第六章58
『それはそれ、これはこれ』
攻略本を探しにいく道すがら、スバルは騎士を一人だけ呼び止める。
📕 レイドの本
――本を、探そうと言う
「本を? ……本気なの?」
「お、エミリアちゃん、今のは本と本気がかかってたね。面白いよ」
「もうっ、スバル!」
「――そもそも、レイド・アストレアの本は本当にあの書庫にあるのだろうか」
「彼が四百年前に実在した人物であり、その同一人物であることも疑いようはないが……その死は今、私の中で疑問の余地がある」
「ああやってぴんぴんしてるのを見たら、実は死んでなかったんじゃないかって?」
🕰️ 四百年
――長生きが、多すぎる
「何百年なんて長生きできるとも思えねえし、普通は死んでるはずだ。なぁ、ベアトリス」
「ベティーはこれでも四百年生きてるのよ」
「私も百年くらい、かな?」
🧣 エキドナ
「ボクも、生年で考えれば四百年ぐらいになるかな。起きていた時間は短いが」
「あーしも! あーしもッス、お師様! あーしも、四百年ここで待ちぼうけッス! 寂しかったッス! 四百年分のハグを要求するッス!」
(゚д゚;)
「長生きキャラがすげぇ多いな!? エミリアちゃんも!?」
「えと、うん、そうなの。……スバルは、記憶がなくてもハーフエルフは怖くない?」
「怖いか怖くないかって言ったら、その可愛さが怖い。マジで凶器。寝起きで油断してる状態で見たら目が潰れそう。今も正直しばしばする」
「……もう、バカ」
🚪 三日
🧣彼なら三日で出ていく
🧣 エキドナ
「ユリウスの懸念もわからなくはないが、ボクは素直にレイドが死者である説を推したいと考える。当人と接触した、所感みたいなものだけどね」
🧣 エキドナ
「第一に、レイド・アストレアが長命種とは考えられない。色々と規格外な人物には違いないが、それでも彼は人間だよ。第二に、彼の性格」
「性格? あの、すごーく元気なところ?」
🧣 エキドナ
「あんな豪快な性格の持ち主が、四百年も大人しく塔にこもっていられるとはボクには思えない。ボクの勝手な印象だが、彼なら三日で出ていくだろう」
「納得、せざるを得まいね。それができない理由は、やはり塔の『試験』と現在の彼が紐付けられているから……と考えるべきか」
スバルには、あれが自由を縛られているようにはとても見えなかった。
――彼が、それをしなかったのは。
🗝️ 極意書
――死者の本は、攻略本になる
「読んだ人間の頭に、その死者の記憶が流れ込む……そこまではバルスとユリウスが確認しているわ。生憎、その記憶も抜け落ちたようだけど」
「悪かったよ、根に持つなよ。――で、そこがこの話の焦点だ」
「なるほど、そういうことかしら! つまり、レイドの『死者の書』を、レイドを攻略するための極意書として利用するってことなのよ」
「それな」
『死者の書』はその人物の生前の記録であると同時に、その人物がどうして死んだのかを克明に記録した『攻略本』とも言える。
そして、すでに四回も死んでいる『死』のベテランプレイヤーたるスバルに言わせてもらえば――死亡した原因は、簡単に回避できるものではない。
「だから、『死者の書』を読めばそいつの死因がわかる。これは立派な攻略手段だ。ひょっとすると『死者の書』は、遠回しにそのためにあるのかもしれねぇぜ?」
😏 ズルっこ
――やりそうだ、と全員が言う
「ただ、これは一つ、俺が確信を持って言えるんだが……今の記憶がない俺じゃなくて、記憶がある俺でも、この攻略手段を試そうとしたと思うんだよ」
「……それは納得かしら。こんな抜け道、スバルが試さんはずがないのよ」
「正道ではなく、邪道。バルスのやりそうなことね。ラムも納得だわ」
「ん、そうね。こういうズルっこ、スバルはすごーく得意だもの」
