リゼロを読む WEB版・初見向け解説
明るさ
字の大きさ
行間
地の文の書体

206話

第七章60

『波乱の胤蒔き』

魔都は消え、少女は散った。――そして、黒い水から這い上がった手を、誰かが掴む。

🤝 涙以外

褒め言葉も慰めも、要らないと言う

ヴィンセント

(・_・)

「『大災』を滅ぼさんとすれば、ヨルナ・ミシグレにも甚大な反動があろう」

ヴィンセント

「まだ育ち切らぬ『大災』相手に魔都をぶつけ、それでも足りなければ――」

タンザ

( •̀_•́ )

「――私が」

タンザ

「ヨルナ様……誰よりも偉大な慈母の如き御方のため、私は望んではるかな愛に殉じるでしょう」

ヴィンセント

(・・・・・・)

「――。大儀である」

タンザ「慰めも、お褒めの言葉もいりません。――ヨルナ様の、涙以外」

❤️ 見返り

――どうして、愛さずにおれようか

――誰かを愛する気持ち自体が、見返りなのだ。

その人を想い、熱くなる胸の鼓動こそが『愛』の見返り。

タンザ

「私の、この命をいただいた理由なんです」

一度目のお目通りは、余所から追われてきた幼子として。

二度目は、優しい姉をおぞましきモノたちに奪われて。

――彼女は真摯に耳を貸し、応報にさえ手を貸した。謀反者の汚名を着せられてでも。

――どうして、愛さずにおれようか。

振り向けば未練になる。呪いになるとわかっていた。でも――

ヨルナ

(´;ω;`)

「タンザ――!」

地面に倒れ、手を伸ばすヨルナ。その足を、矢の一本が貫いていて。

――その矢がなければ、彼女は駆け寄ってきていた。

タンザ

「――ヨルナ様」

――どうか、愛しい御方の日々が健やかでありますよう。

🕳️ 巨大な穴

総力戦で抗った災いが、消失している

爆心地は丸く抉られたように陥没し、そこには巨大な穴がぽっかりと口を開けていた。

――総力戦で抗った災いは、忽然とその姿を消失させていた。

カフマ「――我々は、あの少女に救われた。自分が不甲斐ない」

カフマ

「本来であれば、自分は貴公らと敵対している」

ミディアム

(・_・)

「……なら、あたしたちと戦う?」

カフマ

「――。やめておこう」

カフマ

「貴公らとは敵同士……戦場で相見えることになるだろう。そのときには手は抜けない」

ミディアム

(´ー`)

「あたしたちも、それはおんなじ! ……手伝ってくれて、ありがとう」

カフマ

「帝国の『将』として、当然のことをしたまでだ」

🪖 誰にも壊せねぇ

兜が、無事に見つかった

ミディアム

「アルちん、ちゃんと兜見つかったんだ?」

アル

「まぁ、見つかりさえすれば壊れねぇもんとわかっちゃいたが」

ミディアム

( ゚д゚ )

「――? 頑丈ってこと?」

アル「そうそう、頑丈ってこと。この世の誰にも壊せねぇ」

カフマ

「先の戦いの中、見事な指示だった。何故、あの『大災』の動きを?」

アル

(・∀・)

「企業秘密。それ言わなきゃ、休戦はなしにするか?」

ミディアム

(・・・・・・)

「死人……」

アル

「タンザって子がああしてなきゃ、オレたちは全滅してた。絶対にな」

ミディアム

「もっと、頑張れたかもしれないよ」

アル

「いいや、その道はなかった。――一通り試してもダメだったんだよ」

ミディアム

(´;ω;`)

「ありがと、アルちん」

アル

「……ユーアーウェルカム」

💍 貢ぎ物

鱗を削り、羽根を集めて贈られたもの

アベル

「俺の差し出せるものは、親書に記した通りだ。貴様の答えを聞こう」

ヨルナ

(╬¬_¬)

「それが、この惨状を眺めて出てくる言葉でありんすか?」

アベル

「慰めが庇となり、同情が寄る辺を作るか?」

ヨルナ

「タンザ、でありんす」

ヨルナ「最後に、わっちらを助けるため、その身を投げ出した愛し子……その子の名前は、タンザでありんす」

ヨルナ

「あの子の、姉の角を削り出して作った帯留めでありんす」

ヨルナ

「この髪留めもかんざしも、いずれも愛し子たちからの貢ぎ物」

ヨルナ

(・・・・・・)

「住処を追われ、何も持たないあの子らが、わっちへ報いたいと自らを削った印」

鱗を削り、羽根を集め、角や牙を磨いて。

――貴重な宝石よりも価値のあるもので、だから応えなければと思ってきた。

⚖️ どちらを優先するか

子らの行き場は、どうするのか

ヨルナ

「わっちの子らの行き場は、どうするつもりでありんす?」

アベル

「一度、城郭都市を拠点とするしかあるまい」

アベル

「道中、他の町々を接収し、こちらの旗下へ加える。貴様と魔都の住人がいれば可能だ」

ヨルナ

「親書の、わっちの願いを叶える用意があるというのは本気でありんすか?」

アベル

( •̀_•́ )

