リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章82

『枷のある戦い』

ラムが十年ぶりに枷を外す。その反動は、全部、別の場所へ流れていく。

⛓️ 枷

――段階的に、枷を外す

――ゆっくりと、段階的に枷を外し、自らの体の熱量を上昇させていく。

その内を流れる血は、それを構成する肉は骨は、世界で最も優れたる種族のモノ。

ライ

「それが姉様ッ! あァ、なんて素敵なのッ! 輝いてるのッ! どこまでいってもレムじゃァ到底及ばない届かない敵わない、そんな姉様ッ!」

ラム

「唾を飛ばさないで。不愉快だわ。それと、ラムを何かと比べるのはやめなさい」

ライ

「へェ、その心は?」

ラム

「決まっているでしょう。――ラムには、レムの姉様以上の肩書きなんて不要だからよ」

🌀 虚実

――速度が、途中で変わる

踏み込み、放たれるラムの肘や膝の一撃は、中途で自在に加減速を行う。

風で速度を加速し、あるいは減速し、応戦しようとするバテンカイトスの認識を自在に狂わせる。

ライ

「はァ! たまんないなァ!」

ライ

「辛みがあってたまんないスパイス! 渋みがあっていなせなトリック! 嬉しさ爆発でまさにダイナミック! 姉様は、俺たちの美食にぴったりの御馳走だッ!」

ライ

「何より、その怒りの匂いがいい。僕たち個人を、ここまで憎悪してくれる相手……それを舌の上で味わったら、どんな美食が堪能できるんだろうねえ!?」

3️⃣ 三つ目

――十年ぶりに、外す

鬼族の角を失い、『ツノナシ』となったラムの肉体は日々、膨大な負荷に押し潰されそうになっていた。

故に、ラムは自らの意識に枷を嵌めたのだ。

そんな諸刃の剣である枷を、今、ラムはもう一段階外そうとしている。

これまでの戦いの反動が跳ね返れば、ラムの頭は割れるように痛み、鼻血や血涙がとめどなく流れ、しばらく体が動かせなくなるのを覚悟しなくてはならない。

それがない。――運命共同体の、スバルへ流れ込んでいるから。

ラム

「……あまり長くかけると、バルスが死ぬわね」

ラム

「死ぬ気で耐えなさい、バルス。――レムが泣くわよ」

🩸 反動

――牙を、剥かれる

――瞬間、『コル・レオニス』の反動がナツキ・スバルへ牙を剥く。

スバル

「――ごぇ」

ベアトリス

「スバル!」

ベアトリス

「ラムの反動がきたかしら」

スバル

「お察しの通り、だ……悪い、何とか堪える……っ」

込み上げてくる嘔吐感は鉄錆の味と臭いがして、いったい体のどこにかかった負荷がもたらしたモノなのか皆目見当がつかない。

いずれにせよ、これはラムが本気になった証だ。

🦂 要

――要は、この子だ

足りない戦力を物量で補い、スバルたちは存在しない猶予を無理くり作り出す。

その要となっているのが誰か、それはメィリィ・ポートルートに他ならない。

故に、スバルはすでにしばらく前から、メィリィへと降りかかる加護のフィードバックを自分へと引き取っていた。

メィリィ

「羽土竜ちゃあん! 花魁熊ちゃん! 合わせて!」

⚖️ 加護

――そんなものが、あるから

大罪司教や『魔女』、何の因果かスバルも用いることとなっている権能。

あるいは、この世界に生まれ落ちたものに確率で授けられることになる加護。

スバル

「そんなものがあるから……」

生まれながらに魔獣を通じる力を持つが故に、彼女は実の両親から捨てられた。

少なくとも、メィリィの中ではそれが真実だった。

スバル

「俺ってやつは、ホントにダブルスタンダードだよな……」

権能や加護になんて頼りたくないと思う一方で、必要ならば使い倒すのを躊躇えない。

道ならぬ道を強いている、そのことを忘れて、笑えるようになりたくはない。

🏠 うちの子

――いい明日が、待っていると思わないと

メィリィ

「お兄さん! 集中してるう!? お兄さんとベアトリスちゃんがやられちゃったら、それで全部おしまいなんだからねえ!?」

スバル

「わかってる。――なぁ、メィリィ。全部終わったら、うちの子にならないか?」

メィリィ

「――っ! 言ってる傍から、集中っ!!」

スバル

「こんだけ苦しい思いをしてんだから、いい明日が待ってるって思ってないと割に合わねぇよ」

🤨 らしくない

🦂わたし、なんでしょうねえ

メィリィ

「わたし、なんでしょうねえ」

流されるままに、求められるままに、それが正しいか誤っているかなんて気にせず、命じられたことを従順にこなしてきた。

それがメィリィの処世術であったから、ここでも同じことをするつもりだった。

メィリィ

「――『死者の書』なんて、そんなものがあるからよお」

ただ、メィリィとスバルとで違っているのは、それが口先だけでないことだ。

スバルにあるのは必死さと、押し付けがましい期待、そして自分の命ごと預けるような狂気的な信頼だけ――。

メィリィ

「なんだか、わたしまでお馬鹿さんになった気分だわあ」

🕊️ 初めて

――守るために、戦うのは初めて

メィリィ・ポートルートは、幼くとも殺し屋だった。

誰かの命令で、指示で、依頼で、誰かの命を奪うことを生業としていた。

だから、これが初めてなのだ。――誰かの命を救うために、守るために、戦わなくてはならないのが。

メィリィ

「こんなの、わたしのやり方じゃないんだからねえ!」

