リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章10

『閃光の如き』

監視塔までの砂地を、花畑が埋め尽くしている。刺激せずに抜けるしかない。

🌺 毒々しいほど鮮やか

砂海に、花畑は不釣合いだ

――砂丘の大地に入り乱れる、色とりどりの花畑。

時刻は夜。

砂丘の空には、不思議なことに星の光が見えない。

地上に立ち込める瘴気が、この広大な砂海を覆い尽くしているからだという。

いっそ毒々しいほどに鮮やかな花々は、砂海にはあまりに不釣合いであった。

スバル

「砂丘の、花畑……」

口にしてみても違和感のある単語の繋がり。

そこにスバルは既知感がある。

🍺 店主の忠告

花畑を見たら、一目散に逃げろ

脳裏に浮かび上がるのは、ミルーラの酒場。

片足を無くしたそこの店主が語った、砂丘に現れる花畑の話だ。

砂丘に花畑が見えたら一目散に逃げろ、と店主は言っていた。

――それは獰猛で醜悪な魔獣、花魁熊の縄張りであるのだと。

スバル

「けど、一目散って言っても……」

花畑が魔獣の縄張り、その情報は有益だ。

即座に逃げろという話も頷ける。

だが、問題があるとすれば、その規模だ。

😰 避けて通れない

メィリィの顔から、血の気が引いている

『砂時間』の猛威を乗り越え、空間の歪みを突破した一行。

その正面の視界いっぱいに、件の花畑は広がっているのだ。

文字通り、足の踏み場もないほどに密集している。

砂原に突如として発生した花々の楽園だ。

胡散臭いにも程がある。

スバル

「避けて通るの、無理だぞ」

掠れた吐息と区別がつかないほどの囁きで、メィリィに声をかける。

冷や汗が浮かび、色白の肌からは血の気が失せている。

言葉にされなくとも、非常にマズい状況にあるのが手に取るようにわかった。

メィリィ

「……ひとまず、みんな寝ているみたいだわあ」

🔢 百が限界

メィリィの力には、数と質の限界がある

スバル

「メィリィ、お前の体質なら魔獣を引っ込められるんだろ? 花魁熊たちも、あの花畑から引き上げさせることはできないのか?」

メィリィ

「……難しいわあ。十や二十、百ぐらいならなんとでもしてあげるけどお、それ以上の数だと私の指示が届かない子が出るものお」

スバル

「数の制限があるのかよ」

メィリィ

「質の制限もあるわあ。さすがに私も、白鯨や大兎にまでは無茶は言えないしい。花魁熊はその点、私と相性が悪いわあ。影獅子とは大違いねえ」

どれだけの数が潜んでいるのか見当もつかない。

ただ、メィリィの限度である百を軽く上回ることは確実だ。

🔀 進むか戻るか

戻る道は、最初からない

ユリウス

「現状、選択肢は『進む』か『戻る』かの二つと言えるだろう」

スバル

「戻るって選択肢は最初からなしだろ。『砂時間』をクリアしたのにもったいないってのもあるけど、それじゃ問題が何も解決しない。先送りにしても意味がない」

ユリウス

「別の『砂時間』に潜れば、あるいは別の道から監視塔へ挑戦できるかもしれない。思考停止して道を塞ぐのは短絡的ではないかな?」

日に三度の『砂時間』、そのどれかに正解の可能性があるのでは、という主張だ。

スバル

「仮に違う道に出たとしても、それが安全に監視塔までの道を確保してくれてるとは到底思えないな。ここは花畑だが、別の場所は違う障害の可能性もある。たぶん、楽して通れる道なんか用意されてねぇよ」

ユリウス

「……確かに。少々、希望的観測が過ぎる、か」

スバル

「それにひょっとすると、メィリィがいる状態で花魁熊の縄張り。今回が一番、可能性がある道なのかもしれねぇんだぜ?」

🚪 道を開けさせる

全部どかす必要は、ない

メィリィ

「数は辛いけど、やれって言うならやってみるわあ。なにも見える全部の動物さんに言うことを聞かせなきゃいけないわけじゃないものお」

スバル

「全部じゃなくていいって……?」

メィリィ

「花畑を通り過ぎるために、静かに最低限の花魁熊だけどかせばいいのよお。道を開けてもらって、あとは大人しく寝ててもらう。刺激しなければそのぐらい、なんとかやれるはずだわあ」

