第六章78
『角四つ』
盤面の角を四つ取られている。それでも勝ちにいく配置を組む。
⬛ 角四つ
――角を、四つ取られている
「――いいか? 今、この塔はヤバい状態にある。どのぐらいヤバいかっていうと、オセロで角を四つ取られてるみたいな状況だ」
「それは……かなりマズいわね」
こちらの世界でも再現するのが比較的簡単な部類だったので、わりと早い段階でロズワール邸に持ち込まれ、特にエミリアからの大絶賛を受けていた。
「角四つなんて、とんでもない状況かしら……ハンデにしても、やりすぎなのよ」
「そんなに角もらったら、てんてこ舞いになった私でも勝てちゃうかも……」
「てんてこ舞いってきょうび聞かねぇな……」
「――! スバル、今の、もう一回言って」
「あとでね。あとで」
🌟 四つ目
――四つ目を、言いあぐねる
四つ目の角に触れようとして、一瞬、続ける言葉に迷った。
「仲間って、シャウラに何かあったの?」
エミリアの『記憶』の有無と無関係に、そこは認識に違いがないのだ。
すなわち、彼女たちの中で、シャウラの立場は友好的なモノと、そう刻まれている証。
「馬鹿か俺は。いや、馬鹿だ俺は」
一つけなしたら一つ褒める。理想は、一つけなしたら百褒める。
真の理想は、一つもけなさずに一万褒めること。
📜 決まり事
――破られたら、牙を剥く
「ええ、あったわね。『試験』を終えず、『試験』の決まりを守らず、書庫に敬意を払わず、塔を傷付けず……それらが決まり事の違反、だったかしら」
「その、いくつかの決まり事……これを破ると、四つ目の角が出現する。そしたら……」
「当人が言ってた通り、ラムたちに牙を剥くと。――厄介ね」
「あのとぼけた娘、あれで相当な実力かしら。遠くから撃たれて手も足も出ないよりマシでも、敵に回ったらマズいのは変わらないのよ」
「でも、相手はシャウラなんでしょ? 何とか、話し合いで説得できないの?」
「その平和的な解決は俺も望むとこなんだけど、シャウラが交渉のテーブルにつくのが難しそうなんだ」
⚜️ 二層
――上で、始まっている
「対処している角は二つと言ったわね。魔獣の群れをメィリィが押さえているのはわかるとして、あと一つは?」
「――ユリウスだ。二層で、敵と戦ってる真っ最中」
「二層って……まさか」
「ああ、そのまさか」
――ユリウス・ユークリウスと、レイド・アストレアの再戦は始まっているのだ。
🧭 運命
――運命は、存在する
だが、幾度も『死』を積み重ね、多くの可能性を渡り歩いてきたスバルにはわかることがある。
――それは、腹立たしいことだが、『運命』は存在するということだ。
まるで、先に『運命』の提示した結果があり、全ての過程がそこへ行き着くような。
しかし、それは同時に、光明を意味するとは言えないだろうか。
「レイドとの決着はユリウスに任せろ。俺たちは、残りの三つに対処する」
🧩 振り分け
――仕分けが、一番の見せ場
「とにかく、塔の状況整理は以上! あとは最適な場所に最適な人材を振り分ける。この仕分け事業が、ナツキ・スバルの一番の見せ場だぜ!」
「地味地味すぎるのよ……」
「地味でも大事な仕事なの! これがいぶし銀な活躍ってやつだよ。俺にしかできない仕事……そう、俺にしかできないことだ! これが俺の戦い……痛い!!」
「いいから、早く分けなさい」
「ワンフォーオール、オールフォーワン。全員が一丸とならなきゃ勝ちは掴めない。誰かが一人欠けるのも嫌だ。誰も欠かさないで勝ちにいく。だって俺たちは……」
「――失わせないで、取り戻すためにこの塔にきたんだもんね」
「そゆこと」
🌸 手を抜かない
ラムは、手を抜かないわよ
