リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第七章107

『チシャ・ゴールド』

溝に嵌まった車輪を抜いた日から、その男の役目は始まっていた。

❓ 死ねるか

絶対に言ってはならない返事を、してしまう

アベル「チェシャ・トリム、貴様は俺のために死ぬことができるか?」

当時十四歳だったチェシャは、自分を早熟な子どもだと考えていた。

――だが、二つ年下のその少年と出会い、考えを改めた。

切っ掛けは、何のことのない人助けだった。

街道の溝に竜車の車輪が嵌まり、立ち往生している場面に出くわしただけ。

――それがたまたま、『アベルクスの奇跡』で名高い少年の竜車だった。

欲される答えは『できる』の一言。だから深々と頭を垂れ――

🕸️ チェシャ

(・_・)

「――申し訳ありませんが、それはできかねますなぁ」

絶対に言ってはならない返事を、してしまっていた。

🎯 徴用

白々しい真似が、どうしてもできなかった

望んだ答えを望まれたように返すなんて白々しい真似、とてもできなかった。

――心が折れ、自分という矜持が死ぬなら、命があろうと死んだも同じだ。

アベル「それでいい。以降も、そのつもりで俺に仕えろ」

🕸️ チェシャ

( ゚д゚ )

「――。はい?」

ヴィンセント

(¬_¬)

「返事のつもりなら語尾を上げるな。疑問符を付けているように聞こえるぞ」

🕸️ チェシャ

(;゚Д゚)

「……当方を、処刑されたりはなさらないので?」

ヴィンセント

「今しがた徴用したものをか? 何の意味がある」

ヴィンセント

「死なねばならぬ命であれば、その命は最大限の効果を発揮すべきだ」

ヴィンセント

( •̀_•́ )

「――人とは、効率的に死ななければならん」

🛞 何度だって

周囲も自分と同じく賢いと、無邪気に期待している

🕸️ チェシャ

「当方にできるのは、溝に嵌まった車輪を抜くお手伝いくらいですなぁ」

ヴィンセント

「それでいい」

🕸️ チェシャ

「何度も何度も溝に嵌まられるおつもりでおられるのですか?」

ヴィンセント

「そうだ。この先も、俺は幾度も溝に嵌まることになる」

アベル「落ちた溝から抜け出す手立ては、何度だって必要となろう」

🕸️ チェシャ

「皇子は、両目を同時に閉じられないのですなぁ」

ヴィンセント

(・∀・)

「それだ」

ヴィンセント

「俺が貴様を処刑しない理由が欲しいなら、それが理由だ」

この早熟で、大人顔負けの策略を使う少年は、それでも十二歳だった。

――周囲が自分と同じぐらい賢いと、そう無邪気に期待しているのだから。

📚 新しい名前

――それが、チェシャ・トリムがもらった新しい名前だった

――それが、チェシャ・トリムがもらった新しい名前だった。

家名のゴールドは何の冗談か、ヴィンセントに逆らい、族滅された奸臣のもの。

――そのせいで巷では、族滅した家の人間を一人だけ生き残らせ、屈辱を味わわせていると噂された。

不向きな畑仕事や狩りといった、できないことで蔑まれるものと遠ざけられた暮らし。

――それだけでも千金の価値があった。

ヴィンセント

( •̀_•́ )

「次の溝だ、チシャ。役立ってみせよ」

同じ目の数、同じ頭の数しかないにも拘らず、同時並行であらゆる課題に取り組む。

――十二歳の少年に求められる内容としては過酷の一言だった。

🔥 怒り

――足りないと、常に抗っている

ヴィンセント

「――自らの器に見合った務めを果たせばいい」

誰もが緩みなく、生きることに全力であれと望んでいる。

信じ難いことに、ヴィンセントには確固たる自信と、己への誇りがないのだ。

足りないと、常に飢えている。足りないと、常に嘆いている。

――足りないと、常に抗っている。

恵まれた立場に生まれたことへの感謝ではなく、

――その立場に望まれる役目を十全に果たそうという怒り。

📓 観覧者

聞いたことのない名前が、出てくる

アベル「――ストライド・ヴォラキアという、唾棄すべき男がいる」

チシャ

「当方の勉強不足ですが、寡聞にして聞いたことのないお名前と思う次第」

ヴィンセント

「むしろ、知っていたなら命の危うい類の話題だ」

ヴィンセント

「なにせ、ヴォラキアの皇族から存在を抹消された男だからな」

チシャ

( ゚д゚ )

