リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章74

『ナツキ・スバル』

同じ顔と向き合って、探していた『何か』が最初からなかったことを知る。

🪞 鏡写しじゃない

――見慣れた顔が、少しだけ違う

短い黒髪、胴長短足、人でも殺していそうな三白眼。

どこからどう見ても、知っている顔――否、少しだけ違って見える。

「ああ、そうか。鏡写しってわけじゃないから、ちょっと違和感あるのか」

「そしたら改めて……よう、兄弟」

「いや、兄弟だとちょっと語弊があるか。ここは正確に……よう、もう一人の俺」

スバル

「――『ナツキ・スバル』」

👊 殴る

――その目を、やめろ

スバル

「なんで、俺はこんなところにいるんだよ!!」

「――それは、お前が俺に追いついた証拠だよ」

「お前が『死者の書』を読んで、俺に追いついた。お前が知らなかったこと全部、追体験って形で見てきたはずだ。俺の、異世界生活をな」

スバル

「――ふ、ざけるなぁッ!!」

スバル

「俺が、お前に追いついただと? 冗談じゃない! 嘘をつくな! まだだ! まだ、一番大事なことが、もっと重要なことが、何にもわかっちゃいない!」

スバル

「その目をやめろ!」

❓ ルイか

――お前は、あいつなのか

スバル

「お前、ルイか? 『暴食』の大罪司教! またお前なんだろ!?」

「……俺が?」

スバル

「とぼけるな!」

スバル

「そうやって、俺を食い荒らして今度こそ乗っ取るつもりか? いっぺん振られたのにしつこい奴が……そんなに『死に戻り』したいのかよ!?」

しかし、わずかな恐怖を踏み潰して叫んだスバルに、ペナルティは発動しない。

あくまで、自分と相手が同じモノであると、そう主張されているように思えて。

🗑️ 碌なモノじゃない

――そんなに、すごい力か

スバル

「――っ! いい加減、わかれよ! これがそんなにすごい力か? 憧れるような力か!? 死んで、やり直せるだけだ。使う俺がクソなら、結果だってクソだ!」

スバル

「だから、誰も救えなかった。……みんな死なせる。俺が弱いせいで、みんな、悲しませるんだ。今も、誰も救えないみたいに……!」

蟻に大砲を持たせても使いこなせない。結局、分不相応なのだ。

『死に戻り』は、世界の嫌なところばかりを見せてくる。

理不尽を、不条理を、目を背けたくなるような運命を、見せてくる。それなのに、どうして――。

💗 好きなんだよ

――みんなが、好きなんだ

スバル

「――みんなが、好きなんだよ」

「――みんなが好きなんだ。だから、やめられない」

「お前の置かれた立場のしんどさは、正直、想像するだけで嫌になるよ。何もかもまっさらな、初期レベルの状態に戻ったってのにステージ6からスタートだ」

「お前が吐いた泣き言も、全部わかる。それは、俺も何度も味わった傷だから」

『スバル』が味わった敗北を、苦痛を、『死』の嘆きを、スバルは全部知っている。

味わってきたからこそ、それが嘘ではないとわかっているからこそ、受け入れられない。受け入れたく、ない。

😖 見るんじゃなかった

――見るんじゃ、なかった

「わかるよ。お前も、俺がわかるってことがわかるはずだ。不毛な言い合いだよ、実際」

反論の言葉に力がない。当然だった。

だって、知っているから。それが嘘でも欺瞞でもなく、『ナツキ・スバル』の全部だと、知っている。

スバル

「お前の記憶なんか、見るんじゃなかった……」

「勝手に人の日記見といて、そりゃねぇだろ」

スバル

「お前の記憶なんか、見るんじゃなかった!」

スバル

「俺は、お前に希望を見てたかった。お前がすげぇ奴で、お前のすごさを支えてる『何か』がわかったら、俺も同じことができるんだって。なのに……」

🫥 凡人

――ただの、凡人だった

『ナツキ・スバル』が、ここにいるナツキ・スバルと何も変わらない、弱くてちっぽけな男なのだと、わかってしまった。

スバルの知らない時間で、スバルの知らない人たちと出会い、スバルの知らない物語を駆け抜けて、スバルの知らない景色を見ただけの、凡人なのだと。

スバル

「――お前を否定して、もっともらしいことを言ってやりたかった」

スバル

「だって、お前の気持ちはわかる。――お前は、俺なんだから」

📣 なんで超人じゃねぇ

――積み重ねただけの、願い

スバル

「ああ、わかってるよ! わかってたよ! お前が……お前が何度も立つのは、何度死んでも諦めないのは、そうできないだけだってことを!!」

スバル

「レムにあれだけ言われて、立ち上がれない奴がいるか!? オットーにぶん殴られて、自分が思い上がってるって気付いたよ! 父さんとお母さんが、あんな風に想ってくれてることぐらい、俺はずっと知ってた!」

スバル

「エミリアが好きだ。守ってあげたい。一緒にいたい。ベアトリスをようやく連れ出せた。あの子が苦しんでた時間の分だけ幸せにしてやりたい。幸せになる権利があるんだよ、あの子には!」

