第七章60
『波乱の胤蒔き』
魔都は消え、少女は散った。――そして、黒い水から這い上がった手を、誰かが掴む。
🤝 涙以外
褒め言葉も慰めも、要らないと言う
(・_・)
「『大災』を滅ぼさんとすれば、ヨルナ・ミシグレにも甚大な反動があろう」
「まだ育ち切らぬ『大災』相手に魔都をぶつけ、それでも足りなければ――」
( •̀_•́ )
「――私が」
「ヨルナ様……誰よりも偉大な慈母の如き御方のため、私は望んではるかな愛に殉じるでしょう」
(・・・・・・)
「――。大儀である」
❤️ 見返り
――どうして、愛さずにおれようか
――誰かを愛する気持ち自体が、見返りなのだ。
その人を想い、熱くなる胸の鼓動こそが『愛』の見返り。
「私の、この命をいただいた理由なんです」
一度目のお目通りは、余所から追われてきた幼子として。
二度目は、優しい姉をおぞましきモノたちに奪われて。
――彼女は真摯に耳を貸し、応報にさえ手を貸した。謀反者の汚名を着せられてでも。
――どうして、愛さずにおれようか。
振り向けば未練になる。呪いになるとわかっていた。でも――
(´;ω;`)
「タンザ――!」
地面に倒れ、手を伸ばすヨルナ。その足を、矢の一本が貫いていて。
――その矢がなければ、彼女は駆け寄ってきていた。
「――ヨルナ様」
――どうか、愛しい御方の日々が健やかでありますよう。
🕳️ 巨大な穴
総力戦で抗った災いが、消失している
爆心地は丸く抉られたように陥没し、そこには巨大な穴がぽっかりと口を開けていた。
――総力戦で抗った災いは、忽然とその姿を消失させていた。
「本来であれば、自分は貴公らと敵対している」
(・_・)
「……なら、あたしたちと戦う?」
「――。やめておこう」
「貴公らとは敵同士……戦場で相見えることになるだろう。そのときには手は抜けない」
(´ー`)
「あたしたちも、それはおんなじ! ……手伝ってくれて、ありがとう」
「帝国の『将』として、当然のことをしたまでだ」
🪖 誰にも壊せねぇ
兜が、無事に見つかった
「アルちん、ちゃんと兜見つかったんだ?」
「まぁ、見つかりさえすれば壊れねぇもんとわかっちゃいたが」
( ゚д゚ )
「――? 頑丈ってこと?」
「先の戦いの中、見事な指示だった。何故、あの『大災』の動きを?」
(・∀・)
「企業秘密。それ言わなきゃ、休戦はなしにするか?」
(・・・・・・)
「死人……」
「タンザって子がああしてなきゃ、オレたちは全滅してた。絶対にな」
「もっと、頑張れたかもしれないよ」
「いいや、その道はなかった。――一通り試してもダメだったんだよ」
(´;ω;`)
「ありがと、アルちん」
「……ユーアーウェルカム」
💍 貢ぎ物
鱗を削り、羽根を集めて贈られたもの
「俺の差し出せるものは、親書に記した通りだ。貴様の答えを聞こう」
(╬¬_¬)
「それが、この惨状を眺めて出てくる言葉でありんすか?」
「慰めが庇となり、同情が寄る辺を作るか?」
「タンザ、でありんす」
「あの子の、姉の角を削り出して作った帯留めでありんす」
「この髪留めもかんざしも、いずれも愛し子たちからの貢ぎ物」
(・・・・・・)
「住処を追われ、何も持たないあの子らが、わっちへ報いたいと自らを削った印」
鱗を削り、羽根を集め、角や牙を磨いて。
――貴重な宝石よりも価値のあるもので、だから応えなければと思ってきた。
⚖️ どちらを優先するか
子らの行き場は、どうするのか
「わっちの子らの行き場は、どうするつもりでありんす?」
「一度、城郭都市を拠点とするしかあるまい」
「道中、他の町々を接収し、こちらの旗下へ加える。貴様と魔都の住人がいれば可能だ」
「親書の、わっちの願いを叶える用意があるというのは本気でありんすか?」
( •̀_•́ )
「二言するつもりはない。だが、よく考えておけ」
