リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章64

『二番目の障害』

誰かが忘れられている。その名前を、スバルだけが覚えている。

❔ 誰のこと

――エミリアって、誰のこと

――銀髪の、知らない人。

しかし、そこに『知らない』と一言余計な言葉がつくだけで、意味が大きく変わる。

スバル

「お前らの会話に、エミリアの名前が抜けてる。それは、どうした?」

ラム

「――エミリアって、誰のこと?」

見れば、ユリウスとベアトリス、それにエキドナまでもが瞳に無理解を宿してスバルを見つめている。

――そのことに、衝撃が隠せない。

😱 一瞬で

――ほんの、一分前のことだ

そのレベルの直前まで、スバルはユリウスたちと『エミリア』の話をしていた。

ラム

「エミリア……それが、あの銀髪の女の名前?」

スバル

「――。そうだ。銀髪の女の子がいたんなら、それがエミリアって名前の子で、俺たちの仲間だ。だから、ラムに逃げろって言って、自分は残った。今も戦ってる」

ユリウス

「そんなことが起こり得る、のだろうね。他ならぬ、私自身が味わった思いだ」

エミリアを、つい先ほどまで覚えていた相手を、これまで共に苦難を乗り越えてきた仲間を、一瞬にして忘れ去る。

――これほど、おぞましいことが他にあるか。

🗄️ 引き出し

――空白が、痛みを生む

スバル

「どうした? 大丈夫か?」

ラム

「……少し、頭が痛むだけよ。その、知らない誰かのことを考えていたら」

ベアトリス

「それ以上、思い出させるのはやめた方がいいのよ。欠けすぎているかしら」

ベアトリス

「『暴食』の権能の杜撰な部分が出ているのよ。――その、記憶から奪われた相手がいないと成立しない部分が多すぎて、齟齬が出てしまうかしら」

記憶とは、引き出しの中に仕舞った思い出の物品のようなものだ。

今ここでエミリアの名前を自分の中に探れば、開けても開けても見つからない引き出しを無数に開ける作業を重ねるに等しい行いなのだ。

🫱 任せる

――足を、止めてはならない

🧣 エキドナ

「彼女のことはボクが見ていよう」

🧣 エキドナ

「今、ここで議論している暇はない。『暴食』がきていて、ボクたちの仲間の一人が、名前を奪われながらも戦っているならなおさらだ。足は止めてはならない」

ユリウス

「エキドナ、ラム女史と妹御を頼む。パトラッシュと共に、戦いから離れていてくれ」

🧣 エキドナ

「ああ、任せてくれ。――ユリウス、正念場だが、熱くならないように」

ユリウス

「わかっている。闘志は冷え切っているとも。この剣のように」

ラム

「口惜しい、けど、今はラムがいっても足手まといになるだけよ。置いていきなさい。ただし、『暴食』の命は残しておきなさい。それ以外の部位はバルスに譲るわ」

スバル

「待ってろ、『暴食』……! これ以上、てめぇに食わせてやるのはうんざりだ!」

🌀 適用外

――何故、俺だけ残っているのか

エミリアが名前を奪われ、ベアトリスやラムたちの記憶から消えた今も、スバルの頭の中にはエミリアの名前が、姿が、声が、はっきりと残り続けている。

スバル

「俺が、異世界からきたから……?」

だとしたら、『ナツキ・スバル』の記憶とは、仮に死したとしたらこの世界の『記憶の回廊』に刻まれることはあるのだろうか。

スバル

「――それができないから、俺は『死に戻り』してるってのか?」

早い話、この世界で何十年も過ごして、老衰で死ぬことすらできなくなる。

❄️ 氷の双剣

❄️通路が、凍っている

エミリア

「――アイスブランドアーツ!」

駆け込んだ先――緑部屋へと通じる通路が白く凍え、凄まじい冷気の風に迎えられたのを肌に感じた。

エミリア

「――えりゃ! そや! えいえい! やぁ!」

どこか気抜けするような掛け声だが、氷の剣が大気を走る速度には可愛げがない。

斬撃は正しく、相対する敵へと迸り、一撃を以て斬り伏せんとしていた。

🍴 喰いでがある

――同じ目を、した存在

暴食

「あっははァ! やるね、やるなァ、やるじゃない、やってくれるよ、やってくれたし、やれるからこそ、やってくれるからこそ! 僕たちも喰いでがあるってもんさァ!」

どこまでも他者を嘲り、食い物にすることを躊躇わない、『人生』への絶望と渇望が垣間見える眼光だ。

あんな目をした存在が、ルイ・アルネブ以外にもいる事実が、耐え難い。

スバル

「――『暴食』の大罪司教!」

暴食

「あっはァ! お客さん! じゃないね! メインディッシュだ、お兄さん! 俺たちも会えるのを待ち望んでたよ。妹が世話になったみたいだねえ!」

🤞 忘れない

――俺は、忘れてない

エミリア

「あ、みんな! その、私のことわからないかもしれないけど、あっちが敵! 悪い人! ここは私に任せて……私のこと、わからないかもしれないけど!」

彼女は気丈にラムを逃がしただけでなく、こうして『暴食』との戦いを続けながら、駆け付けたスバルたちのことも気遣っている。

スバル

「大丈夫だ、エミリアちゃん! 俺は忘れてねぇ!」

