第七章59
『タリッタ・シュドラク』
三年前の夜、魂の姉妹が遺した天命。――そして今、タリッタは矢をつがえ、狙いを定める。
👭 同じ日に生まれた
同じ日に生まれた子には、魂の繋がりがある
――『シュドラクの民』では、同じ日に生まれた子らには魂の繋がりがあるとされる。
親姉妹よりも強い、半身としての絆。
クーナとホーリィの二人も、同じ日に生まれた魂の姉妹だ。
黒髪の先を桃色に染めた美しいシュドラク、マリウリ。
優しく穏やかで、引っ込み思案のタリッタと相性がよかった。
どんな葛藤も、みっともない不安も、彼女相手なら自然と打ち明けられた。
「――ねエ、タリッタ。私、『星詠み』に選ばれテ、天命を授かったノ」
「星が教えてくれるノ。星ガ、役目を与えてくれるノ」
「本当ハ、誰にも話すつもりはなかったノ。でモ……あなたハ、私の魂の姉妹だもノ」
🎵 聞いた覚えのない歌
知らない歌を歌い、知らない物語を語る
――狩りから戻ると、子どもらの面倒を見るマリウリが知らない歌を歌っていた。
(・_・)
「マリウリの歌、聞いた覚えのないモノだナ」
「だガ、いい歌ダ。心地のいイ」
――誰も、その歌の出所を気に留めない。
タリッタだけが、それを恐れ、不安視していた。
「星から教わったんじゃなク、もう知っている歌を歌っただけなノ」
「私じゃなイ、他の『星詠み』ガ……」
(>Д<)
「――ッ、意味がわかりませン!」
知らない知識を披露し、知らない歌を歌い、知らない物語を語る。
――それは、タリッタの知らないマリウリだった。
🌟 返セ
懊悩を、ずっと胸の内に仕舞い込む
(╬゚д゚)
「あなたガ、マリウリを惑わせているのですカ?」
放たれた矢は、どこにも届かないまま空しく落ちる。
――星は、反逆の意志さえも認めようとはしない。
言えない悩みは、全てマリウリに聞いてもらってきた。
――ならば、マリウリが原因の悩みは、誰に聞いてもらえばいいのか。
姉に打ち明ければ、危険な思想を理由に追放されるかもしれない。
会えなくなるのは、嫌だった。
――だから、懊悩をずっと胸の内に仕舞い込んで。
🧊 学習しない
かろうじて押しとどめられている、その理由
『大災』へ挑むには条件がある。――戦う力と、抗える心。
どちらが欠けても、戦場へ立つことはできない。
ルイは、この都市が滅ぶか否かに一切関わりがない。
――それでも喰らいつくのは、それ以外の理由のため。
――『大災』は生き物ではない。これが、最大の要因だ。
(¬_¬)
「こっちの攻撃に対応したり、出方を変えるって脳みそもねぇ」
生き物であれば、学習し、対応を学んで戦況を変えただろう。
感情的になって行動が変われば、やはり戦況は激変したはず。
――それが起こらないから、この戦力でもかろうじて押しとどめられる。
🕊️ 安らぎは、わっちと共に
全員、下がる準備をする
( •̀_•́ )
「――全員、下がる準備をするでありんす」
(>﹏<)
「ヨルナちゃん!」
「下がりなんし! 口惜しいでありんすが、あの男の言う通りにしんしょう」
(╬゚Д゚)
「この都市をそっくり呑ませ、妾が内より爆ぜさせるでありんす」
「できるのか?」
「城一つぶつけて足りぬと言うのであれば、あとは街一つぶつけてみるだけ」
「もっとも、それで足りなくば、わっちを皇妃にして国をぶつけるしかありんせんが」
(#゚д゚)
「そのようなこと、臣下の一人として断固としてお諌めせねばならん!」
「わっちとわっちを愛するものたちが揃えば、このような都市はまた容易く形を成す」
( •̀_•́ )
「――みんなで戦いながら下がる! 大急ぎで!」
🩸 白く凍えた夜
人生最大の失敗が、この夜に起きる
「――どうしよウ、タリッタ。私、『星詠み』なのニ」
こぼれたのは嘆きの声だけではなく、胸元までを濡らす赤々とした鮮血もだった。
「あとはマリウリの気力次第ダ、タリッタ」
(・・・・・・)
「マリウリと過ごセ。最期まデ。それが魂の姉妹の役目ダ」
幼い娘が母の手を握り、頬擦りして、別れを告げる。
