リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章69

『理不尽な剣の鉄槌』

四百年前に死んだはずの男が、なぜ自由に歩けるのか。その答えが出る。

😤 勘違い

――面白くない、勘違いだ

スバル

「レイドが、ロイ・アルファルド……? だから、お前は……何度も、執拗に俺たちを……?」

レイド

「――オイ、待てや、オメエ。そいつは面白くねえ勘違いじゃねえか」

レイド

「冗談じゃねえぞ、オメエ。オイ、オメエ。オメエよ。オメエ、オレが余所の間抜けが化けてやがるなンて、そンなつまらねえ結論信じてンじゃねえぞ、オメエ」

それは往生際悪く、自分の正体を隠そうといった卑怯な振る舞いではなく、もっとシンプルな、子どもじみた憤懣が原因に見える。

レイド

「オレはオレに決まってンだろうが。そこが曲がらねえから、オレはここでこうしてンだよ。違ぇか? オメエ、違うってのか?」

🧠 精神

⚜️肉体は、彼のものだ

スバル

「まさか、ユリウス……」

ユリウス

「ああ、おそらく、君の想像で正しいだろう」

ユリウス

「先ほどは、私の言い方が悪かった。訂正しよう。――目の前の彼、その肉体はロイ・アルファルドのものだ。だが、その精神は違う」

ユリウス

「ロイ・アルファルドは、レイド・アストレアの『記憶』を喰らい、その『記憶』に自らの精神の主導権を奪われた。故に彼は制限なく、二層へ下りて、ここへきている」

そう、そうだ。これで、レイド周りの不可解な状況の全てに筋が通るのだ。

ベアトリス

「『記憶』に引きずられて、本来の自分を見失ったってことかしら」

ラム

「もっと単純に、自我の強い方が勝ち残ったということでしょう。――自分本位という意味では、右に出るものがいなさそうだもの」

📛 名前ではなく

――喰われたのは、記憶だけ

それは、何故、喰われたレイドの存在が全員の記憶から失われていないのか、だ。

ユリウス

「原理としては、『暴食』が食したのはレイドの『名前』ではなく、あくまで『記憶』だったということだ。死者からは、『記憶』も『名前』も喰らうことはできない。それが、ロイ・アルファルドの主張だった」

