リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章21

『ズィクル・オスマン』

城郭都市を預かる帝国二将。『女好き』と呼ばれる男の、これは敗北の記録。

💈 二つ名

ズィクルは『女好き』と呼ばれている

色魔。

好色。

愛欲の徒。

帝国軍人にとっては、不名誉な呼び名の羅列だろう。

だが本人は、この呼び名を気に入っていた。

――否、誇りに思っていたといっても過言ではない。

理由がある。

『女好き』と呼ばれる以前の異名が、たまらなく嫌だったからだ。

その異名を忘れさせてくれた称号を、彼は誇らしく掲げている。

👨‍👩‍👧 姉が四人、妹が六人

女きょうだいばかりの家で育った

オスマン家は代々、帝国軍人を輩出してきた家系だ。

だがズィクルの代は血が偏った。

姉が四人。

妹が六人。

男兄弟は、一人もいない。

多くの人間は、そうした環境で女性への幻想を失う。

彼は逆だった。

外の女性に、理想と幻想を求めた。

女性に優しくしたい。

同時に、女性に優しくされたい。

尽くし、尽くされることを至上の喜びと考え、実践した。

その姿勢が、的確な用兵への嫉妬と折り重なった。

――そうして『女好き』の名がついた。

📜 秘密裏の密命

今年の演習には、別の目的があった

バドハイム密林周辺での演習は、毎年のことだった。

だが今年は違う。

開催時期が早められ、一部の将校にだけ目的が通達された。

――『シュドラクの民』との交渉。

そして出立前、秘密裏にもう一つの命令が下された。

ズィクル

(・・・・・・)

「隷属を誓わせるか、滅ぼせなどと……帝都は何をお考えなのだ」

皇帝ヴィンセント・ヴォラキアの治世は、八年。

血も流れ、火の手も上がり、命は失われる。

それでも、帝国始まって以来の平穏な時代だった。

戦いの申し子でありながら、どこか戦いを忌避する差配。

それは戦争をくだらないものとみなしているが故ではないか。

勝手にそう想像していたから、裏切られた気になるのかもしれない。

🍺 女性と過ごさない夜は

話の弾む、一般兵がいた

遠征のたびに、ズィクルは部下と酒を飲む。

それも上級兵や三将ではなく、もっと下級の一般兵とだ。

同行する部下の考えや嗜好を、把握しておきたいから。

この夜の相手は、やけに口が回った。

常に好奇心旺盛に、あたりを見回している。

何を考えているのかと聞けば――

この酒場が戦場になった場合の想定をしている、と冗談を言う。

常在戦場の心構え。

上官相手に物怖じしない態度。

好意が重なり、話すべきでない点まで話してしまった。

『シュドラクの民』への密命のことも。

明言こそしていないが、そうとわかる形で聞き出された感触があった。

もしこれが他国の回し者であったなら、極刑ものの失態だった。

🔥 思いがけぬ報告

穏便に済ませる計画が、崩れる

ズィクル

( ゚д゚ )

「――シュドラクの襲撃を受けて、陣が焼き払われただと?」

密林の西側を囲うように展開した、複数の陣地。

襲撃を受け、反撃もままならずに壊走。

逃げる背を撃たれ、さらに被害は拡大。

百以上の、犠牲者。

ズィクル

(´・ω・`)

「馬鹿な……」

穏便な計画は、崩壊した。

『シュドラクの民』が皇帝閣下の敵となったことだけは、確実だった。

🛡️ 背水

攻め込まず、増援を待つほうを選ぶ

ズィクル

(・・・・・・)

「情けない話だが、帝都からの増援を待ち、バドハイム密林の逆賊を討つ」

現状の戦力で森へ攻め入る選択肢もあった。

だが密林は彼女たちの領域だ。

生半可な数の有利は、消される。

確実な勝利には、圧倒的な有利が要る。

ズィクル

「正門を閉ざす準備を怠るな。この城郭都市の壁は越えられん」

ズィクル

( •̀_•́ )

「徹底して穴を塞げ! 抜け穴の類も見逃すな!」

🛡️ 三将

「その点、閣下にご報告が。焼かれた陣地より戻った兵の一部が、外からの襲撃に備えてすでに抜け穴を潰して回っていると」

ズィクル

(・_・)

「なるほど? 『将』以外の兵にも先が見通せるものがいるのは心強い」

――すでに背水。その状況で最善手を打たない道理はない。

🎭 場違いな報告

この数日、都市で話題になっているもの

🛡️ 部下

「はい。どうやらこの数日、都市では旅芸人の一座が話題になっているらしく」

ズィクル

(・_・)

