リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章70

『一個』

三十分足らずのやり直し。この一周で、たった一個だけ掴み取る。

💊 確実性

なぜ苦しむ薬を選んだのか、その理由

ヌル爺さんに『薬』を頼む上で、一番重要だったのは確実性だった。

手に入る範囲の薬を調合し、全身の血流を狂わせて相手を死なせる劇物。

――飲めば、ものすごい苦しんだ挙句に絶対に死んでしまう。

スバル「結局、俺の根っこは怠けたがりの大馬鹿野郎なんだ」

苦しまないで死ぬ毒なんて以ての外だ。些細なことですぐやり直しを考えてしまう。

――そうすることで、ナツキ・スバルは怪物になっていく。

人の痛みも苦しみもわからない、人間離れした怪物に。

スバル

( •̀_•́ )

「そんなの、絶対にノゥ」

自分は裏切れても、みんなは、家族は裏切れない。

――地獄の苦しみを味わってでも、伸ばした手だけは引っ込めない。

😖 魂が引きずる

原因は消えたのに、涙も鼻水も止まらない

死んで、戻って、だから死ぬ原因になった苦しみはどこにもない。

でも、魂が引きずっている。涙も鼻水も、ボタボタ流れて止まらない。

ヴァイツ

(;゚Д゚)

「おい、シュバルツ……! どうした、突然……!」

スバル

(×Д×)

「ら、らいじょうぶ……」

ヴァイツ「大丈夫なわけがあるか……そんな不細工な有様で……!」

駆け寄った彼が、素手で躊躇なく鼻水を拭ってきた。

汚いものを汚いと思わないで行動できるのは、すごい立派なことだった。

――一番どうにかできるはずの人間が失敗すれば、他の人たちはどうすればいい。

欲しくて手に入れた力じゃなくても、使いこなせるだろう、ナツキ・スバルなら。

菜月・賢一の、あの人の息子なのだから。

⏳ 短すぎる猶予

島全体が軋むように揺れる

拳を床に押し付けたところで、島全体が軋むように揺れる。

スバル「――くる」

あの地獄絵図そのものみたいな光景と、それを作った最悪の敵が。

――もう二度と会いたくないと祈りさえ捧げた相手、トッドとの再戦だ。

『死に戻り』は、『幼児化』以来、完全に異常をきたしている。

紅瑠璃城の最悪の十秒間ほどではないが、猶予は尋常じゃなく短い。

――戻ってこられたのは、おおよそ三十分。

スバル

(╬゚д゚)

「クソ、婚約者のところに帰りたいとか言ってたくせに、なんでここにいるんだよ」

スバル

(´・ω・`)

「ヴァイツ、ちょっと手伝ってもらっていい?」

ヴァイツ

(・_・)

「――。オレが今、何を言ったか忘れたのか……?」

スバル

「ただ力を貸す、だろ。だから力、貸してくれ」

ヴァイツ

(´ー`)

「わかっているならいい……。それで、オレに何をさせたい……?」

スバル

「ほんの少しでいい。今、島にやってきた連中を足止めしてほしいんだ」

🧩 三人

死んだ顔ぶれを、思い出して並べる

スバル

(>﹏<)

「まず、考える時間がいる。――思い出せ思い出せ思い出せ、何があった」

全員、死に方は一緒。剣奴だけでなく、看守たちもだった。

――例外は、スバルとトッドだけ。

ただしスバルにも、みんなと同じ現象は起こっていた。遅かっただけだ。

スバル「でも、三人ばかし見てない顔がある」

――アラキアとグスタフ、そして偽セシルスの三人。

アラキアはトッド側の人間だから当然。では、あとの二人は?

毒ガスや魔法を疑っていたが、もう一個、弱々しい可能性が浮かんだ。

この剣奴孤島でだけ大きな影響力を持つモノ――『呪則』。

スバル

「だけど、呪則なんてただの脅しで、実在しないはずだ」

スバル

「グスタフさんが看守の人たちを全滅させる理由がねぇよ」

考えれば考えるほど、大虐殺とグスタフの意思は無関係に思われてくる。

スバル

(・_・)

「なんで、俺だけ効果が弱かったんだ?」

🎬 分水嶺

屈託のない笑みが、ただの微笑に変わる

セッシー

(・∀・)

「――おや、バッスー、悩み事ですか?」

スバル

( ゚д゚ )

「うわっ!?」

スバル

「セッシー、これから島でとんでもないことが起こる」

セッシー

「あの鹿人のお嬢さんやバッスーの『合』の方々の窮地。いえ死地といった感じでしょうか」

スバル

(╬゚Д゚)

「セッシー! 冗談じゃねぇんだ! みんながヤバいんだよ!」

セッシー

(≧▽≦)

