リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章83

『ラム』

折れた角のことを、ラムはずっと厄介払いだと思っていた。

🔥 赤い夜

――全てが、燃えていた

――赤く、赤く、何もかもが燃える炎に包まれていたことを覚えている。

穏やかで停滞した、退廃的な日々は唐突に終わりを迎えた。

奴らは世界から忌み嫌われ、疎まれ、弾かれ、迫害されるモノたちだった。

それ故に、奴らは闇に潜み、気配を殺し、音を遠ざけ、忍び寄る術を知っていた。

早い話、平和と安寧に心が腐らされてしまっていたのだ。

🗣️ 生きろ

――囲みを、抜けよ

「――ラム! 囲みを抜けよ! お前が生きてさえいればいい!!」

生きろと、それはラムを案じたからではない。

ラムこそが鬼族の輝かしい未来だと、最も愚直に信じたのが長老だったからだ。

馬鹿馬鹿しい、と鼻で笑い飛ばしてやりたい気分だった。

この夜のことが原因ではない。もうとっくの昔に、ラムは同族のことを見限っていたのだ。

😈 内なる声

――もっと殺せと、声がする

血を、肉を、骨を、魂を、命を奪えと、内なる己が責め立てる。

――もうずっと、それこそ生まれたときから、この声は隙さえあれば誘惑してくる。

これの、いったい何が素晴らしいのか、ラムにはまるで理解できない。

まるで、角に己を支配されているみたいだ。

確固たる自分というモノがなければ、幼い人格は容易く呑まれ、破壊され、それこそ周囲に望まれるままの鬼神の再来となっていただろう。

だが、そうはならなかった。何故なら――。

🦌 折れた

――やっと、折れてくれた

「――お■ちゃん!!」

高い声に呼ばれ、振り向けば■■が炎に照らされていた。

――思い出せない、名前。ラムが一番、失いたくなかったはずの誰か。

独りなら、無理ではない。だが、一人で助かるなら死ぬのと変わらない。

風の刃を掻い潜った黒影、それが放った一閃がしたたかに額を打ち、視界が爆ぜた。

生まれてからずっと、ラムを蝕み続けたあの声が聞こえなくなって。

――ああ、やっと折れてくれた。

👁️ 共有

――狙いは、明白だった

ラム

「――レム」

その結果、バテンカイトスは権能を駆使してラムの前から逃げ延び、そのままラムの半身であるレムの身柄の確保に向かった。

狙いは明白――まともに戦っても、ラムに勝てないと確信したから。

大罪司教は戦士でも何でもない。奴らは、自らの欲望を叶えるためだけに貪欲に行動し続ける存在、勝ち方に拘る理由など一つもないのだ。

ラム

「一刻も早く、パトラッシュに追いつく」

⚖️ 跳ね返る

――負担が、戻ってくる

先ほどまでは感じなかった重たい疲労感と、内臓が見えない手で掻き回されるような不快感と痛みが、ラム自身へと降りかかっていた。

瞬時に浮かぶのは、スバルが無様に犬死したという可能性。

だが、それはラム自身へ跳ね返る負荷の軽さから違うと判断できる。

あるいは、起きた出来事から全く逆の展開が想像できる。

すなわち、ラムの体の負担以上に、スバルが引き受けなくてはならない不幸が誰かの身に起こってしまった場合、だ。

ラム

「何を弱気になるの。――勝つための、方策を打つしかないのよ」

🐉 走り続ける

――足を、止められない

ライ

「ははァ! ホントにいいなァ! 頑張るなァ、地竜のくせにさァ!」

その地竜が走り続ける限り、風や足場の悪さといった外的要因の大部分を無視し、目的のために『走る』という行為を肯定する。

意識のない状態で鞍に括り付けられている『眠り姫』が振り落とされずに済んでいるのも、その『風除けの加護』の影響下にあることが大きい。

ライ

「まァ、足を止めたら『風除けの加護』は解除されるんだし、必死こく理由もわかるけどさァ!」

🖼️ 絵に描いた餅

――食べて、やれない

意思があり、魂があり、『記憶』があり、『名前』がある。

にも拘らず、『暴食』の権能は人間以外の『それ』を喰らうことができない。

ライ

「地竜はいいね、頑張り屋だし、主人に忠実だ。きっと君が人間だったら、『美食家』の俺たち垂涎の一皿になってくれたってそう思うッ! でも、でもでも、でもでもでもでもでも! 悲しいかな、地竜じゃ僕たちの腹は膨れないッ!」