スバル

「もう、絶対に忘れない! たとえ何があっても、俺は君を、忘れないから!」

ただ、直後に彼女が浮かべた微笑みを見れば、それが悪感情へと繋がるものでなかったことは確かなことだった。

ユリウス

「君の一言が今、彼女にどれほどの影響を与えたか、自覚はないのだろうね」

⚜️ 心得た

――待ち望んだ、と踏み込む

ユリウス

「聞くまでもないことだが、彼女が私たちの味方だな、スバル」

スバル

「ああ、そうだ。あの可愛さで、俺たちの敵のわけないだろ!」

ユリウス

「――心得た」

ユリウス

「このときを待ち望んだぞ、『暴食』――!」

暴食

「おいおい、そんな突っかかってこないでくれよぉ。悪いんだけど、僕たちと俺たちって食べた物全部共有してるってわけじゃないからさァ。お兄さんに見覚えがないんだ。それって僕たちじゃなく、ロイがやらかしたってことじゃないの?」

🧊 そいや

❄️話の途中で、氷が降る

暴食

「ま、大差ないって考え方もあるよねえ。とはいえ、ロイはともかく、俺たちはあんまりお兄さんには興味ないかなァ。食べる基準に見合わないって感じ?」

ユリウス

「食べる基準、だと?」

エミリア

「そいや――っ!!」

話の途中で、その豪快な一発はさすがに想定外だったのか、『暴食』も血相を変えて氷塊の下を潜り抜けた。

暴食

「ちぃッ! 僕たちが食べたからわかってたことだけど、躊躇がないなァ、エミリア! そんな調子で攻撃して、怖い人だって思われたら……」

エミリア

「いいから黙ってて! 私が怖い人だって思われるの慣れてるの、あなたはわかってるはずでしょう! 大事なのは、私がみんなをどう思ってるかよ!」

エミリア

「一番覚えててほしい人は覚えててくれたもの。今、すごーく元気だわ!」

⚔️ 猛攻

⚜️足場は、迷う必要がなかった

暴食

「これだから、感覚で動くタイプは得意じゃないんだよね。一番苦手なタイプだ」

ユリウス

「――そうか。だが、私も彼女に同意見だ」

ユリウス

「一度は全てに忘れ去られ、自分自身の足場を見失ったことに人生を否定された気にもなったが、私の足が立つ場所はもとより迷う必要がなかった」

ベアトリス

「スバル」

スバル

「わかってる。俺は、あの場に割り込めない」

ベアトリス

「……それがわかってるならいいのよ」

🗡️ 再現

――同じ技を、使ってくる

暴食

「――アイスブランドアーツ」

意味がわからずに眉を顰めたのがユリウスとベアトリス。だが、直後の光景に驚くのは四人全員だ。

暴食

「ははッ! 自分の得意技を喰らってみるのってどんな気分かなァ! どうだ、どうだい、どうなの、どうなんだ、どうだろうね、どうだろうかな……暴飲ッ! 暴食ッ!」

スバル

(゚д゚)

「え、エクスカリバー!?」

暴食

「アイスブランドアーツ自体はエミリアの技でも、それを再現するのはお兄さんを食べた僕たちだからさァ! 知識が武器! 俺たちはインテリ大罪司教なんだよ」

これはスバルが中学時代、古今東西の武器の本などを読みふけった黒歴史が原因だ。

🔀 噛み合わない

――連携が、噛み合わない

エミリア

「ユリウス! そこダメ!」

ユリウス

「く……っ」

それは、エミリアが戦い方をセンスに任せた『感覚派』であることと、ユリウスが修練に修練を積んだ果ての『技巧派』であることも大いに影響する。

だが、そんな問題は互いの癖を知ることで容易に修正が可能な問題である。

そう、互いの癖を知れるぐらいに、関係値があれば。

暴食

「悲しいもんだよね。本当に連携できるって思ってた? 相手を知ってるのと、とりあえず信じるのって、結果的に同じ方向を向けてても全然違うもんでしょ?」

暴食

「考えがわからないから合わせられない、癖を知らないから修正できない。挙句、ぶつかり合って邪魔になる……ははァ、ダメダメだねえ、お二人さん!」

🏆 勝ち組

――経験が、物を言う

暴食

「知識は力! 記憶は絆! 思い出を贄にして僕たちは高く! 俺たちは強く! どこまでもどこまでも羽ばたくってわけさァ!」

暴食

「厄介! 猪口才! 大苦戦! どうだい、僕たちのお手並みってヤツはさ! そこで見てるだけのお兄さんも、歯痒い思いを味わってるだけで満足かい?」

暴食

「忘れないとかあれこれ言ってたけどさァ、その程度のことがどれだけ救いになるの? 結局、最後には経験が物を言う。優れた知見の積み重ねってヤツこそが、人生を豊かにして、人を勝ち組ってものにするのさ。つまり、最高なのは俺たちってわけだよ!」

🩸 乱入

――降りてこられないはずの男が

レイド

「――オメエ、何調子乗ってやがンだ?」

暴食

「な」

それはあまりにも突然に、当然のように、堂々とこの場に乱入してきた修羅。

レイド

「最高なのがオメエみてえな根性曲がったガキなわけねえだろ。最高も最強も、最上も最良も、全部オレのためにある言葉なンだからよ」

そう言いながら、降りてこられないはずの二層から降りてきた、レイド・アストレアが凶笑を浮かべて立っていた。

第六章64『二番目の障害』終了。