リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章35

『語らう夜』

野営の焚火をはさんで、それぞれが持たざるものの話をする。持たざる皇帝も含めて。

🔥 野営の焚火

兄妹が育った場所の話になる

ミディアム

「あたしとあんちゃんがいたとこは、そりゃもうひっどいとこだったんだよ」

みなしごを引き取る施設。

毎日殴られながら育った。

不幸な大人が、不幸な子どもを殴る世界。

――だからフロップは、世界への復讐を誓った。

ミディアム

(´▽`)

「あたしはあんちゃんの言うことは、むつかしくて全部はわかんないけどさ」

ミディアム

「でも、あんちゃんが胸張って大股で歩いてるときは、応援したいんだ」

ナツミ

「それが世界への復讐でも、ですの?」

ミディアム

(・∀・)

「そうそう! まぁ、どうやるのかよくわかんないんだけど」

話の発端は、彼女がルイの世話をする手際の良さだった。

ミディアム

「施設には、あたしとあんちゃん以外にも子どもがいたからね」

ミディアム

「あんまり楽しくなかったから、髪の毛くらい伸び伸びしたいよね」

焚火に照らされた金髪が、二人分きらきら光る。

まるで姉妹のようだ。

スバル「ミディアムさんがいてくださって、本当に助けられていますの」

📝 覚えておく

感謝したらどうか、と水を向けてみる

ナツミ

「その点、あなたはもっと感謝した方がよろしいのではなくて?」

アベルは応じない。代わりに、こう言った。

アベル

「ミディアム、貴様と兄の出身は?」

ミディアム

( ゚д゚ )

「ほえ? アベルちん、あたしの名前知ってたんだ?」

アベル

「名前ぐらい覚える。くだらぬ感心はよせ」

アベル

「貴様とフロップはどこの出身だ。先の施設の代表は?」

ミディアム

(´・ω・`)

「院長先生のこと? 名前は忘れちゃったなぁ」

ミディアム

「でも、あたしとあんちゃんがいたのはエイブリークってちっちゃい町だよ」

アベル

「エイブリーク……西側の町だな。覚えておく」

ミディアム

(・_・)

「――? 覚えてどうすんの?」

アベル

「然るべき対処だ。俺が直接するかは別として、だがな」

ナツミ

「国民の生の声を聞いて、すぐさま国政に活かそうというわけですの?」

アベル「そこまで殊勝ではない。言ったはずだ。――信賞必罰だと」

働きには報い、愚かしさには報いを。

『血命の儀』で、落命寸前のスバルに望みを言えと迫った必死さ。

あの裏にも、同じ信条があった。

✋ 空の両手

他人が手ぶらでいることが、許せないらしい

ナツミ

「――あなたは、他人が手ぶらでいることが許せない方ですのね」

アベル

「多くのものが持たざるものとして生まれ落ちる」

アベル「その手に何を掴み、何を抱いて死ぬかがそのものの生だ」

アベル

「その資格を得ながら手放すなど、あってはならぬ」

ナツミ

(¬_¬)

「持たざるものとして生まれるって、皇帝陛下の口から聞くと嫌味ですわよ」

恵まれた立場から言われては、立つ瀬がない。

そう受け取ったスバルに、アベルは視線も合わせず。

アベル「――俺とて、例外ではない」

ナツミ

「――? なんですの?」

アベル

「立場には相応の責務が伴う。負い切れぬ荷を負えば、愚か者は潰れるだけだ」

アベル

「気格や矜持も、日々の自認が磨くしかない」

🪞 剥がれた際の

黒髪と着衣を、検めるように見られる

アベルの視線が、スバルの黒髪と着衣を検めるように動く。

アベル

「偽りの、作られた自認はやがて地金を晒すことになる」

アベル

「貴様は装うのがずいぶんと手慣れた様子だが、その分、剥がれた際の取り繕いには労を要そう」

ナツミ

(・・・・・・)

「――――」

アベル

「成果さえ出せば、俺は他者の趣味嗜好に口出しはせぬ」

アベル「だが、虚像を支柱とするのは見るに堪えぬ。いずれ、土台ごと傾くぞ」

言葉には配慮がなく、理解を求めるゆとりもない。

だから真意は半分も伝わらない。

残ったのは、無遠慮に心を凌辱された痛みだけだ。

アベル

「……話しすぎたな。あとは任せる」

扉が閉まる音。

ナツミ

(´・ω・`)

