第六章66
『終焉へのセカンドチャンス』
同じ場面に戻ったスバルは、今度は最初から手を打ちにいく。
⚰️ 死なせた
――危険に晒したのではない
『死に戻り』したということは、命の危機に陥る事態を回避できなかったということ。
命を危険に晒したのではない。スバルは、エミリアたちを死なせたのだ。
ああしたことになるとわかっていて、なおも自分は見過ごした。
まず一つ目が、塔へと一斉に押し寄せる魔獣の大群。
二つ目が、スバルの『記憶』や『名前』を目当てにやってくる『暴食』の大罪司教。
三つ目がいつしか塔内に侵入し、死角に潜んで襲いくる巨大サソリ。
四つ目が塔内を自由に闊歩し、敵味方を無視して暴れ回るレイド・アストレア。
最後の五つ目が、全てを呑み込み、台無しにしてしまう黒い影。
これらの事態は同時に進行し、どれか一つでも見逃せば容易に計画を崩壊させる。
⚖️ 手数
――手数が、足りなかった
魔獣の大群を押さえることができても、その後の障害にスバルたちは無力だった。
結果、エミリアとユリウスの二人は『暴食』とレイドとの二正面作戦を強いられ、貴重な時間を削られた挙句、巨大サソリの乱入と、影のタイムアップ宣言を直撃された。
つまり、あのバランスになってはならない。手数が足らなかった。
ライ・バテンカイトスとは遭遇した。だが、あと一人の姿が見えない。
――マズい。マズいマズいマズい。とにかくマズい。
🟣 落ち着くかしら
🟣一人で、抱え込むな
「――落ち着くかしら!」
「いひゃいっ!」
「スバル、本の中で何があったか話すのよ。一人で抱え込んでいても仕方ないかしら。ちゃんと話して、一緒に考える。……それが、ベティーたちの強みなのよ」
「――立ちなさい、だ」
「え?」
「いや、背中蹴られて諦めから追い出されたって話。クソ、情けねぇ。どれだけ進歩ってもんがねぇんだ、俺は」
📣 宣戦布告
――手短に、いく
「手短にいく。『死者の書』でレイドの記憶を見るのは失敗した。邪魔が入ったんだ。『死者の書』はオド・ラグナって存在の足下に繋がってて、そこで面倒な奴と遭遇した」
「――『暴食』の大罪司教、ルイ・アルネブが俺たちに宣戦布告してきやがった」
🧣 エキドナ
「それにしても、こんな東の果てまできてまた大罪司教か。つくづく、ナツキくんと彼らとの間には切れない因縁があると見えるね」
「少なくとも、この塔にベティーたちがくることになった原因があいつらかしら。あいつらがしでかしたことの解決法を求めて、砂の中を長旅してきたのよ」
⚜️ 先回り
――先に、言い当てる
「エキドナ! それに、スバルも一緒か! 無事か、スバル。『死者の書』から肝心の情報は得られたのか?」
「大体の事情は察してるって話だよ。――今、塔の周りに魔獣がきてるな?」
それを原因として全員が動き出した事実、その真実を言い当てられ、ユリウスが軽く瞠目する。
「その通りだ。現在、このプレアデス監視塔の周囲は多数の魔獣に囲まれている。塔の外縁ではシャウラ女史が奮戦し、魔獣の侵入を食い止めているが……」
「この地響きの正体が悪い動物ちゃんたちの群れってことはあ、いくら裸のお姉さんが強くたって、そのうちに抑え切れなくなっちゃうでしょうねえ」
🙏 頼む
――素直に、頼む
「故に、君の力を借りたい。どうだろうか、メィリィ」
「俺からも頼む。メィリィ、お前じゃなきゃどうにもならない。さっそくで悪ぃが、お前も俺たち全員で一歩進むために協力してくれ」
「……ふうん? お兄さんったら、あれだけ偉そうなこと言ってたくせになっさけないんだからあ。でも、素直に言えたからこの場は任されてあげる。感謝してよねえ」
「ああ、大感謝だ! 愛してる!」
「安っぽおい……」
「いや、俺たちはそれと別行動だ。メィリィ、バルコニーの場所はわかるか? そこでシャウラと協力して、魔獣を何とか食い止めてくれ」
「通路の突き当たり、でしょお? ホント、人使いが荒いんだからあ」
🏃 急ぐ
――急がないと、危ない
「そうだな。それは道すがら説明してやる。ただ、今は一緒にきてくれ。――急がないと、エミリアちゃんたちが危ねぇ」
🧣 エキドナ
