リゼロを読む WEB版・初見向け解説
明るさ
字の大きさ
行間
地の文の書体

206話

第七章84

『茶室』

帝都の玉座の間。そして、誰にも聞かれない一室で交わされる本当の会話。

🏛️ 亀裂

この距離と存在は、それでも不落だった

一昨年の皇帝暗殺未遂、それは他ならぬ帝都で起こった出来事だ。

その出来事以来、人々は帝国に真の安堵が訪れることなどないのだと学んだ。

――学んだ上で、期待もしていた。

ベルステツ「――そんな民の安堵と期待が、このところ大いに揺らいでおります」

いずれも、死を恐れているわけではない。彼らが恐れるのは犬死にだ。

――ヴォラキアの勇士として、相応しく在れない死を迎えること。

玉座に背を預けるヴィンセントには武の気配はない。

斬り合えば負ける理由などなく、玉座までの距離を詰めるのも数秒と不要。

――にも拘らず、この距離は、そして抗い難い皇帝の存在は、不落だった。

🩸 首と手足

志を履き違え、利用するものが多すぎる

アベル「いつから、余の国では皇帝が民草の顔色を窺うようになった?」

ベルステツ

(・_・)

「これを放置すれば、病を孕んだ毒の血は帝国全土を巡りましょう」

ヴィンセント

「そのために毒の血を流し切れ、と余に進言するか」

ベルステツ

「帝国を統べる皇帝閣下ですら、首を落とせば命が落ちる」

ベルステツ

(¬_¬)

「手足を落とすのを惜しんで首を落とすのは、心得違いというものでは?」

その忌憚のない発言は将兵たちを慄かせる。

――しかし同時に、言うべきことを代弁してくれたと感嘆することもできた。

戦い、勝利し、手に入れるのは帝国民の基本原則。

――帝国民は精強たれ。その志を履き違え、いいように利用するものが多すぎる。

🧠 深謀遠慮

一将の派遣だけでは、根本の解決にならない

ベルステツ

「一将各位を派遣し、反乱の芽を摘むばかりでは根本的な解決にはなりませぬ」

ヴィンセント

(╬¬_¬)

「――ずいぶんと弁が立つな、ベルステツ」

ヴィンセント

「まるで貴様こそが反乱の筆頭のような顔つきだ」

ベルステツ

「お戯れを。私奴に謀反を主導する気構えなどございません」

アベル「――余にも考えがある」

もたげかけた皇帝への不信が、へし折られる。

大火が風や水を浴びたように、その火勢を緩め、弱らせ、掻き消された。

ヴィンセント

(╬゚д゚)

「それとも、余の言葉を疑うか?」

「「――断じて、否!」」

🐺 剣狼

明かせば、方策に陰りが生じる

ヴィンセント

「明かせば余の方策に陰りが生じる」

ヴィンセント

「代わりに得られるのは、先々に怯える貴様や将兵の安寧か?」

ヴィンセント

「不服はあろう。余も、帝国の威光のみで全ての説明を付けるつもりはない」

ヴィンセント

「余から貴様たちにかける言葉は一つだ」

ヴィンセント

( •̀_•́ )

「帝国民は精強たれ」

アベル「――その剣狼の在り方に相応しい、戦場をこそ用意してやろう」

反乱が皇帝への不信の炎なら、将兵を焼くのは皇帝への信頼の炎となった。

👑 くだらぬ噂

もう一つだけ伺いたい、と食い下がられる

ベルステツ

「――閣下、恐れながら、もう一つだけお伺いしたきことが」

ベルステツ

(・_・)

「――黒髪の『皇太子』」

ベルステツ

「黒髪に黒瞳の男児で、その出自は……公にされていない閣下の御子であると」

件の噂、それは彼らにとっても気にならぬと言えば嘘でしかない風聞だ。

――だが、確かめる勇気などなかった。

アベル「くだらぬ噂に振り回されるな。余に子などおらぬ」

ヴィンセント

「どうせなら、その風聞の出所を押さえ、世継ぎとやらを余の前に連れてこい」

ヴィンセント

(・∀・)

「遊興ついでに道化として飼ってやろう」

🍵 茶室

見るものが見れば、仰天する対談だった

ベルステツ「――本当に、『皇太子』は閣下の御子ではないのですな?」

場所は玉座の間でも水晶宮でもなく、帝都内にある宰相の邸宅だ。

――見るものが見れば、その対談には大いに仰天することだろう。

ヴィンセント

「無論。答えは変わらん。余の世継ぎなどおらぬ」

ベルステツ

「ここでの話は外に漏れません。たとえ、オルバルト一将であろうと」

あらゆる儀礼が施された小さな砦。魔法の結界に、呪術や『ミーティア』の類も。

――この『茶室』だけで、都市一個買い取れるだけの金がかかっているとか。

ベルステツ

(¬_¬)

「大事なのはその機能……ここでは、偽りの皮を被る必要もないのです」

ヴィンセント

(╬¬_¬)