スバル

「――っ! レイドが喰われるところに出くわしたのか!?」

ユリウス

「君の指示で二層へ上がったところで、ね。ちょうど、ロイ・アルファルドとレイドが交渉しているところだった」

ユリウス

「レイドが無抵抗だったからだ。――おそらく、『暴食』は何らかの理由で『試験』の対象外だったのだろう。だから、試験官の彼は相手に攻撃できなかった」

🎲 賭け

🩸腹を、食い破ってやった

レイド

「はン! オメエよ、そりゃ半分当たりで半分外れってとこだ」

レイド

「確かに、あいつらは『試験』の参加者ってわけじゃなかったが、別にやろうと思えばやれただろうぜ? ただ、そうしてたら今のオレはいねえだろ?」

ユリウス

「相手の自我を乗っ取れる。あなたは、そんな確信があったというのか?」

レイド

「いいとこ取りなンて真似だけはさせねえ。手前の全部を乗っけてくっから、賭けってのは面白えンだろうが。そこが、あのチビはわかっちゃいなかったけどな」

レイド

「オレを喰い尽くす、味わい尽くすってンなら、オレを収めるでけえ腹がいる。こいつにゃそれがなかった。だから、オレが腹を食い破ってやった。そンだけの話だ」

スバル

「生き返った……死者蘇生、ってことなのか?」

ユリウス

「結果的に、そうなったと言えるだろう。もっとも、死者の『記憶』に干渉できる状況と、その能力を持った存在が出会って初めて成立する、奇跡のような出来事だが」

❄️ 一つだけ

❄️邪魔するのは、やめてくれないの

エミリア

「――ええと、一つだけ聞いてもいい?」

エミリア

「あなたは……レイドは生き返ったのよね? それで、あの場所からも出られるようになって、それはすごーくおめでとうなんだけど」

レイド

「ああ、あンがとよ。これで、オメエともちゃンとした場所にしけ込めンぜ、激マブ。今夜の酌しろよ、オメエ」

エミリア

「――? お出かけに誘ってくれてるの? でも、私、『でーと』はパックとスバルとしかしたことないから、ごめんなさい」

エミリア

「自由になれたのに、私たちの邪魔をするのはやめてくれないの? もしかしたら知らないかもしれないけど、私たち、今、すごーく忙しくて……」

レイド

「言わせンなよ、激マブ。オレぁここで起きてっことはほとんど把握してンぜ。なンせ、この体のチビガキが妙に物知りでいやがる。――あぁ、気に入らねえな」

🚪 逃げ腰

――逃げ道を、塞がれる

スバル

「……ここだけの話、自由になったんなら、世界って大海原に覇を唱えにいったら? 問題を先送りにした感がすげぇけど、それなら」

レイド

「オメエ、逃げ腰かましてンじゃねえよ。ただでさえ、女に担がれてるって状況で死ンだ方がいいぐれえ情けねえンだ。恥の上塗りすンのか?」

結局、レイドは自由を得はしても、試験官としての役割を全うするつもりなのだ。

あるいは、一度、剣を交えると決めた相手を逃がさない。――そんな、ある種の戦士としての矜持かもしれない。

❄️ ごめんね

❄️仕方ない、と踏み込む

エミリア

「――そう。どいてくれないんなら、仕方ないわ」

エミリア

「ごめんね」

その一言が、相対するレイドではなく、肩の上のスバルへ向けられたものだと、気付いたのは一秒あとのことだった。

レイド

「――はン!」

半ば不意打ちに近い一撃を、レイドは着流しの懐から抜いた腕と、その手に握った箸で易々と受け止めていた。

レイド

「はン! さすが、話が早ぇぜ、激マブ! けど、オメエ、わかってンのか? オメエの『試験』は終わってンだぜ?」

エミリア

「それなら! みんなのことも合格にして!」

レイド

「おねだりに可愛げがねえよ。とりあえず服脱げ、オメエ」

👊 届いた

🌸背中を、取る

ラム

「――手を引く理由? そんなのは簡単でしょう」

レイド

「ああン?」

ラム

「あなたが、ここでラムたちに無様に負けるからよ」

――あのレイドの背中を取った。

インパクトの瞬間、肉と骨の軋む音がして、ラムの白い拳の貫通力がレイドの内臓へと浸透、踏みとどまるレイドのゾーリの足裏で通路が爆ぜた。

スバル

「届いた……っ!?」

何故ならそれは紛れもなく、スバルの知る限り、レイドに初めて通ったダメージだ。

❓ やったのか

――大の字に、倒れる

華奢な腕から放たれるとは思えない威力の拳が、それこそ嵐のようにレイドへと打ち込まれる。

スバル

「やった、のか……?」

スバル

「――っ! 今なら、あいつをふん縛って戦闘不能にできる! エミリアちゃん! 氷で拘束して……」

ベアトリス

「……スバル、いつ、調子が戻ったのよ?」

スバル

「え?」

呪いのように全身を蝕む苦痛、それが、掻き消えていて。

🩸 失血

――糸が、切れる

スバル

「ラム!!」

手をつくこともできず、まさしく糸の切れた人形のように倒れるラム。

その原因はラムの顔色と、べったりと彼の服を汚した血の赤だ。

スバル

「『コル・レオニス』の効果が、切れて……」

レイド

「――あー、ようやっと斬ってやれたかよ。オメエ、つまンねえことしてンじゃねえよ。女の後ろに隠れてるだけじゃねえか。稚魚の風上にも置けねえな、オメエ」

――レイドは、斬ったと言った。いったい、何を。

✂️ 見えないもの

――見えないものを、斬る

レイド

「つまンねえお遊びに決まってンだろ。大体、腹が破れてやがって、血が流れてやがンのに痛ぇも辛ぇも感じてねえなンて、馬鹿にしてンのか、オメエ」

レイド

「万全でやりてえってンなら受けて立ってやンよ。けど、こいつぁダメだ。オメエ、見えてねえのか。この女、斬られる前に死ぬとこだ」

ユリウス

