第七章89
『カフマ・イルルクス』
三十二体の『虫』を取り込んだ男。その名は、一族の中でも怪物と呼ばれた。
🕳️ 異端
――『虫籠族』の在り方は異形異様、異端を見る目と無縁でいられない
――『虫籠族』の在り方は異形異様、異端を見る目と無縁でいられない。
外見上、虫籠族には人間族との大きな違いがない。
――もしも『虫』を入れなければ、人間族として生きていくことすら可能だろう。
だが、そうはしない。一族は体内に『虫』を入れ、その特徴を引き継ぐ。
帝国南方、集落の最奥にある異形の生物と毒の空気が蔓延した洞穴――『奈落』。
そこに生息する『虫』は、一般的に想起される虫とは根本から異なるものばかりだ。
――いったい、誰がその正体不明の生き物を取り込もうと考え始めたのか。
🐛 三日三晩
――蛹が破れたとき、人の形を保っていられれば儀式は成功
『虫』を入れる儀は、十二歳を待つのが習わしだ。命懸けであるためだ。
体力気力が整わないうちに挑んでも、取り込もうとした『虫』に喰い殺される。
自分の体を巡る血の全てが毒となり、内臓を腐らせ、脳を焼いていくような感覚。
取り込んだ『虫』は蛹となり、器とするか喰らい尽くすかを三日三晩かけて決める。
――蛹が破れたとき、人の形を保っていられれば儀式は成功。
取り込む『虫』の数が多いほど戦士としての力は増すが、共食いの危険も高くなる。
一流の戦士たちは、最低でも三体。現在の族長は、八体を取り込んだ一族の英雄。
👶 生後数日
――そして、カフマ・イルルクスは三十二体の『虫』を取り込んだ怪物だった
――そして、カフマ・イルルクスは三十二体の『虫』を取り込んだ怪物だった。
十二の誕生日まで行われないはずの儀式だが、初めて取り込んだのは生後数日。
族長の兄であり、優秀な弟に劣り続けた男の狂気が、我が子へと向けられた。
存在が露見し、初めて隠れ家から外に出されたのが十二歳。
――同胞が儀式に臨む年、カフマは十三体の『虫』と共生する怪物だった。
まだ苦しみを知らない世代はカフマを遠巻きにし、羽化を認められた世代は恐れる。
――異端視される虫籠族、その中でさらに異端視される立場。
🌅 希望
――故郷を離れたのは希望だった
積極的に他者と交流し、族長である叔父から戦士の在り方を学んだ。
そして虫籠族の戦士として尊敬されるため、新たな『虫』を入れる儀へ挑んだ。
許しを得る前に『虫』を持ち出し、立ち合いなしで儀式に臨む。
――その無謀な行動力だけは父親から受け継いだと、後々になって自戒する。
十四体目の『虫』を取り込み、地獄の苦しみを乗り越えて、生還した。
だが、どれだけ努力を重ねても、同胞たちは一線を引き続けた。
『虫』との共生の難しさを知る彼らだからこそ、同じモノと思えなかった。
――故郷を離れたのは希望だった。
🦁 我らも怪物揃いだ
――『なに、そう考えすぎずとも、貴公と同じく、我らも怪物揃いだ!』
外の世界にあっても、非凡な実力は規格外で異端視されるもの。
――どこでも怪物だと、所詮は逃れられない命運だと、そう思いかけた。
『――上がってこい、カフマ三将! 共に閣下の御為に力を尽くそうぞ!』
――『なに、そう考えすぎずとも、貴公と同じく、我らも怪物揃いだ!』
怪物と恐れられたカフマ・イルルクスですら及ばぬ怪物が、ひしめき合っていた。
――怪物ではないと言われたかったのではない。孤独でありたくなかったのだ。
怪物であっても、世界はカフマを取り残さなかった。
📈 速く、強く
見くびったことを、謝罪される
( •̀_•́ )
「見くびったことを謝罪する!」
際限なく溢れるように見える茨も、取り込んだ『虫』の一部なのだ。
――当然、傷付けられれば相応の反動がある。それを気力で抑え込んでいるだけ。
先ほどまでの攻防、それよりもさらに速く、威力が増している。