スバル

「――お前が諦められないのは、お前がただ、みんなが好きなだけだ! クソ野郎! なんで超人じゃねぇんだよ!! なんで、馬鹿なガキのままなんだよ!!」

スバル

「ラインハルトみたいに強くあれよ! ユリウスみたいに何でもできる奴になれ! それができなきゃフェリスみたいに役立てよ! お前が、どれか一つでも……」

スバル

「どれか一つでも……」

🫡 尊敬する

――お前は、すごい奴だよ

スバル

「……お前、ルイじゃ、ないのか」

「違う。俺はルイじゃない。残念ながら、とは言わないぜ」

スバル

「……『ナツキ・スバル』は弱くて、ちっぽけで、救いようのない大馬鹿だ」

「違いねぇ」

スバル

「でも」

スバル

「――お前は、すごい奴だよ、『ナツキ・スバル』」

――それは、二十回以上の『死に戻り』を見てきた、掛け値なしの本音だった。

🏠 一番身近な他人

――カッコいい、と思えた

スバル

「……一番身近な他人、か」

自分自身を、心の底から好きになれる人間は多くない。

だが、一番身近な他人として、ナツキ・スバルが『ナツキ・スバル』を見たとき、カッコいいと、思えたのだ。

スバル

「弱くて、どうしようもなくて、何にもできなくて、それなのに足掻いて、あいつらのことが大好きなお前を、尊敬する。だから――」

スバル

「――俺が、お前の『死者の書』を読んだ意味は、そこにあったんだ」

『ナツキ・スバル』がただの人間であることを知り、その行いを、道筋を、認める。

💔 愛せない

――あいつには、わからない

「……いきなり、恥ずかしい奴だな、お前」

「自分で言うのもなんだけど、俺のこれまでを見返して、よくそんなこと言えるな。言ってみたら、『ナツキ・スバルのゼロから始める異世界生活』ってヤツだぞ」

スバル

「ああ、主役の名前が自分と同じだと変な気分になるよな」

「ヒロインが母ちゃんの名前よりはマシだろ」

仮に、ルイ・アルネブが他者の人生を余すところなく喰い尽くせたとしても、あの顔は、声は、再現できないと思ったのだ。

彼女には幸福が、幸いが、幸せが理解できないから。

スバル

「誰も愛せないあいつには、誰かを好きだから『死に戻り』する気持ちはわからない」

🧩 唯一の接点

――何のために、ここにいる

スバル

「お前、どうしてここにいるんだ? 俺を待ってた、のか?」

「俺とお前がここで顔を合わせたのは、俺とお前の唯一の接点がここだからだ」

「塔内で、『記憶』のある俺と、『記憶』のないお前が交差するのは、この周回の『死者の書』だけだ。ここからあとでも、ここより前でも、俺とお前は出会えなかった」

スバル

「でも、だったら記憶の回廊にいたルイが、『死に戻り』を観測して、あんなにはしゃいでた理由がわからねぇ」

「あいつは記憶の回廊に居座ってるだけで、あそこの支配者ってわけじゃない。あそこの支配者は……たぶん、もっと性格悪い奴だろうと思う」

スバル

「――『賢者』フリューゲル」

正直、シャウラが不憫だ。可能なら、その師匠とやらから奪ってやりたい。

🎲 五分五分

――記憶の統合は、どうなる

スバル

「――なぁ、記憶の統合って、どうなると思う?」

「わからん。明確な、これって答えはない気がする」

スバル

「実際のところ、お前の方がここに詳しそうだけど、知ってると有利なルールとか俺より知ってるとかない?」

