リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章67

『小さな王』

戦えない自分に、戦うための力が芽吹く。その名前の意味を、スバルは知っていた。

🎭 猿真似と再現

――姿形が、変わる

ラム

「――姿形の変わる大罪司教がいるとは聞いたけど、どうやらその類のようね。それにしては選んだ姿がどうかと思うけど、そんな見た目に翻弄されると思って?」

ルイ

「姿形が変わるって……あァ、あのぺちゃくちゃやかましい女のこと? あれと一緒にされるのはあたしたちも傷付いちゃうなァ。それに、あれと私たちの『日食』とは原理が全然違うから。あっちは猿真似で、こっちは再現だからサ」

ラム

「有名人……つまり、食べた相手の姿形を借りるということ? なるほど、悪趣味を極めたあなたたちらしい最低の手法ね。反吐が出るわ」

❄️ よけた

❄️当たるまで、攻撃する

エミリア

「あ、よけた!」

ルイ

「ふふふっ、容赦ないわねえ、エミリア様! お兄ちゃんはもろに喰らったけど、そんな不意打ち、あたしたちには当たらないわよ?」

エミリア

「当たらないなら、当たるまで攻撃するだけよ! 別に、不意打ちがしたいわけじゃなくて、あなたをやっつけたいだけなんだから!」

鋭く身を回し、エミリアの体が軽々と投げ飛ばされる。

直撃されれば、エミリアの世界一可愛い顔が砕かれる。

🌸 拳王の掌

ラムを、無視するな

ラム

「いい加減、ラムを無視して戦いを続けるのをやめなさい」

エミリア

「ラム!」

ルイ

「――拳王の掌!」

突き上がる掌が風の刃を真下から受け、直後に風が衝撃波に呑まれて霧散したのだ。

ルイ

「今のは拳王の掌……この体と記憶の持ち主、『拳王』ネイジ・ロックハートの決め手。何でも弾く最強の掌で、剣奴孤島では敵なしの実力者だったってわけ」

ラム

「……つらつらと、自分の強みを明かすあたりが手馴れていないわね。自分を追い込む不利に働くだけよ。ラムはその手の考えに乗じることを躊躇わないわ」

ルイ

「全然、そういうので構わないよ、姉様! ほら、敗戦の記憶って振り返ると甘美だったりするでしょ?」

ラム

「さあ。ラムは常に勝利しか知らないからわからないわ」

🌀 跳躍者

――姿が、消える

それは素早く動いたなんて次元のものではなく、本当にその場から消えたと呼ぶに相応しい現象だ。

エミリア

「――ラム、危ない!」

ルイ

「いいね、いいよ、いいじゃない。次はよけられるかしら?」

ルイ

「ははは! やる、やる、やるね! この『跳躍者』ドルケルの暗躍、どうやって見抜いてるの? すごい不思議だわ!」

エミリア

「そんなの決まってるわ! 山勘よ!」

ラム

「もちろんそれだけじゃなく、ラムの援護もあるわよ。――エミリア様!」

エミリア

「ええ!」

🐻 肉食獣

――氷柱が、砕ける

無防備に直撃されれば、背中から胸を貫通しただろう恐るべきフィニッシュアプローチだ。