戦場で起こる戦力の変化は、ほとんど全てが力の低下だ。
火の魔石を呑み込んだ肉体は、今なおも赤々と燃え続けている。
――進行形で燃え続ける体で生きられる『虫』なんて、いるはずもなかった。
( ゚д゚ )
「恐るべきは発想」
頭で考えていたら、魔石を呑み込んで体を燃やすなどとても実行できない。
😄 満喫している
急速に癒えていく規格外に、息を吐く
肩の骨が変形した『虫』の角が腹筋を貫き、体を城壁から弾き落とす。
――だが、その爪を突き立てた城壁を這い上がり、目の前で高々と跳躍していた。
赤い蒸気を噴いて傷が塞がる。急速に癒えていく規格外に、カフマは息を吐いた。
(・_・)
「は」
それが笑みの衝動だと気付いて、カフマは自分の口に手を当てる。
認めよう。――ガーフィール・ティンゼルとの戦いを、満喫している。
👁️ 割り込めやしねェ
背負っているものが、ここでは邪魔になる
勝利をもぎ取らなくてはならない。大義のため、皇帝閣下の御為、恩人に報いるため。
――虫籠族の地位向上を願っている同胞たちのため。
(╬¬_¬)
「――てめェ、どこッ見てやがる」
( •̀_•́ )
「俺様ァ、ここだ」
刹那、世界の色が遠ざかり、目の前の敵だけが世界の全部になる。
――なんと、無粋なことを言わせたのかと、カフマは己の行き届かなさを恥じた。
(・・・・・・)
「――ああ、貴公と自分だけだ」
🌿 逃がさない
――外から壊せないなら、内側からと
掌に顔面を鷲掴みにされ、頭蓋骨が常外の握力に悲鳴を上げた。
だが、カフマも相手の口元に手を入れ、そこで茨を体内へと流し込む。
――外から壊せないなら、内側からと。
背中を城壁に埋められ、持ち上げられ、再び落とす。上げ、落とす。
全身が埋まった城壁にひび割れが生じ、星型の頂点の先端が二つに割れる。
――それでも、茨は力を失わず、体内へ流れ込み続ける。
吐き出し切ってしまえば、他の反乱軍を退ける有効打をみすみす手放すことになる。
――だが、ガーフィール・ティンゼルという怪物には、そうする価値があった。
(>﹏<)
「あ、ああ、あああああ――っ!!」
🩸 蛮行
――ガーフィールの鋭い爪が、自らの腹部を横に引き裂いた
( ゚д゚ )
「――な」
――ガーフィールの鋭い爪が、自らの腹部を横に引き裂いた。
その傷口から茨が溢れ出す。――死を間近に引き寄せる蛮行だった。
その傷口に茨が殺到すれば、体を二つに裂いて、決着だ。
だが、刹那の空白が、はち切れる寸前だった相手に一呼吸の猶予を与えた。
顎が閉じる。茨が引き千切られる音がして、大虎の大口が閉じた。
踏み込んだ拳が、銀色の手甲の硬い衝撃がカフマの顔面をぶち抜く。
――鉄壁と謳われた帝都ルプガナの城壁が崩壊を始める。
自ら引き裂いた腹の傷が、血の煙を噴きながら塞がっていく。
(×Д×)
「……怪物め」
(´;ω;`)
「閣下、申し訳ございません……」
――生まれたときから聞こえ続けた『虫』の声も、やけに静かに思えた。
✊ 俺様の勝ちだ
落ちていく体を、強引に掴んで逃れる
無防備に落ちていく男の体を強引に掴んで、瓦礫を蹴って崩落現場から逃れる。
(;´Д`)
「あァ、クソ、痛ェ……ッけど」
(・・・・・・)
「……強く、なってんのか、俺様ァ」
一枚、以前と比べて壁を破った。そしてそれを、この戦いで確かなものにしたと。
(・∀・)
「――怪物ッなんて評価、そっくりそのまま返してやるよォ」
わずかに胸を上下させ、息のあるカフマ。
――エミリアは、自分たちの手で死んでしまう人を減らそうと言った。
そしてオットーも、足腰が立たなくなるまでぶちのめせ、と言った。
( •̀_•́ )
「――俺様の、勝ちだ」
第七章89『カフマ・イルルクス』終了。
カフマ
ガーフィール