答える間に自分の考えに確信が持てたのか、声に力が戻る。

🤙 他力本願

スバルは、進むと決める

スバル

「俺は進むべきだと思う。どっちにしろ、リスクに飛び込まないで得られるリターンはない。問題から逃げてるばかりじゃ解決は見えてこないってもんだ」

ラム

(¬_¬)

「他力本願が主のくせに、ずいぶんと大きな口を叩くものだわ」

スバル

(・∀・)b

「結局、メィリィ頼みには違いない。万一、魔獣を刺激するようなことになったら、今度はエミリアたんやユリウス、ベア子頼みだ。悪ぃな」

スバル

「おお、あと、パトラッシュもな。悪い悪い」

ラム

「自覚があるのが救えないわ。せいぜい、万一のときは囮の役目を果たしなさい」

スバル

「その言われようも懐かしいよ。お前は覚えてないかもしれねぇけど」

魔獣の森で、あるいは王都へ向かう出発の朝に。

ラムから投げかけられた、似たような言葉があった。

あの日のやり取りは、どこへ消えたのだろうか。

❄️ 止まらないで

エミリアが、同意する

スバル

「それを、取り戻しにいこう。もう一秒だって、後戻りしたくねぇよ」

エミリア

「――うん、そうよね。私もスバルの言う通りだと思うわ」

自分の首に下がるペンダントに触れ、大魔石の中に眠る精霊への想いを指に掠める。

エミリア

「この花畑の向こうに、大切な思い出の鍵がある。止まらないでいきましょう。大丈夫。きっと、私がみんなを守ってみせるから」

アナスタシア

( ̄ー ̄)

「それ、女の子に言われるんは格好悪すぎるのと違う?」

うるさい、とは言い返したかった。

だが実際、その通りになるのが関の山だと思うと、なんとも難しいお話なのである。

🩻 根の張り先

花は、大地に生えていない

プレアデス監視塔までの距離は、目測でおよそ数キロまで縮んでいた。

『砂時間』を越える前は、十数キロほどの目測から一度として変わらなかった。

それに比べれば圧倒的な距離の短縮、到着は目前とすら言える。

スバル

「ただ何もかも、この花魁熊の巣を抜けてからだ」

草木が大地に根を張る、そんな当然の生態がこの花々にはない。

わずかに茎や根元が浮いて見える。

花々が生えるのは大地ではなく、そのおぞましき獣の肉体そのものであるからだ。

🤫 静かにして

寝起きの魔獣が、いちばん凶暴だ

メィリィが下した指示は単純明快。

――出来得る限りの沈黙、それのみである。

彼女の言によれば、現在の花魁熊たちは休眠状態の中にある。

滅多なことで目覚めはしない。

代わりに、寝起きの魔獣の凶暴性は計り知れないらしい。

メィリィ

「悪い動物さんは活動したてが一番凶暴なのよお。退治された白鯨なんかも、霧と一緒に出てきた直後が一番怒りっぽくて厄介らしいわあ」

その講釈に則って考えると、白鯨を迎え撃ったのは平原に姿を現したその瞬間。

つまり、寝起き直後の最悪のタイミングだ。

苦しめられた思い出が蘇り、よく勝てたものだと遅まきながら自画自賛する。

メィリィ

「寝てる子を起こして怒らせるのは、人でも動物でも悪い動物さんでもおんなじ。だからあ、ちゃあんと静かにしててねえ。それだけできたらあ、私の方でなんとかしてあげるからあ」