🪱 目くらまし

――砂蚯蚓は、囮だった

白光が迸り、太い砂蚯蚓の胴体が一瞬で消し飛んだ。

しかし、それは砂蚯蚓の命を使った血肉の目くらましだ。

――本命は、砂蚯蚓が飛び出した地下から現れる三体の餓馬王だ。

メィリィ

「わたし、やっぱり調子いいみたい」

その反動が、不思議と今のメィリィには感じられない。

仕留めようとは思わない。ただ、少しでも痛手を与えておけば、スバルの目的も達成しやすくなる。

🟥 攻撃色

――色が、変わる

スバル

「――メィリィ!!」

それが快哉でも、喜悦でも、驚嘆でもなかったことをメィリィは訝しむ。

――ある種の魔獣には、『攻撃色』と呼ばれる変化を起こすものがいる。

それまでと明確に行動の種類が変わり、より獰猛で攻撃的になる変化だ。

そしてそれは大サソリ――否、『紅蠍』にも該当することだった。

白い光が全方位へ向けて放たれ、飛びかかった三体の餓馬王が消し飛ぶ。

炸裂する光の奔流に呑まれ、メィリィの小さな体が血飛沫と共に宙を舞った。

🌸 聡明

ラムは可愛いだけでなく、聡明だもの

優れている自覚はある。だが、それを過信してはいない。

間違いもする。間違わないようにする意思と、間違いを正す姿勢があるだけで。

そして、自分がそうした外因に潰されずに済んだのは、何のおかげだったのか。

それがきっと、思い出せない欠けた何かのおかげなのだと、わかっていた。

ラム

「――ラムは可愛いだけでなく、聡明だもの」

手首、肘、そのまま肩まで一瞬でねじり、へし折った。

👁️ 千里眼

🌸誰も、ラムから逃げられない

ライ

「風で吹き飛ばすって? ダメダメ、無駄無駄! それは空間に固定しちゃってるもんだからさァ! いっくら姉様でも蹴散らせないよ、残念でしたァ!」

ラム

「――『千里眼』」

たとえ、知覚としてそれを捉えられなかったとしても、設置した人間の視界へと重なることができれば、ささやかな意識の変化で在処はわかる。

ライ

「ハッ! あはははははは! 姉様、それ本気? マジなの!?」

ラム

「バルスめいた口の利き方ね。――引っ叩く躊躇いが消えて助かるわ」

ラム

「さあ、下に落ちるまでの間、何回ラムの靴裏を味わうのかしらね」

❓ 後悔している?

🌸どう、後悔している?

ラム

「自分の仕掛けた罠に当たっても、それはラムのせいじゃないわ。自業自得よ」

ラム

「どう? 後悔している?」

ラムは、わざわざあえて相手を苦しめて痛めつける趣味はない。

しかし、その相手が憎い仇であるなら、豚のような悲鳴を上げさせるのに躊躇いはなかった。

ラム

「どう? 後悔している?」

刻み込むのが目的だ。恐怖を、痛みを、逆らってはいけないという敗北感を。

――取り戻すためだ。

ラム

「どう? 後悔している?」

🌒 日食

――姿が、切り替わる

ライ

「――ッ、『日食』ッ!」

ラム

「――『千里眼』。相手の視界を押さえている限り、誰もラムから逃げられない」

ラム

「化けるのは『色欲』の手口と聞いていたけど、他にどんな小技があるの?」

ライ

「あ、あぁぁぁ、クソッ! 使うつもりなどなかったと言うに……いや、なかったはずだったのに……ッ」

ラム

「だけど、妙ね。そんな切り札があるなら、もっと早く切ってもおかしくないはず。それなのに、どうして伏せていたのかしら」

ラム

「……使いたくない理由でもあるの? 器に引っ張られるとか」

ライ

「いやはや……本当に、ここまで恐ろしい女子とは出くわしたことがないぞい。……ないなァ。ホント、姉様って怖いよ」

🔀 連係

――三人分を、繋いでくる

ラム

「――。状況はわからないけど、こっちの要求を呑む気にはなった? これまで、あなたが『暴食』として喰らった全てを戻しなさい。そうすれば」

ライ

「……そうすれば、なんじゃ? 儂たちを見逃すとでも?」

ラム

「いいえ。そうすれば、すぐに殺してやるわ。いい取引でしょう? 万死に値するところを、一度で許してあげる」

ライ

「――賭けは、あたしたちの勝ちよおん!!」

ライ

「儂たちのアプローチからの、俺っちたちの一発よぉ!!」

三人の姿を瞬時に切り替え、その特性を完全に応用した連係。

🔵 レムの知識

――妹の知識で、見抜かれる

ラム

「だとしても、一度見せた技が通用すると――」

ライ

「思わない。思わないよ。思わないさ。思わないとも。思わないから。思わないからこそ。思わないって言えるから!」

ライ

「儂たちは知っておる。――レムの姉様は、小細工なしにそんな風に動き続けられません」

ラムの動きではなく、レムの知識がその答えを引き寄せた。

ライ

「――姉様、別に僕たちは姉様と力比べがしたいわけじゃないからさァ」

🔵 レム

――向かった先が、わかる

短距離の空間歪曲による瞬間移動――それを連続すれば、戦場からの離脱は容易い。

ラム

「逃げを打つ決断が早い。いいえ、それより――」

あの、悪意の塊である大罪司教が、ただ逃げるために塔内へ入り込みはしないと。

相対するラムを最大限にいたぶる方法が何なのか、奴は熟知している。

ラム

「――レム」

ようやく、再び捉えた邪悪の視界がラムの視界と共有される。

そこには『眠り姫』を乗せて走る、黒い地竜の尾が映り込んでいた。

第六章82『枷のある戦い』終了。