第六章57
『いったん置いとこう』
全員に協力を頼んでから動く。そして次の一手を、車座の真ん中に置く。
🪜 後詰め
――下でも、待っていた
「正直、ひやひやさせられたのよ。でも、スバルの頼みだからぐっと堪えたかしら」
「お師様は不死身の男ッスもん。あーしは心配とかしてなかったッス。むしろ、お師様の背後に立った瞬間、チビッ子二号が爆発四散する可能性を疑ってたッス」
「な、な、な……お、お兄さん? あの二人、どういうことなのかしらあ……?」
「もしうっかり、エミリアちゃんが俺を助けようとして一緒に落っこちでもしたらシャレにならねぇ」
実際、前の周回での最後、スバルとエミリアとは一緒に高所からの落下を迎えた。
彼女を抱き寄せ、しかし救えなかった。――それは、深くこの心に突き刺さっている。
⚖️ 妥協とズル
――簡単と、賢いを選ばない
「そこまでして……もっと、簡単で賢い道だってあったでしょお」
「お前の言う通り、もっと賢くて簡単な道はあったと思う。思うんだが……」
「思うけどお?」
「俺の頭で考えつくレベルだと、簡単は妥協と裏表で、賢いはズルいのお隣さんなんだよ。俺は……うん、俺は妥協とズルいをしたくなかったんだ」
全部、何とかしようと思った。全部、何とかしたいと願った。
ならば、全部何とかするために、自分ができることは全部したい。
💬 相談
❄️相談してくれて、嬉しかった
「でも、スバルがすごーく真剣なのは一目でわかったから。それに……」
「それに?」
「――スバルが相談してくれて、嬉しかった。スバルっていっつも、私が気付いたときには全部終わらせちゃう準備をしてることが多くて」
「だから、今度はどうしようって相談してくれて、最初から一緒に考えさせてくれたのが嬉しかったの。ふふっ、なんだかへんてこね」
「……言っても仕方ねぇことだけど、昨日までの俺がホントに腹立つわ。いや、でもこの顔が見れて、この声が聞けてるのって俺の特権だから……エミリアちゃん、どう思う?」
「ごめん。ちょっと何言ってるのかわかんない」
🟣 当分
🟣許してやることは、当分ない
「あの、ベアトリスちゃん……わたしのこと、怒ってないのお?」
「怒ってるに決まってるかしら。でも、お前はベティーがプチンとはち切れる手前で何とか踏みとどまったのよ。砂丘でのこともあるし、今のことは帳消しにしてやるかしら」
「たーだーし! お前にはまだ、前の屋敷をベティーの禁書庫ごと焼いた罪があるかしら。それがある限り、ベティーがお前のことを許してやることは当分ないのよ」
「わかりづらいけど、今のベアトリスは『当分』って言ったから。メィリィがいい子にしてたらちゃんと許してくれるって言ってるの。すごーく優しいわよね」
「エミリア! 余計なこと言うんじゃないかしら!」
「……できるだけ、気を付けることにするわあ」
🌟 お咎めなし
🌟本当に、いいんスか
「――それで、お師様、本当にいいんスか? お師様を死なそうとした娘ッスよ。ホントに、お咎めなしで大丈夫ッスか?」
「物騒なこと聞いてくんな、お前。……いいんだよ。お咎めなら、メィリィは先に受けたんだ。でも、そのなんでお咎めを受けるのかってところを、誰もちゃんと教えてあげてなかったからあんな感じなんだよ。それを、これから教える」
「お師様も言ってたッスけど、それでまたお師様を殺そうとしたら?」
「それは、俺がよっぽど教え下手ってとこだな。でも、俺一人でやるわけじゃねぇから」
😊 えへへ
🌟あーしも、ッスか
「当然、お前にも手伝ってもらうぞ、シャウラ。人一人の価値観に物申すなんて、こいつは長丁場になるからな」
「……あーしも、ッスか?」
「そりゃそうだろう。お前は……まぁ、お前だとなんかちょっと反面教師っぽい感じがあるけど、仲間外れとかにしねぇよ」
