第七章94
『誰がための決心』
後方の陣幕で待つ者たち。そして、戦場で交わされる「何のために戦うのか」。
⛺ 遠雷
四百年前も、眼下の戦いはうるさかった
今は遠き四百年前、戦乱の絶えない『魔女』の時代。
生まれ育ったのは母の館であり、それは人間たちの諍いと無縁の地にあった。
――それでも、はるか眼下の戦いはうるさく感じられたものだ。
(´・ω・`)
「う~、心配であります。不安であります」
(・_・)
「シューの気持ちわかル。やっぱリ、ウーたちも出ル?」
(>﹏<)
「そ、それはダメであります! 僕たちのお仕事は待機! 待機であります!」
『小競り合いならまだしも、大舞台となれば遠ざける方が不憫であろう』
『戦場、狩り場に背を向ける臆病者ハ、シュドラクの民に相応しくなイ』
――どちらも異なる倫理観や信念からの発言だが、当事者が納得している以上は。
👀 爆弾
置き去りにする選択肢だけが、なかった
シュルトたちと違い、ルイだけは置き去りにする選択肢がなかった。
「ベアトリスちゃん、あまり負担はかけたくありませんが、目を光らせていてください」
「このことはエミリア様やガーフィールには話せませんから」
――あの面構えで冷静のつもりでいるのが不安だ。
同じ懸念はペトラやフレデリカも抱いていたので、彼女たちがどうにかしてくれたと思うが。
(¬_¬)
「あんまりソワソワするんじゃないのよ。落ち着いているかしら」
「ベー、起きタ?」
(╬¬_¬)
「あと、その呼ばれ方は不愉快かしら。あっかんべーってされてる気分になるのよ」
😖 憎たらしい
何のつもりなのか、と問いかけてみる
「うー?」
「……お前、何のつもりなのよ」
『暴食』が権能を振るうには相手の『名前』を呼び、食べる必要があるはず。
――だが、彼女の口から意味の正しい音が発話されたことはなかった。
「ベー、顔怖イ。ルーのこト、まだ嫌ってル?」
「ベティーはこの娘のことを嫌ってるんじゃないのよ。……憎たらしく思ってるかしら」
もしもベアトリスがもっと早く胸襟を開いて、協力する姿勢を見せていたなら。
眠り続けるレムの傍で、スバルが悲しい顔をし続けることにならずに済んだのだと。
スバルと離れ離れになった挙句、満足に力を貸すこともできない。
――存在意義は、ボロボロだった。
「べ、ベアトリスちゃん、そんな言い方はルイ様が……」
(╬゚д゚)
「なんで他の奴は様付けなのに、ベティーのことはちゃん付けかしら。敬いが足らんのよ」
🚪 陣を動かす
出番だ、と声が弾む
(≧▽≦)
「ズー! 忙しいのにここにきタ! ウーたちの出番ダ!」
「頂点が開けば帝都の水晶宮へ乗り込むことになる」
「その際、指揮官も前線へ出なくてはなりません」
「アベルは戦えるように見えんのよ。後ろで指示に集中している方が安泰かしら」
「仰る通り……ですが、それでは兵がついてきません」
「仮に皇帝閣下をどかせられても、玉座に座ることを誰も認めない」
(;´Д`)
「――。厄介なお国柄なのよ」
「ええ、厄介です。ですが、それが我らの祖国です故に」
💐 声援
なぜ自分で来たのか、と尋ねられる
「どうして、わざわざお前がきたのよ。お前の立場なら部下に命じればいいかしら」
「ああ、そのことですか」
( ゚д゚ )
「……は?」
「なるほどであります! 確かに、ここにはウタカタ様もルイ様も……」
「諦めル。ズー、最初からこんな感ジ」
「ゆ、唯一まともな奴だと思ったのが大間違いだったかしら……」
「それに、自分の背後に何があるか心得ておけば、迷わずに済むだろうという目算も」
「――。お前、家族はいるのよ?」
(´ー`)
「母や多数の姉妹が。……とんだ家族不幸者です」
🗡️ 祝福
何のために戦うのか、と問いを向ける
「お前は、何のために戦うのかしら」
「戦うために戦うような、そんな奴らとは違うはずなのよ。どうしてかしら」
「無論、私が信を置き、忠を捧げるヴォラキア帝国の明日のために」
「もっとも、所詮は『臆病者』ですから、どこまで抗せたものか怪しいものです」
「ですから、いただけませんか、ベアトリス嬢」
「……何をなのよ」
(・∀・)
「決まっています。――麗しの乙女の祝福を」
「言っておくけど、作法なんてよく知らないかしら」
「与える側と受け取る側と、その心が通じていれば作法は重要ではありません」
スバルが、エミリアの手で騎士叙勲を受けたときのことを思い出し、それに倣った。
( •̀_•́ )
「御意に」
🩸 強くあレ
戦士の流儀で、送り出す
「ウーはシュドラクの戦士、だからベーみたいなことはしなイ。戦士の流儀で送ル」
獣の牙で作られたナイフで薄く肌を切り、血で濡れた掌を鎧に押し当てる。