「二言するつもりはない。だが、よく考えておけ」

アベル「自身の長年の願いと、貴様自身の『愛』とやらと、どちらを優先するのかを」

ヨルナ「――親より先に死ぬものがありんしょうか、タンザ」

紫煙が儚く風に紛れて消えていった。

📖 古典の引用

射抜いた足を案じるのは、杞憂だと言われる

アベル

「射抜いた足を案じているなら、それは杞憂というものだ」

タリッタ

(´・ω・`)

「……私ハ、正しかったのでしょうカ。天命に従わズ、あなたを射なかっタ」

アベル

「射られなかった立場の俺が、俺を射るべきであったとは言うまいよ」

アベル「自らの選択の正しきは、のちの己の行動によって証す他にない」

タリッタ

「……あなたのものとハ、思えない言葉ですネ」

アベル

「であろうよ。『アイリスと茨の王』……古典の引用だ」

――星がマリウリではなく、最初からタリッタに話しかけていたなら。

彼女は星のために生きたかもしれない。でも、そうはならなかった。

タリッタ

「――あの瞬間、迷いなく走る鹿人の娘の背を押しましタ」

タリッタ

「たダ、あの街に戻リ、姉や同胞と言葉を交わしたいでス」

タリッタ

「すでにいなイ、私の魂の姉妹の娘とモ」

🌍 世界が滅んでねぇ

死んだと考えるのは、まだ早い

ミディアム

「スバルちん、どこいっちゃったんだろう……」

アベル

(¬_¬)

「あの惨状で、あれが生き長らえたと本気で考えているのか?」

ミディアム

(>Д<)

「――っ、当たり前だよ! スバルちんが死んじゃうなんて……」

タリッタ

「残念ですガ、スバルハ……」

アル

「兄弟は生きてるぜ」

アベル

「道化、貴様は何故にあれの生存を確信する?」

アル

「単純明快、そりゃナツキ・スバルってのがそういう奴だからだよ。もっと言えば」

アル「世界が滅んでねぇ。それがオレの根拠だ」

アル

「アベルちゃんはどう思ってんだ? 兄弟が死んだって?」

アベル

「――あれが『大災』でなかった以上、果たす役割が残されていよう」

アベル

「そのための能もあるなら、死したと考えるのは尚早だろうよ」

🩸 割れた爪

土と血で汚れた手が、目につく

ルイ

(>﹏<)

「うあう……」

手は土でも汚れているが、割れた爪からの出血で赤く汚れているのも目についた。

タリッタ

「スバルヲ、探しているのですネ」

アベル

「もうやめよ。土を掘り返し、瓦礫の裏を見ても貴様の探し物は見つからぬ」

ルイ

(#`Д´)

「うー! ううー!」

ミディアム

「アベルちん、スバルちんを探す方法があるの?」

アベル

「探し出す術、というほど穏当なものではない」

アベル

「本来の狙いは、帝都と事を構えるための名分の確保であったからな」

アベル

「……策がうまく回れば、貴様やこの娘の願いが叶うこともあろう」

アベル

( •̀_•́ )

「何しろ、帝国中があれの身柄を探し回ることとなる」

アル

「で、どうすんだ? どうすれば、その兄弟を見つける策ってのは実行できる?」

アベル

「そう難しいことでもない。ただ、広めるだけだ」

アベル「――ヴィンセント・ヴォラキアの落とし胤、黒髪黒瞳の忌み子が父王の地位を狙っている」

アベル

「まさしく、『マグリッツァの断頭台』の再現だとな」

🌊 手放せないもの

岸を掴んだ手の、反対側に抱えたもの

――真っ黒な水、逃げ場のない水域。

体温と体力を凄まじい勢いで奪われ、何度も息絶える感覚を味わった。

それが、夢と現のどちらだったのかさえ区別できない。

岸を掴んだ右手の反対、左腕には決して手放せないものを抱いている。

――それが何なのかを理解してからは、絶対に手放すなどできなかった。

先に、抱いていたそれを岸へ押し上げる。

普通の服よりずっと布の多いキモノは、それだけ水を吸う。

抱き寄せたときに脇腹を抉ったのは、立派な鹿の角だ。

――彼女を乗せたことで、緊張の糸が切れた。

両手は空しく渇いた土を掻くだけで、意識が白んでいく。

「――おっと、危ない」

細い指に手首を握られ、沈みかけた体が岸に引き寄せられる。

「ああ、やめましょう。今にも意識が消える寸前でしょう?」

「それじゃちょっとしまらない。せっかくなら、もっと劇的に始めたいものですし」

――やたらと生命線の長い、見知らぬ相手の手が目元を塞ぐ。

「しかし、よくもまぁ泳ぎ切ったものです! いやいやいやいや、いいですね!」

その、まるではしゃぐ雷鳴のような声が。

「――なんだか、壮大な物語が始まる予感がしませんか?」

第七章60『波乱の胤蒔き』終了。