「――バルス」
「俺を壊さないように気遣ってくれるなんて、らしくないじゃねぇか、姉様」
「羽虫を掌で観察しようとしたら、力を入れないように苦心するでしょう。それと同じことよ。……羽虫なんてわざわざ掌に乗せないわ。おぞましい」
「自分で言って自分で否定するなよ」
「――バルス。ラムは手を抜かないわよ」
ただ、ラムが立って呼吸しているだけで、十分以上に辛いと弱音が吐ける。
だが、それは彼女が常日頃、味わい続けている苦しみなのだ。
「姉様は優しすぎます、か」
🔵 一番心配
🌸一番心配してるのは、ラムよ
「オットーもいい線いってたけど、あいつはうっかり転んで押しかねない不安があるからな……適切に使うって意味なら、姉様が一番確実だ」
「ハッ! おだてても無駄よ。……しっかり、ベアトリス様とエミリアを気遣ってあげなさい。バルスはどうなってもいいわ」
「はいはい、わかってるよ。レムのことは……」
「――レムを、この世で一番心配してるのはラムよ」
「バルスはバルスなりに、世界で二番目に心配しているがいいわ。それで、髪の毛一本分の傷もレムに付ける気はなくなるでしょうから」
「……そりゃ、死にたくなるからな」
「バルス、せいぜい気を付けなさい。死んだらレムと会えなくなるわよ」
「ああ、俺も愛してる」
🙌 心強い
――今が、一番視界が晴れている
「ううん、何でもない。ただ、なんだかすごーく心強いって思って」
「――。そりゃ偶然、実は俺も同じ気持ちなんだよ」
不安より、期待が大きい。預けるより、任せる方が力強い。縋るより、信じる方が前を向ける。
「仲間を信じるのは当然だし、その仲間に頼る自分のことも信じられる。この砂だらけの塔にきて、今が一番、視界が晴れてるぜ」
「――その顔、ベティーの一番好きなスバルかしら」
「ベアトリスは覚えてないみたいだけど、私もおんなじこと思ってたの」
🌟 餓馬王
――露台が、血の海になっている
かつてこの魔獣を見知ったモノは、それとは異なる名前を付けた。――『餓馬王』と。
白い光が餓馬王の体内で光の剣山と化し、内側から魔獣を八つ裂きに引き裂く。
そうした登攀者を次々と撃墜し、露台はもはや血の海と化していた。
それだけの殺戮を成し遂げ、シャウラは息一つ乱していない。
👁️ 限界
――誰かが、ルールを破った
「ぐ、ううううう……ッ!」
そこから見える黒目がちの眼球が分裂し、赤々とした脈動を始めているのだ。
「誰かが、誰かがルールを破った……ッス……」
🧣 エキドナ
「マズいな。彼女は限界だ。メィリィ! 君の方は……」
「見ての通り、飛んでくる子たちの相手で手一杯よお! これで裸のお姉さんまで戦えなくなったら、絶対の絶対、手が足りなくなるからあ!」
🧣 エキドナ
「だろうね。これは、かなり手厳しいな」
⛓️ 被造物
🧣皮肉な、話だ
先の彼女の言葉が事実なら、プレアデス監視塔における決まり事が破られた。
それに抗っているのは、シャウラが本気でナツキ・スバルを傷付けたくないと、心底願っているからだ。
🧣 エキドナ
「……皮肉な話だ」
この監視塔の番人として居続けていたから、彼女は会いたい誰かと再会できた。
だが、この監視塔の番人として在り続けているから、彼女は会いたい誰かを傷付ける命令に逆らえない。――まさしく、被造物の悲哀だ。
🙏 命じてください
🌟命じて、くださいッス
「――シャウラ!」
「お師様……?」
「お師様、あーしに……あーしに、命じてくださいッス……!」
「誰かが、ルールに違反したんス。この、ままだと、あーし……お師様を……! そうなる前に、でなきゃ、お師様を、お師様を……っ」
