第七章24
『傲岸不遜』
無血開城は成った。だが、勝利を確かめる間もなく、帝国最強の一角が現れる。
⏳ 酒宴の始まりが近づく
控室に、会話がない
控室に会話はなく、静まり返っていた。
住み慣れた集落を離れ、姉も頼れず、丸腰で敵陣の真っ只中。
何を言えばいいのか、とっさに出てこない。
「――タリッタ」
「何も案ずることはない。俺を見ていろ」
根拠のない、安易な慰めの言葉だ。
だが、効果は絶大だった。
持つものは、持たざるものの懸命な努力を一瞬で抜き去る。
(´・ω・`)
「もう、腹も立ちませんけれど」
🍷 三十人近い男たち
ズィクル・オスマンは、小柄だった
(・∀・)
「――よくぞきた。お前たち、大層素晴らしい舞と歌を披露するらしいな」
想像を、一枚も二枚も裏切る姿だった。
まず、背丈が低い。
そして、大きく膨らんだ特徴的な髪型。
小柄な男の頭の上にあるだけで、マスコット的な愛嬌を発している。
剣力で武勲を立てるタイプには、見えなかった。
🙇 跪かない
最後尾の舞姫だけが、膝をつかない
最後尾に立った舞姫だけが、跪かない。
『将』の中に不穏な空気が広がる。
🛡️ 兵
(╬゚Д゚)
「何故、跪かない? 二将の前だとわかって……」
(´ー`)
「待て。そういきり立つな。この場は酒宴のために開いたのだ」
「芸事で身を立てるものたちに求めるのは、礼儀作法ではなく、無聊の慰めだろう」
「武人の気迫に身じろぎもしないか。さぞ、舞に自信があると見える」
「……寛大さに感謝を。ですが、ご安心くださいまし」
せっかくもらった好機だ。完敗を味わってもらうこととする。
🍶 酒杯を傾ける速さ
前代未聞の、大失態
舞姫の踊りに目を奪われ、喉を焼かれ、魂が渇いたように酒を求める。
自然と酒杯を傾ける頻度と速度が速くなる。
とりわけ速いのは、脳髄の痺れを癒さんとする指揮官だ。
判断力が酒と舞に奪われれば、本来ありえないポカもやらかす。
剣舞を見たい欲求に負けて、舞姫の求めるままに剣を差し出す。
(¬_¬)
「――貴様の負けだ、ズィクル・オスマン」
疑いようのない男の声が聞こえても、その目は陶酔から抜けられない。
🔪 我に返った将たち
伸ばした手より早く、ナイフが飛ぶ
🛡️ 将
(╬゚д゚)
「――っ! おのれ、賊めらが! 勝手なことを……!」
手を伸ばすより早く、腕と足が投げられたナイフに貫かれる。
(・_・)
「悪いんだガ、族長からアベルの顔は守れって言われてんダ」
舞の最中に、食事からナイフだけをこっそりかき集めていた。
だが、刃を躱して飛びのいた影が一つ。
🛡️ 髭の巨漢
「笑止! この程度で、帝国兵の足を止められると思うてか!」
(>﹏<)
「アベル――!」
🏹 引き絞られた矢
殺意の宿った矢を、声が止める
アベルを救うため、男の息の根を狙う構え。
(>﹏<)
「殺しちゃダメだ!!」
瞳に躊躇いが生じ、狙いがわずかにブレる。
放たれた矢は、背中ではなく右肩へ突き刺さった。
大剣は勢いを殺せず、回転しながら舞姫の背へ。
――後頭部の手前を掠め、床へ突き立つ。
はらりと、編み込まれた黒髪が解かれる。
偽りの黒髪が、床に落ちた。
そこには、舞姫の柔らかな印象を削ぎ落とした冷酷な皇帝がいた。
🗡️ 降伏勧告
部下の命は保証されるのか、と問う
(・・・・・・)
「そちらの言う通りにすれば、部下の命は保証してもらえるのか?」
「それも貴様の態度次第だ、『臆病者』」
