第七章73
『ヴァイツ・ログン』
全身の刺青は、近付いてはいけない危険の証。――そして彼は、前に出た。
⚒️ 人並み
――ヴァイツ・ログンは、自分が真っ当な生き死にをできるとは思っていない
――ヴァイツ・ログンは、自分が真っ当な生き死にをできるとは思っていない。
人並みというのは、普通や平凡という意味で使われる。
――でもそんなのは、人以下の存在からすれば、雲の上の基準だ。
鉄血都市『グララシア』。日夜、他人を傷付けるための武具が鍛えられるイカれた街。
物心ついた頃には親はなく、工房で雑用を押し付けられる立場だった。
拘りも関心もなく、鋼を鍛える職人を横目に黙々と仕事をする。
――生まれたときから一人だったのだから、死ぬときも一人で当然だろうと。
🖋️ 冤罪
――最初に入れられた刺青は、一目で罪人を見分けるための刑罰の証だ
工房で資材の横流しが疑われたとき、真っ先に目を向けられたのがヴァイツだった。
一人で行動することが多く、庇ってくれる関係性の相手も皆無。
――かけられた疑いを晴らす手段は、なかった。
――最初に入れられた刺青は、一目で罪人を見分けるための刑罰の証だ。
熱気に包まれる都市で袖の長い服を着る者はいない。刺青は常に剥き出しだ。
真っ当な工房の仕事はできなくなり、日銭を稼ぐために盗みに手を染めた。
――要するに、罪はあとから追いついてきた。
( •̀_•́ )
「オレがおぞましいものなら、それでいい……」
腕だけだった刺青を、肩に胸に、自分の手で大きく入れていく。足に、顔に、頭に。
腕の刺青は罪人の証、だが、全身の刺青は近付いてはいけない危険の証だ。
⛓️ 犯罪奴隷
この島へ送られることになった、その経緯
「――止まれ、罪人が! タダで済むと思うな!」
足下に倒れているのは、あの日、冤罪を被せた犯人だと酒の席で漏らした男。
口に含んだ耳を吐き捨てて、ヴァイツは衛兵に捕らえられた。
決まった処遇は、犯罪奴隷として悪名高き剣奴孤島へ送られること。
逆らう気力もなく受け入れた。抗う意思もなく、湖を渡った。
――どうあろうと構わない。死ぬつもりは毛頭ない。
――『人並み』の、人間として、扱われたかった。
🛡️ 庇え
飛んできたものを見た瞬間、突き飛ばす
蹴られた看守の頭が飛んでくるのを見た瞬間、シュバルツをタンザに突き飛ばした。
――体は弱いが、心が強いシュバルツ。彼なら、タンザをうまく使えるだろう。
一瞬で味方の首を刎ね、蹴り飛ばして思考を止める策。だが、それだけとは思えない。
――事実、ヴァイツ以外の四人の判断は一拍遅れたが、ヴァイツは動けた。
通路の壁をぶち壊しながら、黒い怪鳥――剣闘獣が突っ込んできた。
その嘴が貫くのは、床に転がった看守の頭だ。
💪 耐えたぞ
見せかけではない、本物の脅威と向き合う
シュバルツの素性を聞いても、ひれ伏すどころか殺意を高めた男――危険だ。
ヴァイツの、刺青で作った見せかけの危なさと違う、本物の脅威。
最初に刺青を入れられ、この地に流れ着く切っ掛けになった左腕を上げる。
縦ではなく、横にした腕を斧の刃に合わせた。肘の骨が砕け、肩まで押し潰される。
待ち構えるのではなく、踏み込んだことで斧の威力がわずかに弱まった。
――度胸と判断力が合わさったのは、自分以上に無鉄砲な子どもと出会った結果だ。
「耐えてないぞ」
残った右腕で取り押さえようとした瞬間、男の姿が消えた。
――否、消えたのではなく、見えなくなったのだ。視界の右側が、急に潰れたみたいに。
🥲 信じると言った奴
四人の無事に安堵する自分に、少し驚く
崩れかけの通路の上に四人が見えた。全員、怪鳥の横槍は免れたらしい。
――そのことに安堵する自分に、ヴァイツは少し驚いた。
壊れた左腕が痛い。何故か、顔の右側も痛くなってきた。
(・・・・・・)
「初めてだった……」
(>﹏<)
「ヴァイツ……!」
呟いて、胸の内につかえるものが、それだったのだと理解した。
理解して、膝から力が抜けて、その場に倒れて。
――なんだかやけに、いい気分だった。
🕳️ 落ちた
駆け寄ろうとする手を、細い指が止める
駆け寄ろうとするのを、伸びてくる細い指に止められる。
振り返ったスバルに、キモノ姿の少女は涙目で首を横に振った。
耳を引き裂くような鳴き声。倒れたヴァイツの頭上で、通路の天井が押し潰される。