しかし、それは残念ながら効果を発揮しない。

エミリア

「え!?」

ルイ

「『肉食獣』ベリ・ハイネルガの皮膚は聖剣も通さない、ってね」

エミリア

「う! あ! う! ちょっと、このままじゃ……!」

ラム

「エミリア様、ラムを手放してください」

エミリア

「ダメよ! 私、ラムを見捨てたりなんて……むぐ」

ラム

「ではなく。そろそろ、ラムにも反撃させなさいという意味です」

💥 肘鉄

🌸捕まえられると、思わないこと

ルイ

「ぶふぅっ! ひしゃげろ!」

ラム

「百歩譲って、ひしゃげてくださいませ、ラム様よ」

ラム

「この程度で、ラムを捕まえられると思わないことね」

細く白い肘が、しかしその華奢さからは想像のできない鋭さで鼻面を抉り、衝撃に容赦なく『肉食獣』がのけ反る。

ラム

「わけのわからないことが続いて、いい加減に腹が立ったわ。とっとと、ラムの手で八つ裂きになりなさい、卑劣漢」

スバル

「つっよ……!」

⏱️ 時間制限

――短い時間なら、追随を許さない

スバル

「ラムがここまでやれるってのは嬉しい誤算……」

ベアトリス

「って、わけでもないのよ。ラムにだけ頼りっきりってわけにはいかないかしら」

ラムは額と首筋に汗を浮かべ、見るからに辛い様子で息を切らしている。

ベアトリス

「短い時間であれば、ラムの戦うセンスは他の追随を許さないかしら。でも……」

スバル

「時間制限付き……!? しまった、ラム――」

❄️ 一緒に

❄️私が、一緒に戦ってる

スバル

「ラム――!」

ラム

「グダグダと、男のくせにうるさいわね」

ラム

「自分の弱点ぐらい、ラムが一番わかっているわ。だから――」

エミリア

「ラムと一緒に、私が戦ってるんだから!」

数え切れないほど無数の氷の武器を宙に浮かべて、それを一挙に敵へ向けて発射するという物量作戦だ。

🫱 借り物

――道のりを、せせら笑う

鍛えた力も、身につけた武も、『暴食』の力は全てを横から奪い取り、我が物顔で利用して、その道のりをせせら笑う。

あるいはそれは、その記憶の本来の持ち主すら辿り着けなかった領域へと、より高みへと辿り着くことさえあるのではないか。

ルイ

「いいね、最高! なんていうか、記憶のカタログスペックを完全に再現したか、それ以上を発揮したときにこそ、この体で生きてるって甲斐を感じられるわよねッ! 借り物の魂を、持ち主より上手く使ってやったぜって感覚? 生きててよかったッ!」

ラム

「――悪趣味ここに極まる発想ね」

🪨 石積み

――河原の、石積み

ルイ

「でもサ、人と違うあたしたちが、人と違う何かに喜びを見出すのって至って自然な流れだと思わない? 思わないかな。思うでしょ。思うよねッ?」

ラム

「さあ? そうなの、エミリア様?」

エミリア

「いいえ、そんなことない! たとえあれこれ人と違っても、同じことを思って喜んだり悲しんだりはできるはずだわ! 例えば私、ずっと一人だったけど、河原で石積みは楽しんでたもの」