明日もまた会えると信じて疑わない無邪気な娘と、死の床にある母の別れが。
「どうしよウ、タリッタ。まだ私、天命を果たせてないのニ……」
(>﹏<)
「まダ、まだそんなことを言うんですカ……!」
(´;ω;`)
「あなたハ、シュドラクのマリウリ! それ以外の何が欲しいというんでス!」
「――生まれタ、意味。それガ、欲しいノ」
――娘もいる。タリッタもいる。シュドラクもいる。なのに、意味が欲しいと。
彼女はその瞬間、自らに流れる血を無意味と切り捨てたのだ。
(・・・・・・)
「――もウ、やめてくださイ」
抜いた短刀の切っ先が、青白い喉にそっと宛がわれる。
――でも、それはタリッタの、人生最大の失敗だった。
🌌 千夜、超えた先
重なった手が、宛がわれた刃を押し下げる
「そうだワ、タリッタ。――私にハ、あなたがいタ」
細い手が重なり、宛がわれる刃を押し下げる。
――嫌な音と感触があり、短刀の先端が胸を致命的に抉ったとわかる。
「千夜、超えた先デ、私ハ……あなたハ、旅人と出会う……」
「旅人ハ、この大地を滅ぼす『大災』の味方……だかラ、それヲ、殺さないト……」
「黒い髪ト、黒い目ノ、旅人……ヲ、殺しテ」
「『大災』ヲ、止めテ、タリッタ……それガ、私の役目……」
「もウ、私は果たせなイ、かラ……お願イ、タリッタ……私ノ、魂ノ、姉妹……」
――最後に、弱々しく掠れた息が漏れて、それが最後だった。
小屋の扉を開け放ち、外へ飛び出そうとした足が止まる。
そこに、いてはならない小さな影が座り込んでいた。
母の血を浴びて涙を流すタリッタを、ウタカタが見つめていた。
👁️ 見えてんだよ
下がれ、と叫ぶ声が飛ぶ
(;´Д`)
「ミディアム嬢ちゃん! 下がれ! これ以上は今の嬢ちゃんじゃ逃げ切れねぇ!」
(╬¬_¬)
「う~! 悔しい! でも、ごめん!」
――『大災』の周囲、跳ね回って牽制を続ける矮躯。
全身を汗でぐっしょり濡らしながら、少女は仕掛け続けている。
(#`Д´)
「クソ、クソクソクソ、チクショウ!」
(╬゚д゚)
「なんでオレが、あいつのことでこんな悩まなきゃなんねぇんだ! 恨むぞ、兄弟!」
ルイがどう動くかわかっているかのような的確さで回り込み、横抱きにさらう。
「うー! うあう! あーう!」
「――寝てろ!」
「触角!」
「カフマ・イルルクスだ!」
💥 足らぬか
魔都を吹き飛ばす衝撃が、それでも届かない
「――やれ、ヨルナ・ミシグレ!!」
爆ぜる衝撃が凄まじい風を生み、魔都を吹き飛ばした。
――都市そのものを引き換えに放たれた一撃が、『大災』を打ち消し――
噴煙の向こうに、なおも蠢く闇の気配がある。
届きはした。だが、足りなかった。
( ゚д゚ )
「――タンザ?」
吹き飛んだ宿の地下から、小柄な鹿人の少女が飛び出した。
(゚Д゚ ;)
「――やめなんし!!」
🏹 知りたくもなイ
シュドラクが最も忌避するものと、向き合う
――同族殺しは魂が穢れ、祖霊と同じ土へ還ることは許されない。
それがシュドラクの最も忌避する、『シュドラクの穢れ』だ。
(・_・)
「ウー、見てタ。マー、ターのデ、自分刺しタ」
「あの刺さり方ダ。あれハ、私の妹の仕業ではなイ」
――他ならぬ、タリッタ自身はそうは思えなかった。
口を塞ぐために短刀を抜いた、その短慮がなければ死ぬことはなかった。
――そして今。
「――タリッタ」
血を流した男が、そっと指を天へと向ける。
――空を見ろ、ではない。天命だ。選べと、決断が強いられる。
矢筒から抜いた矢を弓につがえ、狙いを付ける。
何千、何万回と繰り返してきた狩猟の技法が、彼女を一人の狩人へ変える。
弦が弾かれ、矢は狙い違わず――走り出そうとした長身の女の足を射抜いた。
――『魂の姉妹』に託された天命に背いて。
命懸けで突き進んだ少女の本懐を、遂げさせることを選んだのだ。
魔都炸裂に匹敵する二度目の衝撃が、『大災』を今度こそ吹き飛ばした。
第七章59『タリッタ・シュドラク』終了。
ミゼルダ
タリッタ
アル
ヨルナ
ミディアム
カフマ
ルイ
アベル
ウタカタ
「――ヨルナ様」