第七章38
『八年越しの褒美』
皇帝への宣戦布告。切れる札は、アルが八年前に置いてきた手柄しかない。
📣 嘘は一つもない
掲げた口実には、嘘が一つもない
接見を求めるにあたって掲げた口実は、こうだ。
「現ヴォラキア皇帝に反旗を翻すべく、相応の権力者が内々に話をしたがっている」
――嘘は一つもついていない。
『現ヴォラキア皇帝』とは、アベルの名と立場を掠め取った相手のこと。
『相応の権力者』とは、本来なら玉座に座っているはずの本物のこと。
(๑•̀ㅂ•́)
「これが、ナツミ・シュバルツの計略というものですわ――!!」
――しかし。
🧊 冷え込む広間
穏便な撤退が、不可能になる
「――閣下への反乱分子、だと?」
穏便な撤退が、不可能になった。
――策士策に溺れる。これほど実感したことはない。
(;´Д`)
「でも、間の悪さと情報共有不足は、どちらもアベルのせいではありませんの……?」
「その口を閉じていろ。――ヨルナ一将」
「貴公はわかっていて、閣下とこのものらを同席させたのか? 答えていただきたい!」
怒りの矛先は、こちらではなくヨルナに向いている。
――スバルたちを、脅威とみなしていないのだ。
彼から伝わる闘気は、アラキアと同質のものだった。
「わかっていて、とはどういう意味でござりんす?」
(╬゚д゚)
「白々しいことを……! 閣下に幾度も進言した通り、やはり貴公は危険だ」
(*´艸`)
「わっちの重ねた狼藉の数々……まさか、主さんはご存知のうござりんしたか?」
「当事者なのに蚊帳の外、ってか? いいんだか悪ぃんだか……」
👁️ 見透かす黒瞳
向けられた視線が、本物と同質だった
「――相変わらず、反吐の出る悪趣味よな」
「あや、閣下のお気には召さのうござりんしたか?」
「たわけ。一方的に過ぎれば、それは兎に犬を狩らせるのと同じこと」
「ただの残虐を遊興とするほど、余も帝国に飽いてはいない」
「――貴様」
本物と瓜二つの、作り物の顔。
その黒瞳が、こちらの全てを見透かそうとしてくる。
「何か、余に言いたいことがあるなら言ってみるがいい」
(#`皿´)
「……腹の立つ目ですわね」
(゚Д゚ ;)
「な……!?」
(>﹏<)
「あ! いえ、違います! 違いますわよ! 今のは思わず勢いで!」
驚きながらも、こちらを値踏みする眼差し。
――バドハイム密林でも、集落でも、都市庁舎でも。
本物のアベルが向けたものと、同質だ。
⚔️ 分水嶺
ここで捨てた意見は、二度と拾えない
――ここは分水嶺だ。
ヨルナの眼差しは、興味を失う寸前だった。
一度手放したものを、再び取ろうと考えるほど酔狂な相手ではない。
ここで捨てた意見は、二度と掬えない。
「――心して答えよ。余に、何を告げるのかを」
グァラルで待つレムが、この場にいないアベルが。
後ろで身構えるアルとミディアムが、判断を委ねてくれた。
――その意味と重さを、投げ出さないために。
ヴィンセントが手を上げて制していなければ、カフマが爆発していた。
だが、そうはならなかった。彼が、そうさせなかった。
🐺 剣狼の国
首を狙われた側が、笑って受け止める
(・∀・)
「くふ……」
「何を笑う、ヨルナ・ミシグレ」
「まずは、お客人がその口先を引っ込めなかったことでござりんしょう」
「加えてこのお三方、もしかしたら閣下の身を危うくするやもと……どうなさりんす?」
「喰えぬ女よ。余に従わぬことを信条とする貴様も、余の意はわかっていよう」
「……ずいぶんと、お優しいことですわね」
(¬_¬)
「ふん」
振る舞いは、本物の完全なトレースだ。
いっそ、こちらのアベルの方が偽物ではと疑いたくなる。
「だが、貴様らに易々とくれてやれるほど、余の首の価値は安くない」
「――。では、わたくしたちをどうされるおつもりですの?」
「それが問題だな」
👴 意識の外にいた
数に入れていなかった三人目が、口を開く
「閣下! 自分にお命じください! あのものたちを……」
(´ー`)
「――カフマよぉ、お前さん、あれじゃぜ。さっきからちょいちょいうるさすぎんじゃろ」
護衛の三人のうちの一人。白い髪と眉を長く伸ばした、皺だらけの老人。
――視界には入っていた。意識に入っていなかっただけだ。
本当の意味で、気配を消していたのだろう。
「閣下の煩いを取り除くのも忠臣の務めでしょう、オルバルト翁!」
(´ー`)
「自分で忠臣とか言い出すと、粛清される奴の前段階っぽく聞こえてこんか?」
「ワシ、嫌じゃぜ、前途ある若者の首とか抉んの」
「その呼び名、ワシあんまし好きじゃねえのよな。『悪辣翁』とかひどすぎんじゃろ」
(≧▽≦)
「そんな性悪ジジイに見えっかよ、ワシ。まぁ、直接聞かれたら言えんか。かかかっか!」
アラキア、チシャ、そしてオルバルト。
序列の高い『九神将』ばかりが、すでに敵方だ。
🎰 伸るか反るか
八年前の話を、いま持ち出す
