第七章69
『帝都より来たる』
跳ね橋が下りる。渡ってきた馬車の屋根の上に立っていたのは――。
🗓️ 三日
三日、死合いが一度も組まれていない
二回目の『スパルカ』と大宴会があった日から、三日が過ぎた。
三回目の『スパルカ』も、通常の死合いも、一度も組まれていない。
先に兄弟と呼んだのはスバルだが、あちらからも兄弟分扱いだ。
(´ー`)
「まぁ、全然悪い気はしないけど」
ヴァイツはどっしりとした信頼を、イドラはどことなく敬意を。
そして、その変化は島の剣奴たちにも広がっていた。
「よお、シュバルツ、今日もいい目つきしてるな!」
「看守たちが嘆いてるぞ。このままじゃ剣闘獣がいなくなっちまうってよ!」
🔑 鍵の在処
島と外を繋ぐ、唯一の手段を調べる
島と外を繋ぐ唯一の手段。その操作方法と、制御塔への入り方。
塔は跳ね橋の袂にででんと立っている。見張りはいないが、立派な鍵つき。
跳ね橋はグスタフが自分で操作しているようで、鍵は本人が持ち歩いている公算が大。
(・・・・・・)
「うーん、グスタフさんとやり合うのは分が悪い」
あの見た目で腕が四本。荒くれ揃いの剣奴を支配する立場だ。弱いはずがない。
「そもそも、グスタフさんと事を荒立てたくない……」
一度も声を荒げず、ちゃんと話せている貴重な人。理想は、こっそり盗み取ること。
看守たちへの探りも空振り続き。どこにいても厳しい視線が向けられる。
「そう、ナンパは数だって偉い人が言ってた。ナンパじゃないけども」
🤜 借りがある
なぜ地下まで来たのか、を明かされる
「落ち着きかん奴だな、シュバルツ……」
(・∀・)
「こんなところで何してるの? かくれんぼ?」
「それがなんだかは知らんが、たぶん違うぞ……少し、地下の様子を見にきた……」
地下は湖に直接繋がっているだけ。目的は、死体を捨てること。
「オレたちも、負けていたら同じように魚の餌にされていた……」
「オレたちは……剣奴の立場に、支配される立場に甘んじるべきか……?」
(¬_¬)
「ヴァイツ、あんまり迂闊なことは言わない方がいいと思うよ」
「お前が何者かはわかっている……」
( ゚д゚ )
「え」
「だが、それは関係ない……オレは、お前の被る冠に興味はない……」
「ただ力を貸す。それを覚えておけ……」
( •̀_•́ )
「……心強いぜ、ヴァイツ」
🌉 揺れ
地の底が揺れるような、低い音がする
ぐらぐらと、地の底が揺れるような震動と低い音。
「跳ね橋か……」
島全体を揺らす仕掛けは、剣闘場と跳ね橋しかない。
――そして今、剣闘場に繋がる通路は二人で塞いでいる。
「シュバルツ様、こちらです」
「……塔の方を窺っておりました。やはり、鍵はグスタフ様が所持されているようです」
(;´Д`)
「う、やっぱりそうか」
「鍵を奪えばいいなら……数で仕掛けるか……?」
(>﹏<)
「短気すぎる作戦だなぁ! 大体、そんな無謀な真似しても呪則でやられるよ」
――呪則がないという話は、まだタンザ以外に打ち明けていない。
もし広まれば、剣奴サイドと管理サイドの全面戦争が始まってしまう。