「……なんですの、あの男」

――まるで、悪役令嬢の負け惜しみではないか。

ミディアム

(´・ω・`)

「ナツミちゃん、平気?」

大きな掌が、頭を撫でる。

ミディアム

「あたしはこのでっかい体で頑張る担当で、むつかしいことはお任せだよ」

ナツミ

「ミディアムさんは大人ですわね」

ミディアム

(*´ω`*)

「そんなの初めて言われた!」

💅 爪の手入れ

焚火の前が、二人きりになる

夜が更け、焚火の前はタリッタと二人になった。

白い紋様を消し、文明人らしい装いのタリッタ。

上着を脱いで袖をまくった姿は、男装の麗人そのものだ。

タリッタ

「どこで化粧を覚えたのですカ」

きっかけは大したものではない。

散々な中学校時代を過ごした男が、高校で華々しく返り咲こうとしただけ。

ナツミ

「ただ、ちょっと凝り性なところがありましたから……」

ナツミ

「やるなら徹底的に、お出ししても恥ずかしくないものをと」

結果、スバルの高校生活は終わった。

以来、女装は二度とすまいと決めた。――この様である。

人生、何が役立つかは終わってみるまでわからない。

スバルの場合は、終わっても終わらないので、なおさら。

タリッタ

「……ナツミの姿勢ガ、私は羨ましいでス」

ナツミ

(゚д゚;)

「って、えええ!?」

タリッタ

(>﹏<)

「ド、どうしてそんなに驚くんでス……!?」

ナツミ

「ああ、いえ、あまり言われたことがない言葉だったもので……」

🌒 三つ違いの姉

ずっと姉の後ろに隠れて育った、と話す

タリッタ

「私ハ、昔から姉上の後ろに隠れて育ちましタ」

タリッタ

「姉上は知っての通りの人ですかラ、いずれ族長になるものと誰も疑っていなかっタ」

タリッタ

「私もでス」

タリッタ

「姉上とハ、歳が三つ離れていまス」

タリッタ

「でモ、私が姉上を大きく感じるのハ、たった三つの歳の差が理由ではありませン」

タリッタ「姉上が十のときできたことガ、同じ歳になっても私にはできなイ」

タリッタ

「それは歳の差ではなク、もっと違う何かの差でス。それが何なのカ、私にはわからなイ」

――優れた姉への劣等感。それはレムが抱いていたもの。

――憧れた背中への劣等感。それはスバルが苛まれていたもの。

タリッタ

(´;ω;`)