「旅芸人……」

緊迫した戦時下にそぐわぬ報告だ。

だが叱責する理由はない。

戦時下を意識した生活を民に強いるのを嫌ったのは、他ならぬ自分なのだから。

ズィクル

(´・ω・`)

「取り締まれというなら、あまりそうしたくはないぞ」

ズィクル

「市民の反感は爆発する。わからないではないだろう」

🛡️ 部下

「もちろん、閣下の仰る通りです。ですから、取り締まれなんて言いません。ただ……」

😤 高まる不満

兵の間で囁かれている言葉がある

🛡️ 部下

(・・・・・・)

「閣下、あまり大きな声では言えませんが、兵の中でも不満が高まっています」

🛡️ 部下

「都市にこもり、防戦の構えを敷く閣下に対しても思うところがある様子」

ズィクル

(´・ω・`)

「――。そうか。いや、それはあって当然だろう」

先制攻撃を許し、多くの兵を死なせたのは自分の落ち度だ。

その後も、挽回の機会が与えられないまま。

矛先が自分へ向いても、不思議はない。

🛡️ 部下

「口さがないものの中では、閣下のことを――」

ズィクル

(╬゚д゚)

「――言うな」

二将なんて地位を得ても、その罵りだけは受け止められない。

🍷 宴席の許し

不満を解消する場を、設けることにする

ズィクル

(・_・)

「なるほどな。つまり、兵たちの不満を解消する場を設けろということか」

🛡️ 部下

「はい。そのために踊り子たちが利用できるのではないかと」

ズィクル

(¬_¬)

「その踊り子とやらは大層美しいのだと見える」

🛡️ 部下

(≧▽≦)

「それはもう! あ、いえ、きっと閣下のお目にも適うかと存じます」

ズィクル

(・∀・)

「ふんふん、それはなかなか期待が高まるな」

ズィクル

(´ー`)

「よし、わかった。この場はお前の口車に乗せられてやるとしよう」

ただし――

ズィクル「そのものたちが武器を持ち込まないよう、調べるのを忘れるな」

🎶 大仰な前口上

ベールが、外される

🎵 楽士

(・∀・)

「――これよりお目にかけますは、大瀑布の彼方より参りました麗しの舞姫」

🎵 楽士

「日の光を呑み込む艶めく黒髪に、精霊の祝福を受けた美しき白い肌」

ゆっくりと、もったいぶりながらベールが外される。

ズィクル

( ゚д゚ )

白い肌。

背に流した、長い黒髪。

だが、前口上では表現が不足していた。

髪でも、肌でもない。

――目だ。

切れ長で、睫毛の長いそれ。

整った顔貌の、最も優れたるところにある。

思わず喉の渇きを覚えたのは、本能が渇望したからだ。

💃 絃の音

誰もが、呼吸を忘れた

🎵 楽士

「今宵、お目にかけますは我らが舞姫の故郷、大瀑布の果ての舞」

絃の弾かれる音が、緩やかな音楽へ結び付く。

うるさく会話していた『将』たちも、赤ら顔で息を詰めた。

長い手足。

揺れる黒髪。

誰もが、言葉を失った。

帝国兵は狼の群れだ。

だが、知性も言葉も持たない獣ではない。

だから息を呑み、呼吸を忘れ、その舞に魅入られる。

👁️ 外れない視線

その目から、目を離せない

黒髪でも、白い肌でも、造詣の美しさでもない。

――目だ。

切れ長の瞳が舞台を睥睨し、広間の最奥を見つめている。

そのひと時も外れない目が、脳髄を直接掴んで離さない。

やがて、舞姫はゆっくりと広間を縦断する。

そして目の前で跪き、両手を差し出した。

🗡️ 剣を求める仕草

舞姫が差し出した手の、意味を悟る

それが剣を求める仕草だと、自然に理解した。

舞は熱を増し、次の段階へ。

剣舞へ移る上で、舞姫が剣を欲している。

渡さない、という選択肢がなかった。

部下も『将』も、誰もその行為を邪魔立てできなかった。

そのぐらい、これは定められたことなのだとばかりに自然で。

だから――

💃 舞姫

(¬_¬)

「――貴様の負けだ、ズィクル・オスマン」

引き抜かれた剣が、喉元に突き付けられる。

そう冷酷に宣言されてなお、自らが『女好き』故に敗れたことを理解できない。

その目から、この瞬間に至っても目を離せない。

冷たく、多くを惹きつけるカリスマ。――どこかで、見たような。

第七章21『ズィクル・オスマン』終了。