リゼロを読む WEB版・初見向け解説
明るさ
字の大きさ
行間
地の文の書体

206話

第七章38

『八年越しの褒美』

皇帝への宣戦布告。切れる札は、アルが八年前に置いてきた手柄しかない。

📣 嘘は一つもない

掲げた口実には、嘘が一つもない

接見を求めるにあたって掲げた口実は、こうだ。

「現ヴォラキア皇帝に反旗を翻すべく、相応の権力者が内々に話をしたがっている」

――嘘は一つもついていない。

『現ヴォラキア皇帝』とは、アベルの名と立場を掠め取った相手のこと。

『相応の権力者』とは、本来なら玉座に座っているはずの本物のこと。

ナツミ

(๑•̀ㅂ•́)

「これが、ナツミ・シュバルツの計略というものですわ――!!」

――しかし。

🧊 冷え込む広間

穏便な撤退が、不可能になる

カフマ

「――閣下への反乱分子、だと?」

穏便な撤退が、不可能になった。

――策士策に溺れる。これほど実感したことはない。

ナツミ

(;´Д`)

「でも、間の悪さと情報共有不足は、どちらもアベルのせいではありませんの……?」

カフマ

「その口を閉じていろ。――ヨルナ一将」

カフマ

「貴公はわかっていて、閣下とこのものらを同席させたのか? 答えていただきたい!」

怒りの矛先は、こちらではなくヨルナに向いている。

――スバルたちを、脅威とみなしていないのだ。

彼から伝わる闘気は、アラキアと同質のものだった。

ヨルナ

「わかっていて、とはどういう意味でござりんす?」

カフマ

(╬゚д゚)

「白々しいことを……! 閣下に幾度も進言した通り、やはり貴公は危険だ」

ヨルナ

(*´艸`)

「わっちの重ねた狼藉の数々……まさか、主さんはご存知のうござりんしたか?」

アル

「当事者なのに蚊帳の外、ってか? いいんだか悪ぃんだか……」

👁️ 見透かす黒瞳

向けられた視線が、本物と同質だった

ヴィンセント

「――相変わらず、反吐の出る悪趣味よな」

ヨルナ

「あや、閣下のお気には召さのうござりんしたか?」

ヴィンセント

「たわけ。一方的に過ぎれば、それは兎に犬を狩らせるのと同じこと」

ヴィンセント

「ただの残虐を遊興とするほど、余も帝国に飽いてはいない」

スバル「それを表に出すほど、間抜けなはずがありませんもの……」

ヴィンセント

「――貴様」

本物と瓜二つの、作り物の顔。

その黒瞳が、こちらの全てを見透かそうとしてくる。

ヴィンセント

「何か、余に言いたいことがあるなら言ってみるがいい」

ナツミ

(#`皿´)

「……腹の立つ目ですわね」

カフマ

(゚Д゚ ;)

「な……!?」

ナツミ

(>﹏<)

「あ! いえ、違います! 違いますわよ! 今のは思わず勢いで!」

驚きながらも、こちらを値踏みする眼差し。

――バドハイム密林でも、集落でも、都市庁舎でも。

本物のアベルが向けたものと、同質だ。

⚔️ 分水嶺

ここで捨てた意見は、二度と拾えない

――ここは分水嶺だ。

ヨルナの眼差しは、興味を失う寸前だった。

一度手放したものを、再び取ろうと考えるほど酔狂な相手ではない。

ここで捨てた意見は、二度と掬えない。

ヴィンセント

「――心して答えよ。余に、何を告げるのかを」

スバル「ヨルナ様の仰る通りです。わたくしたちは、あなたへ宣戦布告いたしますわ」

グァラルで待つレムが、この場にいないアベルが。

後ろで身構えるアルとミディアムが、判断を委ねてくれた。

――その意味と重さを、投げ出さないために。

ヴィンセントが手を上げて制していなければ、カフマが爆発していた。

だが、そうはならなかった。彼が、そうさせなかった。

🐺 剣狼の国

首を狙われた側が、笑って受け止める

ヨルナ

(・∀・)