「本来、ヴォラキアの皇族に追放などとありえない」

ヴィンセント

「だが、ストライド・ヴォラキアはそのありえない処罰を遇された」

ヴィンセント

「手記だ。水晶宮の書庫に隠されていたものを見つけた」

チシャ

「何が、綴られていたのです? 当方も見せていただくことは?」

ヴィンセント

(¬_¬)

「貴様には見せぬ。――観覧者がなんだのと、下らぬ妄言の詩集など」

⚡ 友達

その日を待たねばならない、と受け止める

セシルス

(・∀・)

「案外誰も閣下やチェシャみたいに眉間に皺寄せてまで陰謀巡らせてませんって」

チシャ

(╬¬_¬)

「――言い方に気を付けていただきたいのと、当方の名前はチシャです」

セシルス「そういうのはですね。――伏線というんです!」

セシルス

「今この瞬間に解き明かせないそれは全て先々の展開に用いられる伏線なのです!」

チシャ

「使途不明の資金の流れは未来への伏線ではなく、汚職や賄賂の証拠と思いますが」

セシルス

(≧▽≦)

「それは! ちゃんと現時点で答えがわかるやつじゃないですか!」

セシルス

「やだなぁ、友達にさん付けするなんてちょっと距離が遠いじゃないですか」

チシャ

(・・・・・・)

「友人……」

その距離感の詰め方もそうだが、最大の理由は、自分に友人がいなかった事実に気付いたこと。

チシャ

「――当方もまた、伏線として機能する日を待たねばならない様子」

🌞 生かされた妹

舞い戻ったとき、黒髪の色が抜けていた

全ての兄弟姉妹を鏖殺し、血の冠を被ったヴィンセント・アベルクス。

――否、第七十七代皇帝ヴィンセント・ヴォラキアの誕生だ。

チシャ「プリスカ様を生かす術を求められたとき、当方は耳を疑いました」

毒はプリスカの心の臓を一度止め、再び鼓動を生むまでの間に全てを終わらせた。

――『選帝の儀』は終わり、プリスカ・ベネディクトは墓の下に葬られた。

あれは、感情的な願いであり、望みであり、祈りだった。

――ヴィンセント・アベルクスは、愛する妹を殺したくなかった。

それがチシャには快かった。生かされたことではなく、活かしたいと考え、

そのための溝に嵌まった車輪を抜く術を、チシャに求めたからだ。

死の淵を彷徨って舞い戻ったチシャの黒髪は、すっかり色が抜け落ちていた。

――他者の色に染まるその『能』を扱うには、常日頃の意識がいる。

🌑 滅び

何を合図に始まるのか、が告げられる

ウビルク「――『大災』の訪れが天命より下りました。閣下、残念です」

チシャ

( ゚д゚ )

「……『大災』?」

何故、この男はヴィンセントに対し、残念などと続けたのか。

ウビルク

「――滅びです、チシャ一将」

ウビルク

「『大災』とは、ヴォラキア帝国を崩壊させる破滅の一手」

ウビルク

「元々、『陽剣』は十全に扱えない。でーしたね?」

その瞬間、チシャは鉄扇をウビルクの首へ当ててその体勢を崩していた。

ヴィンセント

(・・・・・・)

「――やめよ、チシャ。殺しても意味はない」

ウビルク

「――ヴィンセント・ヴォラキア閣下の死、それを合図に始まる天命なのです」

🪞 貴様だ

なぜ自分にまで伏せていたのか、と問う

チシャ

(>﹏<)

「解せません。何ゆえに、当方にまでそれを伏せておられたのか」

ヴィンセント

「――。無用で煩雑な思案を取り除くためだ」

ヴィンセント

「知れば、余を救おうなどと考えよう。だが、それは無意味な思索だ」

チシャ

「――いずれの事態も、被害の大小の差はあれど起こっている」

ヴィンセント

「兆しを告げられたとて、未然に防げた事例はない」

チシャ

(╬゚Д゚)

