リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章39

『悪辣』

壁の穴は塞がり、皇帝は一晩を許した。そして翌朝、鏡の中にいたのは十歳若いスバルだった。

💨 壁が治る

壊れたはずの壁が、ひとりでに塞がる

カフマ

「逃がしてなるものか。何としても、閣下への不敬の報いを……」

オルバルト

(´ー`)

「おいおい、そりゃねえじゃろ。連中、手持ちの札全部使って乗り切ってんじゃぜ?」

オルバルト

「それをこっちで蔑ろにしちゃ、筋が通らねえって話になるわな」

カフマ

(╬゚д゚)

「翁であれば、彼女らを取り押さえることなど瞬く間にできたはず!」

オルバルト

(´ー`)

「あの兜の若造、妙な手品を使いやがってよ」

オルバルト

「それとワシは、そこの狐娘の警戒もせんとじゃろ?」

ヨルナが紫煙を大きく吐く。煙は、ゆらゆらと壁の大穴へ向かった。

崩れた木材が蠢き、生き物の傷が癒えるように直っていく。

建物の修繕でありながら、どこまでも生き物的な光景だった。

ヨルナ

「これにてすっかり元通り……主さんも、機嫌を直してくださりなんせ」

ヴィンセント

「迂闊に魔都に手出しできぬ理由……」

ヴィンセント

「もっとも、この女の危うさはそれに限った話ではないがな」

🏯 わっちの都

追撃をやめさせる、その理由

ヴィンセント

「あれらは城の外に出た。余と、貴様の提示した条件を満たしたわけだ」

ヨルナ

「で、ありんすな。わっちらがその頑張りを反故にするのはいささか外聞が悪うござりんす」

ヨルナ「ここは魔都、わっちの都。――あの青い小僧の刀も、わっちには届かのうござりんす」

皇帝を相手に告げるには、不敬どころの話ではない宣言だ。

――それでも、否定はされない。

誰もが、それを事実だと承知しているからだ。

ヴィンセント

「一晩、時間をやろう」

ヨルナ

「ありがたく。でしたらわっちも、手紙の返事を吟味する時間がいただけんす」

カフマ

「だが、貴公の態度は目に余る。自分は何度でも言わせていただく」

ヨルナ

「くふ。オルバルト翁、何とかしてくりゃれ?」

オルバルト

( ̄∇ ̄)

「あれ、これもしかしてワシ、大抵の奴から善意むしれる最強の理屈ってやつ見つけとらね?」

オルバルト

(≧▽≦)

「くるか、ワシの時代」

カフマ

「オルバルト翁!」

🔵 顔を見せない男

口数の少なさが、らしくないと言われる

護衛の三人目は、頭からすっぽりと青いローブを被っていた。

顔かたちを、周りに見せないようにしている。

ヴィンセント

「ずいぶんと口数が少なかったものよな。貴様らしくもない」

「……ですね。ただまぁ、顔を合わせるとややこしい方がおりまして」

「ぼかぁ、この魔都では貝になっているとします。――星も、それをお望みのようで」

――『星詠み』。

ヴィンセント

「星が望むか。くだらぬな」

「もしも本気で星の望みを軽んじていらっしゃるなら……」

「こんなところまでわざわざ足を運んでらっしゃらないと思いますよ、ぼかぁね」

ヴィンセント

(╬¬_¬)

「痴れ者が、余の胸の内をわかったように語るのか?」

アベル「――星の望みなどと、くだらぬ」

誰にも聞こえぬ呟きが、口の中だけで囁かれて、消えた。

🌾 干し草の山

飛び込んだ先が、たまたま干し草だった

飛び込んだのは、疾風馬用の干し草を積んだ倉庫だった。

それがクッションになったから、三人とも助かった。

ミディアム

(;´Д`)

「うあー、死んじゃうかと思った! ナツミちゃんは無事?」

アル

(>Д<)

「痛ェッ! 右腕も取れる!」

ナツミ

(>﹏<)