「姉上ハ、どうして私を族長ニ? 私にそれが務まるなんテ、とても思えませン」

タリッタ

「この旅の間ニ、答えを出さなくてはなりませン。いいエ、覚悟を決めなくてハ」

ナツミ

「覚悟……それは、族長を引き継ぐ覚悟、ですの?」

細い顎が、引かれる。

答えを出す、ではなく、覚悟を決める。

彼女は、拒絶する権利が自分にはないと思っている。

🚪 逃げてもいい

拒む権利はない、と思い込んでいる相手へ

ナツミ

「逃げても……」

タリッタ

「エ?」

スバル「逃げても、いいと思いますわよ。わたくし、それを咎めませんわ」

――期待されていたのは、たぶん逆の言葉だった。

「しっかりしろ」と背中を押されることを、彼女は望んでいたかもしれない。

ナツミ

「負い切れないと、自分よりも向いた誰かがいると思うのであれば……」

ナツミ

「荷物をまとめて馬車を離れても、わたくしたちは咎めません」

タリッタ

「デ、ですガ、私がいなくなれば戦力ガ……」

ナツミ

「もちろん、その不安はありますわね。ですけれど、どうとでもしますわ」

タリッタ

「私ハ、必要ないト……」

ナツミ

「いいえ、それは大きな間違いです」

ナツミ

「わたくしも、タリッタさんには一緒にいてほしい。でも、それはわたくしのワガママでしょう?」

ナツミ

「わたくしが生きるために、あなたに心を殺せと言うのですから」

――自分は、他人にはなれない。

どれほど憧れ、妬み、身を焦がしても、なれない。

スバル「わたくしたちは、『自分』以外の何物にもなれませんわ」

せめて、自分が好きになれる『自分』になる。

失望と落胆と、ほんの少しの達成感を繰り返して、羽化する蝶のように。

スバル「……鼻につきますわね」

数時間前、同じ焚火で聞いたアベルの持論と、重なってしまった。

🤐 語り切らぬ物語

それ以上は、聞き出せないと受け止める

逃げられたことは、救いでもあった。

自室に閉じこもったままなら、誰かのために何かをしようとは思えなかった。

戦える準備が整うまで、逃げることは悪いことではない。

タリッタ

「自信や覚悟モ、足りませン。ですガ、それだけではなク……」

タリッタ「もしモ、自分が大きな過ちを犯していたとしたラ……」

タリッタ

「どうすれバ、それを償うことができるでしょうカ」

ナツミ

「過ちと償い……タリッタさんが、ですの?」

「ア」と、小さく息が漏れる。

見開かれた瞳に過ったのは、話してしまったことへの後悔だった。

タリッタ

(・_・;)

「おかしなことヲ……忘れテ、くださイ」

語り切れぬ物語を、語り切らない。

それ以上は聞き出せないと、スバルは受け止めた。

🕰️ 三時間交代

また明日、という約束が交わされる

アル

「――兄弟、そろそろ交代の時間だぜ」

ナツミ

「アベルとルイがローテーションから外れてるのは不満ですが……」

アル

( ̄▽ ̄;)

「やめとけやめとけ」

アル

「アベルちゃんが皇帝の座に帰り着いたとき、夜番させてたのが理由で処刑なんてやべぇだろ?」

ナツミ

「恨みつらみの話を言い出したら、わたくしの首が何個並べばいいのか……」

アル

「自覚あんなら抑えてくれよ。一緒にいてハラハラするから」

誰も言ってこなかったから、アベルはああも傲岸不遜なのだ。

実権を伴わない逃亡者の間に、少しでも矯正しておく必要がある。

ナツミ

「もしかしたらタリッタさんから人生相談があるかもしれませんわ」

ナツミ

「そのときは、経験豊富な先達として導いてあげてくださいな」

アル

「経験豊富な先達って、オレと対極的な描写な気がしねぇ?」

ナツミ

「苦手を克服するチャンスですわよ。ピーマルと同じですわ」

アル

(´-ω-`)

「今のがあんまり胸に響かねぇのってオレだけかなぁ……」

タリッタ

「ナツミ、また明日……でス」

ナツミ

「――。ええ、また明日」

その弱々しくも確かな約束が、希望に聞こえた。

👁️ 片目を開けて

眠る三人が、驚くほど静かな理由

車内は幕で仕切られ、前後で寝床を分けている。

眠っているのは三人。皆、驚くほど静かだ。

ミディアム

「いびきがうるさいと、周りに居場所がバレちゃうからねー」

――必要に迫られて身につけた技能だと気付いたのは、あとになってからだ。

ナツミ

「……寝ていても憎たらしい顔ですわね。落書きでもしてやりましょうかしら」

アベル

「――なんだ、じろじろと不躾であろうが」

ナツミ

(゚Д゚;)

「起きていましたの?」

アベル「片目を開けて眠るのがヴォラキア皇族の習わしだ。俺もその例に漏れぬ」

ナツミ

「片目を開けてって、映画じゃないんですからそんな……え、本気ですの?」

アベル

「何故、貴様相手にくだらぬ冗談を言ってやる必要がある」

宣言通り、片目が開いている。

その黒瞳の光が、嘘ではないと証明していた。

ナツミ

「どうして、ちゃんと眠れませんの? わたくしたちが、あなたの寝首を掻くとでも?」

アベル

「極小でも可能性はある。注意不足で命は落とせん」

窓の外には、焚火の明かり。

アルとタリッタが、危険が近付かないか警戒している。

スバル

( `皿´)

「――いったい、誰のためにああしてると思ってやがる」

スバル

「これだけの状況になってもまだ、俺たちの前で両目もつむれないのか」

ナツミ・シュバルツの皮が剥がれ、ナツキ・スバルが現れる。

それでも、アベルの表情は揺るがない。

右目と左目で、交互に瞬きするだけだ。

アベル

「俺の在り方を歪めようなどと思い上がるな。貴様の領分を弁えよ」

アベル「魔都は近い。貴様は貴様の役目を果たせ。それ以上は望まぬし、許さん」

スバル

「そうかよ……ああ、そうかよ! 俺は高いびきかかせてもらうぜ」

――魔都カオスフレームへの到着は、もう目前だった。

第七章35『語らう夜』終了。