第六章77
『反撃の狼煙』
戻ってきたスバルが、まず最初にすることは、みんなを拾い集めることだった。
📣 名を呼ぶ
――背中を、見つける
細く、しなやかな背中が瞳に飛び込んできて、思わず心臓が爆ぜそうになった。
「――ライ・バテンカイトス!!」
その一瞬だけでも、相手の注意が逸れれば儲けものだ。
込み上げる恋心を燃料に、今なら空だって飛んでみせる。
そんなスバルの心構えは、とっさに振り返った紫紺の瞳に奪われて砕け散る。
⭐ 一の騎士
――やる必要は、なかったが
「危ないから待って! えっと、私のこと、その、わからないかもしれないけど、あっちが敵! ここは私に任せて!」
本当に思う。――ここに最初に辿り着いたのが、自分でよかった。
「――大丈夫だよ、エミリアたん」
右手で天を指差して、腰に手を当ててポージング。
やる必要はなかったが、やってやったら覚悟が決まる。
「――俺の名前はナツキ・スバル。エミリアたんの、一の騎士!」
「スバル――っ!!」
🤗 バカ
❄️すごーく、バカ
「え、エミリアたん!? 急でいきなりでビックリしたし、めちゃくちゃ柔らかくていい匂いするね! シャンプー変えた!?」
「スバルのバカ! もう、すごーくバカ! いっぱい、いっぱい心配したの! それなのにあんな風に……バカ! バカバカ!」
「すげぇ馬鹿って言われてる! いや、言い訳できないんだけど……」
「心配かけてごめん。でも、俺、戻ったから。……復活した? くっついた? 完全体ナツキ・スバルになったっていうか、とにかく、大丈夫だから」
🫱 一緒になれた?
❄️あのスバルは、どうなったの
「ちゃんと、一緒になれたの?」
「記憶がないときのスバルも、スバルだったから。だから、スバルが全部思い出してくれても、あの、短い間でも一生懸命だったスバルは……」
「――ああ、うん。大丈夫だよ」
――ああ、ならば、簡単なことなのだ。
「俺の中にも、エミリアたんの中にも、『俺』がいたことは確かに残ってる。だから、本当に大丈夫だよ、エミリアたん」
「……うん」
🍴 配膳
――テーブルが汚くては、興醒め
「――そろそろさァ、感動のご対面には十分かい?」
「ああ。わざわざ、律義に待っててくれるとは思わなかった。悔い改めたのか?」
「『喰い』改めるなんてとんでもないッ! ただ、僕たちってば『美食家』だからさァ。食の喜びを知るものとしちゃぁ、配膳にもちゃぁんと気配りしたいって話なんだよ。テーブルが汚くちゃ興醒めだ。でしょ?」
「なるほど、納得した。俺はてっきり……妹が無様にやられたから、ビビッてんのかと思ったんだよ」
笑みは一瞬で掻き消え、代わりに浮かび上がるのは灼熱の赫怒だ。
🦵 合わせ技
❄️私もいるの、忘れないで
「お前に、俺たちのルイの何がわかる――ッ!!」
「何にもわかんねぇよ。こっちは一方的に体に入り込まれてただけだ」
「――私もいるの、忘れないでよ、ね!」
直撃の瞬間、エミリアの氷結戦闘技法『アイスブランドアーツ』が発動し、相手に突き刺さる爪先を氷のブーツが補強しているおまけつきだ。
「決まった! これが俺の煽りと、エミリアたんの可愛い殺意の合わせ技だ!」
「それって褒めてるの?」
「褒めてるよ! 最高! 可愛い! 結婚したい!」
「けっこ……もう、ふざけないのっ」
🖤 五分五分
――影が、くるかどうか
影が全てを呑み込む一大事は、以前、『聖域』でも出くわした災厄の再現だ。
あの影が全てをご破算にするのは、『死に戻り』が外部に大きく漏れた場合。
つまりは、スバルの内側にルイ・アルネブがいたことが原因だったはずだ。
そのルイが排除された今、あの影が塔を呑み込むかどうかは五分五分、といったところだ。
だから、それを当てにして、事態をゆっくり進める選択肢はないが。
🤝 信じられる
❄️まだ何も、言ってないのに
「エミリアたん! 俺に考えがある!」
「――! わかったわ! じゃあ、それをしましょう!」
「まだ何にも言ってないけど!?」
「スバルの考えなら、一生懸命考えてくれたあとに出てきたものだもの! 私が今から色んなことを考えて答えを出すより、ずっと信じられるから!」
「――ああ、クソ! 嬉しいこと言ってくれちゃって!」
🪳 しぶとい
――逃げても、塔からは出ない
「とりあえず、エミリアたん、あいつにもう一発ぶち込んで!」
「えい!」
「スバル! さっきの大罪司教が……」
「ちっ、しぶとい野郎だ。けど、ノーダメージってわけじゃないはず」
「心配しなくても、あいつは塔から出ていったりしないよ。しこたまルイのことで……妹のことで煽ってやったからね。勘違いシスコン野郎は引き下がれない」
「臨機応変、柔軟に対応を変えられる奴は、そもそも大罪司教なんかになってねぇ」
📡 スバナビ