「ありがたく」
(≧▽≦)
「僕は思いつかないので、応援するであります! ふれー! ふれー! ズィクル様!」
「おっと」
「あう、うーう」
するりとベアトリスの手を抜け、ルイがズィクルの腰に抱きつく。
――とっさに制せなかったのも、不穏な気配がなかったから。
「ズィクル・オスマン、出陣してまいります。――どうぞ、達者で」
「ご武運を! であります!」
母の助言に未来を見て、多くのものが館に背を向け、自分の未来へ向かった。
――ズィクルの背は、そのときの彼らと同じに思えた。
(¬_¬)
「お前は、本当にどっちの立場なのよ」
🧊 七体の味方
監視塔で編み出した戦法を、ここで使う
監視塔で『試験』を受けたとき、苦肉の策で生み出した戦法だった。
――「スバルのことならよく見てる!」という自信が結び付いた結果。
正式な名前は、ちゃんとスバルに披露したときに付けてもらうつもりだ。
「がぁぁぁ!!」
指を引っかけただけで、鉄ほどでなくても頑丈な氷が簡単に壊される。
(´・ω・`)
「ごめんね」
スバルに似せた兵隊が壊され、頭の中でベアトリスの悲鳴が聞こえる。
🦵 足の方が力持ち
回転が速すぎて、円盤にしか見えない
(╬゚Д゚)
「いい加減! ふざけるんじゃないっちゃ!!」
凄まじい速度で回転する飛翼刃は、あまりの回転速度に円盤にしか見えない。
「お願い!」
ずらりと縦に並んだ氷兵が、全員が手にした氷の武器で飛翼刃に立ち向かう。
――結果、氷兵が全滅する。しかし、どのスバルも砕かれる寸前に一発を与えた。
回転がほんのわずかに、気持ちだけ、ちょっぴり、弱まった気がする。
「ううん! 弱まった!!」
――エミリアは知っている。足の方が腕より少しだけ力持ちなのだと。
掴んで投げ返した飛翼刃は、見当違いな方向にすごい飛んでいってしまった。
「……お前は、何の、つもりだっちゃ」
(´;ω;`)
「失敗しちゃった……」
🧱 氷の壁
あの武器は、取り戻させない
「悪いけど、あの武器は取り戻させない。続けるなら、あれなしでやりましょう」
「ううん、そうしてくれた方がすごーく助かる。どうする? 続ける?」
(╬゚д゚)
「――どうして、竜がやめると思うっちゃ」
ぴしりと甲高い音が鳴り、巨大な氷の壁の全体に蜘蛛の巣状の罅が入る。
「お前らニンゲンと話してると、竜の頭がおかしくなるっちゃ」
「お前も、あの癒者も、老いぼれも竜の邪魔ばかり……ッ」
まるでマデリン自身、自分の感情の一番強いものがわからないでいるみたいに。
💗 大事な騎士様
何のために戦うのか、を先に自分から答える
「マデリン、あなたは何のために戦うの?」
「……お前に、なんで」
「お前こそ、なんで逆らう。竜に逆らって、勝ち目なんてないっちゃ」
「なんで、お前は、お前たちは抗うっちゃ」
何も言い返せないと思った。だが、そうではなかった。
――語らせられないなら、自分の方が先に胸襟を開くべきだった。
髪型や『じゃあじ』もかなり上手に再現できた。
――でも、どれだけうまく似せても、スバルの頼もしさは再現できない。
思い浮かべるだけで胸をポカポカと温かくしてくれるらしさは、本人しか持ち得ないから。
「たくさんの人が帰りを待ってるから、私はここにいる」
( •̀_•́ )
「私が戦うのは、それが理由。マデリン、あなたの方は?」
🖤 良人になるはずだった
握りしめた手から、氷壁全体が砕けていく
「……その、名前は?」
(・・・・・・)
「竜の、良人になるはずだった男の名前。――竜の戦う理由の、全部だっちゃ」
――すでに失われたもののために戦うマデリンに、期待と願いは裏切られる。
「――バルロイを殺した男を殺す。それが、竜の宿願」
壁に当てた手が握りしめられ、そこから発生した破砕が氷壁全体に行き渡る。
☁️ 雲龍
その響きに、聞き覚えがあった
そのマデリンの響きには、聞き覚えがあった。
「あのときは、すごーく大きな攻撃が」
降り注いだ白い光が、ほんの一息で城郭都市を薙ぎ払い、地形を変えてしまった。
――あのときはプリシラが一緒にいたから、二人でどうにか防げた。
その頭上、同じことは起こらなかった。
――でも、同じことが起こらなかったことを、大喜びすることもできなかった。
『――我、メゾレイア。我が愛し子の声に従い、天空よりの風とならん』
白い両翼を羽ばたかせ、その大きな体に雲を纏った巨体が、帝都の空へ舞い降りた。
第七章94『誰がための決心』終了。
「……嫌な音かしら」
シュルト
ウタカタ
「現状、一番動きの見えない爆弾が彼女です」
ルイ
「だから、今はただの兵隊さんで頑張りましょう!」
マデリン
メゾレイア