「――っ、ならば閣下の御命を守り抜き、『星詠み』の天命に逆らえばよいでしょう!」

ヴィンセント

「それが実現可能かどうか、余が試してこなかったと思うか?」

チシャ

「閣下はいつから、『大災』の兆しを存じていたのですか?」

ヴィンセント

「――手記だ」

出会い、共に歩み、セシルスを拾い、儀に臨み、妹を救い、新たな道を拓いた。

――その歩みの全ては。

ヴィンセント

「――余の死後、『大災』のもたらす滅びの被害を最小限に食い止めねばならん」

ヴィンセント

「そのための改革であり、『九神将』であり」

アベル「――貴様だ、チシャ・ゴールド」

🪄 何色にも染まれる

先延ばしにはできない、と念を押される

ウビルク

「『大災』を先延ばしにすることはできない。それは必ず起こってしまう」

ウビルク

「もしも『大災』の起こる要因が全て潰されても、ぼくがその要因となるでしょーね」

ウビルク

「たとえぼくを殺したところで、次の『星詠み』が現れるだけですよ」

ウビルク

「ぼくたちは星がもたらした自浄自衛の端末、代わりはいくらでもいます」

『チシャが千人の部下がいる状況から始まればどうです? 千秒かかるかもですよ!』

『閣下か誰かしらが目的を果たせばいいんですよ』

――友人の、適当なことを言いながら笑った顔が思い出された。

チシャ

「ウビルク殿の受け取る天命というものは、どのような形でもたらされるものなのですか?」

ウビルク

「まちまちですね。ぼかぁ、比較的夢のような形で受け取ることが多いですが」

チシャ

「ウビルク殿が受けた天命、それが閣下が命を落とされる瞬間であるなら――」

チシャ「――そこで死したヴィンセント・ヴォラキアは、どちらの閣下でしょうなぁ?」

🐺 血が沸き立つ

――チシャ・ゴールドは、帝国の男だった

ヴィンセントのために死ぬようなことはしない。

――絶対の忠誠はなくとも、常識的な忠誠は誓っている。

あのとき、大勢が関わり合いになるのを避ける中で、チシャは竜車に歩み寄った。

――人助けがしたかったわけではない。試す機会が訪れたのだから、もったいないと。

あの、なんだって自分の想定通りだと智謀を巡らせるヴィンセント・ヴォラキア。

――その考えの裏を取れるような機会、二度と巡ってはこないだろう。

挑めるとなれば血が沸き立ち、敵が大きいとわかればますます気持ちが昂る。

――チシャ・ゴールドは、帝国の男だった。

😤 舐めるな

何が『大災』か、と笑い飛ばす

チシャ

(╬¬_¬)

「もたらされる『大災』の滅び……何が『大災』と、笑わせますなぁ」

ヴィンセントが死ななければ始まらない『大災』。

――彼に生きていられては帝国を滅ぼせないのだと、始める前から負けている。

チシャ

( •̀_•́ )

「閣下こそが、ヴォラキア帝国」

チシャ

「その閣下亡きあとの大地を踏み荒らして、それで滅びだなどと笑止千万」

チシャ「――当方が支え、形作ったヴィンセント・ヴォラキアを、舐めるな」

あの日、溝に嵌まった車輪を抜いたのは、このときのためだ。

チシャ

(´ー`)

「――伏線と。そう言えば、セシルスを調子に乗らせるので絶対に言いませんが」

🩸 全て

――男は死んだ

白い光が玉座の間を眩く照らし、直後に赤い血が盛大に飛散する。

赤い絨毯の上、飛び散った鮮血を盛大に浴びるのは正面に立った細身の男。

背後から無防備な胸を貫かれ、心の臓を破壊された体が前のめりに崩れ落ちる。

――傾く体を支える腕はなく、末期の言葉はおろか、吐息さえこぼれない。

――男は死んだ。

チェシャ・トリムであり、チシャ・ゴールドとなって、

そしてヴィンセント・ヴォラキアとして、男は死んだ。

――それが、この瞬間に起こった出来事の、全てだった。

第七章107『チシャ・ゴールド』終了。