🏹 屋根の上

エミリアが、屋根に伏せている

布陣は入れ替わり、竜車の方が先に進むスタイルだ。

御者台のメィリィが花魁熊に意思を伝え、その意図を通じてユリウスが竜車を進める。

パトラッシュは、その竜車の後ろを付かず離れずで並走する。

竜車の屋根の上に人影がある。

見慣れた細身のシルエットは、エミリアだ。

何事か問題が発生したときに、即座に動けるようにするためである。

ユリウスの精霊術が当てにならない現状。

高火力で範囲攻撃が可能な味方は、エミリアしかいない。

ベアトリスも無理をすればできなくはない。

だが一発大きいのを撃ち込んだ時点で、スバルがガス欠になってしまう。

🫥 守られる側

守るべき相手に、頼っている

戦力的な意味で他者に、それも本来なら守らなければならない相手に依存する。

それは、スバルの劣等感の一つだ。

それがなければ、そうする必要がなければ、あるいはレムも。

そんな風に思ってしまう弱さは、スバルの中に常にある。

――コツン。

ふいにベアトリスの後頭部に、顎をカチ上げられた。

今は目の前に集中しろ、ということだろう。

頭上を見ると、エミリアも指を突き付けて同じ注意を促している。

本当は頬を叩いて気持ちを切り替えたい。

だがそんな仕草さえも命取りになりかねない以上、自重は必須だ。

🐻 花魁熊

花畑が、起き上がる

メィリィ

「どいて」

最初、呼びかけには何の反応もない。

メィリィ

「どいて」

重ねて、命令を呼びかけた。

それでもやはり、花畑には何の変化も生まれない。

そして――。

のそりと、まさに地面がめくれ上がるように、花畑が『起き上がった』。

🥀 命を啜られている

花と、共存できていない

体長は、おそらく二メートルから三メートルの間。

足は短く、代わりに腕は地面に擦るほど異様に長い。

太い腕の先端には、鉤爪のような爪がびっしりと生えている。

背面から脇にかけて、鮮やかな花弁が揺れている。

だが間近で見れば、目がいくのは背面よりも体の前面側だ。

黒い毛に覆われて見える体躯。

しかし体中を這い回るのは、体毛ではない。

びっしりと肉体を覆っているのは、細く入り乱れる花々の根だ。

根の届かない部分は異常なまでに渇き、肉も皮も萎み切っている。

顔貌は頭蓋骨の形がわかるほど極限まで水を失っている。

丸く飛び出す眼球は、この世の全てを憎悪するように血走っていた。

それはさながら、自らの体に根を張る花々に命を啜られているかのようだ。

花魁熊は花々と共存できていない。明らかに、花に命を殺されている。

👃 甘すぎる匂い

花の香りが、暴力的だ

竜車が通れるだけのスペースを空けるために、動き出す花魁熊は十数頭。

そして進めば進むほど、その数は加速度的に増えていく。

――ブチッ、ブチブチッ。

何も吸い上げられない砂原から根が引き抜かれ、千切れる音が無数に連鎖する。

花魁熊の縄張りに入った途端、暴力的な花の香りが飛び込む。

砂蚯蚓と相対したときのような悪臭とはまるで違う。

だが、質の違う甘い香りが入り乱れる状況が暴力的であることには変わりがない。

鼻腔が侵され、脳内の歯車が甘い香りに焦げ付くような錯覚さえ覚える。

冗談抜きに眩暈を起こし、頭痛すら呼び起こすおぞましい臭気。

🚧 塞がる後ろ

通った道が、閉じていく

ふいに、何かに気付いた様子でベアトリスがスバルの袖を引いた。

頻りに背後を気にしている。

メィリィの指示で開かれた花畑の空白。

それが竜車とパトラッシュの通行を見届けると、端からどんどん元通りになっていく。

命令を叶え、通行した時点で命じられたことは達成。

また元の定位置に戻り、そこで休眠状態に入る。

これでは、途中で停車することもままならない。

🛑 一頭が止まる

竜車の前に、一頭が立ちはだかる

竜車の前進が停止した。

一頭の花魁熊が起き上がったまま静止し、その虚ろな目を御者台の二人へ向けている。

その一頭が不審な動きをすると、付近にいた花魁熊の動きにも変化が生まれた。

のそのそと素直に移動する足が止まり、視線が竜車へ集まり始める。

――マズい、とスバルは直感的にそれを悟った。

花畑の突入地点からは、すでに数百メートル進んでいる。

後方の道は塞がれており、全方位を花魁熊に囲まれていることは明らかだ。

その数は数百頭、あるいは千頭に及ぶ可能性もある。

暴力的な数の差だ。

🐈 ちっちっち

メィリィが、指で気を逸らす

判断に迷うスバルたちの前で、最も冷静だったのはメィリィだった。

唇に指を当て、躊躇するスバルたちを先に落ち着かせる。

それから指を前に突き出し、自分を見る花魁熊を睨みつけた。

メィリィ

「ちっちっち」

舌を弾くような音。

人が子猫をあやすときに出すような吐息だ。

凶悪な魔獣が相手では、何の緩和作用もない。

しかし指先は音に合わせて揺れ、視線は御者台の二人ではなくメィリィの指へずれていく。

メィリィ

「ちっちっち……ちぃー」

焦点が合ったと確信を得たメィリィが、揺らしていた指ごと腕を竜車の右へ向ける。

その動きにつられ、通せんぼしていた花魁熊がのそりと一歩を踏み出した。

安堵の息が、スバルの喉から漏れる。

💢 癇癪

ジャイアンが、耐え切れなかった

そのまま、花畑の行軍が再開する――はずだった。

突然、極限の膠着状態を強いられて耐えられるほど、心というものは強くない。

それは人間もそうだし、地竜であっても同じだ。

――グオオオッ!!