「ズルっこってきょうび聞かねぇな……」
エミリアやベアトリスからの過敏な反応があるのだが、おそらくはそのあたりに彼女らが感じる『ナツキ・スバル』の残滓があるのだろう。
👀 見たわあ
🦂本を、広げていた
「……そう言えば、昨日の夜、お兄さんが『タイゲタ』でたくさんの本を広げてるところを見たわあ。あれって、そういうことだったのかしらあ」
「ちなみに、俺が何の本を読んでたかってのは見えなかったのか?」
「ええと……そこまではわからないわあ。ごめんなさあい」
「もしくは、その行為そのものが記憶を失ったことに関係があるのでは?」
🧣 エキドナ
「たくさん広げていた、か。……まさか、許容量を超える『死者の書』を読んだことで、記憶を入れておく場所が一杯になって溢れた、なんて話ではないだろうね?」
「ないとは思いたいけど、ないとは言い切れねぇよ。なにせ、記憶喪失!」
🫰 腕一杯
――忘れたくないものが、増えている
読むなら、一度記憶が消えて、また消えても影響の少ないスバルが――否、今や、スバルも消えては困る記憶が多すぎる。
それに、この周回で心に決めたことや、ラムとの約束、メィリィへの誓いもある。
なんだ、たったの数日を四回繰り返しただけなのに、すでに忘れてはいけないことがこんなに腕一杯にあるのか。
だから、記憶というものは尊く、手放し難い。――忘れてはならない。
🏆 三英傑
⚜️敗戦の記録は、残っていない
「レイド・アストレアは、過去に存在した『魔女』を倒した三英傑の一人よ」
「『賢者』シャウラと、『神龍』ボルカニカと、それから『剣聖』レイド……」
「あーしじゃなくて、『賢者』はお師様のことッス」
「有名なもので言えば……龍を百頭斬った戦いや、剣奴孤島の闘技場で記録される六千戦無敗の戦績。鬼神と呼ばれる存在と酒を飲み比べして勝った、などという変わり種もある」
「全部馬鹿みたいな話に聞こえたけど、本人を見たあとだと……」
「私の知る限り、彼についての逸話の多くはその規格外の功績を語るものばかりだ。その人間性であったり、人間らしい失敗談や敗戦の記録、そうしたものは記憶にない」
残っていないだけならいいが、まさか負けたことがないのではなかろうか。
🪜 二手
――一人だけ、呼び止める
「――ラム、ちょっとみんなの先導しててくれるか? 俺はちょっと、ユリウスと話したいことがある」
「あまり長くかけないようになさい。上がってきたとき、ラムたちの記憶がバルスと同じように抜け落ちていたら収拾がつかなくなるわよ」
「怖いこと言うなよ。記憶をなくしたラムが、しおらしくてお淑やかな感じに仕上がるなら見物だけど……」
「ラムはもう、これ以上、何も忘れるつもりはない」
「……だよな。変な本、見つけても近付かないようにお願いな」
🧣 エキドナ
「ナツキくん。――お手柔らかに頼むよ」
❓ 勝つ気
――勝つ気は、あるのか
「それで、話とは? わざわざ、エミリア様たちを遠ざけてのことだ。よほどのことだと思っても?」
「あー、お前って、レイドのことどう思ってる? 好き?」
「――。その質問に、何の意味があるのだろうか」
「いや、ちょっと硬い空気をほぐそうとしただけ。本命はもうちょっとだけ言い方が違う。――本命の言い方は、お前はレイドに勝つ気があるのかってこと」
激しい動揺がその瞳を揺らしているのを見て、スバルは短い息をついた。
「自覚のあるなしは置いとくけど……ビビるのも無理ねぇ状況だろうよ。負け癖ってのはつくとなかなか抜けなくなるらしいぜ」
「悪ぃな。本当は俺だって、できるだけ時間かけてあれこれして、お前のへっこんだ心を立て直すべきなんだと思う。思うけど、その時間が俺たちにはない。わかるだろ?」
🛡️ 無敵
――今の俺は、無敵だ