「ナツキくんの話では、『死者の書』とはオド・ラグナの揺り籠……死者の記憶、人生の軌跡を保管しておくための装置の一部らしい。そして、『暴食』の大罪司教は他者の『記憶』や『名前』を喰らう。つまり……」
「彼らの権能は、そのオド・ラグナの力の一端を利用していると? ……いや、本の中で『暴食』と会ったと言ったな。だとしたらスバル、君の記憶喪失の原因は」
「ああ、塔の罠とか仕掛けとかって話じゃない。純然たるFOE……ランダムエンカウントがもたらした事故ってわけだ。お前とお揃いの被害者枠だよ」
🕰️ 半日
――半日、与えてしまった
「半日以上、相手に準備する時間を与えてしまったことになるかしら。スバルが覚えててくれたら話は……あ! その、スバルを責めてるわけじゃないのよ!」
「わかってる。けど、責められて当然だ。昨日の俺がしくじってなきゃよかったし、今日の俺がもっと賢かったらよかった」
だが、それを言っていても今は仕方がない。持てる手札で勝負する、それが肝要だ。
必要なのは覚悟と決断力、そして自分――はともかく、仲間を信じる意思。
⚜️ 配置
――お前には、別の仕事がある
「ユリウス! お前にも仕事がある! 『暴食』の方はこっちで何とかする。お前にとっても因縁の相手だ。ぶっ飛ばしたい気持ちは重々承知だが……」
「だが、なんだ? この場で、『暴食』以上に優先する相手など……」
「――レイドが降りてくる。あいつの横槍が入っちまったら全部がおじゃんだ。それを、止める役割がいる」
「……悪いけど、ベティーにはそうは思えんのよ。あれは、あれがそのときに一番やりたいことを優先する性質かしら。どんな状況でも」
🧣 エキドナ
「ボクも同意見だよ。とはいえ、彼が塔内を自由に出歩くというのは信じ難い。信じたくないと言った方が正確だが……ナツキくん、その情報も?」
「――。そうだ。『暴食』から聞いた」
一瞬の躊躇いのあと、スバルはエキドナの質問に堂々と嘘をついて頷いた。
🤝 引き受ける
⚜️度し難い、殺し文句だ
「信を置くべき……ああ、わかっているよ、エキドナ。正直、私自身の仇敵でもある『暴食』の大罪司教から遠ざかることを口惜しいとも思う。だが」
「――レイド・アストレアは、お前にしか任せられない。さっきも言った通りだ」
「……私が勝たねば計算が狂う、だったね。まったく、度し難い殺し文句だ」
「約束しよう。レイドのことは引き受ける。――だが、仮に彼が二層より動かないとなればそちらへ合流する。異存は?」
「ねぇよ。レイドが出歩かなくて、お前がフリーになるならそれ以上のことはない。判断は適時、お前に任せるが、レイドに勝つのもお前の役目だぞ」
「心得た、としておこう。エキドナ、ベアトリス様、あとを任せます」
「俺に任せろよ……」
🤐 信用
🧣深く、尋ねないよ
🧣 エキドナ
「――君が確信を得た方法については深く尋ねないよ」
🧣 エキドナ
「重要なのは、ボクたちが君を信用していることだ。ボクや、彼の気持ちを裏切らないでくれると嬉しいな」
「何のことかわからねぇけど、恩に着るよ」
――この熱には覚えがある。
その瞼の裏側に浮かび上がる、淡く儚げに揺れる光の粒。
🐉 手綱
――名前が、まだ出てくる
「――バルス! 起きたのね!」
「起きるのが遅い! レムのことを任せるわ! 傷付けたり、変な触り方をしたら許さないから死ぬ気で守りなさい。ラムは――」
「待て待て待て、色々早い! 話はわかるが、落ち着け! お前は……」
「『暴食』の大罪司教がきてる! エミリア様が応戦しているけど、分が悪いわ。すぐにでもラムが戻らないと、手遅れになる!」
慌てて戦場へ戻ろうとするラムを憂慮し、彼女の口からエミリアの名前が出たことに安堵して、憎きバテンカイトスの存在を確信して怒りが芽生える。
🫱 頼んだ
――この子を、頼む
「エキドナ! レムとパトラッシュを安全圏に頼む! バルコニーと二層はダメだ! 緑部屋も今は近付けない。たぶん、『タイゲタ』が一番マシのはず!」
🧣 エキドナ
「ナツキくん、君は!?」
「俺とベアトリスは、ラムと一緒に大罪司教だ!」
「さっき、お前は言ったな。信用を裏切らないでくれって。俺も同じことをお前に頼む。レムを頼んだ。この子は、『ナツキ・スバル』にとって欠かせない子だ」
🧣 エキドナ