「看守はみんな、角を折った魔獣を飼ってるから、とんでもない被害になる」
😨 最悪のタイミング
馬車の屋根の上に、誰かが立っている
鎧を着た黒い疾風馬が引く馬車。だが、前回とはひとつ違うところがあった。
――馬車の、屋根の上に誰かが立っている。
揺れる屋根の上に、褐色の肌で、細い体をした、女の人が。
その顔を目にした途端、スバルは喉の奥で悲鳴を押し殺してしゃがみ込んだ。
(´・ω・`)
「し、シュバルツ様? どうされましたか、突然そんな風に……」
(;゚Д゚)
「あの、女の人は、ヤバい」
前に、グァラルで大暴れした、銀髪に眼帯をした強すぎる女の人だった。
📜 使者
今回の来訪者は、剣奴ではないらしい
「今回の来訪者は剣奴ではなく、どうやら帝都からの使者らしい」
「あの女、オレに気付いてこっちを見たぞ……」
百メートルは離れていた。それで視線を感じるなんて怪物だ。
「以前、カオスフレームのヨルナ様を狙った方のお一人です」
「私はこの目では見ておりませんが、都市をひと区画、丸々炎で包んだとか」
(;´Д`)
「い、いくら何でも冗談きついぜ。なぁ?」
「ただ普通に強い奴が、俺は一番困るんだ」
工夫でどうにかできる相手なら勝ち目はある。実力差が離れすぎていると、途端に消える。
「敵、と決めつけるのは」
(・・・・・・)
「まだ早い、か。うん、うん、それはそうだ。それはそうなんだけど……」
🎪 興行
この時期に来ること自体が、おかしい
「ヒアイン、わからないのか? 今、帝国は二分されているんだぞ」
(╬゚д゚)
「え? あ、ああ! クソ、そういうことかよ……!」
「じゃあ、帝都から何の目的で使者が島に?」
「考えられるとしたら……島の興行、か……?」
「興行……この、剣奴孤島の本来のお役目ですね」
「反乱が起こっててあちこちが慌ただしいってのに、こんなときにやるか!?」
「こんなときだからこそ、という考えもある」
「帝国民は精強たれという考えを引き締める目的が……」
帝都で指示を出している皇帝が偽物なのを、スバルは知っている。
――アベルとほとんど同じだけのことを考えられる相手が、無駄足を踏むとは思えない。
🚪 出ていく
使者の馬車に隠れる、という案が出る
「逆に考えれば、どうだ……使者の乗ってきた馬車に隠れ、島を出る……」
(¬_¬)
「馬車に隠れる流れ、カオスフレームのときにもうやったと思ったんだけど」
「同じ方法でも、何度でも通用するなら構わないと存じますが……」
「このまま居残っても、いずれ何かと戦わされて死ぬぞ、ヘタレ……」
「シュバルツ様と同じく、私もここに長居していられない理由がございます」
「わ、私は……出られるものなら出たい、と考えているが」
「困らせてごめん、ヒアイン。だけど、お前も考えてほしい」
「ここに、ずっといるべきなのかどうかってことは」
「……出ていくったって、呪則はどうすんだよ」
「呪則のことも、どうにかする。実は、その方法もヒントは掴めてるんだ」
( •̀_•́ )
「きっと、俺が島から出る方法を見つけてみせる。だから――」
💥 なんで?