(╬゚д゚)
「ぐ……っ」
「貴様は『女好き』と呼ばれる以前は『臆病者』とそう呼ばれていたな」
「『女好き』の上、『臆病者』と誹られる私であれば、女に剣を突き付けられ、我が身惜しさに降伏すると……」
だが、そうではなかった。
「巧みで堅実な用兵により、目立った戦果は少ないが、味方の被害も少ない策略家」
「貴様、何を勘違いしている?」
「他者が貴様を臆病と誹るのは、結果を見ての虚勢か、そうでなければ結果を見られない愚者の放言だ」
「貴様は無駄な被害を嫌う。故に、この状況で抗うまいと判断したのだ。――俺を失望させるか?」
その瞳に去来したのは、感動に近い驚きだった。
(´ー`)
「――武装を、解除いたします。部下にも、厳命を」
🔥 屋上へ
剣狼の旗が、燃える
「何を呆けている。さっさと屋上の旗を燃やしてこい」
(・_・)
「うえ? わ、わたくし?」
「貴様だ。貴様だけだぞ。事態が動いてから、何一つ役目を果たさなかったのは」
確かに、巨漢が跳ねたときに尻餅をついた自分だけ、何もしていなかった。
「わ、わかりましたわよ! ええ、ええ、ごめんあそばせ!」
冷たい風を浴びながら、松明を掲げる。
――ここに、城郭都市グァラルの陥落は成った。
👁️ 特別な目
離れた場所から、正体に気づいた男がいる
「おいおい、何の冗談だ、ありゃ」
「――嘘だろ」
燃える旗のすぐ傍らに、都市庁舎内で見かけた女の姿。
豊かな黒髪。
鋭い目つき。
確か名前は――
あの通路で出くわした弱々しさは、まるで見当たらない。
「まさか、お前か?」
考えれば考えるほどに一致し、見れば見るほどに乖離する。
「ありえないと、思ってた。正面から、潜り抜けようとするなんて」
「まさか、あれも布石ってことか? わざと俺たちに見つかって、正面突破なんてありえないって先入観を、植え付けた?」
🏃 壁の穴へ
矜持では、勝ちも命も拾えない
「てめえ、怖気づいたか? それでも帝国軍人か、あぁ!?」
「矜持じゃ勝ちも命も拾えんよ。大体、お前にもわかるだろ。都市庁舎はもうダメだ」
「その前に逃げなきゃ、勇敢に討ち死にする以外の選択肢はなくなるぞ」
命も、有限な手札だ。
勝利のために使うならともかく、負け惜しみのために使うのはもったいない。
「生きてれば恥をすすぐ機会もあるさ。けど、死んだらそれまでだよ」
(╬゚д゚)
「クソったれ!」
🍾 略奪上等
駐留軍は、武装解除に応じた
指揮官の身柄が押さえられたと知れると、帝国駐留軍は武装解除に応じた。
(・∀・)
「それにしてモ、大したものだったナ、スバル……いヤ、ナツミ」
「でも、これだけの人数……やはり、正面対決は厳しかったですわね」
「たとえ敵が多かろうト、シュドラクの誇りは挫けなイ。……とはいエ、単純な数は覆し得ないものダ」
🩺 上から下まで
ケガを隠していないか、上から下まで確かめられる
「あなたはどこかにケガをしていても、それを隠して同じことを言いそうな気がしたものですから」
(・∀・)
「わ、わたくしの身を案じてくださるんですの?」
「は?」
「あ! ごめんなさい! 調子に乗りましたわ!」
「しましたよ」
( ゚д゚ )
「へ?」
「だから、心配しました。当然でしょう」
「どれだけふざけた作戦だったとしても、あなたにそれをさせたのは私です」
「ただ、言動はどうあれ、あなたはどうにかしてみせました」
🏛️ 都市長の個室
