第七章84
『茶室』
帝都の玉座の間。そして、誰にも聞かれない一室で交わされる本当の会話。
🏛️ 亀裂
この距離と存在は、それでも不落だった
一昨年の皇帝暗殺未遂、それは他ならぬ帝都で起こった出来事だ。
その出来事以来、人々は帝国に真の安堵が訪れることなどないのだと学んだ。
――学んだ上で、期待もしていた。
いずれも、死を恐れているわけではない。彼らが恐れるのは犬死にだ。
――ヴォラキアの勇士として、相応しく在れない死を迎えること。
玉座に背を預けるヴィンセントには武の気配はない。
斬り合えば負ける理由などなく、玉座までの距離を詰めるのも数秒と不要。
――にも拘らず、この距離は、そして抗い難い皇帝の存在は、不落だった。
🩸 首と手足
志を履き違え、利用するものが多すぎる
(・_・)
「これを放置すれば、病を孕んだ毒の血は帝国全土を巡りましょう」
「そのために毒の血を流し切れ、と余に進言するか」
「帝国を統べる皇帝閣下ですら、首を落とせば命が落ちる」
(¬_¬)
「手足を落とすのを惜しんで首を落とすのは、心得違いというものでは?」
その忌憚のない発言は将兵たちを慄かせる。
――しかし同時に、言うべきことを代弁してくれたと感嘆することもできた。
戦い、勝利し、手に入れるのは帝国民の基本原則。
――帝国民は精強たれ。その志を履き違え、いいように利用するものが多すぎる。
🧠 深謀遠慮
一将の派遣だけでは、根本の解決にならない
「一将各位を派遣し、反乱の芽を摘むばかりでは根本的な解決にはなりませぬ」
(╬¬_¬)
「――ずいぶんと弁が立つな、ベルステツ」
「まるで貴様こそが反乱の筆頭のような顔つきだ」
「お戯れを。私奴に謀反を主導する気構えなどございません」
もたげかけた皇帝への不信が、へし折られる。
大火が風や水を浴びたように、その火勢を緩め、弱らせ、掻き消された。
(╬゚д゚)
「それとも、余の言葉を疑うか?」
「「――断じて、否!」」
🐺 剣狼
明かせば、方策に陰りが生じる
「明かせば余の方策に陰りが生じる」
「代わりに得られるのは、先々に怯える貴様や将兵の安寧か?」
「不服はあろう。余も、帝国の威光のみで全ての説明を付けるつもりはない」
「余から貴様たちにかける言葉は一つだ」
( •̀_•́ )
「帝国民は精強たれ」
反乱が皇帝への不信の炎なら、将兵を焼くのは皇帝への信頼の炎となった。
👑 くだらぬ噂
もう一つだけ伺いたい、と食い下がられる
「――閣下、恐れながら、もう一つだけお伺いしたきことが」
(・_・)
「――黒髪の『皇太子』」
「黒髪に黒瞳の男児で、その出自は……公にされていない閣下の御子であると」
件の噂、それは彼らにとっても気にならぬと言えば嘘でしかない風聞だ。
――だが、確かめる勇気などなかった。
「どうせなら、その風聞の出所を押さえ、世継ぎとやらを余の前に連れてこい」
(・∀・)
「遊興ついでに道化として飼ってやろう」
🍵 茶室
見るものが見れば、仰天する対談だった
場所は玉座の間でも水晶宮でもなく、帝都内にある宰相の邸宅だ。
――見るものが見れば、その対談には大いに仰天することだろう。
「無論。答えは変わらん。余の世継ぎなどおらぬ」
「ここでの話は外に漏れません。たとえ、オルバルト一将であろうと」
あらゆる儀礼が施された小さな砦。魔法の結界に、呪術や『ミーティア』の類も。
――この『茶室』だけで、都市一個買い取れるだけの金がかかっているとか。
(¬_¬)
「大事なのはその機能……ここでは、偽りの皮を被る必要もないのです」
(╬¬_¬)
「余と貴様とは、あくまで利害の一致による共闘関係だ。それを見誤るな」