――ヒアインが、目を血走らせて倒れた
そのときは、力を貸してほしい。――そう、続けるつもりだった。
でも、スバルの言葉は続けられなかった。
――ヒアインが、目を血走らせて倒れた。
重々しい音を立てて、大きな体が床にぐったりと倒れる。
びくびくと、手足が痙攣するだけだ。真夏の道路でひっくり返っている蝉みたいに。
――ヒアインだけじゃなかった。
イドラとヴァイツと、タンザがその場に倒れて、おんなじように震えていた。
(・_・)
「タンザ?」
ひっくり返した彼女の目から、血の涙が流れた。目と、鼻と、耳からも。
ずきりと、強い痛みが頭を打って、スバルの鼻からボタボタと血が流れる。
順番が、違う。タンザたちよりも遅いけれど、スバルもおんなじ痛みがある。
「おか、しい……」
🩸 みんな死んでた
島の中を見て回って、わかったこと
隣の共同部屋も、あちこちの通路も、大広間も、跳ね橋の袂も、みんなダメだった。
足を引きずって、チカチカする目で、服を血塗れにして、島の中を見て回った。
みんな、死んでた。みんなみんな、死んでた。
みんな目から、鼻から、耳から血を流して、死んでる。死んでた。
剣奴も、看守も、みんな区別されない風に。いきなり、突然に。
信じられなくて、受け入れられなくて、たどたどしく聞くしかない。
――誰にって、空に。空じゃなかったら、水に。
「――なぁ」
答えをくれそうな誰かの声に、スバルは振り向いて、そして。
🪓 トッド
人懐っこい顔は、とんでもない誤解だ
明るい橙色の髪を、赤いラインの入った黒いバンダナでまとめた帝国兵。
パッと見は人懐っこい顔。でも、それはとんでもない誤解だ。騙されちゃダメだ。
(╬゚Д゚)
「――トッド」
記憶の引き出しが開けづらくなっているはずのスバルが、あっさり引き出せる名前。
「――。お前さん、なんだって俺の名前を知ってる?」
呼びかけ一つでガラッと態度が変わり、乱暴に壁へ押し付けられる。
「見覚えないな。一度見た顔は忘れないんだが、知らない顔だ。――いや」
「お前さん、俺の知ってる怖い奴と似た臭いがするな」
アラキアを連れて逃げたトッド。――気付くべきだった。
「なんで、みんなを……」
(´ー`)
「殺したのかって? 答えんよ、そんなこと」
「俺からすれば、お前さんが生き残ってる方が誤算だ」
「時間だの偶然だの、そういうモノに丸投げするのは嫌いでな」
🔪 選べ
奥歯を探った次の瞬間、指がねじ込まれる
首に当てられた、大振りなナイフの冷たい刃。
――万一の可能性があった。ここで殺さないで、後回しにされる可能性。
何かを聞き出そうとされる可能性。それをされたら、取り返しがつかなくなる。
奥歯を舌で探った、次の瞬間。トッドの指が口の中にねじ込まれた。
「……なんだこれ。まさか、毒か?」
「わざわざ毒を口の中に仕込んでたってことは、いざってときの自殺用だろ?」
「命を粗末にするなんてどうかしてるぞ」
「そうだな。別に苦しめたいわけじゃない。使ってもいいぞ」
「ああ、死んでくれるなら自殺でもいい。俺もナイフを汚さないで済む」
強く噛めば包みが破れる位置に、ご丁寧に『薬』を戻される。
「俺はどっちでもいい。お前さんが死ぬんならな」
「選べ」
☠️ 猛毒
なぜこの男だけ生きているのか
タンザも、ヒアインも、ヴァイツも、イドラも、死んだ。
オーソンたちも、ヌル爺さんも、看守の人たちも、みんな死んだ。
――なんで、トッドは生きているのか。
強く奥歯を噛む。包みが破れて、『薬』が漏れ出す。
口の中に溢れ返った血を、目の前のトッドに思いっきり吐き出した。
――道連れじゃない。一矢報いる気持ちで、服を汚してやろうと。
でも、トッドは勘がよかった。身構えた瞬間、横に飛ばれた。
血が燃えるみたいに熱い。煮えた鍋に突っ込まれたみたいに、熱い。
痛い、痛い、痛い、痛い。痛いのだけで、死んでしまいたくなる。
( ゚д゚ )
「お前さん、どうかしてるぞ」
🔁 冷たい空気
楽な死に方などない、と思い知らされる
「お前が何者かはわかっている……」
「だが、それは関係ない……ただ力を貸す。それを覚えておけ……」
焼ける、燃える、全身が削られる痛み。それが突然途切れて、冷たい空気の中にいた。
(×Д×)
「あ、ぁ……」
「シュバルツ……?」
自分の中から毒を追い出そうとする。もう、体の中にいないはずの毒を。
――あの薬がもたらす『死』は、スバルに楽な死に方などないことを思い起こさせる。
絶対に逃げてはいけない、最後の砦の番人なのだった。
第七章69『帝都より来たる』終了。

スバル
ヴァイツ
タンザ
イドラ
「――お前さん、こんなところで何してるんだ?」