リゼロを読む WEB版・初見向け解説
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206話

第六章47

『わたしは許さない』

読んだ記憶が、自分の中に棘として刺さったまま抜けない。腕の中には、まだ本がある。

🌀 溶け合う

――自分と、他人が混ざる

暗い、暗い、暗い、暗い、暗い、暗い、暗い場所。

頭の奥の、奥の、奥の、奥の、奥の、奥の、奥の、奥。

――自分、俺、ナツキ・スバル。自分、俺、ナツキ・スバル。

――誰、わたし、メィリィ・ポートルート。誰、わたし、メィリィ・ポートルート。

肺が痙攣し、呼吸が苦しくなる感覚に喉に触れれば、蘇るのは強い圧迫感。

その後に襲いかかった、じわじわとした窒息の恐怖。

一人称、二人称、記憶、思い出、印象、感情、その他諸々を選別し、腑分けする。

そうしなければ、このまま、溶け合い、混ざり合い、剥がせなくなる。

🔍 心を鬼に

🧣エキドナが、待ってくれない

🧣 エキドナ

「――ナツキくん、君はいったい何を見た? それを話せるかい?」

🧣 エキドナ

「君が厳しい状況に置かれていることは察する。だが、現状はボクたちにとっても由々しき事態だ。できるなら早急に情報が欲しい。対処を、誤らないためにも」

エミリア

「待って、エキドナ。今、スバルは大変な思いをしたばっかりで……」

🧣 エキドナ

「無論、それは承知しているよ。その無茶が、この場の全員のためであったことも理解しているさ。だからこそ、彼の判断に迅速に応える義務がボクたちにはあるはずだ」

その覚悟に、スバルもまた強く奥歯を噛みしめ、己の首に手で触れた。

スバル

「――メィリィの、記憶、だった」

🤍 せいじゃない

ベアトリスが、頭を抱く

『死者の書』が、メィリィの記録をスバルに見せた。

それが意味するところを、理解できないものはこの場に一人もいない。

ベアトリス

「落ち着くのよ、スバル。落ち着いて、自分を取り戻すことに集中するかしら」

スバル

「……わ、るい」

ベアトリス

「いいのよ。こんなときぐらい、ベティーに全力で寄りかかるかしら。……これは、スバルだけのせいじゃないのよ。思い詰めたらダメかしら」

スバルのせいではないと、ベアトリスは慈悲深くそう言ってくれた。

だが、これは誰のせいでもなく、『ナツキ・スバル』の犯した罪だ。

それを知らず、優しく語りかけるベアトリスが、あまりにも滑稽で、悲しく思えた。

🚫 資格がない

ラムが、ユリウスを止める

ユリウス

「――私なら」

ラム

「二度目だから余裕がある、とでも? 二度目というなら、同じ条件のバルスがあの様よ」

ラム

「生憎、ラムは今のユリウスの精神が、バルスより安定しているだとか、マシだなんて評価していないわ」

ユリウス

「……辛辣だが、ラム女史の言葉に反論する根拠が私にはない。昨日、身勝手な独断専行をした体たらくでは、その資格がないだろう」

🧣 エキドナ

「単純に、多くの本を読めば読むほど負荷が増していく仕組みなのか……あるいは、自分と近しい人間の記録を見ると心が歪むのか、可能性は二分されると思う」

おそらく、エキドナの推測は正しい。

より近しい間柄の関係者――その、生々しい『命』の記録がもたらすモノは大きい。

スバルは『わたし』の奥底で、計り知れない虚無と向き合うことになった。

🔦 探しましょう

エミリアが、探そうと言う

エミリア

「――とにかく、じっとなんかしてられないわ。メィリィを、探しましょう」

スバル

「探す……?」

――探す、探すとは、何なのだ。それに、何の意味があるのか。

――メィリィは、彼女は、『わたし』は、もう死んでしまったのに。

――死んでしまう前は、気にもかけてくれなかったくせに。

エミリア

「見つけても、もう遅いのかもしれない。私たちは、あの子と一緒にいてあげるべきだったのに、それができなかったのかもしれない。でも、見つけてあげなくちゃ」

エミリア

「誰も、あの子がどこにいたのか知らないでしょう? まず、見つけてあげて……それから、してあげられることを探すの。探しましょう」

しかし、エミリアのその提案に、この場の誰も反対しなかった。

🤥 見てない

――嘘を、選ぶ

ユリウス

「スバル、酷なようだが確かめたい。君が、『死者の書』で見たのは、メィリィ嬢の最期の瞬間も含めて、だろうか?」

メィリィの最期を見たのかと、その問いかけの答えはYESだ。

それを体感したナツキ・スバルは、あろうことか彼女の亡骸の隠蔽に加担した。

――本当は全員、メィリィの死にスバルが関わっていると知っているのではないか。

だが、そんな考えが浮かぶたびに、向けられる視線の色がそれを否定するのだ。

スバル

「――死ぬところまでは、見てない。塔の中なのは、間違いないはず、だけど」

内心に芽生えつつある危うい感情。

それは、罪を告解させようとしている、メィリィ・ポートルートの残した甘い呪いだ。

メィリィの亡骸を、エミリアたちに見つけてもらいたい。

見つけて、悔やんで、悲痛に歪んだ表情を見て、心にわだかまった感情の溜飲を下げたい。