「あーしも、ッスか。あーしも、一緒に、お師様と、あーしも……えへ、えへへ。えへへへ……」
「ええ……どうしたの、お前……」
「何でもないッス! あーし、決めたッス! お師様の言いつけ通り、あのチビッ子二号のこと、ちゃーんと真人間に育ててみせるッス~!」
「きゃあ!? な、なんなのお、裸のお姉さん。いきなりビックリするわあ!」
🤫 内緒よお
――内緒には、ならなかった
「……まったく。仕方ない人たちだわあ。いいわ、許してあげるう。でも、ここでのことは他の人たちには内緒よお」
「あのね、メィリィ、すごーく言いづらいんだけど……」
「……嫌な予感がするわあ」
「――ここにいないラムたちも、スバルからの相談はちゃんと聞いてたの」
メィリィは盛大に顔をしかめた。
🌸 褒めてあげる
🌸悪くない仕事ぶりだわ
「そう。無事に片付いたのね。悪くない仕事ぶりだわ、褒めてあげる」
それがおそらく、彼女なりの大絶賛なのだろうとスバルは前向きに受け止める。
🧣 エキドナ
「言う必要はないかもしれないが、彼女はずっと、そうして立ったまま君たちの帰りを待っていたよ」
「……本当に言う必要のない話ね。自重なさい、エキドナ」
🧣 エキドナ
「現状、この体を操っているのがボクとわかった途端、この態度だ。好ましいね」
🧣 エキドナ
「それで、彼女はどうしてこんなにむくれているんだい?」
「単に、自分の考えが見透かされてて、しかもそれを全員に知られてたのがバツが悪いってだけだよ。子どもらしくて可愛いだろ」
⚜️ 外を警戒
⚜️外を、見張っていた
「あれ、ユリウスがいねぇな? あいつはどこに? トイレとか……」
「――君が一大事に関わっているときに小用などと、そんな風に思われるのは心外だな」
「……小用、とは限定してねぇだろ。おっきい方の用事かもしれないじゃねぇか」
🧣 エキドナ
「先の話し合いを受け、ユリウスは外を警戒していたんだよ。メィリィが魔獣を操る力を持つ以上、彼女が本当に事を為そうとした場合、最も危険視されるべきは塔の外の魔獣の存在だからね」
「どうやら、無事に事が済んだようで何よりだ。記憶をなくしたと、君がそう言い出したときは半ば天地がひっくり返ったような心地を味わったが……」
「ああ、俺も一安心だよ。……俺とお前、このやり合いする距離感で合ってるだろ」
「――ふ」
👣 足跡
――丁寧に、足跡を追う
一応、記憶をなくし始めてからも五回目の邂逅になるのが今回だ。
そこから、大きく違いすぎないよう、エミリアたちを悲しませないよう、スバルはできるだけ丁寧に、『ナツキ・スバル』の足跡を追いたい。
エミリアたちが、『ナツキ・スバル』を失いつつあるのだと、そんな現実を直視させたくない。
😇 天使
――直視、できない
「なんだか、目が覚めてから……ううん、記憶をなくしたって言ってから、スバルってば私に驚いてばっかりいない? 私、そんなに変? 何かついてる?」
「いや、その、全然。ただ、可愛い目と可愛い鼻と可愛い唇と可愛い耳がついてる」
「可愛い……ふふっ、ありがと。でも、それならどうして?」
「エミリアちゃんの可愛いは、パーツごとに足し算じゃなく乗算で跳ね上がってく感じがするからかな。あと声も可愛い。髪も可愛い。ダメだこれ、天使だ」
「――っ! それを、もっとスバルっぽく言うとどうなるかしら!?」
「は!? え、何が!?」
「だから、エミリアが天使に見えるって言葉を、スバルっぽく言うのよ」
「どんな辱め!? やだよ! 恥ずかしいよ! ベアトリス、お前も天使みたいに可愛いよ! 拗ねるなよ!」
「ベティーが天使みたいに可愛いのは事実だけど、そんなつもりじゃないかしら……」
