学です」
「ルイちゃんが補助してくれて、何とか形になっていますが……」
その先は、続かなかった。
弱音は、口にすれば自他を傷付ける。
代わりに、ほんの少しだけ胸のつかえが軽くなる。
そしてレムは、自分が軽くなるのを厭うている。
❓ 以前の私なら
記憶があったなら、と問いかけられる
(´;ω;`)
「以前の……以前の私なら、どうだったでしょうか」
「……記憶があるときのレムなら?」
「はい。そのときの私の治癒魔法なら、ミゼルダさんの足は……」
残せたのか、と続けられるはずの言葉。
門外漢に、その判断はつけられない。
目の前にあるのは二択。『できた』か『できない』か。
そのどちらが、彼女にとって救いになってくれるのか。
――否、どちらと答えれば、これ以上傷付かずに済むのか。
(・・・・・・)
「……記憶があっても、どうにもならなかったと思う」
「治癒魔法だって万能じゃない。その中で、レムは最善を尽くしたはずだ」
😖 咎はこちらに
責任の在り処を、自分に引き寄せる
(´;ω;`)
「俺の方が力不足だった」
「考えが足らなかった。もっと、色々と真剣に吟味すべきだったんだ」
偉そうに『無血開城』を謳っておきながら、現実は程遠い結果を招いた。
失敗した。
失敗に失敗を重ね、挽回する機会を逸して失敗を積み上げた。
求めたのは、最善のハッピーエンド。
目の前にあるのは、そこそこのハッピーエンドか。
あるいは、そこそこのバッドエンドと呼ぶべきものだ。
――最悪、『死に戻り』してでも。
そんな考えが脳裏を過るほどに。
戻る先はおそらく、あの血みどろの攻防戦の最中。
思い出せば、恐れで全身が総毛立つ。
💧 潤んだ瞳のまま
どうしてそうなるのか、と問い返される
(>﹏<)
「……どうして?」
「どうして、これがあなたのせいになるんですか」
「ミゼルダさんの足も、ルイちゃんやウタカタちゃんのケガも、ミディアムさんやフロップさんの傷も、何もかもあなたのせい?」
「それは、そうだ。俺がもっと、入念に準備してたらこうはならなかった」
「あなたは策を考えて、無謀に見える計画でちゃんと成果を出しました」
「でも、そのあとが……」
(╬゚д゚)
「――そのあとのことなんて!」
「そのあとのことなんて、誰にも見通せませんでした」
「それなのに、どうしてあなたがその全部の責任を負うんですか」
🗣️ 言わせてはならない
明かせない真実が、言葉を止めてしまう
力を持ったモノの責任なのだと、そう思う。
力を行使すれば、未来はより良くも、悪くもなり得るからだ。
だが、それは伝えることのできない真実だ。
話せば、その相手を死に至らしめるかもしれない真実など、明かせるものか。
「……どうして、あなたは私を庇ったんですか」
「あの女性が向かってきたとき、あなたは私の前に立ちました」
「その全部ができるほど、あなたは強い人間じゃない」
「私も、ルイちゃんも、アベルさんやミゼルダさんたち、ミディアムさんやフロップさんもみんな、意思のある人間です」
「あなたが守り抜こうと息巻く必要なんてありません」
「そんな何もかも、一人でやり切ろうなんてしないでください」
これ以上は聞いてはならないと、正体不明の焦燥感が心を焼く。
「あなたは特別な人間じゃ――」
言わせてはならないとわかっていたのに。
🚶 ふらふらと
壁に額をぶつけたところで、視線が合う
目的地を定めていない。
いつから歩き出したのかさえ明瞭ではない。
気付いたら歩いていて、今も意識は曖昧模糊とした中にある。
壁に額をぶつける。
もう一度、ぶつける。
脳を外から揺すってやると、澱みが遠ざかっていく気がした。
打ち付け、打ち付け、打ち付け――
(・・・・・・)
「――おいおい、やめとけよ、兄弟」
肩を掴まれ、振り向く。
鉄兜越しの視線と、ぶつかった。
第七章30『自称英雄ナツキ・スバル』終了。
クーナは無愛想に拍車をかけた無表情。
ホーリィも沈んだ顔つき。
ウタカタが唇を噛みしめて俯く。
タリッタ
レム
ミゼルダ
アベル
ナツミ
アル