ラム

「……それはそれで特殊な事例の気がしますが」

ルイ

「なるほどねェ。確かに確かに、私たちの中にも河原で石積みするのをやってた記憶はあるんだな、これが」

エミリア

「ほら!」

ルイ

「でも、それは楽しいからやってたわけじゃなくってサ。他にできることがないからやってただけなんだよ。時間を潰す手段が他になかったってだけなのサ」

エミリア

「え、そうなの……?」

ラム

「敵の術中にはまらないでください。相手は大罪司教……こちらの思惑を崩すためなら、どんな言葉でも弄します。騙されないで」

🌒 日食

――太陽を、月が覆い隠す

エミリアとラムの連携、主にラムの判断力の賜物たる抜群の連携。

これがスバルが驚かされた一つの要因だ。

しかし、驚くべきことに、ルイの記憶を我が物とする習熟度がそれ以上に速いのだ。

日食とは、太陽が月の影に隠れて見えなくなる現象のことだ。

つまり、『日食』とは自らの肉体を『記憶』の他者へと変化させ、その力を十全に我が物として用いることと推測できる。

コピー系能力者の敗北するパターンのお約束といえば、能力の扱い方を十全に把握し切れず、本物に劣ることが敗因となるケースが多い。

だが、『暴食』のコピー能力は、その弱点を『相手の肉体と記憶』を利用することで完全に補完している。

🕯️ 光

――みんなの位置が、わかる

スバル

「――ユリウスが、苦戦してやがるな。これ、相手はやっぱりレイドか?」

ベアトリス

「――スバル? いったい、何を言っているのよ。どこを見て、何を?」

スバル

「なんだ、これ? みんなが、どこで何してるのかがわかる。見える?」

それはこの塔の中、各所にいる仲間たちの反応をスバルへと知らしめるものだ。

まるで生まれながらに持った三本目の腕のように自然と受け入れていた。

今、自分に三本目の腕が唐突に生えたとしても、それが役に立つと踏んだのであれば、それへの嫌悪感など振り払い、自らのものとして堂々と受け入れるべきだ。

スバル

「とっとと、大人しく、俺のモノになれ――コル・レオニス」

🤕 倦怠

――全身が、重くなる

スバル

「ぬ、ぐ……ッ!?」

ベアトリス

「スバル!」

ガンガンと、うるさいぐらいの頭痛と耳鳴りが唐突にスバルの体を苛んだ。

それにさらに続くのは全身の恐ろしい倦怠感と、慢性的に訪れる骨の軋むような感覚。

この状態こそが、確かに『コル・レオニス』が力を発揮している状態のはずなのだ。

そう、スバル自身は何もできなくなる。その代わりに――。

🌸 体が軽い

――不調が、消えている

ルイ

「――あァ?」

ラム

「はぁッ!!」

容赦なく関節に膝を入れ、ラムがルイの右腕をへし折った。

ラム

「遅い!」

ラム

「……体が軽い?」

スバル

「これ、まさか……ラムの不調を、引き受けてる?」

👑 小さな王

――王とは、何を背負う者か

これは本来、しし座の一等星であるレグルスという星を意味するラテン語で、『獅子の心臓』を意味している。

だが、レグルスにもラテン語で意味があり、それは『小さな王』を意味するものだ。

獅子の、小さな王。――群れの、王。

スバル

「――みんなの想いを背負って立つ、それが王様だ。だから」

ナツキ・スバルの有する『コル・レオニス』は、王として仲間の負担を軽くする。

引き受けるべき群れの長として、仲間たちが十全に戦えるように。

🩸 準備オッケー

――その方が、カッコいいから

スバル

「血を吐きながら、準備オッケーだ」

ベアトリス

「スバル?」

スバル

「悪ぃ、心配かけた。ちょっと頭が痛くて、気持ち悪くて、足下ぐらついて、節々が痛んで、こっそりと攻撃喰らった手足が痛んだりするが、俺は元気だ」

ベアトリス

「こっそり攻撃された!? いつの間に、どこをかしら!?」

スバル

「たぶん、俺が目に追えない攻防の間のどっか」

そして、その後ろ傷をこっそりと引き取ることを、スバルは説明しない。

何故なら、その方がカッコいいから。

💜 ミーニャ

――もう一つ、近付いてくる

スバル

「――これ、誰だ?」

それらと離れた位置、自分たちと対極の方角からこちらへやってくる光の存在に気付いた。

スバル

「ベアトリス!」

ベアトリス

「――っ! ミーニャ!!」

白光が通路を突き抜け、ガラスの割れる音が響き渡って白い廊下に光が散った。

🦂 重なる

――光が、重なっている

闇に赤く揺らめく光点が見える。

眼前、そうして蠢く赤い光点と、スバルの胸に感じる柔らかいほのかな光――仲間の位置を知らせるそれが、重なり合っている。

それが示す意味は、一つだけだ。

スバル

「どういう、ことなんだ。お前……」

スバル

(ノ゚Д゚)ノ

「――お前なのか、シャウラ!!」

その声を聞いて、喋る口を持たない巨大なサソリは大きな鋏を持ち上げると、それを肯定するかの如く、恐るべき切れ味のそれを憎いほど高くかき鳴らした。

第六章67『小さな王』終了。