第七章22
『無血開城計画』
血を流さずに城郭都市を落とす。スバルが出した答えは、誰も想像しなかった形をしていた。
🕊️ 鬼面を剥がされて
組み合わせるべきではない、二つの言葉
時は、都市庁舎で舞姫が舞うより遡る。
(・・・・・・)
「――無血開城、だと?」
嘲弄の響きはない。
あるのは純粋な疑念。何を言い出したのかわからないという一息。
「最小限の犠牲で済ませる算段はしても、そもそも犠牲ゼロって考えがお前にはない」
「当然だ。今俺たちがしているのは戦争だ。どうあろうと人死には避けられん」
「人的資源の浪費を避ける考えはできてもな」
(¬_¬)
「その、人的資源って考え方がそもそも好きじゃねぇな」
『人間』と『資源』。
組み合わせるべきではない単語だ。
そうやって一段階遠ざけるから、人が数字にしか見えなくなる。
🔥 すり減った魂
憔悴しきっていたはずの男が、大見得を切る
「ずいぶんと大見得を切るものよ。先ほどまで、あれほど憔悴していた貴様が」
「ボロボロの情けねぇ醜態晒したことは否定しねぇさ」
この国に吹っ飛ばされてから、災難がノンストップで降りかかっている。
右手が新品にすげ変わったのも、その一個だ。
幸運もある。
右手の交換。
それ以外は、幸運と災難の表裏一体。
「苦労の連続で、魂がすり減るとこだ。けど」
ちょうどそのとき、杖をついたレムが集会場の入口に着いた。
見届けにきたのだろう。
彼女の身勝手な懇願が、ナツキ・スバルの魂に火を付けたのだから。
🕳️ 抜け道
奇襲は、絶対にうまくいかない
「フロップさんから抜け道の話を聞いて、都市に入り込む戦略……奇襲のつもりか?」
「そんなの、絶対にうまくいかねぇぞ」
抜け道は、平時の警戒を通り抜けるためのものだ。
戦時の警戒網を潜れるとは思えない。
何より――
塞ぐか、塞がないことで『罠』へ変えるか。
「抜け道から抜け出た瞬間、向こうで待ってた相手に斧で頭をかち割られるなんてこともありえるぞ」
(>﹏<)
「なな、なんでそれを僕の顔を見て言うんだい、旦那くん! 怖い想像なんだが!」
全員に周知するつもりが、つい彼の顔をまじまじ見てしまった。
あれを、また目にするなど死んでも御免だ。
☠️ 人でなくてもいい
機能を麻痺させるだけなら、手はある
「出入りするのは、人間でなくてはならぬ理由もない」
「都市にこもった兵たちの機能を麻痺させるだけなら、物を持ち込ませるだけで十分だ」
「物って……」
(╬゚Д゚)
「なおさら、見逃せるわけねぇだろ!」
あの毒の威力は、自分の体で知っている。
あの地獄の苦しみは、戦いで死ぬよりなお悲惨だ。
「被害を最小限にするって方向性で話してたんじゃねぇのかよ」
「貴様は何を言っている。抜け道を使った奇襲でも、こちらの手勢が犠牲になる可能性はあろう。毒なら、それはない」
「手持ちの戦力の犠牲を減らす。これが、被害を最小限にするということだ」
為政者と、それ以外。
立ち位置の隔たりは、理解以上だった。
この男は、帝国兵への被害を一切考えていない。
🤲 まあまあまあ
フロップが、間に割って入る
「――まあまあまあ、待ちたまえよ、二人とも!」
「僕はぜひ、旦那くんの語った『無血開城』という話を聞いてみたい!」
「それが事実なら、夢みたいじゃないか!」
毒気を抜かれたのは、アベルの方も同じだったらしい。
「――。いいだろう、聞かせてみるがいい」
「貴様の案とやらでうまくこの商人を騙し、抜け道の所在さえ聞き出せればしめたものだ」
( ゚д゚ )
「ええ!? 旦那くん!? まさか君は……」
(╬゚д゚)
「違う違う違う! 口裏合わせてない!」
🚪 入口から
入口から、静かな問いが差し込まれる
場の間隙に、微かな声が滑り込む。
「それで、あなただったらどうするんです?」
「淡い夢でも、血塗られた現実でもない、別の道を見つけられるんですか?」
「……いちいち、俺の心が沸き立つ言い方をしてくれるもんだぜ」
覚悟を、引き締め直す。
「俺の案は抜け道も、血を流す必要もない」
「ただし、フロップさんには力を貸してもらうことになる」
✨ 恵まれた才能
フロップには、商才のほかにもうひとつある
「だけど、旦那くん、僕が非力で少々口が回るだけの行商人なのは君も知っている通りのはずだよ?」
「ああ、もちろん。でも、フロップさんには商人ってだけじゃなく、生まれ持って恵まれた才能があるんだ」
(・_・)
「――へ? 顔?」
「そうカ、確かにナ」
「――! 姉上、何か気付かれたのですカ?」
「いいヤ、顔がいいというスバルの話に賛同しただけダ」
(´・ω・`)
「姉上……」
だが、その脱力ものの審美眼こそがヒントをくれた。
「髪を染めたり、体の模様を描いてるってことは化粧はするだろ? その道具、ちょっと俺に貸してみちゃくれないか?」