ライ

「あァ、それだよそれ! こんなにも美味そうな食べ物の絵なんて生殺しだ。こんなのは完全に、児童虐待ってヤツなんじゃないのッ!?」

👊 拳王の掌

――最後まで、庇い続ける

ライ

「――拳王の掌」

地竜は倒れ込みながらも、拳からも壁からも床からも、そして自分自身の巨体からも背に乗せた少女のことを庇い続けた。

落竜する少女の体を、伸ばした尻尾で柔らかく受け止め、通路の床へ下ろす。

ライ

「たーだーしッ! せっかく優しく床に寝かせてもらっても、これから丁寧に首チョンパして、姉様への手土産にさせてもらっちゃうんですけどね」

ライ

「それを! しっかりッ! 弁え! よう! ね!」

👟 追いついた

🌸ずいぶんと、不細工になったわね

ライ

「姉様のために、姉様の大切なレムのことを、レムの手で……」

ラム

「――薄気味悪いことを言わないでちょうだい」

ライ

「あっはははははァ……やっと追いついてくれたんですね、姉様。僕たち……あで? あたしたち……俺っちたち……? ――レムたちは、待っていましたからァ」

ラム

「……短時間で、ずいぶんと不細工になったわね」

🧩 入り混じる

――誰でもあって、誰でもない

ラムの目の前にいる『暴食』の姿は、引き出した『記憶』のどれでもあって、どれでもない。

ぐにゃぐにゃと、入り混じってしまっている。

右手と左手の長さが、手の大きさが違い、下手すれば顔も部位ごとに異なる誰かのモノを参照しているように見えた。

元々、他者の『記憶』を奪い取ることに特化し続けた存在は、自己という強固な土台が希薄だったのかもしれない。

バテンカイトスは、もはや何者でもない何かになりかけていた。

ラム

「――レムを気取る怪物。正直、ここまで腹が立ったのは初めてだわ」

🦌 白い角

――額に、角が生える

ラム

「よく頑張ってくれたわ、パトラッシュ。レムを連れて、下がっていて」

ライ

「ダメですってばァ、姉様。それは大切なオードブル……メインディッシュを堪能する前に、付け合わせは必須なんですか――」

ラム

「――死になさい」

――その、複数名の特徴が集まった顔の額に、一本の白い角が出現したのだ。

ラム

「それは……」

ことごとく、バテンカイトスの行動はラムを逆撫でする暴挙ばかりなのだから。

ライ

「――姉様」

😢 泣いてください

――一言ごとに、心を掻き毟られる

ライ

「泣いてください、姉様」

ライ

「怒ってください、姉様」

ライ

「笑ってください、姉様」

いつか、彼女の目が覚めたとき、初めて呼びかけられるのを楽しみにしていた。

そのときの最初の一言は、きっと産声のように特別なものになるはずだった。

ライ

「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」「姉様」――。

ラム

「その――っ」

月も太陽も陰っているにも拘らず、闇は完璧に『暴食』を塗装していた。

⏱️ 十数秒

――稼げたのは、十数秒だった

ひたすら殴られる人形に徹して、パトラッシュとレムの撤退を支援した。

距離は、せいぜいが十数メートル。

――ラムが稼いだ時間は、ラムが味わった苦痛にずっとずっと引き延ばされ、長く感じただけの十数秒だったのだ。

ラム

「……ええ、わかってる。全部終わったら、二人でバルスを折檻しましょう」

🎲 時の運

――持っていないのは、時の運

ラムはあらゆる点で自分が秀でている自覚があったが、一点、どうしようもなく、持ち合わせていないと自覚しているモノがあった。

――時の運だ。

それなのに、都合のいいことに、今は失った角さえあればと思ってしまう。

――否、それは正確ではない。正確には、角自体はあるのだ。

ずっと肌身離さず持ち歩いている愛用の杖――その杖の基礎には、ラムの折られた角が使われている。

🪄 杖を割る

――人でなしと、罵られる覚悟で

ラムは、ロズワールが自分に求める役割を知っている。

そのためにラムが必要だと、時がくれば自ずと、その方法もわかると聞いていた。

ラム

「人でなしと罵られる覚悟で、それをすることもあるでしょう」

砕け散った杖の内側から、長らく見なかったそれが飛び出した。

――あのときのように、くるくると目障りなぐらいに回転しながら。

✨ 光る

――眠っている少女が、光る

――俯いた少女の青い髪を頂く頭部、そこがぼんやりと淡く光っているのが。

ラム

「訂正するわ」

ライ

「――っ、ねえさ」

ラム

「時の運がないと思っていたの。――でも、そうじゃなかった」

あまりの威力に勢いを殺せず、バテンカイトスが壁を二枚ぶち抜いて止まった。

🔗 共感覚

🌸今日だけは、演じてあげる

ラム

「どうやら、天さえもラムとレムの可愛さに首ったけのようね」

ライ

「ねえ、さま……」

ラム

「残念だけど、ラムの妹は奥で寝ているわ。『共感覚』ではっきりとわかる」

ラム

「『共感覚』よ。ラムとレムは仲良し姉妹だったようね。喜びや怒り、悲しみや痛み、そういったものを分かち合える。――折れた角の再活性、その負担も」

ラム

「バルスの作戦がヒントというのが癪だけど、いいわ」

ライ

「スバルくんが、何を……」

ラム

「――その顔と声で、バルスの名を呼ぶのはやめなさい」

まるで、失われた絆が繋がっていたことを、その血と痛みが証明するように。

ラム

「暗い場所で生まれたものは、暗い場所へ帰りなさい。泣き声を上げて生まれたのなら、泣き声と共に死になさい」

ラム

「鬼神の再来。好きじゃなかったけど、今日だけは演じてあげる。――ラムの可愛い妹の偽物、今度こそ八つ裂きにしてやるわ」

第六章83『ラム』終了。