「笑えませんわよ!」

打ち身と擦り傷で済んだ二人と違い、アルの全身には裂傷と痣がある。

カフマの茨を受け、オルバルトを一時的に押さえた。

――その傷の一つ一つが、本来スバルたちが受けるはずだったものだ。

アル

「そんな顔されたんじゃオレの背中の傷が浮かばれねぇ。剣士の恥だぜ?」

ナツミ

「……あなたを誤解していました」

ナツミ

「いつも飄々と適当で、何に対しても不真面目な頼り甲斐のない性格だとばかり」

アル

「おいおい」

スバル「ですが、あなたはわたくしのために命を懸けた。――それを、忘れはしません」

🦌 ヨルナ様の従者

追ってきた少女が、名乗りをあげる

タンザ

「――その心配はございません」

タンザ

「ご挨拶が遅れました。ヨルナ・ミシグレ様の従者、タンザと申します」

タンザ

「警戒なさらず結構です。私は、皆様に危害を加えることはありません」

ミディアム

(´・ω・`)

「ホントに? でも、あたしたち、こことお城の壁、ぶっ壊しちゃったよ?」

タンザ

「城も厩も、ヨルナ様が直してくださいます」

タンザ

「ヨルナ様は皆様を使者としてお認めになられました。もう、誰にも手出しはされません」

ナツミ

「あの場にいたのが皇帝陛下だと、わたくしたちは知っていましてよ?」

タンザ

「はい。誰も、この魔都でヨルナ様には逆らえません」

タンザ

「ヴィンセント様も、それをご承知のことと思います」

ナツミ

「あなたにとって、ヨルナ様はどんな方ですの?」

タンザ「愛情深い方です。味方を愛し、敵を憎む。――魔都を生きる、全てのものの恋人」

人形のような瞳に、初めてうっすらと感情が過った。

瞬く間に消えるそれは、ほのかな熱を湛えているように見えた。

見上げれば、天守閣にあったはずの大穴は、影も形もなくなっていた。

🏨 這う這うの体

宿へ戻り、城で見たものを報告する

アベル

「そうか、あれがきていたか」

ナツミ

(#`Д´)

「それ以外に言うことありませんの? すいませんとか、ごめんなさいとか」

アベル

「何故、俺が謝罪しなければならん。貴様らはうまくやった」

アベル

「大儀であったと、そう褒めてやろうとしたところだ」

ナツミ

(╬゚д゚)

「褒めてやろう! 褒めてやろうと! その言い方が上から目線ですわよ!」

アルは体中包帯だらけの包帯男と化している。

黒い兜に包帯と、そのシュールさは留まるところを知らない。

タリッタ

「ですガ、ナツミやミディアムが無事でよかっタ」

ナツミ

「ほら、聞きまして? これが正しい反応ですわよ」

タリッタ

(°д° ;)