負のプレッシャーを間近で浴びたジャイアンが、癇癪を起こしたように地面を踏み鳴らした。

スバル

Σ(゚д゚)

「しま――っ」

唐突に静寂を切り裂く咆哮に、休眠状態にあった花魁熊が一斉に反応する。

竜車から離れようとした一頭が振り返り、その反応が周囲にも伝染。

魔獣がその咢を開き、牙を剥き出しにして竜車に飛びかかる。

🧊 エル・ヒューマ

エミリアが、先に撃つ

エミリア

「――エル・ヒューマ!!」

急速にマナが実体化し、作り上げられた氷槍の先端が魔獣の頭部を貫いた。

開いた大口の中に鋭い穂先が突き刺さり、うなじから先端が突き抜ける。

花魁熊は声も上げられずに絶命して後ろに倒れた。

スバル

(ノ`Д゚)ノ

「走れ――!!」

叫びに呼応し、ユリウスが手綱を操ると竜車が勢いよく走り出す。

パトラッシュもそれに続き、立ち尽くす魔獣を横合いから撥ねて猛然と駆け出した。

メィリィ

「きたきたきたきたきたきたきた――ァ!!」

広大な花畑が一斉にめくれ上がり、花魁熊の群れが押し寄せてきた。

⚔️ 中と近

エミリアが空から、ユリウスが横から

鉤爪を備えた太い腕が振り上げられ、竜上のスバルへも打ち込まれる。

直撃すれば人体など軽々と剥がされ、内臓がはみ出すこと請け合いの威力。

しかし、命中する寸前に青白い煌めきが割り込み、魔獣に突き刺さる。

エミリア

「えい! やあ! よしょっ! この……いっぱい、ヒューマぁ!」

気の抜ける掛け声とともにマナが渦巻き、黒い空に青白い光が乱舞する。

それは鋭い先端を地上へ向ける無数の氷刃へ姿を変えた。

一瞬の停滞の直後、まるで推進力を得たかのように射出される。

スバル

「うおおお! さすがエミリアたん! 惚れ直した!!」

エミリア

「そういうこと言ってる場合じゃないでしょ! 走って!」

こうした突然の戦闘に際し、エミリアは驚くほど冷静に対処する。

彼女の中で戦いへの忌避感は、始まってしまえば消し去れる逡巡なのだ。

🌸 御者台の交代

ラムが手綱を、ユリウスが剣を取る

ラム

「バルス、死ぬ気で走らせなさい。死にたくなければ!」

スバル

(゚д゚)

「ああ、もちろん――あれ、ラム!?」

御者台に座って手綱を握るのは、いつの間にか客車から移動してきたラムだ。

スバル

「ユリウスは!?」

ラム

「遠距離攻撃の手段がないと、御者台にいても役立たないそうよ。だから」

竜車の側面、その装飾の一つに取りつき、騎士剣を振り回して魔獣を切り払うユリウス。

ユリウス

「エミリア様にばかり、ご負担をおかけするわけにはいかないからね」

スバル

「俺へのあてつけかお前!」

ユリウス

「そんなつもりは――」

斬撃が鉤爪の隙間を縫い、腕を深々と切り裂く。

踊る剣先は絶叫を上げる魔獣の喉を閃光のように貫き、脳幹を破壊して絶命させた。

その手際、最小の破壊で実に優美。

ユリウス

「ないとも」

💜 ミーニャ

ベアトリスの弾は、スバルの残量だ

スバル

「ベア子、いけるか!?」

ベアトリス

「スバルの方こそ、ガス欠にならないように十分に注意するかし、ら――!」

片手で手綱を、もう片方の手でベアトリスを抱え上げ、竜上に立たせる。

しっかりと互いの手を握ると、腹の奥で何かが疼いた。

淀みのようなそれは熱を持ち、ゆっくりとベアトリスの方へ流れ込む。

ベアトリス

「ミーニャ!」

――パリンッ。

紫の結晶が魔獣を撃ち、直撃を受けた肉体もまた、結晶と同じように砕けた。

スバル

「よし、いいぞ、ベア子!」

ベアトリス

「でも、乱発はできないのよ! 注意深く節約して……ミーニャ!」

スバル

(゚д゚;)