落ちてくる天井の下にいるヴァイツを呑み込み、床が抜ける。
「二匹目が落っこちたのは運がよかったな。魔獣は殺すのも一苦労だ」
(・_・)
「――魔獣ってのは、角を折った奴の死体を食うんだよ」
「命令されてる間、さぞ鬱憤が溜まるんだろうな。そいつが死ぬと、腹いせに食う」
首を蹴り飛ばして、大鳥がそれを狙うのにスバルたちを巻き込もうとした。
――でも、そうはならなかった。何故なら、何故なら。
(×Д×)
「ヴァイツが」
(¬_¬)
「あんな見た目で仲間想いの奴だったな。――だから死んだ」
🧠 心を砕く
何も教えずに殺す流儀を、なぜ曲げたのか
何も聞かせず、知らせず、教えないで殺すのがトッドの流儀。
――それなのに、どうしてぺらぺらと、今は話を聞かせたのか。
聞かせて、わからせて、スバルの頭を次の疑問に向かわせるためだ。
看守と魔獣の関連性が解決してしまえば、思考は次に、ヴァイツのことに向かう。
得体の知れない敵から、血の通った人間にするための、心を砕く手順。
💔 三人
大声で虚を作り、そこへ刃を差し込む
(;゚Д゚)
「シュバルツ様――!」
「やることちぐはぐだぞ、お前さん」
しゃがんだトッドが股下に腕を差し込み、小さい体を真横に放り投げる。
「遊んでこい」
――大鳥が壊して、外と繋がっている壁の大穴へと。
( ゚д゚ )
「皇帝閣下の御子だぞ!? 正気なのか!?」
その訴えに対するトッドの答えはシンプルだった。――ただ無言で、斧を振った。
「目の前で消えてどうすんだ」
目が合って、身じろぎした途端に擬態が乱れる。そこに赤い絵の具が加わった。
(>﹏<)
「け、決闘だ……っ」
「君も、戦士なら――」
(・∀・)
「わ!」
大きな声で叫んで虚を突き、その生まれた虚に刃を差し込む。
👃 似た臭い
本当に皇帝の子どもなのか、と直接聞かれる
「実際のところ、どうなんだ? お前さん、本当に皇帝閣下の子どもなのか?」
(´・ω・`)
「なんで、投降とか、しない? 俺が、皇帝の……」
「投降なんてして、適当に理由付けて殺されちゃ敵わん」
「事の真偽は、こっちが有利な状況にしてから聞いた方がいい」
(´ー`)
「判断に思考を割けるし、間違いもしづらい。――それと、安心できる」
「ナツキ・シュバルツ、それは俺が知ってる怖い奴の名前に似ててな」
「瘴気が、わかるのか?」
(・∀・)
「瘴気? ああ、いや、違う違う。本当に臭い、体臭だよ」
「もしもいるなら、そいつとの交渉材料にお前さんを生かしておいてやってもいい」
手足の伸びたスバルを、縮んだスバルの兄弟だと思っている。
――トッドの中に『殺さない』という選択肢が生まれたなら。
( ゚д゚ )
「……に、兄ちゃんのことを、知ってるのか?」
🥶 操ろうとしたな
言葉を並べようとした口を、待てと止められる
口を開いて、この場を乗り切る言葉を並べようとしたスバル。
「――待て」
伸びてくる掌に顔を掴まれ、指の隙間から彼の目が見えた。
どん、と鈍い音がして、鋭い感覚が胸の中に滑り込んでくる。
(×Д×)
「ぎゃ、ぎぃぃっ」
(;´Д`)
「失敗失敗、油断も隙もあったもんじゃない」
咳込んで、口の中から赤くなった包みが落ちた。――もう関係ない。使えない。
死んで、死んではいけない。死んだらマズい。死んだら、死んじゃ、ダメで。
「動くなよ」
(´;ω;`)
「し、んじゃ、ダメ……」
(╬゚Д゚)
「せーのっ」
🚫 救えない人
――絶対に救えない人が出てしまったとき、ナツキ・スバルの『心』が壊れる
割れてない頭、痛くない胸、死んでない命が、そこにあって。
それを確かめたスバルが、安堵の息を吐いて、その顔を上げたところに――
ゆっくりと、こちらに振り返っている刺青だらけの男がいた。
左腕が斧でぐしゃぐしゃになり、右目をナイフで突き刺された、ヴァイツが。
「初めてだった……」
「オレを、信じると、そう言った奴は……」
(╬゚Д゚)
「ああああああ――ッ!!」
手を伸ばしても、何をしても、もう絶対に助からない、ヴァイツの体が。
――後ろ倒しになり続ける、『死』からやり直される開始地点。
――絶対に救えない人が出てしまったとき、ナツキ・スバルの『心』が壊れるから。
第七章73『ヴァイツ・ログン』終了。
ヴァイツ
「――ヴァイツ! 剣を取れ! お前が頼りだ!!」
トッド
タンザ
イドラ