――みんなの場所を、辿る
「ん、わかった! だけど、みんながどこにいるかは……」
「――それをスバナビするのは、俺の役目だよ」
自分の脈打つ心の臓の在処を意識し、その自分自身を中心に鼓動を広げるように知覚範囲を拡大する。
ただ仲間の存在を感じることだけに特化したそれは、今のスバルたちにとって最も価値のある権能だ。
「――まずは、俺の可愛いパートナーを回収する!」
🤒 引き取る
――拒否は、言わせない
「スバル、大丈夫? 顔色が悪いけど……」
「ん、ああ、大丈夫大丈夫。いや、ちょっと強がり言ってるけど、まだ平気。このぐらいなら、全然頑張れるよ」
今のスバルを苦しめているのは、もっと単純明快な原因がある。
――ラムの負担、彼女が常日頃から味わっている苦しみを、先んじて引き受けているためだ。
「無断で傷を引き取るの、ラムは絶対喜ばないだろうけどな……」
なので、ラムの負担は勝手に背負う。彼女に拒否は言わせない。
🟣 ベア子
🟣頭の中が、てんやわんや
「ベア子!!」
「ベアトリス!」
「――っ!? す、スバルと、誰だかわからん娘がきたのよ!?」
「おお、ベア子! ベア子、お前、軽いなぁ! 可愛いなぁ! 賢い顔してるなぁ!」
「見て、ベアトリス! スバルが全部思い出してくれたのよ!」
「ま、待つかしら! 待つのよ! 知ってる記念日と知らない記念日が同時にきたみたいで、ベティーの頭の中がてんやわんやかしら!」
🦸 スーパーマン
――全部、思い出したのか
「……スバル。ホントに、全部、思い出せたのよ? ベティーのことも、ベティーとどんな風に過ごしてきたのかも、全部?」
「ああ、そうだよ。そんな不安そうな顔すんな。全部思い出したし、何ならいくらでも捏造してやれる。俺とお前の、あることないことヒストリアだ」
「ないことを捏造する必要はないかしら! ああもう!」
「スバルは本当に、ベティーを振り回してばっかりなのよ」
「お前を退屈させない契約者、ってのが契約条件だったはずだからな。それと、お前は俺のこと、スーパーマンじゃないって言ってたけど……客観的に見て、俺って結構、スーパーマンじゃね?」
「調子に乗るんじゃないかしら!」
🐉 尾撃
――愛竜にも、心配をかけた
「ずいぶんと、雪解けの早いこと。所詮、バルスらしい空騒ぎといったところね」
「けど、満を持して戻ったぜ。みんなのために百五十パーセントの力が出せる男、ナツキ・スバルをどうぞよろしく」
「見逃しても? ……ばんぐらでぃしゅっ!?」
「うきゃーなのよっ!?」
「パトラッシュちゃんも、スバルが戻ってくれてすごーく喜んでるみたい」
「ホント、お前にゃ助けられるぜ。愛してる」
「……いつもみたいに、ぶっ飛ばさないのな?」
「冗談か本気かくらい、この地竜にもちゃんとわかるってことかしら」
🔵 逃がしてくれない
――だから、戻ってきてしまう
無論、眠り続ける彼女から、スバルの『記憶』が戻ってきたことを喜ぶ声を聞くことはできない。
あの白い世界、まさしく『暴食』の毒牙にかけられそうになった瞬間、どうしようもない弱虫を蹴り上げる声がなかったら。
本当に彼女という存在は、ナツキ・スバルが自分を忘れても、逃がしてくれない。
だからまた、都合四十回の『死』を乗り越えて、戻ってきてしまう。
💪 ただのエミリア
❄️私はエミリア、ただのエミリアよ
「エミリアだよ。覚えてない、っぽいな」
「……さっき、ラムたちを逃がしてくれた相手、というのは知っているわ。でも、それだけで、それ以上のことは思い出せない」
「ベティーも、同じなのよ。……『暴食』の権能の効果、ってことかしら」
「はい! 私はエミリア、ただのエミリアよ。色々言いたいことはあるけど、ベアトリスともラムとも、おんなじ方向を見てる家族だから!」
「それだけわかってくれてたら、今の私は大丈夫。スバルが覚えててくれてるってわかってから、なんだかすごーく調子がいいの」
その、あまりに堂々たる振る舞いにスバルだけでなく、ベアトリスも絶句する。
🏠 我が家
――やられっ放しは、嫌い
「エミリア、と言ったわね。不思議なことに、あなたを見ていると、ラムの頭の片隅がやけにむず痒く感じるの。……レムのときも、同じことがあったわ」
「あなたを見ていて、感じるこの頭の疼きが、ラムとあなたの関係の答えだわ。だから、安心なさい。――ラムは、やられっ放しは嫌いなのよ」
「――。それは、私もおんなじよ。絶対の絶対、やり返すんだから」
「ええ、億倍返しね」
「多いな!?」
「あの最悪の三兄妹が始めやがった大食い祭りを、俺たちの絆でメタメタにしてやるぜ」
「――バラバラだけど、帰ってきた我が家感がある!」
第六章77『反撃の狼煙』終了。
スバル
エミリア
ライ
ベアトリス
ラム