「それはより重畳! 危機と窮地と困難、大助かり!」

セッシー

「それとも、まさか僕が無条件にバッスーの味方をするとでも?」

切れ長な青い瞳に、刃のような冷たさ。

セシルス「――ここですよ、ここ」

セッシー

「バッスーは僕を予感で魅せ! 期待で繋がり!」

セッシー

「駆け引きで笑わし! そして山場で証明するんです!」

セッシー

「いったい誰が、このセシルス・セグムントを魅せるのかを!」

空の彼方にいる観客、その存在を確信していなければできない大発声。

――この本物の怪物は、本気で世界と話せると信じている。

スバル

( •̀_•́ )

「お前を、俺の仲間にする。こき使ってやるって、そう決めたよ」

セシルス

(≧▽≦)

「――その無謀、嫌いじゃないです、むしろ好き」

屈託のない笑みではなく、ただ唇を緩めるだけの微笑。

――挑戦者と認めた証だったのかもしれない。

🩸 恐怖心がない

形のいい鼻から、血が滴っている

笑みを浮かべた唇を引き締め、セシルスがそっと自分の顎を指で撫でた。

――その、形のいい鼻から滴った血が伝い落ちる顎を。

見下ろせる範囲に、倒れている人影がいくつも。始まったのだ、大虐殺が。

セシルス

「いやあ、厳しそうです。これはなかなか強敵が相手ですよ、バッスー」

スバル

(;゚Д゚)

「言ってる場合か!? 鼻血も、目からも!」

セシルス

「ふむ……ここじゃ一滴も血を流していないのが自慢だったんですけどね」

スバル

(・・・・・・)

「死ぬのが、怖くないのか……?」

セシルス「人は死にますからね」

迷いも、戸惑いも、恐れも、不安も、緊張も、後悔も、ない。

生き物が最も怖がるはずの『死』への恐怖心が、この少年にはない。

血で汚れた袖を隠すように腕に巻いて、柵に背中を預けたまま動かなくなる。

俯いて瞼を閉じたまま、ピクリとも。

😢 ごめん

生存者を探して歩いたが、誰もいない

ゆっくりと足を引きずりながら、島の中を歩き回り、生存者を探した。

――だが、セシルスさえもその候補から外れた今、誰も現れなかった。

呆気に取られた顔でいるみんなの瞼を閉じて、軽く顔を拭ってやる。

それが、スバルにできる精一杯だった。

スバル「ごめん、タンザ……」

失敗した。順序を間違えた。

高台に上がる前に合流して、せめて一緒にいてやれば。

この頼りのない場所で不安がる女の子を、何もわからないまま死なせないで済んだ。

檻の中の剣闘獣も、みんな死んでいた。人間と同じ死に方で。

スバル

「……俺の方が、丈夫ってことかな」

🕰️ 一個だけ

話ができる可能性は、この相手にしかない

トッド「――お前さん、こんなところで何してるんだ?」

会わずに済むなら会いたくなかった。でも、これは避けられない対面だ。

――話をすることができる可能性があるのは、この死神だけだった。

近付いてくる足取りに躊躇はない。侮っているのではなく、問題視していない。

冗談や比喩表現抜きに、スバルはもう死にそうだった。

たとえチャンスでも、トッドは容易くヒントをくれる人間ではない。

――たぶん、一個だけだ。手に入る情報は、一個だけ。

その一個を、会心のものにしなければいけない。

誰が生き残っているのか。無駄だ。アラキアはどこか。答えるはずがない。

グスタフはどうしているのか。それも無駄撃ちになる。

――なら、あとは、この大虐殺の、方法か。

🌬️ 高台でも死んだ

――毒ガスは、ない。その選択肢を、スバルは頭の中から消した

――毒ガスは、ない。その選択肢を、スバルは頭の中から消した。

高台に居座ることを決めていたのは、風の強い場所なら安全かもしれないと考えたから。

でも、結果的にスバルもセシルスも被害から逃げられなかった。

外にいたものも倒れていた時点で、毒ガスの可能性はかなり低い。

なら、あとの可能性は――アラキアの、魔法。

その確信が得られれば、次は、次はもっと、ちゃんと。

『――ここですよ、ここ』

もう、どこにもいないはずの千両役者の声が、弱々しい思考に熱を生む。

❗ 呪則だ

一度は消した可能性を、声にしてぶつける

スバル「――呪則だ!!」

一度は消して、消し切れなかった可能性を、声を大にして死神にぶつけた。

その叫び声を聞いた刹那、トッドが動いた。

トッド

(╬゚Д゚)

「死ね」

訝しげな気配も、面倒そうな空気も、何もかもが掻き消えて殺意だけが残った。

突き出される冷たい刃が、胸に深々と埋まる。

絶対に助からないようにひねりながら抜かれた。

吐き出した血に、『薬』の包みが混じっていた。噛み破るのに失敗した。

――でも、これは『薬』は必要ない傷だった。

トッド

「口の中から、正気か?」

スバル

「……こ」

トッド

「――なんだ?」

スバル

(×Д×)

「い、っこ」

顔色を変えて、何よりも優先して、急いでスバルを殺した。だから、掴んだ。

――剣奴孤島ギヌンハイブを殺すのは、存在しないはずの『呪則』なのだと。

第七章70『一個』終了。