「余と貴様とは、あくまで利害の一致による共闘関係だ。それを見誤るな」

ベルステツ

「重ねて問います。皇帝閣下に御子はいらっしゃらないのですね?」

ヴィンセント

(・・・・・・)

「――。答えは変わらぬ」

⚖️ 逆賊

仮に子がいたら、と問いを立ててみる

ヴィンセント

「仮に、余の子がいたとすれば貴様はどうする」

ベルステツ

( •̀_•́ )

「早々に御子の身柄を確保し、本物の閣下に玉座に戻っていただく」

ヴィンセント

(・∀・)

「ふ。ならば、余はどうなる?」

ベルステツ「逆賊が如何なる最期を遂げるか、あなたも私奴も承知の上では?」

滅私の果てに帝国の在り方に仕える姿は清々しい。

――一点の曇りも見当たらないせいで、かえって異常性というものは際立つ。

ヴィンセント

「――『皇太子』の風聞は、逃げ続ける当人が広めたものであろうよ」

ベルステツ

「あなたとて、閣下の全てを知り得るわけではないでしょう」

ヴィンセント

「――ありえぬことだ」

そうした疑惑や一片の可能性すら残さぬよう、あの男は徹底していたはずだ。

――人前で決して両目をつむらぬようにする鋼の意志が、彼に在り方を貫かせる。

ヴィンセント

「――ヴィンセント・ヴォラキアに子はいない。貴様の行いは、正当なものだ」

ベルステツ

(╬゚д゚)

「正当? これが正当と言うなら、私奴がこの手で玉座を簒奪すべきでしょう」

ベルステツ

「この老木の枯れ木のような腕では、帝国の権威を守ることはできない」

♟️ 動かせぬ駒

理解できたと思ったことは、一度もない

ベルステツ「アラキア一将と、マデリン一将の両名を派遣していますが、それだけでは追いつきません」

ベルステツ

「本来なら、チシャ一将とゴズ一将の指揮能力が求められる局面です」

ベルステツ

「その両名が動かしづらい以上、次善策……グルービー一将を戻されては?」

ヴィンセント

「――北西の動きがどうにも臭い。現時点であれを国境から動かす選択肢はない」

ベルステツ

「では、オルバルト一将はいかがです」

ヴィンセント

(¬_¬)

「あれは帝都に留め置いて、要所に投入するのが肝要だ。少なくとも、従う気の今は」

ベルステツ

「であれば、モグロ一将は」

ヴィンセント

「奴には、奴にしか果たせぬ役割がある」

ベルステツ

「セシルス一将は、やはり未知数ですか」

ヴィンセント

(;´Д`)

「あれに敵味方の判別を付けさせるのは至難の業だ」

ヴィンセント

「あれの信条は主義主張、大義の有無で変わるものではない。故に、盤面から除いた」

――付き合いは長いと言える。だが、理解できたと思ったことは一度もない。

🏰 帝都ルプガナ

短期的には妙手、中長期的には不備が増える

ヴィンセント

「アラキア、オルバルト・ダンクルケン、マデリン・エッシャルト」

ヴィンセント

「不足と思えば、チシャ・ゴールドとモグロ・ハガネも加えておけ」

――『九神将』を五人揃え、敵対者を迎え撃つ状況というのは破格だ。

アベル「――帝都ルプガナにて、叛徒を迎え撃つ」

ベルステツ

「叛徒も、数が揃えば戦い方を変えるかと思いますが」

ヴィンセント

「戦力集めに黒髪の『皇太子』を利用し、欺瞞の看板を掲げる輩同士でか?」

ヴィンセント

(・∀・)

「実在しない皇太子の真贋を主張し、足並みなど到底揃えられまいよ」

ヴィンセント

「短期的に見れば、反乱の火を強める妙手だが、中長期的に見れば不備は増える」

🙂 やはり

口が過ぎるぞ、と静かに制される

ベルステツ

「叛徒の群れが帝都へ押し寄せるようなこと、それこそ『マグリッツァの断頭台』の如く」

ヴィンセント

(╬¬_¬)

「ベルステツ。貴様、ずいぶんと愉しげのようだな」

自分の頬を指で挟むように触れ、初めてその感情を自覚した様子になる。

ベルステツ

(・_・)

「大変失礼しました。私奴としたことが、心よりお詫び申し上げます」

ヴィンセント

「謝罪は不要だ。何ゆえに笑う」

ベルステツ

「笑いなど。……ただ、やはりと思っただけです」

ベルステツ「やはり、戦乱渦巻く絵図であってこそ、ヴォラキア帝国そのものだと」

ベルステツ

「それぞれが描く未来の絵図がある。閣下……いえ、あなたもそうでしょう」

らしくない多弁は、あるいは彼の如きものにも人の血が流れている証左。

――そうだとしたら、やはり自分には人の血が流れていないのかもしれない。

ヴィンセント

(╬゚Д゚)

「――口が過ぎるぞ、ベルステツ。余を誰と心得る」

静かに応じる言葉には、あるべき高揚も悲嘆も、いずれもありはしなかった。

第七章84『茶室』終了。