「重ねて問います。皇帝閣下に御子はいらっしゃらないのですね?」
(・・・・・・)
「――。答えは変わらぬ」
⚖️ 逆賊
仮に子がいたら、と問いを立ててみる
「仮に、余の子がいたとすれば貴様はどうする」
( •̀_•́ )
「早々に御子の身柄を確保し、本物の閣下に玉座に戻っていただく」
(・∀・)
「ふ。ならば、余はどうなる?」
滅私の果てに帝国の在り方に仕える姿は清々しい。
――一点の曇りも見当たらないせいで、かえって異常性というものは際立つ。
「――『皇太子』の風聞は、逃げ続ける当人が広めたものであろうよ」
「あなたとて、閣下の全てを知り得るわけではないでしょう」
「――ありえぬことだ」
そうした疑惑や一片の可能性すら残さぬよう、あの男は徹底していたはずだ。
――人前で決して両目をつむらぬようにする鋼の意志が、彼に在り方を貫かせる。
「――ヴィンセント・ヴォラキアに子はいない。貴様の行いは、正当なものだ」
(╬゚д゚)
「正当? これが正当と言うなら、私奴がこの手で玉座を簒奪すべきでしょう」
「この老木の枯れ木のような腕では、帝国の権威を守ることはできない」
♟️ 動かせぬ駒
理解できたと思ったことは、一度もない
「本来なら、チシャ一将とゴズ一将の指揮能力が求められる局面です」
「その両名が動かしづらい以上、次善策……グルービー一将を戻されては?」
「――北西の動きがどうにも臭い。現時点であれを国境から動かす選択肢はない」
「では、オルバルト一将はいかがです」
(¬_¬)
「あれは帝都に留め置いて、要所に投入するのが肝要だ。少なくとも、従う気の今は」
「であれば、モグロ一将は」
「奴には、奴にしか果たせぬ役割がある」
「セシルス一将は、やはり未知数ですか」
(;´Д`)
「あれに敵味方の判別を付けさせるのは至難の業だ」
「あれの信条は主義主張、大義の有無で変わるものではない。故に、盤面から除いた」
――付き合いは長いと言える。だが、理解できたと思ったことは一度もない。
🏰 帝都ルプガナ
短期的には妙手、中長期的には不備が増える
「アラキア、オルバルト・ダンクルケン、マデリン・エッシャルト」
「不足と思えば、チシャ・ゴールドとモグロ・ハガネも加えておけ」
――『九神将』を五人揃え、敵対者を迎え撃つ状況というのは破格だ。
「叛徒も、数が揃えば戦い方を変えるかと思いますが」
「戦力集めに黒髪の『皇太子』を利用し、欺瞞の看板を掲げる輩同士でか?」
(・∀・)
「実在しない皇太子の真贋を主張し、足並みなど到底揃えられまいよ」
「短期的に見れば、反乱の火を強める妙手だが、中長期的に見れば不備は増える」
🙂 やはり
口が過ぎるぞ、と静かに制される
「叛徒の群れが帝都へ押し寄せるようなこと、それこそ『マグリッツァの断頭台』の如く」
(╬¬_¬)
「ベルステツ。貴様、ずいぶんと愉しげのようだな」
自分の頬を指で挟むように触れ、初めてその感情を自覚した様子になる。
(・_・)
「大変失礼しました。私奴としたことが、心よりお詫び申し上げます」
「謝罪は不要だ。何ゆえに笑う」
「笑いなど。……ただ、やはりと思っただけです」
「それぞれが描く未来の絵図がある。閣下……いえ、あなたもそうでしょう」
らしくない多弁は、あるいは彼の如きものにも人の血が流れている証左。
――そうだとしたら、やはり自分には人の血が流れていないのかもしれない。
(╬゚Д゚)
「――口が過ぎるぞ、ベルステツ。余を誰と心得る」
静かに応じる言葉には、あるべき高揚も悲嘆も、いずれもありはしなかった。
第七章84『茶室』終了。