🗂️ 置いとこう
――記憶は、いったん置く
「ってわけで、改めて俺たちのチームにメィリィが加わった。本格参入したメィリィの社会見学のためにも、こんな砂っぽい塔から早く出たい。意見は?」
「うん、そうよね。急にぽんってなくなっちゃうわけないんだから、何とかスバルの記憶を取り戻してあげないと……」
「あー、そのことなんだけど、いったん置いとかないか?」
「スバル……あんまり、ベティーたちを心配させないでほしいのよ。記憶がなくなったってだけでも驚かされたのに、別に戻らなくても大丈夫なんて自暴自棄すぎるかしら」
「ええ、そうよ、スバル。もしかして、私たちに迷惑をかけたくないって思ってるの? でも、スバルはメィリィのことを相談してくれたじゃない。それとおんなじように、スバルの記憶のことだって、私たちも一緒に考えるから。お願いだから、ね?」
「猛然と心が痛くなる説得! いや、でもちょっと聞いてくれ! ちゃんと理由があるの!」
🔑 鍵
――塔と、記憶は繋がっている
「俺が言いたいのは、塔と俺の記憶がなくなったことには関連性があるってこと。つまり……」
🧣 エキドナ
「――つまり、塔を攻略するための条件を満たしていけば、おのずとナツキくんの記憶がなくなった原因、あるいはその鍵が手に入る。そういうことかい?」
「あ、ああ、そうそう。そういうこと!」
「塔の仕組みがスバルの記憶を奪ったなら、塔を攻略することで答えに近付ける。あるいはスバルが記憶をなくした切っ掛けも、答えに近付きすぎたせいかもしれない」
🧣 エキドナ
「ナツキくんにしかわからない知識が原因で、ボクたちより先を行きすぎた結果、記憶をなくしたのかも」
「待て待て待て待て、さすがにそれは買いかぶりすぎだろ。ただの引きこもりだよ? 特技はベッドのシーツを綺麗に敷くとか、あと裁縫とかだよ?」
「あ、見て、スバル。この服のこの刺繍、スバルがしてくれたの。見たら何か思い出さない? 可愛いでしょ? パックよ」
「んー、可愛い猫の刺繍。だけど、ちょっと心当たりないかなぁ」
🌸 ついで
🌸拾うのも、ついででやりなさい
「俺も、このままでいいって思ってるわけじゃないよ。ただ、俺のことは降って湧いた問題だ。それで当初の問題を先送りにしてたら、いつまで経っても目標に近付けない。やるべきことをやりたいんだ」
「――本当に、馬鹿ね」
「記憶をなくしても、残念なおつむは変わらないらしいわ。つまり、記憶が戻ったところで、今のバルスと貢献度で言えば大差がない……なら、バルスの記憶を優先しても損するだけよ。塔を攻略して、ついでに戻るのを期待しましょう」
「ついでって、もっと言い方があるだろ」
「ないわ。塔の攻略のついでに記憶を落としたんでしょう? だったら、拾うのもついででやりなさい。ラムを煩わせないで」
――必ず思い出すと、取り戻すと、そう約束したのだ、ラムと。
その約束があったから、ラムは最初にこう言ってくれた。
📕 レイドの本
――次の一手を、置く
「私は消極的な賛成、といったところだ。最優先はしない。塔の攻略を優先する。だが、君の記憶を戻せる目が見つかれば、それを優先する。――エミリア様やベアトリス様を、こうも悲しい顔をさせておくべきではない」
「――今回は、辛くても我慢する。でも」
「でも?」
「たまには私にも、スバルのことを一番心配するのぐらい、許してね」
「う……ごめん」
「ベティーの言いたいことはエミリアが言ったかしら。それが一番効いたはずだから、ちゃんと反省するのよ」
「――『タイゲタ』の書庫に、レイドの本がないかみんなで探さないか?」
第六章57『いったん置いとこう』終了。
ベアトリス
シャウラ
メィリィ
スバル
エミリア
ラム
ユリウス