「注意深く節約は!?」

魔法の一発ごとに魂が削られるような喪失感を味わう。

軽口を叩いて余裕ぶり、ベアトリスの気後れを減らしてやる。

🪱 とっておき

メィリィが、砂蚯蚓を呼ぶ

メィリィ

(≧д≦)

「ああ、もうもう! なんでこうなるのよお! これ、とっておきなんだからあ!」

涙目になり、赤い顔をして周りを取り囲む花魁熊の群れを見渡す。

そして、自分に従わない魔獣に指を突き付けた。

メィリィ

「悪い悪い動物さんたちにお仕置きしてあげるわあ! きなさい、砂蚯蚓!」

スバル

(゚Д゚)

「――嘘だろ!?」

――ズドオッ。

砂の下から豪快に巨躯が飛び出し、巻き込まれた花魁熊が何頭も空に打ち上げられた。

運悪く真上に上がった花魁熊は、強大な口に呑まれ、咀嚼される。

メィリィ

「いっけえ、砂蚯蚓! みんなみいんな、ぶっ潰しちゃええ!」

スバル

「マジか、オイ! マジかマジかマジか、おいおいおい!」

もはや怪獣大決戦のような有様に、スバルはまともな言葉もない。

📉 押し負ける

数で、削り取られていく

メィリィ

(゚д゚;)

「ああ! 砂蚯蚓があ!」

多数の花魁熊に取りつかれた砂蚯蚓が、巨躯に爪を立てられて倒れ伏す。

軟体を支える皮膚は容易く鉤爪の餌食になり、断末魔の悲鳴が砂海に木霊した。

メィリィ

「次! 次々い! どんどんきてえ!」

顔を蒼白にしたメィリィが手を叩く。

今度は同時に六匹。

しかしいずれも最初の一匹に比べると二回りは小さい。

花魁熊の群れに囲まれれば、あっという間に狩られてしまう。

スバル

「このままじゃ……っ」

🗼 もうちょっとだ

塔が、目の前まできている

数の暴力に押し負ける。

ひどく絶望的な感覚に、何か打開策はないかと必死に周囲へ目を向けた。

そして、気付く。

あれほど遠かった監視塔が、ほとんど眼前と言っていい距離まで迫っていることに。

スバル

「もうちょっとだ! このまま監視塔に辿り着けば――」

それで魔獣が引き下がるわけではない。

だがそれは、やけに力のある希望に思えた。

この瞬間、何か特別な考えがあったわけではない。

ただ、監視塔に辿り着けばおそらく、この状況を打開する力があると感じた。

藁にも縋るような希望の精神だ。

そしてそれは事実、間違っていなかった。

✨ 塔の中心

何かが、光った

ただし、その力はそうそう都合のいいものではない。

プレアデス監視塔へ近付く、不埒な輩に対して公平に降り注ぐ鉄槌だ。

必死に目を押し開き、パトラッシュにしがみついてベアトリスを支えながら。

スバルは正面に見える監視塔を睨みつける。

汗が伝い、微かに目を細めた瞬間、わずかな違和感を得た。

塔の中心、そこで何かが光ったように見えたのだ。

スバル

「なん……」

だ、と最後の一文字は続かなかった。

🩸 砂が呑む

光が、空を走った

――光が空を走り、それは狙い違わずスバルの頭部を直撃する。

瞬間、ナツキ・スバルの首から上は衝撃に吹き飛び、意識もないまま蒸発した。

その一瞬の惨劇を目にし、声を上げる者はこの場にいない。

何故なら、それを目にする者も、悲鳴を上げるべき者も、根こそぎにされたからだ。

音を立てて、頭を無くした地竜が倒れる。

猛然と横倒しになる竜車の勢いに巻き込まれて、やはり頭部を無くした人体が押し潰される。

へし折れ、肉片へと変わる。

血溜まりだけが砂の上に転がり、乾いた砂は流れる血潮を呑み込んでいく。

やがてゆっくりゆっくりと、細かい粒子は朽ちる何もかもを腹の中へ引きずり込む。

血の華だけが、彼らの旅路の痕跡であったかのように鮮やかに色を残し。

しかしその紅の華さえも、全てを呑み込む砂の中に消える。

――一行はここに、全滅した。

第六章10『閃光の如き』終了。