「くふ……」

ヴィンセント

「何を笑う、ヨルナ・ミシグレ」

ヨルナ

「まずは、お客人がその口先を引っ込めなかったことでござりんしょう」

ヨルナ

「加えてこのお三方、もしかしたら閣下の身を危うくするやもと……どうなさりんす?」

ヴィンセント

「喰えぬ女よ。余に従わぬことを信条とする貴様も、余の意はわかっていよう」

アベル「ここは剣狼の国だ。この首を狙う気概があってこそ、真に帝国民と言えよう」

ナツミ

「……ずいぶんと、お優しいことですわね」

ヴィンセント

(¬_¬)

「ふん」

振る舞いは、本物の完全なトレースだ。

いっそ、こちらのアベルの方が偽物ではと疑いたくなる。

ヴィンセント

「だが、貴様らに易々とくれてやれるほど、余の首の価値は安くない」

ナツミ

「――。では、わたくしたちをどうされるおつもりですの?」

ヴィンセント

「それが問題だな」

👴 意識の外にいた

数に入れていなかった三人目が、口を開く

カフマ

「閣下! 自分にお命じください! あのものたちを……」

オルバルト

(´ー`)

「――カフマよぉ、お前さん、あれじゃぜ。さっきからちょいちょいうるさすぎんじゃろ」

護衛の三人のうちの一人。白い髪と眉を長く伸ばした、皺だらけの老人。

――視界には入っていた。意識に入っていなかっただけだ。

本当の意味で、気配を消していたのだろう。

カフマ

「閣下の煩いを取り除くのも忠臣の務めでしょう、オルバルト翁!」

オルバルト

(´ー`)

「自分で忠臣とか言い出すと、粛清される奴の前段階っぽく聞こえてこんか?」

オルバルト

「ワシ、嫌じゃぜ、前途ある若者の首とか抉んの」

スバル「『悪辣翁』オルバルト・ダンクルケン……!」

オルバルト

「その呼び名、ワシあんまし好きじゃねえのよな。『悪辣翁』とかひどすぎんじゃろ」

オルバルト

(≧▽≦)

「そんな性悪ジジイに見えっかよ、ワシ。まぁ、直接聞かれたら言えんか。かかかっか!」

アラキア、チシャ、そしてオルバルト。

序列の高い『九神将』ばかりが、すでに敵方だ。

🎰 伸るか反るか

八年前の話を、いま持ち出す

アル

「――そこの爺さん、オレのこと覚えてたりする?」

オルバルト

「あんじゃって?」

アル

「前会ったときは被り物はしてなかった。けど、腕はなかったし、ちょっと話もしたぜ」

アル

「――アラキア嬢ちゃんも、一緒だった」

オルバルト

(≧∀≦)

「お前、あれかよ! アラキと一緒に島取り返した奴か!」

オルバルト

「かかかっか、まだ生きてたとはなぁ!」

ヴィンセント

「――。オルバルト、貴様の知った顔か」

オルバルト

「そのとき、ギヌンハイブで起こった反乱……それを止めっちまったのが、そこの兜の奴とアラキってわけじゃな」

アル

「恐れ多くも皇帝閣下、実は八年前、オレは閣下のお役に立ったはずで……」

アル

(・∀・)

「まだその褒美をもらってねぇ」

オルバルト

「いらんって言ったの、あいつじゃったけどな」

ヴィンセント

「オルバルト、黙っていろ。――続けるがいい、道化」

アル「――その褒美を、今日もらいてぇなと」

アベルの言葉が事実なら、皇帝の信条には『信賞必罰』が含まれる。

――ならば。

ヴィンセント

「貴様、何を求める。余の首か?」

ナツミ

「こちらの親書、これをヨルナ様へお渡しするのがわたくしたちの目的」

ナツミ

( •̀_•́ )

「わたくしたちの……主から、ヨルナ様への恋文です」

ヴィンセント

「八年越しではあるが、剣奴孤島の一件、大儀であった」

ヴィンセント

「欲するならば褒美はやろう。その親書とやら、ヨルナ・ミシグレに渡すがいい」

☝️ ただし

許されたのは、どこまでなのか

ヴィンセント

「――ただし」

アベル「余が許すのは親書を渡すことだ。意味はわかるな?」

ナツミ

「仮に親書をお渡しした場合、ヨルナ様のお返事はいついただけますでしょう?」

ヨルナ

「わっちも女……恋文をもらってすぐ、逸るように封を開ける姿なんて見られたくのうござりんす」

ヨルナ

「でありんすから……お客人方が、わっちの城を出られてから、ゆっくりと目を通しんす」

ナツミ

「――。城を出たら、読んでいただけるんですのね?」

ヨルナ

「わっちもこの魔都の主、侍従もいる前で嘘偽りは言わぬでありんす」

褒美の内容を「無事に城を出ること」に変えることもできた。

だがそれでは、ヨルナと手を結ぶ可能性が絶たれる。

ナツミ

「アル、ミディアムさん」

アル

「ま、兄弟に力貸すって言っちまったしな」

ミディアム

(๑•̀ㅂ•́)