「やめてくださイ、死んでしまいまス……」

アベル

「俺が被り物なら、貴様らはなんだ? 痴れ者と道化といったところか?」

アル

「出来の悪いハロウィンみてぇになってるしな、オレら」

🕸️ 白蜘蛛

あの顔を体現できる者は、一人しかいない

ナツミ

「あれは、あなたの影武者ということでよろしいんですのね?」

アベル

「姿形を似せたものだけならいくらでもいようが、俺を体現できるものは一人しかおらぬ」

アベル「――チシャ・ゴールドだ」

ナツミ

「チシャ・ゴールド……九神将ですわね。確か、『白蜘蛛』?」

アベル

「そうだ。知恵が回り、大軍の指揮を得意とする。そして」

アル

「アベルちゃんを最初に裏切った奴と」

裏切りの『九神将』、その最初の一人。

アベルの信頼も厚かっただろう人物が、成り代わって玉座にいる。

♟️ 先手を打つ

向こうも魔都に来ていた、その狙い

ナツミ

「では、やはり彼らもヨルナ・ミシグレを味方にするために?」

アベル

「それは考えにくい。あれが説得や交渉に耳を貸すなどと、そう考えるほど奴は無謀ではあるまい」

ナツミ

「――? だったら、何をしに?」

アベル「決まっている。――俺が魔都へくると、そう踏んでのことだ」

アル

「アベルちゃんがカオスフレームにくるの読んでるって、それマジで言ってんの?」

アベル

「あれはかなりの精度で俺の思考を辿ってくる」

アベル

「玉座から飛べた先と城郭都市の攻略の流れ、九神将の配置……自然、魔都に要地は絞れる」

アベル

「先手を打って、ヴィンセント・ヴォラキアとヨルナ・ミシグレの和睦を破談とする」

アベル

「後々に現れた俺が、紅瑠璃城の天守に易々と上がれると思うか?」

アル

「あー、そういう……なんつーか、悪知恵が働く奴だな、オイ」

ヨルナを、敵でも味方でもない無効票として浮かせる。

それが、あちらの狙いだった。

ナツミ

「……じゃあ、わたくしたちの到着が一日遅れていたら」

アベル

「あれの策が成っていた。故に言ったのだ。大儀であったと」

――先の一言は、彼なりの本気のねぎらいだったのか。

部下を褒めるのが下手な上司にも、限度がある。

💋 寵姫の座

城主の想いが、誰に向いているのか

ナツミ

「ヨルナさんがあなたのことを憎からず思っていることだとか」

アル

「色男なのは生まれつきだから仕方ねぇけど、それならそれでイケメン税払ってくれよ」

アベル

「貴様が何を言っているのかまるでわからんぞ、道化。それから、貴様も心得違いだ」

アベル「ヨルナ・ミシグレが想いを傾けるのは俺ではない。ヴォラキア皇帝だ」

ナツミ

「……だから、それがあなたなのでは?」

アベル

「額面通りに受け取るな。ヴォラキア皇帝とは俺のことのみを意味しない」

アベル

「過去にも未来にも、ヴォラキア皇帝はいる」

アル

(・o・)

「つまり、ヨルナちゃんの狙いはアベルちゃんの金とか地位ってこと?」

アベル

「あれが欲しているのは帝国の頂……ヴォラキア皇帝の寵姫だ。俺である必要はない」

ナツミ

(´・ω・`)

「……なんか、可哀想ですわね」

アベル

「貴様の中で進めた話で、勝手に俺を憐れむな」

アベル

「親書の内容を明かすつもりはない。だが、貴様たちの期待を裏切る返答にはならぬ」

⚖️ 信賞必罰

褒美を求めないでいることは、許されない

ナツミ

「そのやべぇご老人、すでに相手に取り込まれていると思います?」

アル

「あの爺さんが『参』ってことらしい。『弐』のアラキア嬢ちゃんと『肆』のチシャも持ってかれてる」

ナツミ

(゚д゚ ;)

「見事に上のナンバーを押さえられてますわね!」

アベル

「喚き立てるな。……おそらくだが、オルバルトは向こうの陣に加わってはいない」

アベル

「現状は九神将として、皇帝の命に従っているだけだ」

アベル

「オルバルト・ダンクルケンも、どう動くかが読み切れぬ男だからだ」

ナツミ

「結局、九神将を全然御し切れてないという話なのでは……?」

アル

「八年前、まだヴォラキアの剣奴だったオレが、島で起こった反乱に巻き込まれたって話」

アル

「島の剣奴が死合いの観戦してた上級伯を人質にしてよ、解放しろって要求したんだ」

アル

「厳密にはオレと、まだロリだった頃のアラキア嬢ちゃんだ。……そこの詳細はいずれな」

アベル

「即位直後の騒動の際、剣奴孤島で働いた剣奴がいたとは聞いていた」

アベル

「褒美を求めなかったとも聞いたが……それが貴様か、道化」

アベル「大儀であった。――貴様の功には報いよう。たとえ何があろうとも」

功績を挙げながら褒美を求めないものに、アベルの帝王学は容赦がない。

アルも、今度は褒美をもらわずに逃げられないだろう。

🪞 十歳若返った

鏡の前で、言葉が出なくなる

ルイ

「うー!」

ナツミ

(;´Д`)

「またあなたですの……」

額を弾いて下がらせる。構ってほしいと訴える様子は、嫌いではない。

――相手がルイでなければ。

アル

「あれじゃね? 兄弟が死にかけたってのは感じてるとか」

それが事実なら、ルイの態度はスバルを案じてということになる。

――認めるのは、心情的に厳しい。

ナツミ

「化粧を落として、服を緩めて……泥のように眠りますわ」

スバル「レム、ベア子……エミリア、たん……」

――翌朝。

扉の向こうが、やけに騒がしい。

それが目覚まし代わりになって、意識が引っ張り上げられる。

スバル

(>ω<)

「あたっ!?」

ベッドを降りようとして、肩から床にすっ転んだ。

――ベッドから床までの距離に、足が届かなかったのだ。

室内のあらゆるものが、昨夜より妙に大きく見える。

スバル

「おい、おいおい、何の冗談だ、これって……」

ぶかぶかの服に手足を取られながら、鏡へ這いずる。

スバル

( ゚д゚ )

「なんだ、こりゃ……」

――そこにいたのは、十歳近く若返った、幼いナツキ・スバル少年だった。

第七章39『悪辣』終了。