「――妙な言い方をする。君だって、ナツキ・スバルのはずだろうに」
「……お前にはちょっとだけ、俺の気持ちがわかるかもって信用もあるんだぜ」
🧣 エキドナ
「ナツキくん、まさか君は――」
「――頼んだぜ」
🔵 説教
――本の中で、説教された
「何故、きたの、バルス。レムは……」
「レムは、自分に構うよりやることをやれってよ! 本の中で説教された!」
「――っ! レムに? どういうことなの?」
「レムは戦って、取り戻してこいとよ。だから、俺も一緒にいくぜ!」
「もちろん、ベティーもいるから忘れるんじゃないのよ」
「――。今は、それでいいわ。あとで百倍、問い詰めてやるから」
「百倍って怖いな!?」
🪄 杖
――名前を、呼べている
「――アイスブランドアーツ!」
「エミリア様!」
それがエミリアの名前だったことで、間に合ったのだとスバルは確信する。
「どうして戻ったの!? それに、スバルとベアトリスまで、無事でよかった……けど! でも今すごーく危ないの! 下がって! 離れて!」
「レムは安全なところへ避難させました。今から、ラムも助太刀します」
「でも、ラム、あなたは……」
「退けと、そう言われて退けるとでも?」
🍴 姉様
――退屈だ、と言う
「はっはァ! なになに、戻ってきちゃったんだ、姉様! やだ、男前! なんでなんで姉様ってばそうカッコいいの? ホント、姉様は素敵ですッ!」
「――煩わしい。殺してやるわ、大罪司教」
「大切な相手の『名前』と『記憶』を奪うなんて、復讐モノって考えたら最上の仇って感じだろ? なのに、僕たちが喰らった相手ってのは、そのことを覚えてない場合が大半ってわけ」
「――それってさァ、最高に退屈じゃない?」
「本来、得られるはずだった芳醇な憎しみとか、どろどろと濁り切った怒りとか、そういう新鮮な臭みのある感情が根こそぎ否定されるわけ。……そっちの、お兄さんが現れるまでは」
🍴 英雄
――俺たちの、英雄だ
「お兄さんさァ、何故か俺たちが『名前』を食べてもその人のこと覚えてるでしょ? 大事なのはその結果。お兄さんは、僕たちの救世主だよ」
「いいや、あえてこう言い切ろうか! お兄さんは俺たちの英雄だッ! いじらしくて、一生懸命で、傍にいてあげないと不安で、意地悪で、思えば思うほど胸がチクチクと痛くて痛くて、しかもその感情をわかってくれる英雄……!」
「薄気味悪ぃ発言はやめろ! 何のつもりでお前は……」
ただ、ここまでのバテンカイトスの発言を鑑みれば、自ずと見えてくる。
それは、奴が取り込んだレムの想いを――。
🔨 えいやぁ
❄️後ろから、殴る
「どうだい! 何ならもう一回、あの感動を繰り返そうか! ここから始めようよ、お兄さんッ! 一から、いいや……ぜ」
「――えいやぁ!!」
まるで漫画か何かのような容赦のない一撃に、バテンカイトスの言葉は途切れ、一瞬、完全に白目を剥いて正面に倒れ込む。
「……え、勝った?」
「やったわ!」
「……なんて呆気ない幕切れなのよ」
「……まったくだわ。今、あれを八つ裂きにしてやろうとしていたラムの気持ちはどこへ持っていけばいいの。エミリア様!」
「え、なに? だ、ダメだった?」
「――。いいえ、お見事でした。ええ、本当に、お見事でした」
🌒 日食
――骨から、作り変わる
「いや、確かに言いたいことは山ほどあるけど、一番最初に出てくる言葉はエミリアちゃん、グッジョブだ! これで、『暴食』をふん縛って……」
「――残念だけど、そうはいかないわよ、お兄さん」
歪な音を立てて骨格から変化していくバテンカイトスの体――小柄な少年の肉体が、筋骨隆々の大男のモノへ変貌する。
「はあい、お兄さん、驚いた? これが『日食』……まァ、あたしたちの切り札の一枚って感じ? さっきと違って、今度は力ずくでモノにしてあげる」
「ずいぶんと、薄気味悪いこと言いやがるな、オカマ野郎。お前は……」
「――魔女教大罪司教『暴食』担当、ルイ・アルネブ」
「あんまり長くはいられないの。お兄ちゃんが寝てる間のつまみ食いで、全部全部、片付けて回らなきゃなんないから、サ」
第六章66『終焉へのセカンドチャンス』終了。
ベアトリス
スバル
ユリウス
メィリィ
ラム
エミリア
ライ
ルイ