「あんちゃんからも頼まれてるからね! ナツミちゃんをよろしくって!」

ナツミ

「どうぞ、わたくしたちの主からの親書です」

ヨルナ

「ご苦労様でありんした。もっとも、ここからの方が大変でありんすよ」

スバル「――皇帝陛下、恐れ多くもあなたの玉座、わたくしたちがいただきます」

🌿 深緑の茨

両腕を伸ばすと、上着が爆ぜた

カフマ

(#゚д゚)

「よくぞ吠えたぞ、不届きものめらが――っ!!」

両腕を伸ばしたカフマの上着が爆ぜる。

無数の茨が、のたくる蛇のように殺到した。

一本一本がスバルの腕に匹敵する太さの、針を備えた蔦。

――だが、襲ってきたのは痛みではなかった。

アル「――よく言ったぜ、兄弟」

前に出たアルが、身幅の厚い青龍刀で受け流していた。

肩と脇腹に、じくじくと血が滲んでいる。

ナツミ

「って、ミディアムさんは!?」

ミディアム

(;´Д`)

「うーあー! 危なかったーっ! アルちんの言う通りにしなかったら死んでた!」

――ヨルナの周囲だけ、茨が不自然にねじれて避けていた。

ナツミ

「お騒がせして失礼いたしました。わたくしたちは、お暇させていただきますわ」

ヨルナ

「気を付けてお帰りなんし。お三方が城を出損のうござりんしたら……」

ナツミ

「親書は読まれない。心得ています、わ」

スバル「わたくしたちが城を出るまでの勝負。――アル、ミディアムさん!」

ナツミ

「右へ!!」

🪢 なけなしの最善手

出口へは向かわず、近道を選ぶ

広間の出口へは向かわない。長い道のりを戻る余裕はない。

――必要なのは、大幅なショートカットだ。

ナツミ

「ミディアムさん! 頑張って!!」

ミディアム

「――頑張る!!」

アル

「右! 右膝! うなじ! エロい腰!!」

ミディアム

「う! た! どりゃあ!」

血を吐くようなアルの絶叫が、迫る危機の狙いを教える。

ナツミ

( ゚д゚ )

「茨に針と、ビックリ人間ですの!?」

アル

「ありゃ『虫籠族』だ! 体の中に入れた虫で攻撃してくんだよ!」

ミディアムの一振りが柵を砕き、跳ね上がる足が壁を吹き飛ばす。

眼下、地上まで三十メートル以上。視界一杯に魔都の青空。

オルバルト

「悪ぃんじゃが、一応、ワシも仕事はせんといけねえわけじゃぜ」

降って湧いた老人の貫手が、二人の胸を真っ向から突く。

ミディアム

「ナツミちゃん! 何ともないよ!」

ナツミ

(・д・ ;)

「え!?」

血も出ていない。心臓を抜かれた形跡もない。

ミディアム

「いくよー、ナツミちゃん! 舌噛まないで、ね!!」

襟首を掴まれ、躊躇なく城の外へ投げ出される。

上昇感は一瞬。一秒後には落下だ。

スバル「とど、いてぇぇぇ!!」

腰から抜いた鞭が伸びる。狙いは、街に張り巡らされた梁の一本。

手首に巻き付ける。握力が足りずとも、骨が砕ける被害で体は支えられる。

ナツミ

「アルは……ぎゃんっ!?」

アル

「悪ぃ!」

背中に激突。三人分、百五十キロ近くが右腕一本にぶら下がる。

アルとミディアムの声が、重なった。

――腕にかかる負担が、消えた。

――鞭をかけた梁が、茨の質量にへし折られたのだ。

二十メートル以上から、放物線を描いて落ちる。

脳裏にエミリアとベアトリス、レムの顔が次々と浮かんで――

屋根を突き破り、三人は城下の厩の干し草へ飛び込んだ。

第七章38『八年越しの褒美』終了。