「――そこの爺さん、オレのこと覚えてたりする?」
「あんじゃって?」
「前会ったときは被り物はしてなかった。けど、腕はなかったし、ちょっと話もしたぜ」
「――アラキア嬢ちゃんも、一緒だった」
(≧∀≦)
「お前、あれかよ! アラキと一緒に島取り返した奴か!」
「かかかっか、まだ生きてたとはなぁ!」
「――。オルバルト、貴様の知った顔か」
「そのとき、ギヌンハイブで起こった反乱……それを止めっちまったのが、そこの兜の奴とアラキってわけじゃな」
「恐れ多くも皇帝閣下、実は八年前、オレは閣下のお役に立ったはずで……」
(・∀・)
「まだその褒美をもらってねぇ」
「いらんって言ったの、あいつじゃったけどな」
「オルバルト、黙っていろ。――続けるがいい、道化」
アベルの言葉が事実なら、皇帝の信条には『信賞必罰』が含まれる。
――ならば。
「貴様、何を求める。余の首か?」
「こちらの親書、これをヨルナ様へお渡しするのがわたくしたちの目的」
( •̀_•́ )
「わたくしたちの……主から、ヨルナ様への恋文です」
「八年越しではあるが、剣奴孤島の一件、大儀であった」
「欲するならば褒美はやろう。その親書とやら、ヨルナ・ミシグレに渡すがいい」
☝️ ただし
許されたのは、どこまでなのか
「――ただし」
「仮に親書をお渡しした場合、ヨルナ様のお返事はいついただけますでしょう?」
「わっちも女……恋文をもらってすぐ、逸るように封を開ける姿なんて見られたくのうござりんす」
「でありんすから……お客人方が、わっちの城を出られてから、ゆっくりと目を通しんす」
「――。城を出たら、読んでいただけるんですのね?」
「わっちもこの魔都の主、侍従もいる前で嘘偽りは言わぬでありんす」
褒美の内容を「無事に城を出ること」に変えることもできた。
だがそれでは、ヨルナと手を結ぶ可能性が絶たれる。
「アル、ミディアムさん」
「ま、兄弟に力貸すって言っちまったしな」
(๑•̀ㅂ•́)
「あんちゃんからも頼まれてるからね! ナツミちゃんをよろしくって!」
「どうぞ、わたくしたちの主からの親書です」
「ご苦労様でありんした。もっとも、ここからの方が大変でありんすよ」
🌿 深緑の茨
両腕を伸ばすと、上着が爆ぜた
(#゚д゚)
「よくぞ吠えたぞ、不届きものめらが――っ!!」
両腕を伸ばしたカフマの上着が爆ぜる。
無数の茨が、のたくる蛇のように殺到した。
一本一本がスバルの腕に匹敵する太さの、針を備えた蔦。
――だが、襲ってきたのは痛みではなかった。
前に出たアルが、身幅の厚い青龍刀で受け流していた。
肩と脇腹に、じくじくと血が滲んでいる。
「って、ミディアムさんは!?」
(;´Д`)
「うーあー! 危なかったーっ! アルちんの言う通りにしなかったら死んでた!」
――ヨルナの周囲だけ、茨が不自然にねじれて避けていた。
「お騒がせして失礼いたしました。わたくしたちは、お暇させていただきますわ」
「気を付けてお帰りなんし。お三方が城を出損のうござりんしたら……」
「親書は読まれない。心得ています、わ」
「右へ!!」
🪢 なけなしの最善手
出口へは向かわず、近道を選ぶ
広間の出口へは向かわない。長い道のりを戻る余裕はない。
――必要なのは、大幅なショートカットだ。
「ミディアムさん! 頑張って!!」
「――頑張る!!」
「右! 右膝! うなじ! エロい腰!!」
「う! た! どりゃあ!」
血を吐くようなアルの絶叫が、迫る危機の狙いを教える。
( ゚д゚ )
「茨に針と、ビックリ人間ですの!?」
「ありゃ『虫籠族』だ! 体の中に入れた虫で攻撃してくんだよ!」
ミディアムの一振りが柵を砕き、跳ね上がる足が壁を吹き飛ばす。
眼下、地上まで三十メートル以上。視界一杯に魔都の青空。
「悪ぃんじゃが、一応、ワシも仕事はせんといけねえわけじゃぜ」
降って湧いた老人の貫手が、二人の胸を真っ向から突く。
「ナツミちゃん! 何ともないよ!」
(・д・ ;)
「え!?」
血も出ていない。心臓を抜かれた形跡もない。
「いくよー、ナツミちゃん! 舌噛まないで、ね!!」
襟首を掴まれ、躊躇なく城の外へ投げ出される。
上昇感は一瞬。一秒後には落下だ。
腰から抜いた鞭が伸びる。狙いは、街に張り巡らされた梁の一本。
手首に巻き付ける。握力が足りずとも、骨が砕ける被害で体は支えられる。
「アルは……ぎゃんっ!?」
「悪ぃ!」
背中に激突。三人分、百五十キロ近くが右腕一本にぶら下がる。
アルとミディアムの声が、重なった。
――腕にかかる負担が、消えた。
――鞭をかけた梁が、茨の質量にへし折られたのだ。
二十メートル以上から、放物線を描いて落ちる。
脳裏にエミリアとベアトリス、レムの顔が次々と浮かんで――
屋根を突き破り、三人は城下の厩の干し草へ飛び込んだ。
第七章38『八年越しの褒美』終了。
ナツミ
カフマ
ヨルナ
アル
ヴィンセント
オルバルト
ミディアム