第七章31
『同郷の語らい』
英雄じゃない、と言われた。その言葉に潰されかけたスバルの前に、同じ世界から来た男が立つ。
🪖 たくましい腕に
肩を掴む腕に、強い意思がこもっている
掴まれた肩にかかる腕の力は強い。
自傷行為を絶対に続けさせまいという意思が感じられた。
「やめとけよ」
奇行を見咎められた情けなさが、腹の底から湧き上がる。
まるで、壁に向かって走らされるゲームのキャラクターだ。
何も考えていなかったところも含めて、そのものズバリの有様だ。
(;´Д`)
「そんな真似続けて馬鹿になっても知らねぇぜ」
(´・ω・`)
「……それは、お手数おかけしました」
「なんで敬語だよ。あと、声ガサガサ過ぎてビビるわ」
👂 たまたま呼びにいったら
あのやりとりを、聞かれていた
(・_・)
「――そんなに、あの嬢ちゃんに言われたことがしんどかったのか?」
(╬゚Д゚)
「お前、聞いてたのか……!」
「別に盗み聞きしようとしてたわけじゃねぇぜ?」
「そのあと、兄弟がこの世の終わりってな面で歩き出すもんだから、心配になってついてきたんだ」
(´・ω・`)
「レムは、どうした? その、俺と話したあと……」
「顔色悪くなったあとも、兄弟はまともに受け答えしてた」
「だから、あの嬢ちゃんが兄弟を不審がっちゃいなかったと思うぜ?」
無様を晒したのは、レムの前を離れたあとからだったらしい。
🛡️ 冷たい鉄兜の奥
さっきの言葉の意味を、確かめてみる
「アル、さっきの……どういう意味だ?」
(・・・・・・)
「……俺の、死にたい気持ちがわかるとか、どうとか」
――何か知ってるんじゃないのか。
冷たい鉄兜の奥に隠れた感情を、目を凝らして確かめようとする。
表情も、瞳も見えない。
(・∀・)
「オレだっていい歳したオッサンだぜ? 兄弟みてぇな修羅場、オレにだって経験あんだよ」
「――かわい子ちゃんの前でダサい真似したこともな」
本音を探ろうとしても、黒鉄に遮られて叶わない。
だが、ナーバスになりすぎているとも自省した。
「知られてるわけない、か……」
✋ 仮定の話
片腕を失ったら、と仮定してみる
異世界召喚された者が全員、何かしらの力をもらうわけではない。
力があれば、アルの左腕もなくならずに済んだはずだ。
仮に自分が片腕を失う事態に陥ったら――
「……戻る、のか?」
『死に戻り』を、決して頼り切らないと決めた。
しかし、ならばどこまで頼るのか。
腕や足は。
指は。
目は。
どこまで失えば『頼る』と決断できるのか。
権能を使えば、より良い成果が引き寄せられる可能性があるとわかっていながら。
👉 悪いループ
デコピン一発で、思考が止まる
(×Д×)
「レムにも……づぁっ!?」
「悪いループだぜ、兄弟」
強烈なデコピンが、額を弾いた。
(・∀・)
「おお、だいぶいい音なったな。つか、さっきの頭突きに追い打ちしちまった」
(>﹏<)
「それは、いい……じゃなく、なんだよ、今のは!」
「あの嬢ちゃんの一言にどんだけぐらついてんだよ」
「こんなこと言うだけ恥ずいけどな……オレはな、兄弟に期待してんだぜ?」
📢 プリステラの演説
あのとき背負ったものを、忘れていない男がいる
「プリステラで兄弟がやった演説、覚えてるよな」
「あそこで放送するってことは、兄弟は『英雄幻想』を背負ってくことになるんだってな」
大勢の期待と希望を一身に背負い、負けることは許されない存在。
誰もがそうあってほしいと願う、『英雄』という名の『幻想』。
あのときは、あまりにも気楽に答えた。――それは、いつもと変わらないと。
「ここでだって同じだ。一人に否定されて、それでなんだってんだよ」
( •̀_•́ )
「折れんなよ、兄弟。かましてやれよ、兄弟。――期待に応えろよ、兄弟」
「オレは忘れちゃいねぇ。そして、悪ぃが今さら逃がさねぇよ、兄弟」
💔 頭の中に響き渡る
ずっと頼りにしてきた一言が、消えた
――あなたは、英雄じゃないんですから。
「ずっと、レムの一言を頼りにやってきたんだ」
――あなたは、英雄じゃないんですから。
「レムが信じてくれてたから、俺は膝を折らずにやってこられた」
――あなたは、英雄じゃないんですから。
「今が一番、踏ん張らなきゃいけないときなのに」
――あなたは、英雄じゃないんですから。
――だって、スバルくんはレムの英雄なんです。
その一言が、信頼が、支えがあったから、今日までやってこられたのに。
🧱 逃げ場を塞いで
だったら取り戻せばいい、と逃げ場を塞がれる
「だったら、取り戻せばいい」
(・_・)
「――え?」
「取り戻すんだよ。あの嬢ちゃんの期待も、兄弟本人の自信も」
「看板は下ろせねぇ。戦うしかねぇんだ」
「負けっ放しでもいられねぇなら、望み通りに勝ち続けるしかねぇ」
王城での失態。
落とした信頼を回復できたのは、行動したからだ。
断じて、打ちひしがれて壁に額を打ち付けていたからではない。
(;´Д`)
「……馬鹿か、俺は。いや、馬鹿だ俺は」
❓ 今さらすぎる疑問
レムがどういう相手なのか、と聞かれる
「あのレムって嬢ちゃん、どういう立場なんだ?」
「けど、その嬢ちゃんの一言で兄弟はボロボロになってる。――ありゃ、なんなんだ」
表情は見えない。だが、視線に宿った熱を感じる。
常に飄々と気安い、不真面目な同胞。
その印象が、自分の中で変動するのを感じた。
「レムは俺の……俺たちの身内だ。ただ、『暴食』の大罪司教の被害に遭った」
「そのせいで誰の記憶からも消えて、自分自身のことも覚えてない」
(・∀・)
「――。そういうことか。なるほどなるほど、合点がいったぜ」
「知らねぇ子のはずが、知ってる子に似てた」
(・_・)
「知らないのに知ってるって……それ、ラムのことか?」
「おお、そうそう」
🤝 肩入れしてやる
協力するぜ、と肩入れを申し出られる
「――おし、わかった。協力するぜ、兄弟」
(・_・)
「あえ?」
「ただし、突っ込んでやれる肩は片腕分しかねぇけどな」
(¬_¬)
「笑えねぇよ」
「……ラムと知り合いだから、力を貸してくれるのか?」
「オレが肩入れするのは兄弟さ」
「どのみち、兄弟が英雄やるってんなら、あの嬢ちゃんのことも外せねぇ」
「別に英雄になろうってんじゃ……」
否やと言わせない遮り方だった。
(・∀・)
「なんて、な」
強烈な熱が、冗談めかした一声に霧散する。
🛡️ 外には届かない声
鉄兜の中だけで、誰にも聞こえない呟き
小走りに走りながら、鉄兜の中だけに呟きが響く。
外には届かない、ただ自分に聞かせるためだけの声。
「――『英雄幻想』、か」
目をつむり、瞼の裏という闇の中に響かせるように。
第七章31『同郷の語らい』終了。
アル
スバル
リカードの失った腕のために戻らなかった。
ミゼルダのために戻っていない。