「はっきり言うぜ、ユリウス。なんでかって言ったら、今の俺は無敵だからだ」
「無敵、とは……なかなか、大きく出るものだね」
「しがらみがないから大きく踏み出せる。お前が俺の面見て、エキドナの面見て、レイドの話を聞いて、縮こまってるのは見てられねぇ」
「――聞こう」
「それはそれ、これはこれだ」
「――は」
「お前が俺を見て、ギクシャクした感じになるのはわかる。昨日までの俺が、たぶんお前になんかやらかしたんだろう。その昨日までの俺がお前にしたことがこの世から消えるわけじゃないけど、俺の頭の中からは消えてる」
「そんな状態だから、お前と俺の関係はまた一から作る必要がある。少なくとも、今の俺との関係はそうだ。昨日までの俺は、いったんよけとけ」
🥊 負けん気
――足りないのは、勝ち気だ
「俺たちのパーティーの中で、お前が一番強い。だから、レイドとやり合うことになるのはお前だ。うまく攻略本が見つかったとしても、戦いはお前に任せることになる」
「ビビる気持ちはわかる。戸惑ってんのもわかる。昨日までの俺がホントすいませんでしたって謝る。――それ全部込みで、切り替えて、戦ってくれ」
「……私は、すでに二度、彼に負けている」
「知ってる。でも、次は勝ってくれ」
知っているより負けた回数が一回多かった。
「それは……矛盾している。君は、今まさに私の怖気づく心を引き締めようと」
「違うね。そうじゃない。お前に足りないのは勇気じゃない。勇気はここにちゃんと詰まってる。――足りないのは勝ち気だ。負けん気だよ」
🏳️ 知らねえ
――負けたところを、知らない
「……俺は、決着を見てねぇ。昨日までの記憶もねぇ。だから、俺は、お前が、レイドに負けたところなんか、一回も知らねえ」
ユリウスは、ユリウス・ユークリウスは、負けていない。
ナツキ・スバルの前で、一度として、この騎士は、男は、負けたことがないのだ。
「レイド・アストレアを、俺はお前に任せる。あの、一番厄介な敵を、お前が倒せ。その代わりに俺は……それ以外の全部に、また俺のやり方で手を伸ばす」
「聞こえねぇのか、ユリウス。ダチの期待に、応えろよ」
⚜️ 見栄
⚜️私の見栄が、そう思わせた
「……昨日までの記憶をなくした君が、どうして私にそうまで期待できる?」
「それは……その、イメージだ。印象、見た感じ。見た目とか喋り方とか仕草とか、持ち物とか服装とか、食べ方とか歩き方とか、なんか色々そういうのの総合芸術だよ」
まるで、物語の騎士がそうするように、美しく、自然な仕草で。
「印象、か」
「そ、そうだな。お前の見え方だ。お前の全部が、俺にそう期待させる」
「そうか。……私の見栄が、そう思わせたのだね」
「世界に忘れられ、唯一覚えていた君にすら忘れられ、主の存在を確かめられず、私自身がどこにあるのか曖昧なものとなっていた。だが、そんな状態であっても――私が、これまで培ってきた全てが失われたわけではない。そう、言いたいのだね」
「そこまで賢くまとまってなかったけど、ニュアンスはそう」
🔁 同じ言葉
――同じ言葉が、返ってくる
「なんか、観念的な話というか、精神論ばっかりであれだった気がするが、精神的な問題が大きい雰囲気だったから、合ってたかな?」
「ふ。何故、そこで弱気になる? 無敵だったはずではなかったかな?」
「いや、スター取ったマリオでも穴に落ちたら死ぬじゃん……」
「少しは前向きになったか?」
「さて、どうかな。究極、君の言葉は具体性に乏しい精神論が多く、また、私の身に起きた数多くの出来事が劇的に変わったわけでもない」
「お前な……」
「ただ」
「――それはそれ、これはこれだ」
第六章58『それはそれ、これはこれ』終了。
エミリア
スバル
ユリウス
ベアトリス
シャウラ
ラム
メィリィ