スバルが命令さえすれば、大サソリの脅威は取り除かれると言っていい。
✊ 運命様、上等だ
――死ねとは、言ってやらない
「シャウラ」
「は、い……あーし、お師様のためなら……」
「何度も言ってるが、俺にはお前にお師様呼ばわりされる心当たりがねぇよ」
「だから、俺がお前のお師様かどうか、それを認める認めないの話は後回しだ」
「俺は、お前に死ねなんて言ってやらない。俺は、お前を泣いたままになんかさせてやらない。俺は、お前の四百年をここで終わらせてなんかやらない」
この世界の奴らは気が長すぎる。四百年も、一途に誰かを待ち続けるんじゃない。
首根っこを掴んででも、会いたい誰かを引きずり出すべきだ。
「俺がそれをしてやる! 唯々諾々と、誰かの言いなりになんてなってたまるかよ! 運命様、上等だ!」
💗 愛してるッス
🌟お師様、愛してるッス
この瞬間、少なくとも彼女にとって重要なのは、塔の決まり事でも、内から爆ぜそうなぐらいに膨れ上がる衝動でもなく、
「お師様……愛してるッス」
たぶん、四百年待ち焦がれた相手への、抑え切れない愛の情動だけだった。
白く細い手が肥大化して大鋏へと変わり、女性的な豊満な体が爆ぜ、テープの逆再生のように溢れる血肉が舞い戻り、肉体を組み替える。
🦵 えええええい
❄️真横から、蹴り飛ばされる
「――えええええいっ!!」
凄まじい威力が突き込まれ、大サソリの巨体が床から外れて吹っ飛ぶ。
「――ムラク」
陰魔法の一種である『ムラク』は、対象にかかる重力を操作する魔法だ。
大サソリの重量が埃のように軽くなれば、その図体が見た目通りの動きができなくなるのは至極当然。
「羽土竜ちゃん!」
📨 言伝
――言伝は、特にない
🧣 エキドナ
「ひょっとして、『記憶』が戻ったのかい?」
「話が早い! けど、なんでわかった?」
🧣 エキドナ
「わかるさ。君の隣で、ベアトリスがそれだけ自慢げな顔をしていればね」
「エキドナ、お前の担当は中だ! ひとまず、二層で戦ってるユリウスのところに合流しろ!」
🧣 エキドナ
「――ユリウスに言伝は?」
「いや、特にねぇよ」
「――俺の言うべきことは、少し前の俺と、その前の俺が全部言ってる。今さら付け加えることなんてない。あいつは、ユリウス・ユークリウスなんだぜ」
蘇ったレイド・アストレアを斬るのは、ユリウス・ユークリウスだ。
🔚 ケリをつける
――今回で、決める
「エミリアたん! 打ち合わせ通りに! エミリアたんが頼りだ!」
「ええ、任せて! スバルこそ、死んじゃダメだからね!」
リスタート地点が変わっていないなら、スバルが舞い戻るのはルイ・アルネブを魔女因子ごと自分から分離する前の段階だ。
そこへ舞い戻れば、いったい、どんな不都合が発生するのか、スバルにも誰にもわからない。
「――今回で、ケリをつける!」
🏠 引きこもり対決
――三人で、四百二年
「それでえ? 全然説明がなくってちんぷんかんぷんなんだけどお、わたしにはちゃあんと説明してくれるのかしらあ?」
「悪ぃが付き合ってもらうぜ、メィリィ。俺とベア子とお前の三人で、魔獣の群れと大サソリ――角二つを、押さえ込む!」
「それ、説明になってないからねえ!」
「――くるのよ!」
「で、四百年の引きこもりか。引きこもり対決だ。あっちは一人で四百年、こっちは二人で四百一年だぜ」
「三人で、四百二年の方が正解じゃないかしらあ」
「つまり、俺たちが勝つ!」
「勝つってところ以外、意味がわからんかしら!!」
「――本気で頼んだぜ、エミリアたん。君が、全部の鍵だから」
第六章78『角四つ』終了。
スバル
ベアトリス
エミリア
シャウラ
メィリィ