💄 しばらくして
戻ってきた成果に、全員が言葉を失う
戻ってきた『成果』を見せられ、面々が言葉を失う。
困惑や呆れではない。
純粋な驚きと、感嘆だ。
「素材の出来がよければ、俺にもこのぐらいのことはできるってことだ」
「イマイチ、僕には成果が見えていないわけなんだが、どうなっている感じなんだい?」
「おいおい、心配いらねぇってフロップさ……いいや、心配いらないさ、フローラ」
( ゚д゚ )
「フローラ!?」
金色の長い髪を柔らかに梳かす。
目元がはっきりするようにアイシャドウ。
睫毛を整え、頬にほんのりと赤。
唇に紅を塗り、衣装を変えた。
華奢な体なら、ほんの少しの工夫で『彼女』と見せかけられる。
🧊 突き刺さる声
感嘆の中に、ひとつだけ冷たい声が混じる
(╬¬_¬)
「ふざけてるんですか?」
(>﹏<)
「え!?」
「ふ、ふざけてない! 全然ふざけてないから、そんな目するな!」
「あなたを……少しでも信じてみようとした私が馬鹿でした」
「結論が早い! その見切り方、今さらだけどラムそっくりだな!」
「は?」
🎯 真意
黙っていた一人だけが、狙いを見抜いていた
驚きを隠せずにいた周囲と違い、この男は真意を測るために黙っていた。
帝国二将。
城郭都市グァラルに駐留する帝国兵の指揮官。
堅実で無難な用兵を好む実力者。
そして――
「とびきりの『女好き』って聞いたぜ。帝国兵の間じゃ有名みたいだった」
(¬_¬)
「『女好き』……あまり、好ましい印象は受けませんね」
「つまり、無害な女だったら近付ける可能性が高い」
「それなら、このフローラの力があればいけるはずだ」
💪 肩を掴んで
一人でやらせるつもりは、最初からない
「安心してくれ、フローラ。もちろん、一人でやらせるような真似はしない。俺もおんなじように戦うつもりだ」
(´・ω・`)
「それはいくら何でも無茶ダ、スバル!」
「お前の目つきにも愛嬌はあル。だガ、生まれ持ったものハ……」
「おいおい、よしてくれよ、ミゼルダさん。あんた、俺の話を聞いてなかったのか?」
「お前には負けタ。……見せてみるがいイ、お前の可能性ヲ」
(・・・・・・)
「こレ、何の話してんだかわかんねーんだガ」
🎴 手札は少ない
化粧が通じるのは商人だけか、と問われる
「ナツキ・スバル、一つ聞くが……貴様の化粧、通ずるのは商人だけか?」
「言ったはずだぜ。仮に作戦を決行するなら、俺も同じ立場に立つってな!」
「たわけが。誰が貴様になど期待するか。鏡で自分の顔を見てからほざくがいい」
(´・ω・`)
「言い方!」
( ゚д゚ )
「あ、アベルがだト!?」
「平時であれば、一考するにも値せん愚策よ」
「だが、現状こちらの手札は少なく、打てる方策も限られる。効果的ならば、身を切ることも必然の状況だ」
座を追われたとて、皇帝であることに揺らぎはない。
ダメな権力者なら、我が身を大事にするあまりに下手を打つところだ。
👥 手が足りん
連れていく面子が、その場で決まる
「使えそうなのはクーナとタリッタ、といったところか」
(・_・)
「おい?」
「押さえを利かせるだけの手勢はいる。とはいえ、一目で『シュドラクの民』とわかるものは避けたい」
この二人は、素性を隠したい今回にはそぐわない。
「族長が言うんなラ、アタイから言うことは特にねーナ」
「姉上のお考えに従ウ。……化粧にも、興味があル」
🙋 私も
レムの同行だけは、断ることになる
「私も、ご一緒させてください。きっと役に立ってみせます」
「レム……悪いが、それは無理だ」
(╬゚д゚)
「――っ! また、私を不必要に危険から遠ざけようと……」
「お前の参加を却下するのは、純粋に作戦の成功率が下がるからだ」
「……お前は、都市の帝国兵たちに顔を見られてる」
「でも……でも、顔を見られたという条件なら、あなたも同じじゃないですか!」
「ああ、だけど違うんだ」
(・_・)
「は?」
「ですが、どうにかしてほしいと、そうあなたにお願いしたのは私です」
🐂 ボテちんを休ませたい
血の繋がった妹の目も、誤魔化せてしまう
「――おーい、あんちゃーん! そろそろ、ボテちん休ませたげないと可哀想だから、どっか置いときたいんだけどー」
(・_・)
「あれ、あんちゃんは?」
「おお、妹よ! 兄を見失うとはずいぶんと薄情じゃないか。僕はここだとも!」
眉を寄せて考え込む。
しばらく押し黙り、やがて何かに気付いたように叫んだ。
(≧▽≦)
「あんちゃん、実は姉ちゃんだったのか!」
(>﹏<)
「旦那くん!? これ、僕はいったいどうなってるのかな!? 怖い!」
血の繋がった妹の目も誤魔化せるなら、作戦のかなりの足掛かりとなりそうだった。
第七章22『無血開城計画』終了。
アベル
スバル
ミディアムに出会ったこと。
ミゼルダ
タリッタ
クーナ
ホーリィ。