「彼の言葉は正しい。ラム女史の傷は只事ではない。今も、瀕死の状態だ」

ユリウス

「出血が止まらないのは、おそらく血の凝固を妨げる薬が使われている。それ以外は、彼女の無茶をしてはならない体調の反動だろう」

失敗、した。――スバルの『コル・レオニス』は、独りよがりの失敗を重ねた。

傷の痛みと辛苦をスバルが引き取ってしまえば、傷の深刻さを意識しようがない。

ラム自身が無事のように振る舞えば、エミリアたちも気付きようがなかった。

🪨 床へ逃がす

――衝撃を、床へ逃がしていた

レイド

「見えねえもンを斬るのは得意なンでな。まぁ、勘でやンのは骨だ。それで、ちっとばかし時間がかかっちまった。盛大に殴ってくれやがって」

ユリウス

「ラム女史の攻撃を、全て足裏から床へ逃がしていたのか」

レイド

「オレの馴染みの女、トリーシャが得意だった方法でな」

通路に生まれた多数の傷は、レイドがラムの攻撃を通路へ逃がしていた証拠だった。

如何なる方法でか、打撃の衝撃を余所へ逃がす。――体術の極致、そう言えた。

エミリア

「でも、上で私が強くぶったときは痛がってたのに……!」

レイド

「あンときとは条件が違うだろうが、激マブ。オレは今、『試験』よりケンカを楽しみにきてンだよ。ケンカなら、『試験』より本気でやンだろうが。違ぇか、オメエ」

❤️ 心臓

🩸剣以外なら、逃がすぜ

レイド

「つーわけだ。オレの話はわかンだろ、オメエ。そう、オメエだ。オメエだよ」

ユリウス

「――剣にて、決着をつける。そういう意図だと?」

レイド

「おお、そうだ。言っとくが、剣以外なら何でもオレはあちこち逃がすぜ? 殴られようが魔法ぶち込まれようが関係ねえ。オレに勝ちたきゃ……」

ユリウス

「何故、私に拘る?」

レイド

「あぁ? オレがオメエに拘る? ざけンな。口先だけの、顔がいい野郎なンざ、オレが一番嫌いな人種じゃねえか」

レイド

「――オレに拘る理由があンのはオメエの方だろうが。オレがここで引いて、本気でそれでいいと思ってンのか?」

🦂 洗礼

――挟まれる

レイド

「――ちっ、面倒な奴がきちまった」

エミリア

「スバル!」

白光がスバルを蒸発させる寸前、割って入ったのはエミリアの氷剣だ。

スバル

「――シャウラ」

ただ、その大サソリの周りに、置き去りにされて戦っていたはずのライの姿がない。

ベアトリス

「違うかしら、違うのよ! ――くるかしら」

スバル

「くる?」

レイド

「だから、言ったじゃねえか。面倒な奴がきちまったってな」

🖤 呑まれる

――全員が、消える

誇張抜きに、体の浮かび上がる衝撃を受けてスバルの天地がひっくり返る。

ベアトリス

「――ムラク!」

それぞれが、それぞれにできる最善の行動を――。

その、最善の行動を嘲笑うかのように、膨大な量の漆黒の影が塔を丸ごと呑み込んだ。

大サソリに抗い、魔法と体術を駆使して善戦していたエミリアも。

騎士剣を振るい、己を奮い立たせて伝説へ挑んでいたユリウスも。

スバルを守らんと、小さな体で魔法を行使してくれたベアトリスも。

それこそ瞬きほどの刹那で、伸び上がってきた影に絡め取られ、見えなくなる。

スバル

「――失敗した」

『――愛してる』

⚔️ 一閃

――影が、斬り払われる

レイド

「――オメエ、何眠てえこと考えてンだ、オイ」

スバル

「――嘘だろ」

レイド

「目ン玉かっぽじってよく見ろ。何が嘘だ、オメエ。オメエ、目ぇ開けてンのかよ。開けてよく見ろ、オメエ。オレの何が嘘だ」

所有者のなくなった剣が、『剣聖』の手の中で所有者以上の力量で扱われる。

スバルの周囲にあるのはどこまでも黒い空、どこまでも黒い底、黒い世界。

意識のない、昏倒したラムの熱い体だけが、その存在を主張していた。

🤜 ぶっ倒す

――最優の騎士が、倒す

こんな状況であろうと、得られるものがあるはずだ。

スバル

「お前も、絶対にぶっ倒すぜ。――俺の知ってる、『最優』の騎士が」

レイド

「そこはオメエ、最後までちゃンとオメエでかっこつけろよ、稚魚」

かつて、四百年前にあったと言われている、『魔女』と『剣聖』の伝説の一幕を。

スバル

「せめて」

一秒でも長く、生きていてほしい。

そんな願いを込めて、スバルは腕の中の、ラムの体を掻き抱いた。

🕯️ 最期

――いつも、誰かが傍にいる

――失われるたび、やり直すたび、求められるたび、流転して。

何度も、繰り返し繰り返し、一度しかないはずの最期を重ね続けて。

いつも、最期の瞬間、誰かが傍にいてくれることは幸せなことなのかもしれないと。

どうしていつも、最期の瞬間に寄り添ってくれるような誰かを、ナツキ・スバルは救い出すことができないのかと。

🌟 何でも聞く

――必要な、儀式をする

シャウラ

「お師様? 大丈夫ッスか?」

その問いかけを放つ彼女の表情に、瞳に、焦りや苛立ちのような感情は感じられない。

シャウラ

「お師様、聞いてるッスか? あーしとお師様以外の人たちも、面倒なことに巻き込まれてるっぽいッスけど……あーし、お師様のためにできることあるッスか?」

スバル

「ああ、そうだな。……俺のためにできること、か」

シャウラ

「はいッス。あーし、お師様のお願いなら、たとえ火の中水の中、大瀑布にだって元気よくフライアウェーイ! ッス」

スバル

「シャウラ、お前は俺の言うことなら何でも聞くのか?」

シャウラ

「もちのろんッス! お師様のお願いなら何でも聞くッス!」

スバル

「――シャウラ」

スバル

「――お前、俺が死ねって言ったら、死んでくれるのか?」

第六章69『理不尽な剣の鉄槌』終了。