もじゃもじゃ頭が、その前に跪く
すでに踊り子の衣装を脱ぎ捨て、男物の装いに袖を通していた。
その前に、跪くもじゃもじゃ頭。
「――は。その通りにございます、閣下」
話すまでもなく、舞の最中に気付いていたという。
(・・・・・・)
「ズィクル・オスマン、俺に従え。悪いようにはせぬ」
(≧▽≦)
「は! 閣下の御為でしたら、このズィクル・オスマン、身命を賭させていただきます!」
(>﹏<)
「ま、待った待った、本気ですの!?」
「よもや、閣下が私の二つ名を……それも、不名誉でしかないと呪ったものを覚えていてくださり、挙句、それを信じてくださったとは……」
「帝国の支配者たらんとすれば、遍く国土を解さねばならん。仕える臣下のことも同様だ」
「己の手足もわからずして、皇帝の歩みが乱れぬと思うか?」
憧れの選手にホームランを打たれた投手の心境かもしれない、と思った。
🚨 帝都の増援
増援を招き入れるべき、という進言に
「まずは、帝都より送られるはずの増援、これを市内へ招き入れ、投降を呼びかけるべきかと」
「――帝都の増援」
部屋の空気が、震えた。
「タリッタ、ゆケ、正門を閉ざすよう言ってこイ」
「あ、姉上、いったい何ガ……」
(╬゚Д゚)
「――ゆケ! シュドラクの名を汚すナ!!」
🍃 のんびりとした声
ルイが指差した先に、誰かがいた
「うー! うー! あーうー!」
大粒の涙を流し、何かを恐れるように表情を強張らせている。
指差した先は、大広間の片隅。
――何もない、はずだが。
四本の矢が乱れ飛び、その空間へ押し寄せる。
「――それだと、わたし、殺せない」
褐色の肌。
銀色に近い白髪。
左目を覆った眼帯。
豊かな毛並みの尻尾。
手には、その辺で拾ったような枝。
「――貴様か、アラキア」
「閣下、ひさしぶり」
( ゚д゚ )
「アラキア一将……帝国最強の、『九神将』の一人!」
「それも、九神将の『弐』だ。――つまり、帝国で上から二番目ということになる」
「えらい」
🌪️ 頑張っても、無駄
掴んだはずの勝利が、崩されていく
「やっと、この手に掴んだ勝利を邪魔されてたまるか――!」
「頑張っても、無駄」
大広間の全体が捻じ曲がるような、凄まじい風。
天地がひっくり返り、上下左右も正面背後もわからなくなる。
――竜巻だ。
「じょ、せいを……これ以上、傷付け、させは……」
とっさに体を引き寄せ、クッションとなってくれていた。
シュドラクたちは、ことごとく地に伏している。
敵対の意思を見せたものこそ、強い被害を受けていた。
あれほどの破壊を発揮しながら、攻撃する対象を選んでさえいた。
🌞 いるはずのない存在
レムを背に庇い、両手を広げる
死んでも、よかった。
レムを守れるなら、死んでもよかった。
女の格好をして、偽物の胸まで作って、化粧をして、ウィッグを被って。
そんな滑稽な姿で、守らなくてはならない少女のために立ち向かった。
(¬_¬)
「――何とも滑稽な挺身よな。だが、悪くはない」
熱も、喪失感も、痛みも訪れない。
目を開けると、そこに誰かの背中がある。
右手に赤々と輝く剣。
押し寄せるはずだった破壊の全てを、斬り伏せている。
尊大で、傲慢で、この世の全てが足下に跪くと確信している紅の瞳。
第七章24『傲岸不遜』終了。
フローラさえ沈黙している。
タリッタの顔色が危うくなった。
ビアンカ
ナツミ
クーナ
ジャマル
トッド
ミゼルダ
アラキア
プリシラ