「俺の解体新書は読んできただろ。五分五分だよ」

スバル

「……うっかり、俺とお前がぶつかり合って対消滅、とかしたらどうする?」

「言うなよ。お前が不安に思うことは、大体俺も不安に思うんだから……」

スバル

「そりゃそうか。なら、どっちが勝っても恨みっこなし、でいい?」

「いや、めちゃくちゃ恨むけどね、俺は。で、俺が恨むってことは、お前も恨むってことだから」

📝 引き継ぎ

――知らない分を、渡していく

スバル

「まず、メィリィな。あいつ、ちょっと色々爆弾抱え込んでて大変だけど、話せばわかる奴だからちゃんと話してやってくれ。今、俺の中でメィリィ先輩が熱い」

スバル

「それと、塔の中にでかいサソリがうろついてるんだけど、それの正体はシャウラな。……それ、あいつがやりたくてやってるわけじゃないんだ。あいつも、助けてやってくれ」

スバル

「ルイと会ったときにレムに背中蹴っ飛ばされたよ。……うん、さすが、俺のレムだった」

「いや、俺のレムだから」

スバル

「いや、俺の」

スバル

「ラムが言ってたな。雪解けの季節になったら、見えなくなったものがちゃんと見えて、顔を出すはずだからって。……さすがだ」

🙏 ありがとう

――ありがとう、を並べる

スバル

「父さんと、お母さんに謝ってくれて、ありがとう」

スバル

「オットーと、ガーフィールを助けてくれて、ありがとう」

スバル

「ペトラもフレデリカも、アーラム村のみんなも、助けてくれて、ありがとう」

スバル

「ベアトリスを、連れ出してくれて、あの子と手を繋いでくれて、ありがとう」

スバル

「エミリアを、好きになってくれて、ありがとう。俺も、あの子が好きだ。大好きだ」

「……ああ、わかってる」

スバル

「――ナツキ・スバル。お前はすごい奴だって、俺はちゃんとわかってるから、お前ならきっと大丈夫だから」

「ああ。――俺たちなら、大丈夫だ」

🌻 夏休み

――夏休みが、終わった

スバル

「大丈夫、か」

スバル

「そうだよな。大丈夫だよな」

スバル

「ちゃんと、お前がすごいって、わかってるから」

スバル

「……ああ、でも、うん。これは、言わなきゃだ」

スバル

「――俺の夏休み、終わっちゃった、な」

――手と手を合わせる、ベタなやり取りが最後だった。

💧 涙

――繋がりは、した

おそらくは、イレギュラーな形で統合は行われた。

スバルの存在自体、起きた出来事自体、全てがイレギュラーだった。

何となく、それを拭う気になれなかったのは、その流れる涙がきっと、スバルが流したものではないように思えたから。

不意に、ナツキ・スバルの無自覚な、二十回の『死』がフラッシュバックした。

スバル

「お前も、十分以上にやべぇ橋渡ってるじゃねぇか……!」

確かに、スバルが言っていた通り。――お前のことなら、尊敬できる。

🍽️ 見えたか

――そこに、小柄な人影がいる

それは、変わらぬ白い空間。

イレギュラーな事態が作り出した、記憶の回廊に生じた空白地帯。

つい、数瞬前まで、スバルと手を合わせる、もう一人のスバルがいた場所。

――そこでへたり込む、小柄な人影を見下ろし、スバルは黒瞳を細めた。

スバル

「どうだ。お前が見たがってたものは見られたかよ。――ルイ・アルネブ」

第六章74『ナツキ・スバル』終了。