紫煙が儚く風に紛れて消えていった。
📖 古典の引用
射抜いた足を案じるのは、杞憂だと言われる
「射抜いた足を案じているなら、それは杞憂というものだ」
(´・ω・`)
「……私ハ、正しかったのでしょうカ。天命に従わズ、あなたを射なかっタ」
「射られなかった立場の俺が、俺を射るべきであったとは言うまいよ」
「……あなたのものとハ、思えない言葉ですネ」
「であろうよ。『アイリスと茨の王』……古典の引用だ」
――星がマリウリではなく、最初からタリッタに話しかけていたなら。
彼女は星のために生きたかもしれない。でも、そうはならなかった。
「――あの瞬間、迷いなく走る鹿人の娘の背を押しましタ」
「たダ、あの街に戻リ、姉や同胞と言葉を交わしたいでス」
「すでにいなイ、私の魂の姉妹の娘とモ」
🌍 世界が滅んでねぇ
死んだと考えるのは、まだ早い
「スバルちん、どこいっちゃったんだろう……」
(¬_¬)
「あの惨状で、あれが生き長らえたと本気で考えているのか?」
(>Д<)
「――っ、当たり前だよ! スバルちんが死んじゃうなんて……」
「残念ですガ、スバルハ……」
「兄弟は生きてるぜ」
「道化、貴様は何故にあれの生存を確信する?」
「単純明快、そりゃナツキ・スバルってのがそういう奴だからだよ。もっと言えば」
「アベルちゃんはどう思ってんだ? 兄弟が死んだって?」
「――あれが『大災』でなかった以上、果たす役割が残されていよう」
「そのための能もあるなら、死したと考えるのは尚早だろうよ」
🩸 割れた爪
土と血で汚れた手が、目につく
(>﹏<)
「うあう……」
手は土でも汚れているが、割れた爪からの出血で赤く汚れているのも目についた。
「スバルヲ、探しているのですネ」
「もうやめよ。土を掘り返し、瓦礫の裏を見ても貴様の探し物は見つからぬ」
(#`Д´)
「うー! ううー!」
「アベルちん、スバルちんを探す方法があるの?」
「探し出す術、というほど穏当なものではない」
「本来の狙いは、帝都と事を構えるための名分の確保であったからな」
「……策がうまく回れば、貴様やこの娘の願いが叶うこともあろう」
( •̀_•́ )
「何しろ、帝国中があれの身柄を探し回ることとなる」
「で、どうすんだ? どうすれば、その兄弟を見つける策ってのは実行できる?」
「そう難しいことでもない。ただ、広めるだけだ」
「まさしく、『マグリッツァの断頭台』の再現だとな」
🌊 手放せないもの
岸を掴んだ手の、反対側に抱えたもの
――真っ黒な水、逃げ場のない水域。
体温と体力を凄まじい勢いで奪われ、何度も息絶える感覚を味わった。
それが、夢と現のどちらだったのかさえ区別できない。
岸を掴んだ右手の反対、左腕には決して手放せないものを抱いている。
――それが何なのかを理解してからは、絶対に手放すなどできなかった。
先に、抱いていたそれを岸へ押し上げる。
普通の服よりずっと布の多いキモノは、それだけ水を吸う。
抱き寄せたときに脇腹を抉ったのは、立派な鹿の角だ。
――彼女を乗せたことで、緊張の糸が切れた。
両手は空しく渇いた土を掻くだけで、意識が白んでいく。
「――おっと、危ない」
細い指に手首を握られ、沈みかけた体が岸に引き寄せられる。
「ああ、やめましょう。今にも意識が消える寸前でしょう?」
「それじゃちょっとしまらない。せっかくなら、もっと劇的に始めたいものですし」
――やたらと生命線の長い、見知らぬ相手の手が目元を塞ぐ。
「しかし、よくもまぁ泳ぎ切ったものです! いやいやいやいや、いいですね!」
その、まるではしゃぐ雷鳴のような声が。
「――なんだか、壮大な物語が始まる予感がしませんか?」
第七章60『波乱の胤蒔き』終了。
ヴィンセント
タンザ
ヨルナ
ミディアム
アル
タリッタ
ルイ