📕 どーでもいい

シャウラは、本で遊ぶ

ユリウス

「状況的に、メィリィ嬢に何かあったとすれば事故の可能性が高い。階段やバルコニーで足を滑らせたり、塔の外へ出てしまった可能性は……」

シャウラ

「――それはないッスよ」

シャウラ

「もし、チビッ子2号が塔の外に出てたんなら、あーしがキリングマシーンになってたはずッスもん。それがないってことは、誰も外に出ちゃいねーってことッスよ」

ユリウス

「シャウラ女史、その本で遊ぶのはやめてもらいたい。あなたには……」

シャウラ

「悲しむ心がないのか、的なことッスか? 確かにチビッ子2号はあーしにべたべたしてたッス。あーしも、別に2号のこと嫌いじゃなかったッスけど……究極、あーしはお師様以外のことはどーでもッスから」

そこに強がりだったり、偽悪的に振る舞った素振りは見受けられない。

それがシャウラの疑いなき本音なのだと、少なくともスバルにはそう信じられた。

🚪 手分け

――手分けして、散っていく

エミリア

「――手分けして、メィリィを探しましょう。スバルは、ベアトリスとここにいて」

エミリア

「ベアトリス、スバルをお願いね。レイドのところは、私が見てくるから」

ベアトリス

「適任なのよ。――エミリアも、お前たちも、気を付けるかしら」

ラム

「ラムは……先に、レムの無事を確かめにいくわ」

その遠ざかっていく背中を、スバルはかける言葉もなく見送り――。

『わたし』を、見つけて、もらいたいと――。

🌟 お師様に聞きたい

シャウラは、指示を仰ぐ

ベアトリス

「――それで、お前は一緒にいこうとは思わないらしいのよ」

シャウラ

「あーしの役目って、あくまで星番ッスよ? そりゃ、その冠を取ったら、あーしは身も心もお師様のもんッスから、お師様のお願いなら全力で聞くッスけど」

ベアトリス

「なら、お前もメィリィを探しにいくべきかしら」

シャウラ

「――ホントに、そうッスか?」

色の気配の強い見た目に反して幼く思えたシャウラが、初めて見せる表情があった。

シャウラ

「お師様が望むんなら、あーしは月を撃ち落とすことだってしてみせるッス。だから、半魔とかチビッ子1号、イキャメンの頼みじゃなく、お師様に聞きたいッス」

シャウラ

「お師様、あーしはどうしたらいいッスか? チビッ子2号、探しにいくッスか? それとも……」

🎭 三つの願い

――三つが、一つの体に同居している

『わたし』の命を、『ナツキ・スバル』は二重の意味で、味わい尽くしたのだ。

――スバルは、メィリィの『死』に関わったことを隠したい。

――スバルは、自分が隠したメィリィの死体を見つけてほしい。

――スバルは、『わたし』を殺した『ナツキ・スバル』を憎悪している。

故に、スバルの中に矛盾した願いが生まれ、それを叶えるために行動させる。

スバル

「――シャウラ、メィリィを探してこい。エミリアたちを、手伝ってくれ」

シャウラ

「リョーカイッス。お師様のお望みなら、あーしは何でもえーんやこらーッス」

🖤 邪悪

――邪悪なのは、一人だけ

スバル

「おかしな、もんだな……」

前回、前々回、さらにその前と、誰かがスバルを死に追いやったことは事実だ。

だがそれすらも、内に潜む『ナツキ・スバル』が企てた罠だったのではないか。

エミリアたちも、メィリィも、誰一人、本当の悪人なんていなくて。

邪悪なのはナツキ・スバルただ一人だけなのではないか。

❓ なんで優しい

――なぜ、そんなに優しいんだ

ベアトリス

「スバル、あまり思い詰めたらダメなのよ。その本も、手放した方がいいかしら」

この、ベアトリスが向けてくれる感情。

それは本来、『ナツキ・スバル』にこそ向けられたものだ。

スバル

「……なんで、お前は、そんなに優しいんだ?」

ベアトリス

「――。また、ずいぶんといきなりな質問なのよ。どうしたっていうのかしら」

スバル

「いや……」

💢 なぜ、あんな男が

――なぜ、あの男が好かれる

ナツキ・スバルだけが持ち得ない、眺めるだけしかできない、宝石。

何故、あんな男が。何故、あんな残酷な人間が。

何故、ああも醜悪に嗤う男が。何故、エルザの死に関わった男が。

何故、メィリィを嗤って殺せる男が。何故、『わたし』の死を隠そうとした男が。

何故、あんな男が、男が、男が、好かれる。彼女たちに、好かれるのだ。

知りたい。知らない。自分だけが、スバルだけが、『わたし』だけが、理由を知らない。

😈 教えてあげちゃおっか

――答えを知る方法が、腕の中にある

本音を、本心を、彼女たちが、どうして、『ナツキ・スバル』を信じるのか。

それを知る、方法――『わたし』が、教えてあげちゃおっか?

脳裏に響く声が、残酷にナツキ・スバルを誘惑する。

そして、自分の頭蓋を支配した難問の、その答えが身近にあると、気付いた。

今も、自分の腕の中に、答えを知る術ならあるではないか。

ベアトリス

「スバル?」

――黒い、分厚い本が、知りたがりの好奇心を、惨たらしく歓迎しているように見えた。

第六章47『わたしは許さない』終了。